企業の決算発表は株価の変動に大きな影響を与えます。決算発表の内容をもとに企業や市場を分析することで、企業の将来的な業績や収益性を予測し、よりよい投資判断ができるでしょう。
本記事では決算発表の概要やスケジュール、決算発表が株価に影響を与えるメカニズムなどを解説します。また後半部分では、決算発表を読み解くうえで欠かせない項目を詳しくまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
本記事を読めば、決算発表と株価の関係性を理解でき、株式投資で安定的に利益を出すためには欠かせない、より精度の高い投資判断が可能になるでしょう。
1. 株価にも影響する「決算発表」とは
決算発表とは、企業が定める決算期間中の財務状況を市場に公表することです。収益や利益、経費、事業の成長性、安全性、将来性の有無など、さまざまな情報を読み取れるため、企業の経営状況を評価するうえで大切な指標とされています。
そのため、決算発表の分析は株式投資家の情報収集において欠かせません。決算期間中に企業がどのような成績を収めたか、といった情報からは将来の成長性や収益性などを予測できるためです。
なお、決算の内容に関して経営者への質疑応答を行う「決算説明会」は、一般的に決算発表と同時に開催されます。特に本決算後と中間決算後に行われることが多く、機関投資家やアナリストなどに向けて会社の決算状況を説明することが目的です。
類似する会合に「株主総会」がありますが、株主総会は目的企業の経営に関する重要事項を決定する事が主な目的であり、また議決権行使書を保有する株主が対象となる点でも、決算説明会とは異なります。
決算発表の分析ができれば、仮想通貨投資においても一定の範囲でメリットがあります。仮想通貨に関係する企業の経営状況を知ることを通じて、その企業が運営するサービスの将来性の予測等に役立てられるため、一般的な仮想通貨投資家よりも有利な投資判断を下しやすくなるでしょう。
2. 決算発表の時期とスケジュール
決算発表の時期は3ヵ月に1回で、年度末の3月に本決算を発表する企業が多い傾向にあります。決算発表の具体的なスケジュールは次の通りです。
- 6月末:第1四半期決算
- 9月末:第2四半期決算(中間決算)
- 12月末:第3四半期決算
- 3月末:第4四半期決算(本決算)
金融商品取引法により、上場企業は四半期報告書や決算発表などの財務情報を載せた報告書を、四半期ごとに提出するよう義務づけられています。
報告書は四半期終了後の45日以内に提出され、その2週間前には各期の決算発表が行われます。例えば決算期が3月末の場合、企業は財務情報を5月15日までに公表しなければなりません。そのため、5月の初め頃には企業の財務情報が公表され始めます。
なお、3月末に行われる第4四半期決算(本決算)は、4回ある決算発表の中で最も重要度が高いことを理解しておきましょう。
本決算ではその年度に行われた全ての取引の収支・業績をまとめ、同時に来期の業績予想についても発表するため、株価変動への影響が非常に大きいためです。
3. 株式投資における決算発表の重要性
では、決算発表はなぜ株式投資家にとって重要なのでしょうか。主な理由を3つ解説します。
3-1. 企業の実力を推し量る
財務状況や業績を公開することにより、企業の経営力や資産状況が明らかになるため、決算発表は企業の実力を示す役割を担います。
例えば、ある食品メーカーの営業利益などが前年同期比で大幅に伸びていた場合、市場に好印象を与え株価が上昇すると予測されるでしょう。一方、営業利益などが前年同期比で大幅に落ちていたなら、今後は株価が下落傾向になりやすいと予想されます。
3-2. 将来の業績を予測する手がかりになる
決算発表は企業の実力を推し量るだけでなく、将来の業績を予測する手がかりにもなるでしょう。多くの株式投資家は、決算発表の情報をもとに企業の将来性を見極め、長期的に株価の上昇見込みが高い銘柄に投資するためです。
こういった投資家の予想は必ずしも的中するわけではありませんが、「多くの投資家が将来性を感じる」こと自体が買い圧力を高め、短期的な株価上昇を導く場合も少なくありません。
