DeFiからNFT、そしてDAOへ
現在、169のDAO(参考:DeepDAO)が存在していると言われていますが、これらは新たなステージに差しかかっている仮想通貨分野で誕生しているモノの、わずか一部を切り取っているに過ぎません。
DAOは、革新的なガバナンスモデルの先例を作り出しており、あらゆる形態の企業や政府、組織などに取って代わる可能性を秘めています。
DAOとは?
DAOとは、「自律分散型組織(Decentralized Autonomous Organization)」の略であり、共通の目的を持って結成された、仮想通貨に関わる人々の集団を指しています。この共通の目的とは、多くの場合、特定の目標や義務に従い投資用の資本を共同出資することですが、必ずしもそうだとは限りません。
DAOのユースケースは多岐にわたり、現在もさらなる進化を続けています。例えば、特定のトークン保有者のみアクセス可能なDiscordのサーバー(例:先日a16zが投資したFriends With Benefits)などのソーシャル・プラットフォームから、MetaCartelのような投資目的のプラットフォームに至るまで、様々なDAOがあります。
さらに、文化的に重要なデジタルアートを時間をかけて獲得することを目的としたPleasrDAOのように、SNSおよびアート収集を組み合わせた興味深い事例もあります。下の図は、2021年におけるDAO情勢を示した市場マップです。
DAOのガバナンスモデル解説
DAOという頭字語の説明から始めるのが、最も分かりやすいでしょう。まず初めに、DAOとは自律的な(Autonomous)、つまり、スマートコントラクトにより稼働している組織です。DAOのスマートコントラクトとは、DAOの初期開発者が合意し、ブロックチェーン上に保存した一連の自動実行型のコードです。スマートコントラクトのおかげで、DAOの雇用や報酬の分配、一般的な組織で見られる制度的または重要な問題は、自律可能となっています。
次に、DAOでは既存の組織とは異なり、意思決定はCEOや幹部によってではなく、集団的に共同で行われます。DAOによって異なってはいますが、一つまたは既定量のネイティブトークンを保有しているDAO参加者は、スマートコントラクト、戦略に関する提案、および投資アイデアなどを提出し、それらに投票することができます。
この仕組みのおかげで、DAOの進化および発展は可能になっています。また重要なことに、DAOへの参加方式、ならびに各参加者に授けられている経済的権利およびガバナンスの権利は、DAOにより様々です。
DAOのメンバーシップは、そのDAOから発行されているトークンの所有権の形で示されます。参加に必要なトークン量はDAOにより異なり、ローンチ日にトークンを購入することもできれば、ローンチ後にDAOへの貢献度に応じてトークンを得ることもできます。これもDAOによりけりです。
一般的にDAOは全ての人へ開放されていますが、大規模なプロトコルDAOと比較して、規模の小さいDAOへの参加はより限定的なこともあります。その場合、トークンを保有しているだけでは参加できず、申込書や他の参加者からの紹介などが必要です。
トークンを保有することへの対価
DAOのネイティブトークンを保有することにより、投票権からDAOで発生した利益を受け取る権利に至るまで、DAO参加後に様々な恩恵を受けることができます。一般的には、金融サービス・プラットフォーム(BitDAOのような複数のチェーンに跨がるプラットフォームやCompoundのような貸付プラットフォーム)を提供している大規模なDAOでは、ネイティブトークンを保有すると、手数料や報酬の分配に関する提案への投票権を得ることができます。さらにDAO参加者は、トークンが発行上限に達し需要が増加した結果、トークン自体の価値が上昇した際には、そこからも利益を享受することができます。また、AaveGotchiのネイティブトークン「GHST」のような、多くのガバナンス特権を付与する一方、本質的な金銭的価値を持たないガバナンストークンも存在しています。
