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CGV Research 10億クラスのユーザーを抱える Web3 アプリケーションはどこから誕生するのか?

Shigeru , CGV Research

 現在、Web3 は机上の空論やインターネット上の流行語といった領域からは脱して、インターネットに革命をもたらすテクノロジーとしての期待を寄せられるまでになった。

 しかし、世界を見てみれば、圧倒的なユーザー数を誇る Web3 アプリケーションは未だ一つとしてなく、強いていえばビットコインのみが知名度でもユーザー数でも最も高い位置にある Web3 アプリケーションとなっている。

 ——かつて Web 3 の提唱者であり、一番最初のツイートを NFT に変えた Twitter の創設者、Jack Dorsey は、

Web 3.0 を所有しているのはあなたではなく、ベンチャーキャピタル VC とその限定パートナーであり、Web 3.0 は彼らの(金銭的)刺激から決して逃れることはできない、

と述べている。

 ——暗号通信アプリケーション「Signal」の創業者 Moxie Marlinspike が、2 つの DApps を開発した後に語った本音:Web3 は誤った命題かもしれない。

 ——かつて 1900ETH を集めた PandaDAO は、設立から 1 年足らずで、「コミュニティのコアワークが投票で、何もする時間がない」という理由だけで解散の手続きを開始した

……

 多くの人が疑問に思うだろう。今の視点から見れば、Web2 の世界は Web1 よりも確実に優れているが、将来的に Web3 の世界は Web2 よりも確実に優れると言えるのか、と。

 ユーザーなしに語れる世界はない。ユーザーの自然選択は、Web3 世界が繁栄するか否かを決定づける。

 Web2 の世界では、Facebook が全世界で 30 億人以上、Youtube や WhatsApp が 20 億人以 上、WeChat や Tik Tok が 10 億人以上のユーザーを抱えている。

 相対的に Web3 の世界を見てみると、暗号通貨決済会社 TripleA のデータは、2022 年の世界の暗号通貨と Web3 のユーザー数は 3 億 2 千万人を超え、これは世界人口の約 4.2%に相当することを表している。

 現在のWeb3 のユーザー数をインターネットと比較すると、現在の Web3 の発展段階は、 1990 年代後半のインターネットとほぼ同等であると結論付けられる。Andreessen Horowitz (a16z)は、Web3 のユーザー数はすぐにでも 10 億に達すると予測している。

 では、ユーザーの規模が10億クラスに達する Web3 アプリケーションは、どの領域から誕生するのだろうか?

Web3 の衣を被った「偽 Web3 アプリケーション」には近づかない

 偽りを取り除けば、本物が残る。Web3 を謳うすべてのアプリケーションが、全て本当の意味での Web3 アプリケーションというわけではない。

 真っ先に被害に遭った GameFi は、まさに「偽 Web3 アプリケーション」の最警戒区域だ。

 GameFi は、文字上の意味からいえば二つの部分から構成されている。すなわち Game= ゲームと、Finance=金融である。簡単に言えば、ゲーマーがゲームをプレイすることで暗号通貨を獲得することを意味する。

 Axie Infinity や DeFi Kingdoms など、市場でベンチマーク商品として知られる GameFi ゲームは、世界 30 億人のゲーマーに強いインパクトを与えることができず、暗号市場の低迷とともに徐々にデススパイラルに陥っている。

 Axie Infinity を例にとってみよう。2021 年以来、プレーヤーに“Play-to-Earn”や、“ブロックチェーンゲームが世界経済をさらに公平なものへと導き、世界各地の人間に多くのチャンスを提供する“といった理念を崇拝させることで、市場から熱烈な支持を得てきた。

そして 14 ヶ月が過ぎ、大部分の人はこのゲームを遊ぶことはなくなった。彼らは皆、怒りと焦りを感じ、数千万ドルの損失を被った人もいた。

 健全な GameFi プロジェクトは、商業的パートナーシップによって、実質的な外部収益を得るなど、内外循環型の生態系メカニズムが確立している。しかし、ポンジスキームさながらユーザーを増長させる GameFi プロジェクトにおいて、早期のユーザーが獲得する収益は、後に参入するユーザーが投入する資金なのである。

