作者:Vargason、CGVリサーチャー
はじめに
我々がWeb3世界へと足を踏み入れようとする時、まず一つの疑問が浮かぶ。それは、「クリプトウォレットで取引をし、暗号資産を保管する必要があるのだろうか」だ。
答えはイエスである。市場取引であれ、自己資産の保管であれ、ユーザーによってクリプトウォレットは欠くことのできないものである。
DeFiやGameFi、NFTが発展するにつれ、クリプトウォレットの使用はもはや必須科目であり、クリプトウォレットはデジタル資産が流通し、ユーザーに接触するためのキーツールになっている。これはもはや一つのプロダクトというよりは、Web3エコシステムへの入口なのだ。
近年では、中央集権型の取引所に対するハッキングが相次ぎ、CeFiプラットフォームとして収益性は大きいものの、全てのユーザー資産を保護することが不可能となっており、さまざまな原因によってユーザーはクリプトウォレットを使って自己資産を守りたいと思うようになってきた。Web3世界を探索したいと考えるなら、まず始めにしなければいけないことはクリプトウォレットを理解し、使うことだ。
CGVは本稿を通じて、クリプトウォレットとそのエコシステムの発展、およびWeb3世界におけるクリプトウォレットの役割について紹介したい。
1. クリプトウォレットとは
1.1 クリプトウォレット発展の道筋
初期において、クリプトウォレットはただ単に暗号資産の保管とたまの送信に使われるのみだった。そもそもこれは多くの資産を抱えたユーザーのための選択肢であり、多くのユーザーは中央集権型の取引所に預けるのが常だった。
しかし、取引所で頻発するようになったセキュリティ関連事件によって、ユーザーの資産は脅威にさらされるようになり、一般ユーザーの目はクリプトウォレットに向くようになった。さらに、DeFiやNFTが発展し、ユーザーはクリプトウォレットを使ってオンチェーンプロトコルを利用するようになった。
さらに、クリプトウォレットに交換機能が追加されるなど、Web3世界のユーザーの利便性は大きく向上している。
1.2 秘密鍵はクリプトウォレットの“アキレス腱”
よく使われるクリプトウォレットには大きく3つに分類できる。すなわち、ソフトウェアウォレット、ハードウェアウォレット、ペーパーウォレットである。
また、そのメカニズムによって、ホットウォレットとコールドウォレットに分けることもできる。クリプトウォレットは主に、ウォレットアカウント、公開鍵、ブロックチェーンネットワークなどで構成され、この中でも重要なのが、公開鍵、秘密鍵、シードフレーズの3つだ。
実はクリプトウォレットには、本当にデジタル資産が保管されているのではない。これはブロックチェーンとのやりとりに必要なツールを提供するだけのものである。
つまり、これらのウォレットはブロックチェーンを介して暗号資産を送受信するという取引をサポートするために不可欠な情報を生成することができるのだ。
この情報には、1つかそれ以上の公開鍵と秘密鍵のペアが含まれる。そして、このアドレスは、基本的に暗号通貨を受け取るために使用されるブロックチェーン内の特定の「場所」を表すことになる。
したがって、資金を受け取るために公開鍵のアドレスを他人に教えることはできるが、秘密鍵を他人に開示することはできない。使用するウォレットの種類に関係なく、秘密鍵を使用すればウォレット内の暗号資産にアクセスすることができるからだ。
秘密鍵がクリプトウォレットの“アキレス腱”といわれる所以もここにあり、ウォレットを使用する上で最も気をつけなければいけない点である。
2. なぜウォレットがWeb3世界への入り口になるのか?
2.1 クリプトウォレットの未来は明るい
では、クリプトウォレットとWeb3の関係はどのように理解するべきだろうか。まず我々は、クリプトウォレットの存在が価値のネットワークを構築する上での出発点であり、ブロックチェーン時代におけるトラフィックの大きな入口であり、デジタル資産の取引やその他の活動を行う上での最初のステップであることを認識するべきだろう。
PayPalの2021年第4四半期決算発表のデータでは、初めてクリプトウォレットを利用するユーザーは40%増加し、2022年にはさらに進展して暗号資産サービス市場が2倍になると予測されている。今年の市場の動きはこのことを証明するようでもある。
最近マイアミで開催されたBitcoin 2022カンファレンスではRobinhoodのクリプトウォレットが発表され、Operaがウォレットを内蔵したインターネットブラウザを発表。関連ではPhantomが1億900万ドルの出資を受け、WalletConnectがシリーズAを1100万ドルで終了するなど、続々と嬉しいニュースが流れ、活況を呈している。
Web3世界への入り口として、クリプトウォレット市場の未来は明るいのである。
ウォレットはDeFiのトラフィックゲートであり、暗号資産エコシステムの不可欠な要素だ。MetaMaskやBitKeepなどのウォレットは、DeFiのうねりの中から生まれたウォレットである。
例えば、Solanaはパブリックチェーンとしてのデザイン上はユーザーを惹きつけたものの、使いやすいウォレットがなかった。しかし、Phantomウォレットが登場してからはユーザー体験が劇的に変化し、a16zやCoinbaseの投資家を含む業界資本からの投資を集め、市場シェアのかなりの部分を占めるようになった。
