一口に株式投資といっても、銘柄のどういった部分に注目するかによって、大きく「バリュー投資」と「グロース投資」という2つの投資手法に分類できます。それぞれの違いや自身の目的にあった運用方法を理解していないと、利益を出すことはもちろん、大きな損失を生み出すリスクもあるでしょう。
そういった危険を避けるには、バリュー投資とグロース投資の特徴や注目すべき指標、具体的な銘柄を押さえておくことが重要です。とはいえこれから株式投資を始める人にとっては、それぞれの投資手法の違いや銘柄を判断するのは容易ではありません。
そこで本記事では、株式投資の手法の一つであるバリュー投資にスポットをあて、概要やよく比較されるグロース投資との違い、メリット・デメリットを解説。バリュー投資で注目すべき指標や代表的な割安株についても紹介いたします。
- 目次
1.バリュー投資とは割安な株への投資手法
バリュー投資とは、本来の価値よりも低く見積もられている割安な銘柄に投資することを指します。株価が割安になる理由は「成長期待が乏しい」「注目度が低い」「株の供給が多い」などさまざま。業種により基準は異なるものの、一般的にPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が低ければ「割安株」とされ、バリュー投資の対象となります。
投資は「安く買って高く売る」が基本となるため、バリュー投資を基軸として株式投資を行っている投資家も多いです。例えば「投資の神様」と呼ばれるあのウォーレン・バフェット氏も、戦略の一つとしてバリュー投資を組み込んでいます。
バリュー投資を軸に株式投資を行うことで、リスクを抑えつつ継続的なインカムゲインや売却益を狙いましょう。
2.バリュー投資の優位性、グロース投資との違い
バリュー投資とともによく比較されるのが、グロース投資です。両者は両極端の投資手法で、投資対象となる企業や利益の出し方に違いが見られます。
そこで続いては、バリュー投資とグロース投資の違いや、それぞれをどのように使い分けるか解説しましょう。
2-1.投資対象となる企業
バリュー投資とグロース投資の違いとして「投資対象となる企業」が挙げられます。
先述したようにバリュー投資は、株価が割安なタイミングを見計らう投資手法です。
バリュー投資の対象となる企業や業界は、例えば金融や製造業など。具体的な企業を挙げるなら、「三菱UFJフィナンシャル・グループ」や「武田薬品工業」などが例として挙げられる場合が多いです。これらの企業はグロース株ほど成長性が高くない一方で利益が安定しているため、割安な時期にはバリュー株として注目を集めます。
一方で、グロース投資は市場平均を上回る速度で売上や利益を伸ばしている企業へ、その成長性に期待して投資を行う手法です。近年ではTesla社やGAFAM(*)を始めとしたIT企業やテクノロジー企業が、グロース株として投資家から高い人気をます。
*Google(Alphabet)、Apple、Facebook(Meta Platforms)、Amazon、Microsoftの頭文字を取った呼び名
2-2.利益の出し方の違い
バリュー投資とグロース投資は、利益の出し方にも違いが見られます。バリュー投資では主に「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」の両方で利益を狙います。
キャピタルゲインとは、保有している株式を売却することで得られる利益のことで、売買差益とも呼ばれます。例えば、100万円で購入した株が120万円に値上がりしたタイミングで売却できれば、差額の20万円がキャピタルゲインです。
一方のインカムゲインは、株式などを資産として保有することを通じて受動的に得る利益のこと。100万円分の株式を保有しているとして、配当金の利回りが年3%なら、年間3万円分のインカムゲインを獲得できる計算です。
一方のグロース投資では、キャピタルゲインで利益を得る運用方法が基本です。成長性の高い銘柄の中には数年で株価が10倍以上になるケースもあり、大きなリターンを狙えます。しかしグロース投資の対象となる銘柄は配当利回りが低い傾向にあるため、インカムゲイン狙いの投資にはあまり適さないと言えます。
2-3.両者の使い分け
投資対象となる企業と利益の出し方の違いを踏まえた上で、バリュー投資・グロース投資の両者の使い分けを解説しましょう。
先述したように、バリュー投資は本来の適正株価と比較して割安な銘柄への投資であり、配当利回りが高い銘柄を選べば安定したインカムゲインを得られます。また本来の価値より低くなっている分、適切な銘柄を選べばキャピタルゲインにより売買差益を得られる可能性も十分あります。リスクを抑えつつ確実に運用したい投資家には、バリュー投資が向いているといえるでしょう。
反対にグロース投資は、ある程度の下落リスクを取って、キャピタルゲインによる大きな値上がり益を狙いたい投資家に向いています。成長株を見極めるための株価指標を軸に企業分析し、市場動向なども考察しながら成長企業を見出す洞察力が必要になるでしょう。
3.バリュー投資のメリット
バリュー投資には「比較的低リスクで運用できる」「配当利回りが高い傾向にある」の2つのメリットが挙げられます。それぞれ詳しく解説します。
3-1.比較的低リスクで運用できる
- ボラティリティが小さい傾向に
- 株価が既に割安なので下がりにくい
バリュー投資の対象となる割安株は、グロース株と比べて価格変化の度合いであるボラティリティが小さい傾向にあります。ボラティリティが小さいということは、株価の変動が少なく安定している状態です。ボラティリティが低く株価が割安なため、不況や景気が悪いときでも株価下落率が低くなっています。現状の株価が低かったとしても、適正価格に推移するまで安心して保有できるでしょう。
上記のように、比較的低リスクで運用できる点がバリュー投資のメリットです。