もし、プロジェクトの収益が負債の増加する速度に追いつかなければ、崩壊は時間の問題である。

 プロフィール画像(PFP)を主とする NFT 領域にも似たような問題が存在している。

 かつて、PFP は NFT の代名詞となった。NFT と言われれば、一つで数百万元もする無意味な猿の画像を思い浮かべる。

しかし、機能面での支えや、クリエイター経済におけるインセンティブの健全な循環がなければ、大多数の PFP 系プロジェクトの価値は低く、限られたコミュニティの承認にその価値を依存してしまうことになる。2022 年のピーク時に比べると、NFT 市場における取引額は 90%以上も下落し、主な PFP プロジェクトの価格も基本的には 60-70%程度落ち込んでいる。

そのほかのプロジェクトには目も当てられない状況である。

 また、世間を賑わせたメタバースプロジェクトであるが、Roblox の MAU が 202M、 Minecraft の MAU が 141M なのに対し、Sandbox の MAU はたった 200k であり、Decentraland は 56k である。このようにしてみると、Sandbox と Decentraland の評価額は、少々“水分が多い”のではないだろうか。

 これ以外にも、DeFi、DID、DAO、SociaFi などの分野で大量の「偽 Web3 アプリケーション」が存在している。彼らの存在はおそらく大きな資本の流れが生んだ泡沫のようなものであり、テクノロジーの成長周期における歴史的遺産でもあるのだろう。

本当に価値のある Web3 アプリケーションの星芒を覆い隠してしまっているのである。

Web3の価値の本質に回帰せよ

 第一原理から出発して Web3の本質に回帰し、次の発展の方向性を推察してみよう。

 Web3 は「価値のインターネット」に最も近い産業形態であると言われている。事実、Web3 は Web1、Web2 を単純にアップデートさせたものではなく、その核心は分散化され、価値を共創し貢献によって分配される新たなネットワークを形成し、ユーザーの側にデータの自主権を与えるところにある。

 では、我々は Web3 アプリケーションをいかに定義するべきだろうか。CGV リサーチチームは、Web3 アプリケーションとは、ブロックチェーン技術に基づき、トークンをツールやメディアとして利用し、ユーザーの実用的なニーズを解決し、ユーザーのインタラクティブな操作をサポートすることで、価値の創造・流通・循環を実現するものであると考える。

 当然のことながら、Web3 アプリケーションは全ての問題を解決できる霊験あらたかな妙薬などでは決してない。また、どのようなシーンにも適合する万能さも Web3 にはない。

もし、Web3 の趨勢のみをみて Web3 アプリケーションを作れば、結局は身の程を知らない猿真似に終始してしまうだろう。

 では、Web3 アプリケーションは何に合い、何に合わないのか。

 この問題は、Web3 領域で創業、または投資する人が考え続けなければいけない問題である。個人的に賛同するのは、Mint Ventures の Alex Xu の見解である。

つまり、Web3 の根本的な価値とは、そのパーミッションレスでグローバルな性質が、前例のない規模と境界をもつ自由市場を形成するところにあり、オープンソースのコードとデータの検証可能性は、この空前の自由市場における極めて低い信頼コストでの運用を可能にしているという主張である。繁栄もここから生まれる。

 したがって、“自由”と“信頼”は Web3 の最も得意とするところであり、Web3の根本的価値なのだ。

 “自由”の観点から見れば、資産、プロトコル、ID、プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス、知的財産権などの自由な組み合わせと遷移を可能にし、“信頼”の観点から見れば、ブロックチェーン技術の改ざん耐性や透明性・オープン性によって、Web3 は正義や暴力・権威、文化などによって築かれている伝統的な信頼システムと一線を画す新たな信頼体系を築き上げている。

 ビジネスシーンに Web3 を実装しようとするとき、もし“自由”と“信頼”の両面で優れたデザインができず、ビジネスルールを決めることができなければ、将来の事業計画に大きな支障をきたす結果となるだろう。

 例えば、リアル資産のオンチェーン化を行うプロジェクト(合成資産や STO 等)は元来の信用システムを脱却できておらず、Web3 を単純に接木にするだけで奏功していない。一方、クリプトネイティブな Web3 資産やビジネスフローは全てブロックチェーン上のプロジェクトであり、自由と信頼の二つの属性を兼ね備えるため、必然的に優勢である。

 “自由”と“信頼”という Web3の強みを発揮する以外にも、基本的なビジネスロジックを備えているかどうかは Web3 プロジェクトを持続可能にするための礎になる。

