ブロックチェーン技術分野における日本初のイノベーション
株式会社TRIPLE-1(本社:東京都中央区、代表取締役 CEO:山口 拓也)が、4月11日に世界初の 7nm プロセス技術を使ったビットコイン用仮想通貨マイニング ASIC チップ『KAMIKAZE』のテープアウトに成功したことを発表。
テープアウトとは、チップ製造工程におけるチップ設計が完了し、正式に製造が始まることを指します。
『KAMIKAZE』の特徴は、現在マイニング業界で猛威を振るう 16nm チップと比較し、50% 以上の省電力化を実現すると同時に、処理速度 4倍という、環境負担を大きく低減した上での高性能化を実現しました。
チップ製造は、世界最大手のチップ受託製造企業である台湾の TSMC社が担当しています。
大きく遅れをとる日本のマイニング技術
注目を浴びるブロックチェーン技術の中核であるマイニングでは、コンピューターの高い計算処理能力が求められます。
ビットコイン取引が世界的に拡大するにつれて、コンピューターの計算処理は高速化し、マイニング専用 ASIC チップを搭載するハードウェアも増加。
その結果として、仮想通貨のマイニング採掘速度(1秒間にどれだけ計算が行われているか)を表すハッシュレートは増加の一途を辿っています。また、マイニングに参入する大手企業やベンチャー企業が相次ぐ中で、世界のマイニング技術開発は大きく進んでおり、競争が激化しています。
特に「特定の演算」に特化した集積回路である ASIC チップは、その特定通貨をマイニングする際、異常な程に効率性が長けている反面、ASIC チップやそのマシンの開発は中国企業の独占状態であることが指摘されています。
仮想通貨の取引量では世界第 1位となった日本ですが、技術立国であるはずにもかかわらず、開発面では大きく遅れを取っています。
株式会社TRIPLE-1 が開発した『KAMIKAZE』は、世界に誇る日本のもの作りの高い品質と、現状問題視されているマイニングの環境にも配慮をした、新たな ASIC チップとして、2018年8月にサンプルチップ、同10月に量産チップの売り出しを予定し、日本の技術が世界のマイニング市場に進出する大きな一歩となるでしょう。
なぜIntelやサムスンなど大手がマイニング参入に乗り遅れたのか?
今回、同社 CTO 尾崎 憲一氏が、CoinPost の取材にご協力いただきました。
同氏は、日本国内初の個人向けインターネットプロバイダ「ベッコアメ・インターネット」を設立し、当時の業界の先駆けとなり、その後、様々な事業の立ち上げなどを行い、2016年末に株式会社TRIPLE-1の取締役CTOに就任されました。
日本を含む大手半導体企業が、マイニングチップの開発が困難な理由として、同氏は、それら大手企業の品質基準がかなり高いということにある、と語りました。
マイニングは、いかにして大幅にコストを抑えた高性能チップをたくさん並べられるかが重要です。つまり、安く・早く・多くのハッシュを出すことが収益性を左右します。
マイニング機器販売最大手の中国企業 BITMAIN社は上記の目的設定をして、ASIC チップを開発しています。例として、S9 の ASIC チップは14 Th/s や 13 Th/s などハッシュに性能差が出ていることがわかります。
CPU のように様々な機能が集約されていないため、マイニングをするには ASIC チップの 80% 程度が稼働できれば、問題なくマイニングする事が可能だと言われています。
このような品質基準で大手半導体企業が ASIC チップを作ることは考えられません。
尾崎氏曰く、あえてチップの性能を下げるということも難しいことだそうです。
このような点が、マイニング専用チップの開発において、ベンチャー企業の方が適していると尾崎氏は語ります。
また、ASIC チップの開発には多くの期間とコストが要求されます。
大手企業が二の足を踏んでいるのはそれが理由かもしれません。
驚異のマイニング専用チップ『KAMIKAZE』とは
仮想通貨のマイニングにかかる電力消費量が世界で大きな問題となりつつあり、2018年1月モルガン・スタンレーのアナリストチームは、ビットコインなど仮想通貨マイニングに必要な電力は本年度中に最大 140 テラワット時に達する公算があり、これは、世界の総消費電力の 0.6 %に相当すると発表しています。
『KAMIKAZE』は、この問題視されている消費電力を抑えることに着目し、電力効率は 0.05 W/GH以下に従来のチップより 50% 以上の低減を実現することにより、マイニングのための電力を大幅に削減します。
仮想通貨マイニングの収益面で重要視されるのも電力消費量であり、結果としてコスト面の大半が電気代で占めることから、電気代の安い中国などが大きな注目を集めています。
KAMIKAZEによって電力消費量を50%抑えるマイニングへの移行は、電気代が高い日本国内でより多くのマイニング事業発足の可能性がより現実味を帯びる形となるでしょう。
仮想通貨マイニングの収益面でも電力消費量が重要視されるものであり、コスト面の大半が電気代で占めることから、現在は電気代の安い中国などが大きな注目を集めています。
『KAMIKAZE』によって電力消費量を 50% 抑えるマイニング機器への移行は、電気代が高い日本国内でより多くのマイニング事業発足の可能性が現実味を帯びる形となるでしょう。
チップ性能
「KAMIKAZE」は従来のチップと同サイズでありながら、7 nmプロセスの使用により回路の密度は5.2倍の超高密度となります。
この 7nm という数値は、インフルエンザのウイルスが 0.1 ミクロ(100nm)であることを考えると、いかに小さいかが見て取れます。
尾崎氏は、この回路密度の開発に関する今後の展望について以下の様に語っています。
『今後は 5nm = 物質の分子に近づいていくと思いますが、作る過程や起動の過程でスパークが起る可能性もあり、この開発は物理現象の限界になってきているでしょう。 』
具体的なマイニングチップ性能の比較は以下の通りです。
従来のチップ | KAMIKAZE | ||
---|---|---|---|
プロセス | 16nm | 7nm | 5.2倍以上(回路密度) |
マイニング性能 | 約70GH/s | 300GH/s以上 | 4倍以上(オーバークロック時) |
電力効率 | 約0.1W/GH | 0.05W/GH以下 | 1/2以下 |
まとめ
この記事を読んでいる方で、ASICという単語を知っている人は多いでしょうが、その製造過程や業界についてはあまり知らない人も多いのではないでしょうか?特に、16nm や 12nm など言葉だけを知っている方も多いと思います。
今後、CoinPostでは、尾崎氏から伺う『KAMIKAZE』の開発に関わる苦労話と共に、仮想通貨を支える ASIC チップの正体についてユーザーの皆様にわかりやすく情報をお届けする予定です。
また、『KAMIKAZE』に対する想いや展望の他にも、「ベッコアメ・インターネット」を始めとした著名な起業家である 尾崎 憲一氏の視点から見た仮想通貨業界の今後についてなど、様々なお話を伺うことができました。
インタビュー連載として、掲載予定です!ご期待ください。