ライトコインの半減期がマイニング業者に与える影響を考えてみた

はじめまして。Fintertechストラテジーグループの服部です。

服部 将人 Fintertech株式会社ストラテジーグループ

大阪大学卒業後、大和証券に入社。

米国バージニア大学ダーデンビジネススクールにてMBAを取得。帰国後は経営企画部にて主にFinTech関連の業務に従事し、Fintertechの設立にも係わる。設立後は初期メンバーとして同社へ出向し、FinTechの新ビジネス創出に努める。

ライトコインマイナーにとって超重要なイベントである次回半減期が2019年8月初旬にやってくる!

「Litecoin Block Reward Halving Countdown」のサイトによると、8月5日にいよいよライトコインの第2回目の半減期がやってきます。この第2回半減期はマイナーにとって初回半減期(2015年8月26日(協定世界時))とは比べ物にならないほど超重要なイベントです。

ライトコインの創設者であるリー氏もこんな発言をしていますね。

ライトコイン創始者チャーリー・リー氏、半減期を控えマイナーや投資家へ注意喚起
ライトコイン創始者チャーリー・リー氏は、豪ブロックチェーン・仮想通貨メディアMickyでのインタビューにて、2019年8月に迫るライトコインの半減期について、一部マイナーに大きな影響を及ぼす可能性があると注意を促した。

この第2回目の半減期がなぜそんなに重要かというと、現在のマイニング業界は世界中の強豪プレーヤーが参加し熾烈な争いをしている関係で第1回目半減期当時よりマイニング利益率が非常に低いからです。

第1回半減期前と現在とでネットワーク全体の収益性をものすごくざっくり比較してみると(年換算で比較)、下のような感じになります。

1ハッシュあたりの年間マイニング報酬が現在は劇的に低いです。この状態でのブロックあたり報酬の半減がマイナー収支に与える影響は甚大なものがあります。4年前よりもハッシュレートあたりコストの低下していてもそれだけではカバーしきれないレベルだと思います。

本記事ではマイナーにとって大注目のライトコイン半減期後の総ハッシュレート動向について考えてみます!

ライトコインのデータ

ライトコインについて簡単に関連データを振り返ってみますと、

  • 最大総発行数:8400万
  • ブロック生成時間:約2.5分
  • ブロックあたりライトコイン数:25

となっていまして、最大総発行数はビットコインの4倍ですが、ブロック生成はビットコインの4分の1になっています。

また、本投稿を書いている時点では、

  • ライトコイン価格:90ドル
  • 総ハッシュレート:500 テラハッシュ(TH/s)

となっています。

半減期後の総ハッシュレート水準を計算してみる

まず足元のマイニング収支状況をざっくり見てみます。

総ハッシュレートはCoinWarzから、ライトコイン価格はCoinDeskからざっくり採用し、これらを1年間固定としてネットワーク全体のマイニング収支計算をしてみました(チップ効率はAntminer L3+の水準。電気代は感覚です、すいません)。

機器代金や固定費があると考えると電気代控除後利益率11%はやや低い気もしますが、まあこんなものでしょうか。

8月の半減期後は、ブロックあたりライトコイン数が12.5になり、1日あたり採掘数は7,200、年間採掘数は2,628,000になります。 半減期前後で上の収支表で何が変わり得る変数かリストアップするとこの2つだけしかありません。

①ライトコイン価格

②総ハッシュレート

①の価格について、大きく変化する可能性は高くないと仮定します。短期筋の仕掛けにおいては多少の上下は予想されますが、半減期による需給要因はかなり前に織り込まれてますのでこれでまた大きく価格が振れる可能性は高くないと考えたためです。

※そもそも新採掘ライトコインが実質的需給に与える影響は実はそんなに大きくない可能性があります

※この辺は書き始めると長くなりますので、また機会があれば別の記事で書こうと思います

そうすると②総ハッシュレートが大きく変わってくることになります。どの程度変動するんでしょうか。

ここで先程の収支表に戻ります。

昨今マイニング競争はギリギリまで熾烈になってますので、マイナーの要求収益率は価格は総ハッシュレートがどうあれそれほど変わらないと仮定すると、電気代控除後粗利率の11%はそれほど変動はないと考えることができます。