 2022 年に社会現象となった Web3 アプリケーション StepN を振り返ってみよう。X-to earn の経済モデルを用いてプロダクトの成長や資金調達を成功に導こうとした努力は評価に値する。

しかし、後期には大崩壊を起こしてしまった。StepN の問題は、先述した GameFi が抱える問題と似ている。

つまり、プロジェクトのビジネスモデルが不健全で、エコシステム外での価値を創造できていなかった。さらに、長期債務(NFT 販売の収入)を現金での収益に変えたことで、プロジェクトの価値創造能力を弱めてしまった。

 したがって、Web3 アプリケーションの成功は、“自由”と“信頼”のデジタル的要素を基礎の上に、精査可能なビジネスモデルという、この三者が不可欠であると我々は考える。

そしてこの考えのもとに、我々はここに Web3 アプリケーションの「ユニコーン成長指数」(Unicorn Growth Index” of Web3 applications)を提唱する。

「ユニコーン」的成長可能性を秘めた6 種の Web3 プロジェクト

1. モバイルクリプトウォレット

自由度指数:☆☆☆☆
信頼度指数:☆☆☆☆
ビジネスモデル検証性:☆☆☆☆☆
Web3 ユニコーン成長指数:☆☆☆☆☆

 クリプトウォレットには二つの属性がある。すなわち、資産の口座としての役割と ID としての役割である。

ユーザーにとって、クリプトウォレットこそが Web3 世界への実質的な入り口である。中央集権的な取引所でアカウントを開設するにせよ、ハードウォレットを購入するにせよ、まずは何かしらのウォレットを入手しなければ Web3 世界に立ち入ることはできない。

 2009 年、ビットコインが現存の非対称鍵暗号技術を公共のデータベースへの書き込みに使用したことで、初めての“クリプトウォレット”が誕生した。2016 年、正式にリリースされ た Metamask は、これまで主にビットコインとの相互作用にばかり着目していたウォレットとは異なり、dApps という新たな世界への門を開いた。

2011 年 11 月から 2022 年 7 月 11 日までの全世界のウォレットユーザー数(百万)
出典:https://www.statista.com

 暗号資産の発展とともに、ウォレットもまた異なる発展変化を経験してきた。単一資産、単一ブロックチェーンのウォレットからマルチアセット、マルチチェーンのウォレットへと進化し、単一の送金・受け取りから、ブロックチェーンエコシステム全体を巻き込むプラットフォームになり、モバイルウォレットやパブリックチェーンウォレット、取引所ウォレット、カストディ業者ウォレット、ハードウォレット、ID ウォレットなどそのバリエーションは多くの道に分岐した。

 クリプトウォレットはユーザーの資金を管理するという伝統的なビジネスモデルのほかに、価値増殖サービス(資産運用、PoS マイニング、取引、ポートフォリオ、チャート情報など)や広告などの方法によって、増収が見込める。

 我々はモバイル端末のクリプトウォレットが、Web3 アプリケーションのトラフィックおよびその頒布を担うプラットフォームとなり、最終的には Web3 という領域全体を「金儲け」から「日常的なアプリ」へとパラダイムシフトさせる力になると考えている。

 注目に値するクリプトウォレットを以下に列挙する。

 ➢ Metamask:(@MetaMask)MAU は 3000 万を超える。軽量級のイーサリアムオープンソースウォレットであり、アプリケーションウォレット。

イーサリアムのスマートコントラクトをテストする機能があり、最も多くの Dapp をサポートする。ハードウォレットの Ledger や Trezor と互換性がある。

 ➢ TrustWallet:(@TrustWallet)マルチチェーンに対応したモバイルクリプトウォレットで総ユーザー数は 5800 万超。800 万種を超えるトークンと数千の Web3 dApp をサポートする。

 ➢ BitKeep:(@BitKeepOS)全世界に 800 万のユーザーを抱え、アジア市場では最大のマルチチェーンウォレット。ホット、コールドの分離やオフライン署名など多くのセキュリティシステムをサポートしており、80 以上のブロックチェーンに対応し、ワンクリックでのブリッジ機能などがある。

2. “Play-and-Earn”ゲーム

自由度指数:☆☆☆☆
信頼度指数:☆☆☆☆☆
ビジネスモデル検証性:☆☆☆☆☆
Web3 ユニコーン成長指数:☆☆☆☆☆

 インターネット経済におけるゲームの重要性と同様、クリプトゲームもまた Web3 エコ システムのユーザーを増加させる原動力と見られてきた。

 クリプトゲームの潜在市場は巨大だが、多くのゲーマーにとってクリプトゲームは無味乾燥なものだ。現在のクリプトゲームの多くが GameFi あるいは P2E(Play-to-Earn)の方式をとっている。

