Liquidネットワークについて(後編) 2020/06/29 17:00 07/01 16:13 株式会社CAICAテクノロジーズ 目次 Liquid(Federation)メンバー Liquidネットワークガバナンス 現在のネットワーク流動資産・流通量 前編では、Liquidネットワークについての概要やその特徴である高速な送金などについてご紹介いたしましたが、後編では、Federation(連合)メンバーである参加者のご紹介から、Bitcoin先端技術であるサイドチェーン・プラットフォームを、どのようなガバナンス体制のもと、管理・運営しているのか。そして2018年10月にLiquidネットワークがリリースされてから現在に至るまで、Liquid-Bitcoin(L-BTC)や独自トークンの発行状況についても触れたいと思います。 「Liquidネットワークについて(前編)」はこちら Liquid(Federation)メンバー Liquidネットワークは、管理・運営を参加者であるFederation(連合)メンバーが行うコンソーシアム型のブロックチェーンになりますが、現在(2020/6時点)以下の4つのカテゴリーに分類される、計44事業者がLiquidメンバーとして活動しています。 ・仮想通貨取引所:21社 ・トレーディングデスク、ブローカー:11社 ・インフラサービス:8社 ・ウォレット、決済サービス:4社 出典:https://liquid.net/ Liquidメンバーは、Liquid-BitcoinをPeg-out(償還)※1 することが出来ます。またLiquid Federation Boards(理事会)がありますが、この理事会メンバーを選挙で投票することが出来ます。この理事会は3つありますが、後ほど「Liquidネットワークガバナンス」のところでご紹介いたします。そして、Blockstream社のサポートのもと、Liquidメンバーは主体的にネットワークのアップデートを行います。 [※1]:前編の「Liquidネットワークの特徴(BTC裏付けトークンの発行と償還)」をご参照ください。 1)国内のアクティビティ Liquidメンバーの中には、国内の見慣れた仮想通貨取引所のロゴマークも何社か確認できるかと思いますが、直近の注目すべきLiquidネットワーク利用例として、SETTLENETというOTC取引決済プラットフォームがCrypto Garage社よりリリースされました。このSETTLENETは、昨年の1月に首相官邸が進める「規制のサンドボックス制度」の認定を受けたプロダクトで、国内のLiquidメンバーである仮想通貨取引所4社が参加し実証実験が行われ、プラットフォーム及びLiquidネットワークの安全性、安定性が検証されました。正にBitcoinサイドチェーンのメリット享受を具体的な形で体現したプラットフォームです。SETTLENETの詳しい内容のご紹介については、是非また別の機会に。 出典:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/project/gaiyou3.pdf https://settlenet.io/ 2)Functionaryメンバー Liquidメンバーは、Functionaryまたは、Participantの何れかのメンバーとしてLiquidネットワークに参加し、主体的にネットワークの維持管理を行います。 Functionaryメンバーは、下記の表に示されている通り重要な役割を担っているわけですが、Participantメンバーとは、ネットワークのセキュリティ維持の面で異なります。 出典:https://docs.blockstream.com/liquid/technical_overview.html 現在(2020/6時点)、Functionaryメンバーは15事業者で、世界に分散した各々の事業拠点にてFunctionaryサーバを維持管理しています。将来的に状況の変化に応じて、柔軟な形(液体のように)でその数や拠点が最適に変更されるDynamic Federations (dynafed)方式に移行する計画があり、現在準備が進められています。 出典:https://github.com/ElementsProject/elements/pull/642/commits Functionaryサーバは、取引のバリデーション権限を持ち、特別なHSM(耐タンパ装置)により、Bitcoin資産の安全性を担保しています。 Functionaryサーバの技術的な仕組みについては、前編の「Liquidネットワークの特徴(高速な送金)」をご参照ください。 Liquidネットワークガバナンス 出典:https://liquid.net/governance Liquidネットワークのガバナンス体制は、以下の3つLiquid Federation Boards(理事会)から構成されています。 Membership Board(メンバーシップ理事会) Technology Board(技術理事会) Oversight Board(管理・監視理事会) 各理事会の定員は5名で、任期は1年ごとに選挙を実施し2期連続で務めることができます。第1回目の選挙は、Liquidネットワークがリリースされてから1周年目(2019/10)のタイミングで、Blockstream社が主催するLiquidメンバー全体会議の中で説明され、現在、上記リンクにアップされている15名が、その時の選挙で当選された方々です。全てLiquid(Federation)メンバーが主体で行う、とても透明性の高い民主的なガバナンスです。 1)Membership Board(メンバーシップ理事会) メンバーシップ理事会は、Liquidメンバーの加入・脱退の基準やルール、ガイドラインを策定する責任を負っています。新規Liquidメンバーの評価や既存Liquidメンバーの定期的な評価もこの理事会が行います。 