一般的に小規模なDAO(500人以下)の場合、DAOに参加するには、そのDAOでの労働が必要です。DAO参加者は、DAOへ貢献した対価として、投票権に加え、トークン、トークンの形で受け取る利益、あらかじめ決定されている割合で配られるDAOからの分配金、およびEtherやDai、Cashなどの仮想通貨を受け取ることもできます。この傾向は、投資に特化したDAO(例:The LAO、MetaCartel)や、コレクション系のDAO(例:PleasrDAO)で、顕著に見られます。またMetaCartelのように、DAO内に残る条件として、投資に関する管理業務、デュー・デリジェンス、提案および投票への継続的な参加を課しているDAOもあります。
DAOに参加すると、投票権を得ることができますが、これもDAOにより大きく異なっています。投票するための必要最低条件は、そのDAOのネイティブトークンを1枚保有することかもしれませんし、所定量を保有することかもしれません。トークン総量のうち、一定の割合を保有していなければならないということもあるでしょう(Nouns DAOの場合、1%が必要)。作成および投票されている提案を承認するために必要な定足数も様々です。The LAOの場合、定足数は10%、20%および50%と、提案により異なっています。
DAOモデルが組織におけるパラダイムシフトとなり得る理由
DAOモデルは革新的であり、二つの面において、人間が造った組織でのパラダイムシフトとなるかもしれません。
まず第一に、歴史上初めて、インターネットユーザーが信頼できる環境の中で、共同で価値を創造および交換できるようになりました。この環境こそがブロックチェーンです。ブロックチェーン技術は、最初にDeFi(分散型金融)を、次に非代替性トークン(NFT)を実現しました。
そして現在ブロックチェーンは、人々が共同的に働くことができる場所を作り出しています。全ての金融取引およびルールがブロックチェーンに記録されているため、第三者が取引に関与する必要がありません。ブロックチェーン自体が第三者として機能するため、DAOは、政府当局から独立した存在となっています。
次にDAOでは、その他の形態の組織よりも優れたインセンティブが与えられています。DAO参加者が受け取る手数料収入や報酬に影響を与えることができる投票権は、DAO参加を促すインセンティブとなっています。
それだけでなく、トークン保有、トークンの買い戻し、または仮想通貨などを通して、DAOで生じた利益を実際に受け取ることができるという点も、DAO参加のインセンティブとして機能しています。Web2プラットフォームが誕生して以降、ユーザーが創出した価値の大部分は、プラットフォーム、より具体的にはそのプラットフォームの創設者やCEOたちの手に渡ってきました。
DAOの新たなフレームワークでは、創設者やCEOでない参加者が、創出された価値の一部を受け取ることができます。これが実際にどのような方法で実行されているかは、各DAOの経済的仕組みや投票権により変わってきます。しかし概して、このように利害関係が一致していることにより、各参加者のDAOへの貢献が促され、それにより組織の生産性が高まると考えられています。
DAOモデルにおける潜在的限界
しかしながら、DAOを根本的に従来の組織よりも優れたものにしているこれらの特性は、同時にDAOの脆弱性の源ともなり得ます。DAOはブロックチェーン技術を基盤にしているため、トラストレスで透明性が高くなっています。しかしそれは、ハッカーも含む全ての人に、コードが公開されているということも同時に意味しています。ハッカーがコードにあったバグを悪用した2016年のDAOハッキングは、この好例でしょう。
同様に、ブロックチェーンを第三者として利用しているDAOは、いかなる機関や政府によっても閉鎖されることはないため、近いうちに規制機関に目をつけられるようになるかもしれません。
それに加え、構造が垂直的ではないため、意思決定に時間がかかってしまいます。とはいえ現在、委任投票を行っているDAOも増えてきており、これによりガバナンスがより効率的かつ効果的になる可能性もあります。概してDAOは、代表、サブチームおよび専門性の高い経営者などを有した、より多面的な構造になっていくでしょう。
実際のところ、DAOモデルには限界が内在しており、全ての組織タイプに適しているわけではありません。DAOがどの程度まで人間が造った組織を壊していくのかは分かりませんが、唯一確かなのは、我々はこれから、DAOが次々と誕生していくところを目撃するだろうということです。
DAOという革新的な波に乗るには
DAOの基本的な仕組みが理解できた今、この新しいトレンドに触れてみたいと既に思っている人もいることでしょう。しかし、DAOに参加するのはどうすれば良いのでしょうか?