これは、ゲーマーに収益を生む機会を提供することが一番の魅力だ。しかし、ゲームをしてお金を稼ぐという単純な方式は、必ずしも持続可能なモデルではない。

半年からさらに長い時間軸で見れば、真に成功しているプロジェクトは未だ存在していない。

 Web3 ゲームの制作は、やはりゲーム本来の属性に回帰することが必要だ。すなわち、「楽しさ」そのものこそがゲームの本質的価値なのだ。

 話題性の減衰とユーザーの趣向の変化によって、Web3 ゲームには Play-to-Earn という新たな概念が出現した。これは、既存のゲームの Free-to-Earn モデル、つまり誰でも無料でゲームをプレイできるというモデルを参考にしながら、一部のユーザーにはスクリーニングによってお金を稼ぐことができるようにした。

また、将来的には、完全にブロックチェーン上にあるゲームとしてアーキテクチャが解放され、自立運行型の世界を作り出すことを標榜していた。

 残念なのは、こうした“Play-to-Earn”ゲームの代表作を未だに見ることができない点である。次の Axie Infinity や StepN は誰なのか。

歴史によって試される必要がある。

 もちろん、それぞれのゲームがまだ楽しさとインセンティブのバランスの中でもがいている中、資本市場はこの市場に対して熱い視線を注いでいる。2022 年5月、a16z は Web3 ゲームベンチャーに集中して投資する6 億ドル規模のファンドを設立した。

その投資領域は主に三つある。すなわち、ゲームスタジオ、ゲーマーコミュニティをサポートするアプリケーション(Discord など)、ゲームインフラプロバイダーである。

この三つの領域は散り散りであるように見えるが、その目標はただ一つ、本当の意味での Web3 ゲームを作り上げることである。

 現在、注目に値する Web3 ゲームは以下の通りだ。将来、彼らが手を取り合って次世代の “Play-and-Earn”モデルが作り上げられるかもしれない。

 ➢ TreasureDAO:(@Treasure_DAO)分散型のゲーミングプラットフォーム、発行プラットフォーム。完成されたインフラとエコシステムにより独立した開発者のニーズを満たし、プレイヤーの活動が蓄積されて経済体を形成している。

現在、Arbitrum 上でランキング1位のゲームであり NFT エコシステムである。10 万以上のゲーマーコミュニティがある。

 ➢ SkyArk Studio:(@SkyarkS)AAA 級のブロックチェーンゲームスタジオ。

SkyArkChronicles などのブロックチェーンゲームをリリースしている。また、独自開発の NFT ゲームエンジンは NFT に相互運用性、編集性、進化性を備え、プレイヤーは異なるプレイスタイルのゲーム間で NFT をクロスオーバーさせることができる。

 ➢ Bedlam:e スポーツゲームセンター。Web3 ゲームの ID(パフォーマンス統計やコンテ ンツ)の作成・管理をサポートするプラットフォーム。

ユーザーはリーグ戦やトーナメントに参加することができ、好きなチームを追うことができる。

3. Phygital アプリケーション

自由度指数:☆☆☆☆
信頼度指数:☆☆☆☆☆
ビジネスモデル検証性:☆☆☆☆☆
Web3 ユニコーン成長指数:☆☆☆☆☆

 ファッションや娯楽の領域におけるクリプトネイティブおよび Web2 に対して、Web3 は一つの機会を提供している。すなわち、デジタルと現実のモノや体験にその受け手を提供することである。

こうした物理世界とデジタル世界の新たな結合は、一つの言葉を生み出すに至った。これが Phygital(フィジタル)である。

 Phygital とは、すなわち“Phygical+Digital”であり、物理的環境あるいは有形の物体とデジタル、オンライン体験の結合を意味する。2013 年にオーストラリアの広告会社 Momentum によって提唱された。

 広い目で見ると、デジタル的表現をもった物理的なプロジェクトや、物理環境や物体に影響を与えるデジタルプロジェクトは全て Phygital アプリケーションと呼ぶことができると考える。これは Web3 の大きなカテゴリーの一つであり、ブロックチェーンエンジニアが物理世界とデジタル世界を結びつける新たな方法である。

