ゴールドとビットコイン(BTC)の希少性のモデル化と市場規模の計測

元々今年の3月に公開された記事で、ビットコインとゴールドの類似性と価格との相関をモデル化しようと試みている記事があります。

“As a thought experiment, imagine there was a base metal as scarce as gold …" — Nakamoto

少し古いですが、この記事を参考によく言われる「ビットコインはデジタルゴールド」という主張の妥当性を考える上での根拠の一つになる興味深いものなので、紹介します。

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ビットコイン研究所は、Cosmos、TezosなどのブロックチェーンのStaking-as-a-serviceを提供するStirから定期的にレポートの提供を受け、今後共同でProof of Stakeの技術や市場の研究を実施します。この記事ではステーキングとは何かを解説しています。 ステーキング入門編:PoS基礎知識から報酬、仮想通貨の比較まで分かりやすく解説|ビットコイン研究所コラム

そもそもなぜゴールド(金)に価値があるのか

これは諸説ありますが、この記事ではゴールドの価値の根拠として「希少性」に注目しており、それを量的に測るためにStock-to-flow ratio(SF率)という数字を使用しています。

これは平たく言えば、すでに市場に出回っている量(Stock)と新規生成される量(Flow)の割合です。SF率が高いということは、新規生成(採掘)するのが難しく、市場流通量の増加が緩やか、ということです。言い換えれば、S2Fが高いということは、希少性が高い、と単純化して言うことも出来ます。

この数字をゴールド、シルバーなどのCommodityに当てはめたものが以下の表になるそうです。

ゴールドのSF率は62、シルバーは22、パラジウムは1.1、プラチナムは0.4です。ゴールドは歴史的に価値の貯蔵庫の代名詞ですが、現在のFlowを維持したとして、現在のStock(市場流通量)に追いつくのに62年間かかるということですね。他の貴金属などと比べてもこれは圧倒的に高いです。

そして表を見ればわかる通り、確かにSF率が高いほど、全体の市場規模が高い、という結果になっています。SF率はゴールドに価値があり、シルバーにはゴールド程の市場規模がないのか、などの一つの説明材料になるとは思います。

ビットコインのSF率は?

さて、ビットコインはゴールドと近い性質を持つ「デジタルゴールド」とよく言われ、発行量は2100万BTCで有限で、ビットコインの供給スケジュールは正確に計測可能、自分でノードを構築して検証すれば偽造するのは非常に困難です。

以上から、ゴールドなどと同じSF率でビットコインを分析することで、ビットコインの「適正市場規模」を算出したり、今後の価格予想の指標に使えるのではないか、というのが今回の記事の主なポイントです。

実際に2009年からビットコインの月ごとのSF率を求めて、プロット、グラフ化、回帰分析したものが添付画像②になります。(市場規模はlogarithmic)

ビットコインのSF率を分析してわかったことは、ビットコイン市場規模(価格)とSFは確かに強い相関関係が見られました。これは必ずしも因果関係はあらわさないかもしれないですが、グラフを見ても分かるレベルで回帰直線に沿って過去のビットコインのSF率が分布しており、統計的な有意性も示されました。

そしてさらに興味深いのが、同じグラフ上にゴールドとシルバーのSFと市場規模を並べてみると、こちらもビットコインのSF回帰直線に沿って分布されることです。ビットコインのSFと市場規模モデルはゴールドやシルバーにも当てはまりそうだ、というのが今回のレポートの大きな発見と言えそうです。

半減期後のビットコイン価格を予測すると

さて、この仮説が正しく、SF率が市場規模(価格)を決める重要な要因だとした場合、ビットコインのSF率は正確に予測出来るので、価格などを予測する指標になりえます。

2020年5月の半減期以降、ビットコインのSF率は50になり、現在のゴールドの62にさらに近づきます。そして上記モデルから算出されるビットコインの適正価格は半減期後、55,000ドル(vs 現在価格はおよそ10,000ドル)ということになります。