この11%を使ってゴールシークで総ハッシュレートを出してみたのが以下になります。

報酬と電気代の両方が総ハッシュレートを変数にしていますので、ブロックあたりLTC数が半分になれば総ハッシュレートも半分になります。

ゲーム理論的観点

上記のように単純化して計算すると半減期後に総ハッシュレートは半分に急落することになるんですが、実際はなかなかそうはならない可能性が結構高いと思っています。

ここで簡単のために、マイナーがA君, B君, C君, D君, E君のみしか存在せず下表のように全て同じ規模・効率でマイニングを行っていると仮定します。

で、そこへいきなり半減期が起こったとすると、下のような収支状況になります。

全員が大赤字ですね。 2019年8月5日の半減期後はマイナー数や規模が変わらなければこのように皆が皆赤字になる状況になり得ます。

例に戻ると、大赤字なので前の収益率を維持するために、皆ハッシュを下げないといけません。それぞれが半分にするとこうなります。

ただしこんなことはなかなか起こりません。A君からE君の皆がいっせーのでハッシュパワーを同時に半分にすることはまずないと思います。誰かが脱落すればハッシュを下げなくても大きく利益を得られる可能性が誰にでも十分にあるからです。

例えば、C君、D君、E君が半減期後すぐにこれはたまらんと脱落したとすると収支状況はこうなります。

脱落しなかったA君、B君は半減期前よりも高い報酬・粗利を得ることができています。

このケースのA君、B君に誰もがなりたいわけなので、半減期で赤字になってもみんな粘れるだけ粘ってきます。赤字になるなのにみんなその行動を取ることになります。まさに囚人のジレンマです。

しかし赤字は誰だって嫌なものです。しかもどのくらい待てば他の人が脱落してくれるかわかりません。また、自分が他の人よりも長く粘れる保証はどこにもありません。

そう考えるとどのような行動が最適反応でしょうか。

それは赤字をゼロにすること、つまり半減期後にすぐマイニングをストップさせてしまうことです。

そうなると半減期後に何が起こるでしょうか?みんなが機器を止めるわけなので、総ハッシュレートが半減期前の半分の水準よりさらに大幅に下がってくることになります。

でもちょっと待って下さい。半減期後にみんなが機械を止めると言えるのなら、自分だけそのまま続けていれば大きく儲けられるじゃあないですか。

それならばそのままマイニングを継続することが最適反応となります。

うーん、これでは何が最適反応かはっきり言えませんね。。。

結局半減期後の総ハッシュレートはどうなるのか

半減期後に取り得る選択肢としては、

①そのままマイニングを継続し様子見する

②マイニングを一旦ストップし様子見する

の2択になりますが、損失回避を優先する行動経済学的観点からみると②が優勢かなと思っています。ですので、以下のような動きになっていくのではないかと考えました。

※前述のように価格が変わらないことを前提としています

  • 赤字回避行動により総ハッシュレートは瞬間的でも半減期直前の半分以下に急落
  • 1度下がったあとはストップさせたマイニング機器の稼働再開競争になり、総ハッシュレートは全員が赤字になる水準まで急上昇
  • 赤字回避で急低下
  • 利益を狙い再度急上昇
  • その後急低下と急上昇を繰り返し半減期前の半分程度に落ち着いていく

と、このように予測してみましたが、現実世界においてはチップ効率や電気代水準、固定費水準はプレーヤーによって様々ですし、許容できる赤字水準も異なります。また、プレーヤーの数も5人なんて言うこともなく、総ハッシュレートの下落率や最終的に落ち着く水準の厳密な予測は中々難しい部分があります。

8月5日の半減期がいよいよ迫ってきましたが、半減期後の総ハッシュレートの動向については引き続き注目していきたいと思います!

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※本記事は仮想通貨取引の勧誘を目的とするものではございません。また、本記事やコメントにおける情報についてその正確性を保証するものではありません。

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