 2022 年、宝飾ブランドのティファニーが CryptoPunks のホルダーに対して“NFTiffs”をリリースし、さらに実物のダイヤモンドネックレスを贈った。250 の NFTiffs が発表後わずか 20 分で完売し、ティファニーには 1250 万元の利益が流れ込んだ。

こうした“Phygital”プロジェクトの創設は、高級ブランドの Web3 に対する革新的な試みである。

2021 年 12 月、NIKE はバーチャルファッションブランド RTFKT の買収を発表し、nike、ジョーダン、converse の他に新たに第4の独立ブランドを抱えることとなった。ナイキはすでに、NFT の領域においてブランド戦略の段階に入ったことがわかる。

RTFKT は実物のスポーツシューズを制作しており、これにはナイキのデジタル靴紐 Adapt 技術が採用されている。消費者はバーチャルシューズを購入後、相当する実際のシューズと交換することができる。

 NBA Top Shot は、NBA、NBPA、Dapper Labs が共同でリリースしたブロックチェーンのコレクションゲームである。その内容は、NBA スター選手のデジタルカードのトレーディングプラットフォームである。

これまでオフラインで紙のカードを交換しなければならなかったファンたちが、現在はオンラインでいつでも交換可能になったわけである。

 上記の FMCG や高級品に加えて、金融カテゴリーの物理的なカードビジネスも Web3 との接続を試みている。Visa と Mastercard は、異なる Web3 企業と手を組んで暗号通貨デビットカードを開発した。

例えば、Blockchain.com は Visa と提携し、顧客の暗号口座と連携するデビットカードを発売する。このデビットカードは取引の手数料が無料になり、ユーザーは 1%の暗号通貨キャッシュバックを受け取ることができるようになるという。

 物理的な世界とデジタルな世界を組み合わせることで、phygital drops はもはやディスプレイのためにモノを買うだけでなく、現実世界と仮想世界の一部を組み合わせて独自の体験を作り出し、それ以上の何かを生み出すのである。

 物理的な製品とバーチャルな製品の組み合わせは、Phygital の初期段階に過ぎない。しかし、バーチャル製品から得られるソーシャルシェアや DIY の容易さにより、Phygital と Web3 の組み合わせが生み出すパワーを垣間見ることができる。

現在、注目するべき Phygital 系のアプリケーションは以下の通りである。

 ➢ RTFKT Studios:(@RTFKT)最新のゲームエンジン、NFT、ブロックチェーン認証、拡張現実といった技術を、製造に関する専門知識と組み合わせて、世界にひとつだけのスニーカーやデジタルアーティファクトを制作。

 ➢ Dapper Labs :(@dapperlabs)CryptoKitties、NBA Top Shot、NFL All Day、UFC Strike、Flow ブロックチェーンのバックにある企業。ブロックチェーン技術を利用して、 NFT と新しい形のデジタルエンゲージメントを世界中のファンに提供し、ゲームとエ ンターテインメントのデジタルワールドから始まる、よりオープンで包括的な世界への道を切り開く。

4. Web3 グローススタックアプリケーション

自由度指数:☆☆☆
信頼度指数:☆☆☆☆
ビジネスモデル検証性:☆☆☆☆☆
Web3 ユニコーン成長指数:☆☆☆☆

 Web2 企業が Web3 を抱え込み、Web3 のブレークスルーを進めるなら、巨大なユーザーの増加をもたらすことになる。あるデータでは、世界の 100 のブランドの中で、スターバックスなど 43 のブランドがすでに Web3 や NFT のユースケース開発に乗り出している。

Major Brand Flagship NFT Collection Launches
出典:Messari

 Multicoin Capital の Shayon Sengupta は初めて、“Web3 Growth Stack”という概念を打ち出した。これは、プロダクトマネージャーやマーケティング担当者が、顧客を獲得し、魅了し、維持するためのツールとして Web3 テクノロジーを使うことである。

Web3 Growth Stack の大きな利点は、アプリケーション内のイベントとブロックチェーン上の決済を緊密に連携させることができる点だ。Web2 プロダクトはリアルタイムにユーザーに価値を送ることはできない。