ただし、過去の市場の動向を参考にするならば、ビットコイン価格は半減期到達から少し遅れて大きな上昇相場が始まっていたので、仮にこのモデルが正しかったとしても半減期直後にすぐに価格が急上昇するわけではないでしょう。(12年の半減期⇒13年の暴騰、16年の半減期⇒17年の暴騰)

興味深いビットコインのSF仮説にも問題点が

さて、ゴールドやシルバーなどとビットコインのSF率を比較して市場規模の推移を予想する、という話は面白いですが、このモデルの弱点や懸念も指摘出来ると思います。

ゴールドやシルバーと違って、ビットコインのセキュリティ(攻撃耐性)は新規発行されるコインの量やトランザクション手数料に依存します。

半減期が到達しSF率が上がるというのは、SF説の希少性の観点からはビットコインの価格にとって有利かもしれませんが、同時に新規発行コインの減少⇒セキュリティの低下⇒価値の棄損、という負のループが半減期を重ねるごとに発生する可能性はあります。これはゴールドやシルバーなどの物理的なコモディティとの大きな差でしょう。

なので、ビットコインに関して言えばSF率の増加というのは価値の貯蔵庫(Store of Value)として希少性の増加というポジティブな要因になりえるのと同時に、マイニングインセンティブの変質、というリスク要因も生み出すことになります。

もし後者のリスクが半減期を重ねるごとに大きくなってくると、今のところかなり正確に見えるSFモデルが今後機能しなくなる可能性があります。

アルトコインに同様の説は当てはまるのか?

SF仮説は他のコインに当てはまるのか、というのも面白い視点だと思います。

もし仮にSF率が仮想通貨価格形成の大きな決定要因とするなら、ビットコインよりSF率が低いアルトコインを作ることは容易です。ただし、当然全てのコインにこのSFモデルが当てはまるわけではありません。

問題はビットコイン以外のコインは集権化されてしまっているものが多く、「コインの新規発行や供給スケジュールの恣意的な変更」が出来てしまう可能性が少なくない、ということでしょう。

SF仮説には、供給スケジュールは検証、予測可能で恣意的に変えられない、という重要な前提があります。今のところ仮想通貨の中でこの条件を十分満たしているのはビットコインのみに思えます。

ただし、当然ビットコイン自体もネットワーク参加者の合意が取れればコインの発行料や供給スケジュールの変更をすることは理論上は可能ですし、マイニングの集権化などビットコインがどこまで分散化されているのか、という批判もあります。

一方、ビットコインは過去のハードフォークに関する議論、対応などを見ても、恣意的な変更への耐性という点では他のコインと比べても歴史と実績があります。中々変更が出来ない、というのはビットコインの弱点にもなるという見方も出来ますが、少なくともSF仮説の視点から言えばこれはプラスの要因と言えそうです。

わたしの結論は

というわけで、よくビットコインはゴールドと似ている、とか、ゴールドとビットコインの市場規模を比較したりすることはありますが、こちらの記事ではその主張を分解して統計的に分析、モデル化しているところが面白いです。

このモデルがビットコインで今後も正確に機能し続けるかはまだわからないですが、ビットコインの適正な市場規模を考える上でStockとFlowに注目するというのは一つの重要な参考指標になりえると思います。

東 晃慈 ビットコイナー/クリエイター/マーケター

2014年9月ビットコイン、暗号通貨業界でフルタイムで活動。暗号通貨関連のコンテンツ制作、メディア運営、サービス企画・開発、国内外のプロジェクトの支援など幅広く活躍。特に暗号通貨専門の動画チャンネル「ビットコイナー反省会」は、業界内外から特別ゲストを招き、暗号通貨、ブロックチェーンの技術、業界を独自の視点からカバーしており、広く支持されている。

また、IndieSquareの元共同創業者として、トークンエコノミーの分野のパイオニアとしての顔も持ち、ブロックチェーンを利用したトークンのビジネスモデル、ICO,分散アプリケーション上のトークン経済の設計などについても熟知している。

1988年茨城県つくば市出身。高校卒業後渡米。カリフォルニア大学バークレー校環境経済学科卒。

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