また、決算発表には「企業が将来的にどのようなリスクに直面し、そのリスクが会社にどの程度の影響を及ぼすか」という情報も含まれています。
具体的には各国間の政治に関連する地政学リスクや、洪水・地震といった自然災害リスクなどです。極端な例としては、2023年の2月地点でも戦争が続くロシア・ウクライナに関わる輸出入企業などが当てはまるでしょう。この戦争が原因で輸出入が滞った、等の業務上の支障が出た場合、決算発表にはこういったリスクに関する情報も記載されます。
4. 決算発表が株価に与える影響とそのメカニズム
続いては、決算発表が株価に与える影響と、そのメカニズムを見ていきましょう。
4-1. 決算発表が株価に与える影響
決算発表は、株式投資家の行動へ大きな影響を与えることにより、企業の株価変動に直接的な影響を与えます。
企業の決算発表が優秀な場合には、投資家などから多くの買い注文が入り株価が上昇する圧力がかかる一方、決算発表が不振だった場合には売り注文が出されやすくなるため、株価下落の圧力がかかります。
実例として、2021年7月29日にソフトバンクグループ株式会社が発表した、2021年4月~6月期の決算発表は同社の株価に大きな影響を及ぼしました。発表では、連結決算について前年同期比で12倍以上の増加を記録して黒字化したことが明らかとなり、投資家たちから会社に対する期待感が高まった結果として株価が上昇しています。
4-2. 株価が変動する要素とメカニズムについて
決算発表に関連する株価変動のメカニズムは、市場参加者の「情報の非対称性」が大きく影響するとされています。
情報の非対称性とは、株式投資家といった株取引への参加者の間において、共有される情報の量や質が同じではない(非対称)であることを意味します。一部の投資家は経験と知識が豊富であったり、企業の内部情報に通じているため正確性の高い予測ができる一方、一般的には経験や知識に乏しいため予測の精度が低い投資家も多く、市場参加者のレベルには大きな幅があります。
また、決算発表前に行われるアナリストや著名な投資家による市場予想も実際の株価に影響を与え、実際に公表された数字よりも、こういった市場予想が原因で株価の上昇や下落が起こるケースも少なくはありません。
株価変動のメカニズムは市場参加者の情報の非対称性はもちろん、心理的な要素などの外部要素が複数の要素が複雑に関わり合っています。株式投資家には、仮想通貨の投資家と同様に取引スタイルの確立や、客観的な分析力などが求められるでしょう。
5. 投資家が決算発表で見るべき企業の業績
最後に、投資家が決算発表で見るべきポイントを5つにまとめました。この5つの項目を見ると、企業の決算発表の全体像が見えてくるでしょう。
5-1. 伸び率
伸び率とは、売上高や営業利益、当期純利益などの各項目が前年同期比でどれだけ成長したかを示す指標です。業績がどれだけ成長したかを測る指標で、前年同期比の伸び率が高いほど企業の業績が向上していると考えられます。
また、伸び率には企業の成長性を投資家にわかりやすく伝え、株価上昇などのポジティブな印象を与える役割もあります。ただし、前年同期比の伸び率が高い企業が必ずしも優良企業であるとは限りません。伸び率を参考にしながらも、業界のトレンドや業績背景などを総合的に考慮するようにしましょう。
5-2. 業績予想
業績予想は、来期以降の業績予想(営業利益・経常利益・純利益など)に関する見通しのこと。株価に大きな影響を与えるため、投資家から特に注目される要素です。
業績予想が好調な場合は増配などへの期待から株の購入希望者が増える場合が多いですが、逆に業績予想が芳しくなければ、業績不振を警戒して株の売却が増える傾向にあります。
業績予想を参照する際は、決算発表時の数値だけでなく、その後の「業績予想修正」にも注目することが重要です。企業は、当初の業績予想と実際の数値に一定程度の乖離がある場合、修正後の予想を改めて発表します。