しかし、Web3 プロダクトではそれが可能であり、ツールのデザインや広告モデルの可能性を根本から拡張する可能性すらある。

 スターバックスは先頃、Starbucks Odyssey という NFT メンバーシップを発足させた。消費者はジャーニーと呼ばれるイベントや旅行に参加し、ジャーニーを終えればデジタルコレクタブルスタンプ(NFT)を獲得できるというものである。

 デジタルコレクタブルスタンプは NFT として取引が可能で、participate-to-earn を collect to-earn へと昇華させ、ユーザーの粘着性を高め、リピートを促す狙いがある。また、スタ ーバックス会員が NFT を持つということは、そのデータがブロックチェーン上に記録されるということであり、他のブランド(提携ブランドや競合ブランド)もこれらの会員に対してさまざまなエアドロップを行うことができるようになり、airdrop-to-earn の様相を呈する。

会員がアクティブになり、保有する NFT が増えれば、獲得できるエアドロップも多くなり、ユーザーの粘着性とリピート購入も自然と増えていくというわけだ。

 スターバックスのメンバーシップの背後にある本質は、今一度ユーザー中心に立ち返ろうとするところである。ユーザーは自分のデータの所有権を取り戻し、本来自分にあるはずの価値を獲得できるのである。

 現在、多くのブランドがスターバックスの今後の動向に注目している。もしこの試みが成功すれば、多くのブランドがこぞって NFT インセンティブモデルに情熱を注ぐ姿を目の当たりにすることができるだろう

 スターバックスには 2740 万人の会員がおり、ナイキには3億人の会員、ピザハットには 8000 万人の会員がいる。これらのブランドが“Web3 Growth Stack”を利用して Web3 への転換を図れば、これが 10 億クラスのユーザーを抱える Web3 アプリケーションの誕生への一本道になるかもしれない。

 注目に値する Web3 Growth Stack アプリケーションは以下の通りである。

 ➢ Blackbird:(@blackbird_xyz)旅行、宿泊、飲食業界向けの Web3 プラットフォーム。

 ロイヤリティと会員制サービスを通じて、レストランとゲストを直接結びつけることに特化している。食事頻度や支出、その他様々な行動に対して報酬を提供し、会員のロイヤリティを決定する。

 ➢ Layer Infinity:(@RensOriginal)E コマースブランドが立ち上げた Web3 プラットフォーム。メタバースに対応した NFT を発行することで、従来のコンシューマーブランドが Web3 へ容易に移行できるよう支援するもので、物理的な商品と紐付けられる。

各 NFT は、商品の真贋追跡や現物との交換に加え、様々なユーティリティ NFT と連携することが可能。

5. Web3 ソーシャルメディア

自由度指数:☆☆☆
信頼度指数:☆☆☆☆
ビジネスモデル検証性:☆☆☆☆☆
Web3 ユニコーン成長指数:☆☆☆☆

 ソーシャルメディアプラットフォームは大量のユーザートラフィック、画像、行動データを抱えており、大きなビジネス価値を秘めている。Facebook、Twitter、TikTok などの評価額が物語るように、Web2 世界で最も価値があると見られてきた業態もこのソーシャルメディアだった。

 メトカーフの法則(Metcalfe’s law)によると、ネットワーク通信の価値は、接続されているシステムのユーザ数の二乗に比例するという。ユーザーが多いほど、ソーシャルメディアプラットフォームの価値も大きくなり、ユーザーの増加曲線はある時点で爆発的に上昇する。

メトカーフの法則(Metcalfe’s law)の図示
出典:『MicroFinTech: Expanding Financial Inclusion with Cost-Cutting Innovation』

 したがって、ソーシャルメディアプロジェクトにとっての難点は、“守るは易く、攻めるは難し”という点だろう。一旦、あるモデルによってユーザーネットワークが確率されてしまえば、後進はその後ろ姿をただ眺めることしかできないのである。

 Web3 時代のソーシャルメデイアは、ブロックチェーンを中心とした分散化技術によって、ユーザーの創作コンテンツや社交データ、ID、名声などは全て分散化され、コンポーサビリティを持つようになる。ユーザーは自身の社交データを自身の手で掌握できるようになるのであり、よりユーザー中心の全く新しいソーシャルネットワークが実現するのである。

 しかし、現在 Web3 ソーシャルメディアアプリケーションの発展はまだ初期の段階にあり、Facebook や WeChat のように毎日 10 億クラスのアクティブユーザーを受け入れられるようなレベルには達していない。Web3 製品は初心者にとって敷居が高く、しかもユーザー体験は Web2 製品に遠く及ばない。