手っ取り早いのは、ネイティブトークンを獲得することです。各DAOにより異なっていますが、トークンを獲得するにはローンチ日またはそれ以降に、一つ以上のトークンを購入する必要があります。貢献者にトークンをあげているDAOもあります。
しかし、うまくいくDAOもあれば、失敗するDAOもあります。そのため、DAOに参加する前に、そのプロジェクトおよびメンバーシップの質に対してデュー・デリジェンスを実施し、DAO内でどのように価値が生まれているのか、または生まれうるのかを分析することが重要になってきます。
この業界は比較的新しく、DAOを評価する際の指標が既に確立されているわけではありませんが、DAOにおいてメンバーシップの質を高め、価値を生み出す要因をいくつか以下にまとめました。
DAOで価値を生み出す要素
適切かつ効果的なインセンティブ・メカニズム
DAO参加者の貢献に対してどのような報酬が与えられているのかを理解することは、非常に重要です。一般的には、ガバナンスの権利、貢献への報酬または利益の分配が、DAOへ労働を提供し、ガバナンスへ貢献する際のインセンティブとして機能しています。これによりDAOは、より効率的に稼働できます。
またDAOが成功した際には、二次市場におけるトークンの価値を調べてみることにより、インセンティブをの効果を測定することもできます。DAOが成功を収めれば、そのDAOの成果や収益、資金にまつわる投票権などといった価値を手にしたいと思う市場観測筋からの注目が増し、その結果トークンの価値が上昇していきます。そうなるとDAO参加者に対して、さらに労働を提供するインセンティブが発生するため、DAOはさらなる成功を収め、トークンの価値がさらに上昇することになります。
このことから、貢献者とインセンティブが一致しているDAOは、そうでないDAOよりも、長い目で見て良い結果を残すことができると考えられます。DAO参加者の労働や貢献に対する報酬が増えれば増えるほど、より一層大きな価値が生み出されます。
高い投票率
各参加者が提供する労働だけでなく、ガバナンスへの積極的な参加からもDAOの価値は生み出されます。積極的なガバナンス参加が、DAOの継続的な変化および成長を可能にするからです。
DAO参加者は、投票権を有しているからといって必ずしも投票に参加しているわけではありません。これまで提出された提案への投票率を分析することにより、DAO参加者がどの程度意思決定に関与しているかを測ることができます。各DAOの投票率は、DeepDAOで確認できます。
規模が小さいDAOほど、投票率が重要になってきます。以下の図から読み取れるように、大規模なDAOの投票率は概して低くなっています。これは主に、大規模プルトコルのDAOにおいては、現在のところ、一部の議題に関してでしか集団的な意思決定が行われていないからです。
上記の内容は全体の投票率についてですが、一方で、特に多量のトークンをDAOから受け取っているアドレスを特定することにより、主要な貢献者に焦点を当てて考察することもできます。これにより、どの参加者が貢献に対して最も多く報酬を受け取っているかを見ることができます。
また、DAO界の著名人が参加しているかどうかを調べたいと思う人もいるでしょう。著名人の参加は、そのDAOが業界内の有識者から支持を得たということを示しています。以下はDAOに参加している著名人の一例です。
プロジェクトの着実な遂行
適切なインセンティブ・メカニズムが存在し、参加者が積極的に貢献しているのであれば、そのDAOのプロジェクトおよび取り組みは、着実に実行されているはずです。一般的に、DAOにおいて一貫してプロジェクトが推し進められているということは、共同的な参加が見られ、実行力があり、長期にわたる価値上昇の可能性があるということを示しています。
この好例がPleasrDAOです。21年3月にUniswap V3のNFTを購入して以降、PleasrDAOではドージコインのミームNFTを購入したのちに分割し、米著名ラッパーグループであるWu Tang Clanの未発表アルバムの権利を入手してきました。さらにはニューヨークでDAO参加者専用イベントも開催しています。
プロジェクトを着実に成功させることにより、そのDAOのトークンに価値が生まれ、DAO参加のインセンティブが増加し、その結果、さらなる関与が促され、次のプロジェクトが効果的に遂行されるという好循環が生まれます。
まとめ
最後に、DAOは仮想通貨の歴史に新たな1ページを刻んでいます。DAOがどの程度まで人間が造った組織を壊していくのかは分かりませんが、DAOのガバナンスモデルは、特に仮想通貨関連のコミュニティにおいて成功しています。
DAOは、インターネットユーザーが信頼できる環境の中で、共同で価値を創造および交換できるという点、そして彼らが創造する価値へ報酬が与えられているという点において、既存組織を超えていくはずです。DAOという新たなガバナンスモデルは、攻撃への脆弱性などいくつかの課題を内在しているとはいえ、今後も発展し続けるでしょう。
執筆時現在、169のDAOしか存在していません。しかし何万ものDAOが存在する日がやって来るでしょう。この革新的な波に乗り、DAOに参加するには今が絶好の機会です。現在のDAOは初期の実験段階にありますが、既に仮想通貨の歴史、ひいてはおそらく人類の歴史に残るであろうことを行っています。