歴史的なイーサリアム・マージ成功も大幅下落、ハードフォークで誕生した新通貨の行方は
マクロ経済と金融市場
15日の米NY株式市場では、ダウ平均株価は前日比173ドル(0.6%)安と反落した。
これまで多数のアナリスト間では、22年末の予想政策金利は4.50%が見込まれ、その後次第に落ち着くという予想が通説にあったが、米大手ヘッジファンドマネージャーのレイ・ダリオ氏は、「FEDの政策金利は、今後最高6.0%に達する可能性がある」と指摘した。
CPI(米消費者物価指数)の高止まりやジャクソンホール会議でのパウエル議長講演を通じて、情勢が緊迫化。翌年以降も金融引き締めが長期化する可能性を示唆している。
21日に予定される米連邦公開市場委員会(FOMC)では、これまで見られなかった1.00%利上げ予想が急速に台頭するなど、市場が身構えている様子も伺える。
仮想通貨市況
暗号資産(仮想通貨)市場では、ビットコインは前日比1.7%安の19,736ドルと下落。
イーサリアム(ETH)の大型アップグレードであるThe Merge(ザ・マージ)は、日本時間15日16時頃に無事完了した。
仮想通貨史上最も重要なマイルストーンの1つであり、大きな一歩と言える。
Crypto Carbon Ratings Instituteのレポートによれば、イーサリアム・ネットワークのコンセンサス(合意形成)アルゴリズムが、PoW(プルーフ・オブ・ワーク)からPoS(プルーフ・オブ・ステーク)へと移行したことで、ネットワークはエネルギー使用量と二酸化炭素排出量をそれぞれ約99.99%削減の成功を実現した。
マージ前に年間推定2,300万メガワットだった総電力使用量は、マージ後には年間2,600メガワットまで減少する見込み。ConsenSysのプレスリリースでは、マージについて、「テクノロジー史上最大の脱炭素化」と表現した。
ETH価格
一方、金融マーケット全体がリスク回避姿勢を強める中、地合い悪化の影響もあり価格面では奮わず。前日比9.3%安の1,465ドルと大幅下落した。
ETH価格は一時1,650ドルまで上昇するも反応は限定的。その後、ハードフォークした新通貨ETHPoW(ETHW)のプレミアム分が剥離して急落した。「Buy the rumor, Sell the fact(噂で買って事実で売る)」の格言が引き合いに出される中、16日9時頃には1,450ドルを下回った。
BTCに対する大幅なアンダーパフォームの背景には、投資家の利益確定の動きのほか、先物市場では過去24時間で1億5000万ドルを超えるイーサリアム(ETH)がロスカット(強制清算)され、雪崩式に下げ足を強めたものと見られる。
Forexのグローバルマーケットリサーチ責任者であるMatt Weller氏は、「マージは成功したが、過去最悪級のマクロ環境の状況を相殺するまでには至らない。デフレ資産的な需給変化が効果を発揮するのは長期視点の展望であり、短期的な利益を期待する投機筋は早々に手を引いた」との見方を示した。
イーサリアム(ETH)がPoSに切り替わったタイミングで、米SEC(証券取引委員会)のゲーリー・ゲンスラー委員長が、暗号資産(仮想通貨)の規制方針について言及したことも相場の重石となったと見る向きもある。
「特定の仮想通貨について言及しているわけでない」と前置きしつつ、規制当局が金融資産の証券性判断に用いる”Howeyテスト”に言及したほか、「ステーキングサービスを提供する取引所は、レンディング(融資サービス)と酷似している」との見解を示した。
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ゲンスラー委員長はかねてより、「暗号資産(トークン)の大半は有価証券である可能性が高く、証券法の対象となる」との認識を示してきた。
SECは20年12月、XRPを開発するRipple社に対し、「有価証券登録を行っていないXRPを販売し、1300億円を超える資金を調達した」として証券法違反で提訴。現在も裁判が続くなど、係争は長期化している。
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マイナー動向
イーサリアムのマージを経て、マイナーの多くは稼働を停止するか、ETHと同じGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)で採掘可能な代替チェーンに移行するかの選択を迫られている。
カナダのマイニング企業「Hive Blockchain Technologies」のFrank Holmes会長は、GPUマイニングの操業を停止せず、イーサリアム クラシック(ETC)のマイニングに切り替えたことを明かした。Ravencoin(RVN)など代替通貨の可能性についても評価している。
一方、Bitfarmsの採掘責任者によれば、ハッシュレート(採掘速度)の急増、及びブロック難易度の上昇により、GPUマイニングの移籍先は早くも苦境に立たされている。
新通貨の行方は
マージ後には、チェーン分岐を伴うハードフォーク「イーサリアムPoW(ETHW)」のローンチが行われ、FTX、Bybit、Gate.io、MEXC Global、OKXなど一部取引所でエアドロップされた。
関連:イーサリアムPoWフォーク(ETHW)が誕生 FTXやOKXで現物取引開始
ETHWはマージ直後に約50ドルを付けるも、エアドロ後に売り圧力が強まり10ドル以下まで急落した。
仮想通貨取引所Poloniexでは、「ETHW」のIOU(借用証書)取引市場が8月8日から稼働している。上場初日に170ドル(約24,000円)で取引されたが、その後はほぼ一本調子で断続的な下落が続いていた。
背景には、イーサリアムPoWについては、ETH基盤最大手NFTマーケットプレイスのOpenSeaをはじめ、分散型オラクルネットワークであるChainlinkプロトコルやLedgerなどのハードウェアウォレット、ステーブルコインの発行元であるテザー(USDT)、USD Coin(USDC)らが、PoWフォークに対する不支持を続々と表明したことがある。
イーサリアム関係者やコミュニティからも、エコシステムのサステナビリティ(持続可能性)や拝金主義的な目的を疑う声が強まっていた。
なお、マージを経てTronのJustin Sun率いる老舗取引所Poloniexが、ティッカーシンボルで支持表明を示唆するPoWチェーンの新通貨「ETF(Ethereum Fair)」も誕生している。ETHW、ETFのいずれも中国系マイナー主導のチェーンであり、今後の動向が注目される。
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