イーサリアムマージの完了時期を左右する「TTD」とは|Parisアップグレードの注目ポイントを解説
Bellatrixアップグレード
暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)の大型アップグレード「The Merge(マージ)」は2つのアップグレードで構成される。
第一段階のBellatrixアップグレードは日本時間9月6日20時34分頃(エポック144896)の起動が予定されており、執筆時点では73%のイーサリアムノードが準備を完了している。
Bellatrixアップグレード前にアップデートを行わないクライアントは、ETHを送信したり、マージ後のイーサリアムネットワークで操作できなくなる。イーサリアムの共同創設者Vitalik Buterinやコア開発者らは、残りのノードオペレーターにクライアントのアップデートを促している。
Bellatrixが無事完了すると、9月13日~15日の実施が予想され、期間中の合計難易度が一定値を超えた段階で発動する「Paris」アップグレードを待つことになる。
この記事では、Parisアップグレードのポイントについて解説する。
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2部構成のマージ
イーサリアムの大型アップグレード「マージ」が完了すると、現在のメインネットと今後コンセンサス形成を担っていく「ビーコンチェーン」が統合され、イーサリアムのコンセンサス(合意形成)アルゴリズムが、現行のプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフオブステーク(PoS)へ切り替わる。
とはいえ、どちらかがどちらかに吸収され、二つが一つになる訳ではない。役割の異なる二つのレイヤーがそれぞれ形を残して連携しながら、一つのイーサリアムを構成する。
マージ前半の「Bellatrix」はビーコンチェーンのアップグレードであり、後半の「Paris」はメインネットで実行するものとなる。なお、ノードオペレーターは両方のクライアントを並行して更新する。
マージ後半のParis
Parisアップグレードは、22年9月10日~20日の到達が予想されるTTD(Terminal Total Difficulty:期間中の合計難易度)58,750,000,000,000,000,000,000で発動する。
Parisにより、PoWチェーンが停止し、後続のブロックはビーコンチェーンの(PoS)バリデーターに生成される。PoS上の最初のブロックがファイナライズした時点で、マージ完了と判断される。計算上、TTD後に最初のブロックが生成されてから(約13分(2エポック)後に完了する見込み。
移行のタイミングは「Bordel.wtf」や「797.io/themerge」のウェブページで確認可能。執筆時点では9月13日~9月15日と試算されている。
マージ後、PoWが終了するためマイニング報酬は0になり、1日の新規発行量はステーキング報酬(1,600ETH)のみとなる。インフレ率が約90%減少することになるため、マージの動向に注目を寄せる投資家は少なくない。
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TTDとは
ParisアップグレードがBellatrixよりも発生時期を予測するのが難しいのは、期間中の難易度の合計値を使用するためだ。
Bellatrix後にハッシュが不安定になることが予測され、多くのマイナーがネットワークに参加し続ければ早期にTTDに到達するが、マイナーがネットワークを離れた場合はTTD到達が遅れる。
TTD(Terminal Total Difficulty:期間中の合計難易度)は、最先端のブロック番号を持つチェーンが正当な訳ではなく、最大の作業量(=合計難易度値)を持つチェーンが正当とみなされるPoWネットワークの特性を利用したものだ。
特定のブロック番号により速く到達してマージ移行を乗っ取る攻撃を防ぎ、所定のTTD値に達したブロック上にPoSチェーンを構築することを確実にするために採用されている。
イーサリアムは3つのテストネットでマージをリハーサルしてきたが、Ropstenでは何者かが通常の20倍のハッシュを購入してBellatrixより先にTTDに到達する事案が生じた。そのため、クライアントをアップグレードした後、再起動して、新しいTTDを設定した経緯がある。
8月24日のイーサリアム財団のリリースによると、「Bellatrix後にハッシュレート水準が大幅に低下した」場合、Ropstenで行われたようにTTDオーバーライドが調整されるという。
PoWチェーンの存続
マージ完了後はPoW ブロックの処理を停止し、PoSイーサリアムが唯一の正規チェーンとなるよう、イーサリアムの全てのクライアントノードがこれらの作業を監視する。
仮に、マイナーがノードのアップグレードを忘れて、PoWチェーンを採掘し続けたとしても、そのマイナーはもはやイーサリアムではなくなった古いPoWチェーンを形成することになる。
しかし、従来のPoWを存続させるためにイーサリアム・ブロックチェーンを分岐(フォーク)しようとする、マイナー主体の暫定ガバナンスグループ「EthereumPoW」が立ち上がっている。
8月15日には、EthereumPoWの中心的な開発組織「ETHWコア」がノードクライアント「Geth」をベースとしたフォークバージョンをリリース。少なくとも1つのPoWフォークが発生する可能性が高い。
全体的に、エンドユーザーは正当なイーサリアムのマージに関連して何もする必要はないが、ETHW大手取引所の対応について別途チェックしておきたい。
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