 このほか、これまでの Web3 ソーシャルメディアが満足させてきたのは、クリプトネイティブユーザーのブロックチェーン上における純粋な社交ニーズと金融ニーズである。ソーシャルメディアが単なるオンラインデータのやりとりではなく、エンターテイメントや ゲーム、音楽、運動など生活のあらゆる方面と密接に関わるものである限り、ブロックチェーン世界と現実世界を同時に反映し、かつ金融ニーズを満たすソーシャルメディアプラットフォームが頭角を表してくるだろう。

 次世代の Web3 ソーシャルメディアアプリケーションを展望すると、その成功の鍵となるのは次のようなものであると CGV Research は考える。すなわち①ユーザーが受け入れ 可能な使用コスト②Web2 製品に近いか、それを超えるユーザー体験と敷居の低さ③ユーザーデータの同期が全面的かつリアルタイムで行える(オンチェーン、オフチェーンと問わない)④Token や NFT を活用した持続可能なインセンティブ設計⑤アクティブ度や粘着性が高い成熟したコミュニティ等である。

 全体的に見れば、ソーシャルメディアアプリケーションは Web3 アプリケーションにとって、最も有望でありながら攻略しにくい戦場である。いかにインフラを整え、持続可能な経済モデルを構築するかが当面の重要課題となるだろう。

Web3 のソーシャルメディアアプリケーションについては、あるいは長期的な視点で見ることが必要になるかもしれない。

 現在、注目に値するプロジェクトは以下の通りである。

 ➢ Lens Protocol:(@LensProtocol)オープンでコンポーザブルな Web3 ソーシャルメディアプロトコル。誰にもホストされていないソーシャルメディアプロフィールを作成し、新しいソーシャルメディアアプリケーションを構築することができる。

ユーザーは、適切な NFT を保有することで、作成したコンテンツを自由に開発し、所有することができる。

 ➢ Mask Network:(@realMaskNetwork)プライバシーソーシャル、ボーダレス決済ネットワーク、分散型ファイル保存・共有、分散型金融、ガバナンス(DAO)を組み合わせた、Web2.0 から Web3.0 への移行支援ポータルサイト。Twitter や Facebook のソーシャルメディアプラットフォーム上でユーザーがメッセージを暗号化することを可能にし、暗号通貨による投げ銭、ITO、分散型ファイルのアップロードと保存などの機能を備えている。

 ➢ Galxe:(@Galxe)人々のブロックチェーン上の行動に基づいてユーザープロファイルを作成するように設計された、コラボレーション型のクレデンシャルインフラストラクチャ。ブランドやプロジェクトは、これらの Web3 デジタルクレデンシャルを利用して、例えば、ロイヤリティシステムのゲーム化、マーケティングキャンペーンの実施、ユーザー獲得など、より良いプロモーションを行うことができる。

6. クリエイター経済アプリケーション

自由度指数:☆☆☆☆☆
信頼度指数:☆☆☆☆☆
ビジネスモデル検証性:☆☆☆☆
Web3 ユニコーン成長指数:☆☆☆☆

多くの人にとってクリエイター経済といっても大きすぎる概念である。その内容は、文字、 画像、音楽、動画と多岐に渡り、それぞれの成長ロジックも異なる。

 総合的に見れば、クリエイター経済とは独立したコンテンツクリエイター(ブログ、KOL、 カメラマン等)がプラットフォームやコミュニティを通じて、文字、動画、音楽などのコンテンツを発信し、収益を得る経済方式のことであると我々は定義する。

 クリエイター経済には二つの特質がある。第一に、クリエイターは独自のコンテンツをファンやフォロワーに変え、そのトラフィックをマネタイズするということである。

そして第二には、ツールやインフラによってコンテンツの制作・管理を行うことである。

 Influencer Marketing Hub が報告したデータによると、現在、全世界では 5000 万人がこクリエイター経済に参加している。2022 年末までに、世界のクリエイター経済市場の規模は 1042 億ドルに達するという。

 しかし、これまでのクリエイター経済システムには、深刻な問題が存在していた。それは収入の不均衡である。

つまり、クリエイターの収益のかなり多くの部分がサービス費として第三者に支払われてしまうということである。Spotify における一つの楽曲を課金アカウントが一回再生する際の著作権収益は 0.004 ドルである。