2.2 デジタル資産管理プラットフォームとしての道
クリプトアプリケーションとクリプト市場の規模が拡大するにつれて、クリプトウォレットは単なるストレージとしての機能から、理財商品や身分証、各種支払い、記念カードなどの機能を備えた幅広いデジタル資産をカバーするワンストップ型の資産管理プラットフォームへと徐々に進化していくと考えられる。これにより、ユーザーはWeb3世界における分散型ウォレットの良さをさらに実感することになるだろう。
CGVは、クリプトウォレットがその機能を派生させればさせるほど、Web3の進歩につながると考えている。クリプトウォレットは、ブロックチェーン上の資産のコンテナでもあり、Web3.0の世界で行動する際のIDの集合体となることもできる。
日常の多くの行動がブロックチェーンウォレットに関連し、ユーザーはウォレットを使用してWeb3を直接閲覧することもできるようになるだろう。クリプトウォレットは業界の発展に不可欠であり、ユーザー数の増加に伴い、ウォレットの需要も日々高まっている。
クリプトウォレットは今も、日常的なデジタルウォレット、投資・貯蓄のハブ、デジタルID、Web3ソーシャルネットワーク、クロスチェーンブリッジなどの方向へと進化し続けている。
2.3 クリプトウォレットがWeb3世界のセーフハーバーに
セキュリティ機関のConfiant は、ハッカーが偽のウォレットを逆流させ、プライベートシードを盗み、ユーザーの資金を盗み取るという、分散型ウォレットアプリケーションに関わる悪意のある活動の一団を発見した。ウォレットの普及に伴い、MetamaskのようなWeb3対応のウォレットを狙った悪意のある事件が多くなってきている。
世界中のユーザーや開発者に向けて、高性能で安全性が高く、敷居の低い資産管理サービスを提供するスケーラブルなクリプトウォレットが、次に注目される方向となるだろう。どのウォレットを使うべきかについて、明確な答えはない。
頻繁に取引を行う場合、ウェブウォレットを利用すると、資金に素早くアクセスでき、便利に取引を行うことができる。現在、市場でより多くのユーザーに利用されているウォレットをいくつか見てみよう。
3. クリプトウォレットエコシステムの分析
クリプトウォレットエコシステムに対する理解をより容易にするために、CGVでは現在のウォレット市場を「ホットウォレット」と「コールドウォレット」に分けて、その仕組みについて分析する。
ホットウォレットとは、何らかの形でインターネットに接続した状態のウォレットを指す。これに対し、コールドウォレットはインターネットから完全に切り離され、物理的な媒体を使ってオフラインで秘密鍵を保管するため、ハッカーによるオンライン攻撃にも有効で、万が一の際にもコールドウォレットはセキュリティの下地があるため、トークン保管の面でより安全である。
3.1 ホットウォレット
1) BitKeep
BitKeepはマルチチェーン対応の分散型デジタル資産ウォレットで、開発チームのクリプト業界およびウォレットに対する理解がユニークである。彼らはWallet、Swap、NFTMarket、DeFi、DAppを統合し、Web3エコシステムへの入口となる準備が整っている。
公開データによると、BitKeepウォレットは、ユーザーベース、収益規模、評価ランキングの面で、アジアでより人気のあるクリプトウォレットとなっている。
Web3の世界に新たに参入するユーザーにとって、特にウォレットのメインチェーンの選択、資産の取引などを学習するのは骨が折れる。BitKeep は、ユーザーの敷居を下げるために、いくつかのユニークな機能をリリースしている。
- 任意のデジタル資産で任意の資産を購入。BitKeepはUniswap 、Sushiswap 、PancakeSwapなどのDEX上で素早く交換する機能を持っており、ワンクリックでEthereum、BSC、HECO、Polygon、Avax、Fantom、OEC、TRX、Solanaの資産をブリッジできる。
- ガス代を借りて取引できる機能。ユーザーは、BitKeepウォレットで送金や取引を行う際に、マイナーの手数料として対応するメインネットワークのコインを事前に入金する必要がない。手持ちのトークンと直接交換できるため、2 回の交換で発生する余計なコストが省け、メインチェーントークンの交換という面倒なステップを省くことが可能だ。
- 気軽なNFTの購入。BitKeep NFT Marketは、クロスプラットフォーム検索機能を備えた集約型のNFTマーケットプレイスで、受信、送信、バルク転送に対応しており、ユーザーは同じチェーン上の任意のトークンを使って好きなNFT を購入することができる。
資本もBitKeep には好意的なようだ。2022年5月18日に完了した資金調達ラウンドでは、KuCoin Ventures、A&T Capital、Matrixport、Bixin Capital、Peak Capital、YM Capitalといった有数の機関が参加し、1 億ドルのバリュエーションで1500万ドルを調達した。
2) Metamask
MetaMask は、iOS / Android や主要なブラウザで簡単に動作するクリプトウォレットだ。MetaMask は、現在最も人気のあるイーサリアムウォレットの1 つで、クリプトエコノミーにおいて最も広くサポートされているブラウザウォレットであり、すべての分散型アプリケーション(dapps)の標準となっている。