この業績予想修正も、上方修正された場合は株価上昇、下方修正された場合は下落を招く傾向があり、いずれにしても株価変動に大きな影響を与えます。
5-3. コンセンサス
コンセンサスとは、アナリストや証券会社などが発表する企業の業績予想の平均値を表す指標です。市場参加者の期待を反映しており、決算発表前に公表される場合が多いです。
企業がコンセンサスを上回る業績を発表すると、市場からの好感度が高まり株価上昇の可能性がある一方、コンセンサスを下回る業績を発表すると株価下落を招く可能性があります。
5-4. 業績見通しの修正
業績見通しの修正とは、企業が過去に発表した業績予想を修正することです。業績見通しの修正は企業の将来的な業績を予測する際に重要な情報で、修正内容によっては株価に大きな影響を与えかねません。
修正内容はさまざまな要素が含まれていますが、主に次のような内容が該当します。
- 売上高や利益などの業績予想の上方修正や下方修正
- 配当金の増減
- 新規事業の開始や終了
- 自社株買いの有無
業績見通しの修正を見る際のポイントは、修正の内容とその大きさです。例えば、業績の見通しが大幅に上方修正された場合は、企業の将来的な業績が好調であると考えられ、株価上昇が期待できるでしょう。一方で下方修正された場合は企業の今後の業績が不安視され、株価が下落する可能性があります。
また、発表における配当金の増減が株価に影響する場合もあります。配当金は純利益の一部を株主へ還元する仕組みのため、増配が行われた場合は「将来業績への自信」を示すシグナルと受け取られ、株価が短期的に上昇する場合があります。その反面、減配はマイナス要因として認識され、株価の下落要因となる傾向です。
また、自社株買いが行われた場合、同社株式の市場流通数が減少する事を意味するため、需給やROEの改善に影響し、ひいては株価の上昇要因になると考えられます。
5-5. 株価の適正価格
株価の適正価格を判断するには、「時価総額」「PER」「PBR」の3種類の指標を確認しましょう。
「時価総額」とは、企業価値・規模を評価する指標で、株価の価格が適正かどうか判断する資料としても活用できます。例えば、複数の競合他社と時価総額を分析して比較することで、株価が過大評価もしくは過小評価されているかを一定範囲で判断可能です。
「PER」とは、株価をEPS(1株当たりの純利益)で割った値です。EPSに対する株価の高さを示しており、同業他社のPERと比較することでその株価が割安か割高かを判断でき、PERが低いほど割安、高いほど割高と見なされます。
決算発表時はPERの推移をチェックし、過去数年間のPERの平均値や業界平均と比較して、株価が割高かどうかを判断しましょう。ただし、PERは企業の業績や将来性を反映しきれないため、他の指標と併せてに判断する必要があります。
「PBR」とは企業の株式時価総額を、その企業が保有する純資産で割った値で、企業の資産価値と市場価値のバランスを示しています。
- PBRが低い:市場価値が企業の実質的な資産価値よりも低い
- PBRが高い:市場価値が企業の実質的な資産価値よりも高い
PBRが業種によって異なり、不動産業や金融業などの資産主義的な業種は、比較的PBRが高めになりやすいでしょう。一方、製造業や小売業などの実体経済を主とする業種は、PBRが低めになります。これは、設備や商品など、時の経過に応じて資産価値の下がる有形資産が主な資産であるためです。
ただし、これらはあくまで一般な傾向ですので、投資候補の企業のPBRをしっかり読み取りましょう。
6. 株式投資は企業の将来に期待する投資
本記事では、決算発表について詳しく解説しました。3ヵ月(四半期)に1度公開される決算発表は、株価の値動きと密接に関わっています。そのため、決算発表は株式投資家にとって、最善な投資判断を行う上で欠かせません。
また、株価は市場参加者の情報の非対称性など複雑な要素と密接に関連しており、将来の株価を予測する事は簡単ではありません。決算発表の伸び率やコンセサスなどを参照しつつ、少しずつ正確性の高い分析を行えるよう経験を重ねてゆきましょう。