Youtuber のみで生計を立てられるのは全体の 0.33%である。Amazon のランキング上位1%のクリエイターが 1ヶ月に稼ぐ金額は 1000 ドルである。

この他、現在のクリエイター経済には、コンテンツの管理権限の消失、過当競争などの問題が広い範囲にわたって存在している。

 Web3 はブロックチェーンインフラをベースにした新時代のインターネットである。これは、消費や創作といった意味合い以外にも、ユーザー自身に自分の創ったデータの所有権があるという点で、これまでのクリエイター経済と一線を画している。

世界のクリエイター経済系ベンチャー一覧
出典:Speedinvest

 この考え方のもと、Web3 はクリエイター経済に対して三つのパラダイムシフトをもたらすと考える。①トークン化やスマートコントラクトなどのメカニズムによって、プラットフォームの価値や権利がクリエイターの手中に再分配される②これから創作活動を始めたい人にコンポーザブルで信頼がおける新たな視座を提供する③ユーザーは初めて、報酬を得るとともにインターネット価値の一部分を所有する機会を獲得する。

 Web3 のクリエイター経済系プロジェクトのアプリケーションシナリオは、コンテンツの制作、NFT の発行・取引、コミュニティ構築、ファンによるインセンティブ、資産管理などを含み、クリエイターがコンテンツや NFT、トークンを利用して、ファンと密接につながるための完全なバリューチェーンを形成している。

 当然、Web3 クリエイター経済の起点はトラフィックの奪い合いではなく、むしろユーザーの気を引くための競争を放棄するところにあることを提起しなければならない。生産力を切り口にして、よりよいコンテンツを制作することが、より高い収益の獲得につながる。

 注目するべき Web3 クリエイター経済系プロジェクトは以下の通りである。

 ➢ Mirror:(@viamirror)コンテンツパブリッシングと web3 技術を組み合わせ、コンテンツをArweaveに保存し、ウォレットを接続することでファンに公開する。また、Mirror のすべてのスレッドは鋳造可能で、ファンをコレクターにすることが可能。

 ➢ Rally:(@rally_io)Web3 の YouTube 的存在。クリエイターとそのコミュニティが、独自の独立したデジタル経済を構築するためのプラットフォーム。

クリエイターを優先し、トークンを使ってコミュニティとのエンゲージメントを促進させることができる。

 ビル・ゲイツはかつて

「私たちはいつも、1 年や 2 年でできることを過大評価し、5 年や 10 年でできることを過小評価している」

と述べた。

 今から見れば、10 億クラスのユーザーを擁する Web3 市場は遥か彼方の夢のように感じるかもしれない。しかし、nothing is impossible、早いか遅いかだけの問題である。

 Web3 業界の従事者として我々が唯一できることは、絶えず building し、Web3 のよりよいサービスを世界の隅々により早く届け、生活の各方面に浸透させることである。

(注意:本稿は CGV の研究報告であり、いかなる投資の勧誘を促すものではありません)

Cryptogram Venture (CGV)について:
Cryptogram Venture (CGV)は日本に拠点を置く、クリプトおよび Web3 業界に特化したリサーチ・投資会社です。CGV は「リサーチドリブンの投資」をモットーに、これまで FTX、Republic、 CasperLabs、AlchemyPay、The Graph、Bitkeep、Pocket および Powerpool などのプロジェクト のアーリーステージに投資。

これと同時に、CGV FoF は Huobi venture、Rocktree capital、Kirin fund などのファンドの LP であり、現在、シンガポール、カナダ、中国などの地域に支社があります。

参考資料:
https://a16z.com/2020/12/07/social-strikes-back-fastest-growing-apps/
https://multicoin.capital/2023/01/11/the-web3-growthstack/
https://www.robinsloan.com/lab/notes-on-web3/
https://future.com/power-of-social-community/
https://medium.com/ixfi/socialfi-what-is-it-and-how-does-it-affect-social-media-as-we-know-it-8c28c023a00d
https://twitter.com/jolestar/status/1589830650659753986
https://coinyuppie.com/SocialFi-the-key-technology-changing-the-globalization-of-the-blockchain industry/
https://medium.com/coinmonks/what-exactly-is-socialfi-is-this-a-new-cryptocurrency-trend-1d2bf209dd99
https://blockcast.cc/news/an-overview-of-the-SocialFi-ecosystem-social-dao-and-governance tools/