ユーザーにとってMetaMask は、暗号資産を管理するための「デジタル銀行口座」であり、オンラインやオフラインでのお金の使用、資金移動、担保借入の利用などを可能にするだけでなく、分散型Web にアクセスするための「パスポート」でもあり、これを通じてユーザーはブロックチェーン空間のほとんどのプラットフォームに接続することができる。
セキュリティ面では、秘密鍵の保管環境をサイト環境から隔離するという点で、中央サーバーに保管するモデルとは異なる。接続性の面では、Ethernetと複数のDeFiプラットフォーム間のインターフェースを開放している。MetaMaskは、これまで取り組んできたビジネスモデル、そして圧倒的に先行する月間アクティブユーザー数と資金規模から、Web3.0時代のGoogleになる可能性が最も高いと言ってもいいだろう。
3) Gnosis Safe
Gnosis Safeは、イーサリアム上で動作するスマートコントラクトウォレットで、取引を行う前に最低人数での承認が必要だ(M-of-N)。例えば、会社の中に主要なステークホルダーが3 人いる場合、取引を送信する前に3 人全員の承認を必要とするようにウォレットを設定することで、誰にも資金を盗まれないようにすることができる。
過去4年間で、マルチシグウォレットのGnosis Safeの成長は全く新しいレベルに到達し、Web3の重要なインフラとして、DAO、機関、プロジェクト、個人のデジタル資産を保護することができるようになった。イーサリアムのメインネット上だけでも、Gnosis Safeのユーザーは640億ドル以上の資産を管理している。
4) CoinbaseWallet
CoinbaseWallet は、取引手数料が安く、使い勝手の良い、初心者向けの安全なウォレットである。CoinbaseWallet は、暗号資産にアクセスするためのツールとしてだけでなく、分散型ネットワークを探求するための足がかりとして利用することができる。
CoinbaseWalletでは、ETHやECR-20のすべての通貨を管理でき、さらにBTC、BCH、LTCをサポートし、エアドロップや暗号資産の受け取り、暗号資産の購入や保管、また手数料なしでどこでも誰とでも取引することが可能だ。
3.2 ハードウェアウォレット
1) Ledger
Ledgerはセキュリティが高いハードウェアオフラインウォレットである。Github上でソースコードを公開することで、開発チーム以外の人間もその脆弱性の修正などに協力することができ、セキュリティをより高めている。
Ledgerは、スマートカードをベースにしたビットコインのハードウェアウォレットで、高いレベルのテクノロジーで可用性と制御性を備えた最高レベルの保護機能を提供する。ウォレットの表示や取引の送信には、ハードウェアウォレットをソフトウェアウォレットと組み合わせて使用する必要がある。
安全に秘密鍵を保管したい場合に選択肢となるウォレットだ。
2) Trezor
Trezorハードウェアウォレットは、世界初のオープンソースハードウェアウォレットで、業界で最も早く開発されたクリプトストレージとして、世界中の暗号資産プレーヤーから高い評価を得ている。
Trezor のセキュリティモデルは、ゼロトラスト原則に基づいて動作する。ゼロトラスト原則とは、安全なシステムのどの部分も、ある時点では危険にさらされる可能性があるというものだ。
Trezor は、ユーザーがデジタル資産を完全にコントロールすることを可能にしているが、秘密鍵をしっかりと覚えておくことが、クリプトウォレットを使う上で最も重要なことであることに変わりはない。
まとめ
どのクリプトウォレットを使うべきかという明確な答えはない。頻繁に取引を行うのであれば、ウェブウォレットを使えば資金に素早くアクセスできて取引をするのに便利であり、大量の暗号通貨を長期間保有して売却するつもりがないのであれば、コールドウォレットが理想的であるとCGVは提案する。
このタイプのウォレットはインターネットに接続されていないため、より安全であり、オンラインフィッシング攻撃や詐欺から効果的に防御することができるからだ。ともあれ、理想的なウォレットを選ぶ際には、まずウォレットが採用している技術的手段を確認し、暗号資産取引プラットフォームを利用する際には実用的なセキュリティツールも検討する必要があるだろう。
Web3のエコシステムが発展していくにつれ、クリプトウォレットはこれらを統合し、我々のポケットの中にある銀行の支店のような役割を果たすことになるだろう。ここに大きなチャンスがあるとCGV は考えている。
Cryptogram Venture (CGV)について:Cryptogram Venture (CGV)は日本に拠点を置く、クリプトおよびWeb3業界に特化したリサーチ・投資会社です。“リサーチドリブンの投資”をモットーに、これまでFTX、Republic、CasperLabs、AlchemyPay、The Graph、Bitkeep、Pocket、Powerpool、日本政府の監督下で発行されている日本円ステーブルコインJPYW などのプロジェクトのアーリーステージへ投資。
また、CGV FoF はHuobi venture、Rocktree capital、Kirin fundなどのファンドのLPであり、現在、シンガポール、カナダ、中国などの地域に支社があります。