2)Technology Board(技術理事会) Liquidメンバーからのニーズを集め、それに基づきBlockstream社と共に技術ロードマップを策定します。技術理事会は、このロードマップに取り入れる優先順位付けを行い、Blockstream社と直接連携してLiquidメンバーからのニーズを実現します。 3)Oversight Board(管理・監視理事会) 内部ルールやプロセス、体制や管理方法を策定します。Liquidネットワークの状況を監視するのも、この理事会になります。 現在のネットワーク流動資産・流通量 1)Liquid-Bitcoinの流通量 2020/06時点:約2,160 L-BTC 出典:https://liquid.net/ 2)Tether USドルの流通量 2020/06時点:16,561,000 USDT 出典: https://blockstream.info/liquid/asset/ce091c998b83c78bb71a632313ba3760f1763d9cfcffae02258ffa9865a37bd2 ・ ・ ・ 出典:https://wallet.tether.to/transparency 時価総額の内訳(チェーン別流通量)からするとLiquidネットワーク上のUSDTは少なく感じられますが、Tether USDTは、XRPを超えて、Bitcoin、Ethereumに次いで第3位にいます(2020/06時点)。秘匿化トランザクションというOTC取引で優位性のあるLiquidネットワークの今後の流通量の変化は非常に興味深いところです。 【Tether USDT チェーン別流通量】(2020/06時点)107円/USドルで換算しています。 3)カナダドル(L-CAD) Bull Bitcoin社が発行するLiquid-CAD(L-CAD)は、流通量について秘匿化されており残念ながら確認することはできませんでした。通常は発行の透明性が非常に重要なので、多くのステーブルコイン発行者は、流通量の秘匿化を採用しないようです。とはいえ、L-CADは取引所間でもよく評価されており、使用されているようで、大変興味深いモデルです。 出典:https://lcad.bullbitcoin.com/ https://blockstream.info/liquid/asset/0e99c1a6da379d1f4151fb9df90449d40d0608f6cb33a5bcbfc8c265f42bab0a 短期間に激しく動く世界市況の中、Liquidネットワークがどのように変化していくか、引き続き観察し、読者の皆様にお知らせしたいと思います。 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。 【寄稿者プロフィール】 y.takamatsu Bitcoinの個体/液体/気体に例えるアナロジーに興味を惹かれました。 ・Bitcoinメインチェーン:氷 ・Liquidネットワーク:水 ・Lightningネットワーク:蒸気 (株)CAICAテクノロジーズ クリプトカレンシー&テクノロジー事業部 高松良仁
Liquidネットワークについて(後編)
07/01 16:13 株式会社CAICAテクノロジーズ
前編では、Liquidネットワークについての概要やその特徴である高速な送金などについてご紹介いたしましたが、後編では、Federation(連合)メンバーである参加者のご紹介から、Bitcoin先端技術であるサイドチェーン・プラットフォームを、どのようなガバナンス体制のもと、管理・運営しているのか。そして2018年10月にLiquidネットワークがリリースされてから現在に至るまで、Liquid-Bitcoin(L-BTC)や独自トークンの発行状況についても触れたいと思います。
「Liquidネットワークについて(前編)」はこちら
Liquid(Federation)メンバー
Liquidネットワークは、管理・運営を参加者であるFederation(連合)メンバーが行うコンソーシアム型のブロックチェーンになりますが、現在(2020/6時点)以下の4つのカテゴリーに分類される、計44事業者がLiquidメンバーとして活動しています。
・仮想通貨取引所:21社
・トレーディングデスク、ブローカー:11社
・インフラサービス:8社
・ウォレット、決済サービス:4社
出典:https://liquid.net/
Liquidメンバーは、Liquid-BitcoinをPeg-out(償還)※1 することが出来ます。またLiquid Federation Boards(理事会)がありますが、この理事会メンバーを選挙で投票することが出来ます。この理事会は3つありますが、後ほど「Liquidネットワークガバナンス」のところでご紹介いたします。そして、Blockstream社のサポートのもと、Liquidメンバーは主体的にネットワークのアップデートを行います。
[※1]:前編の「Liquidネットワークの特徴(BTC裏付けトークンの発行と償還)」をご参照ください。
1)国内のアクティビティ
Liquidメンバーの中には、国内の見慣れた仮想通貨取引所のロゴマークも何社か確認できるかと思いますが、直近の注目すべきLiquidネットワーク利用例として、SETTLENETというOTC取引決済プラットフォームがCrypto Garage社よりリリースされました。このSETTLENETは、昨年の1月に首相官邸が進める「規制のサンドボックス制度」の認定を受けたプロダクトで、国内のLiquidメンバーである仮想通貨取引所4社が参加し実証実験が行われ、プラットフォーム及びLiquidネットワークの安全性、安定性が検証されました。正にBitcoinサイドチェーンのメリット享受を具体的な形で体現したプラットフォームです。SETTLENETの詳しい内容のご紹介については、是非また別の機会に。
出典:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/project/gaiyou3.pdf
https://settlenet.io/
2)Functionaryメンバー
Liquidメンバーは、Functionaryまたは、Participantの何れかのメンバーとしてLiquidネットワークに参加し、主体的にネットワークの維持管理を行います。 Functionaryメンバーは、下記の表に示されている通り重要な役割を担っているわけですが、Participantメンバーとは、ネットワークのセキュリティ維持の面で異なります。
出典:https://docs.blockstream.com/liquid/technical_overview.html
現在(2020/6時点)、Functionaryメンバーは15事業者で、世界に分散した各々の事業拠点にてFunctionaryサーバを維持管理しています。将来的に状況の変化に応じて、柔軟な形(液体のように)でその数や拠点が最適に変更されるDynamic Federations (dynafed)方式に移行する計画があり、現在準備が進められています。
出典:https://github.com/ElementsProject/elements/pull/642/commits
Functionaryサーバは、取引のバリデーション権限を持ち、特別なHSM(耐タンパ装置)により、Bitcoin資産の安全性を担保しています。
Functionaryサーバの技術的な仕組みについては、前編の「Liquidネットワークの特徴(高速な送金)」をご参照ください。
Liquidネットワークガバナンス
出典:https://liquid.net/governance
Liquidネットワークのガバナンス体制は、以下の3つLiquid Federation Boards(理事会)から構成されています。
各理事会の定員は5名で、任期は1年ごとに選挙を実施し2期連続で務めることができます。第1回目の選挙は、Liquidネットワークがリリースされてから1周年目(2019/10)のタイミングで、Blockstream社が主催するLiquidメンバー全体会議の中で説明され、現在、上記リンクにアップされている15名が、その時の選挙で当選された方々です。全てLiquid(Federation)メンバーが主体で行う、とても透明性の高い民主的なガバナンスです。
1)Membership Board(メンバーシップ理事会)
メンバーシップ理事会は、Liquidメンバーの加入・脱退の基準やルール、ガイドラインを策定する責任を負っています。新規Liquidメンバーの評価や既存Liquidメンバーの定期的な評価もこの理事会が行います。
2)Technology Board(技術理事会)
Liquidメンバーからのニーズを集め、それに基づきBlockstream社と共に技術ロードマップを策定します。技術理事会は、このロードマップに取り入れる優先順位付けを行い、Blockstream社と直接連携してLiquidメンバーからのニーズを実現します。
3)Oversight Board(管理・監視理事会)
内部ルールやプロセス、体制や管理方法を策定します。Liquidネットワークの状況を監視するのも、この理事会になります。
現在のネットワーク流動資産・流通量
1)Liquid-Bitcoinの流通量
2020/06時点:約2,160 L-BTC
出典:https://liquid.net/
2)Tether USドルの流通量
2020/06時点:16,561,000 USDT
出典: https://blockstream.info/liquid/asset/ce091c998b83c78bb71a632313ba3760f1763d9cfcffae02258ffa9865a37bd2
出典:https://wallet.tether.to/transparency
時価総額の内訳(チェーン別流通量)からするとLiquidネットワーク上のUSDTは少なく感じられますが、Tether USDTは、XRPを超えて、Bitcoin、Ethereumに次いで第3位にいます(2020/06時点)。秘匿化トランザクションというOTC取引で優位性のあるLiquidネットワークの今後の流通量の変化は非常に興味深いところです。
【Tether USDT チェーン別流通量】(2020/06時点)107円/USドルで換算しています。
3)カナダドル(L-CAD)
Bull Bitcoin社が発行するLiquid-CAD(L-CAD)は、流通量について秘匿化されており残念ながら確認することはできませんでした。通常は発行の透明性が非常に重要なので、多くのステーブルコイン発行者は、流通量の秘匿化を採用しないようです。とはいえ、L-CADは取引所間でもよく評価されており、使用されているようで、大変興味深いモデルです。
出典:https://lcad.bullbitcoin.com/ https://blockstream.info/liquid/asset/0e99c1a6da379d1f4151fb9df90449d40d0608f6cb33a5bcbfc8c265f42bab0a
短期間に激しく動く世界市況の中、Liquidネットワークがどのように変化していくか、引き続き観察し、読者の皆様にお知らせしたいと思います。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
【寄稿者プロフィール】
y.takamatsu
Bitcoinの個体/液体/気体に例えるアナロジーに興味を惹かれました。
・Bitcoinメインチェーン:氷
・Liquidネットワーク:水
・Lightningネットワーク:蒸気
(株)CAICAテクノロジーズ
クリプトカレンシー&テクノロジー事業部
高松良仁