3-2.配当利回りが高い傾向にある
バリュー投資のメリットとして、配当利回りが高い傾向にある点も挙げられます。例えば、バリュー株として有名な海運3社「商船三井」「日本郵船」「川崎汽船」は、いずれも2023年2月下旬時点の配当利回りが10%を超えていました。
インカムゲインで利益を得たい投資家にとっては、配当利回りの高いバリュー株は魅力的でしょう。
4.バリュー投資のデメリット
ここまでにバリュー投資のメリットを解説しましたが、いくつかのデメリットも存在します。その中でも「大きなリターンは期待しがたい」「ネガティブな理由で割安になっている事も多い」ことについて、詳しく見ていきましょう。
4-1.大きなリターンは期待しがたい
バリュー投資の対象となる銘柄は、成長が期待されていないか市場が成熟しきっているケースが大半です。そのため短期間で株価が数倍に値上がりする等の急変はあまり起きません。
安定したインカムゲインを得られるメリットはあるものの、グロース投資ほどキャピタルゲインによるリターンは得られないと考えておいた方が良いでしょう。短期間で大きなリターンを狙うなら、バリュー投資は適さないといえます。
4-2.ネガティブな理由で割安になっている事も多い
- 割安となっている背景の見極めが重要
- 将来的に株価の見直しが進む可能性が高い割安株を探す
株価が割安になっていることには、ほとんどの場合理由があります。「業績が悪化している」「市場規模が縮小している」などのネガティブな理由で割安になっている場合は、単純に株式を購入する人がおらず供給が多いことが考えられます。ネガティブな理由で割安になっている場合は、適正価格に戻らない可能性もあるでしょう。
そのため、割安だからといって安易に手を出すのはおすすめできません。将来的に株価の見直しが進むことを期待できる割安株を探すことが大事です。
5.割安株の見極め方、バリュー投資で注目すべき3つの指標
バリュー投資で重要になってくるのは、いかに割安株を見つけるかです。バリュー投資では、以下の3つの指標を確認しましょう。
- PBR(株価純資産倍率)
- PER(株価収益率)
- 自己資本比率
それぞれの指標を詳しく解説します。
5-1.PBR(株価純資産倍率)
PBR(株価純資産倍率)とは「株価÷1株あたりの純資産(BPS)」で算出される指標で、1株あたり純資産の何倍の値段がつけられているかを意味します。例えば株価が5,000円で1株あたりの純資産が10,000円の場合、PBRは0.5です。
一般的にPBRが1倍以下の場合は割安株とされているため、バリュー投資ではPBRに着目するといいでしょう。ただし「1倍以下だから割安である」「1倍以上だから割高である」といって安易に判断するのではなく「利益は出ているか」「今後の成長に期待できるか」も評価項目として加えることが大事です。
5-2.PER(株価収益率)
PER(株価収益率)とは「株価÷1株あたりの純利益(EPS)」で算出される指標で、株価が純利益の何倍になっているかを意味します。1株10,000円、1株あたりの純利益が500円の場合、PERは20倍です。一般的にPERが15倍未満なら割安株とされています。
ただし、PERは業界によっても基準が異なります。安易に「何倍だから割安・割高である」とすることはできないため、同業界の企業のPERと比べるなどして判断することが重要です。
5-3.自己資本比率
自己資本比率とは企業の保有する総資産のうち、返済義務のない自己資本の占める割合のことです。自己資本比率が高ければ借金が少なく、安定した経営がされていると判断できます。
自己資本比率が重要となる理由は、倒産リスクの高い企業を排除するためです。先ほど紹介したPBRという指標は、企業の解散リスクが高まると低くなることがあります。PBRも割安株かどうかを判断する重要な指標ですが、それに加えて自己資本比率が50%以上という項目も判断材料として加えることをおすすめします。
6. バリュー投資に最適、代表的な割安株の例
ここまでにバリュー投資のメリットや割安株を見出すために重要となる指標を見てきました。ここからは実際に、2023年2月下旬時点でバリュー投資に最適と考えられる代表的な割安株の例を国内・国外ともに紹介します。
6-1.国内のバリュー株
国内の割安株である「旭化成」「川崎汽船」について見ていきましょう。
6-1-1.旭化成
旭化成は化学製品・電子部品・医薬品・住宅・建築・石油化学製品などに関する事業を展開する企業です。
コロナ禍の影響からか一旦株価は下落したものの、2021年前半にかけて上昇しその後は上昇下降を繰り返しながら緩やかに下降しています。2023年5月下旬時点でのPBRは0.79倍となっていおり、2022年3月期時点の自己資本比率は50.4%です。
6-1-2.川崎汽船
大手海運会社の一つである川崎汽船は、海上運送事業・陸上運送事業を始めとした物流事業や、燃料事業、倉庫事業を展開する企業です。
2023年5月下旬時点における川崎汽船のPERは1.27倍、PBRは0.53倍といずれもかなり割安に振れています。自己資本比率については2021年3月期までは20%台で推移していたものの、2022年3月期時点の自己資本比率は56.2%と大きく上昇しました。
急激な業績の伸びはコロナ禍以降のものであり、今後の動向には注視する必要がありますが、配当利回りが6.1%と高いことも魅力です。
6-2.海外のバリュー株
国外の割安株である「ベライゾン・コミュニケーションズ」「エクソン・モービル」「プロクター・アンド・ギャンブル」について解説します。
6-2-1.モルガン・スタンレー
モルガン・スタンレーはアメリカ・ニューヨークに本社を構え、証券業務や資産運用業務を展開する大手の証券金融サービス会社です。
2023年6月上旬時点のPERとPBRはそれぞれ14.4倍、1.47倍で、比較的割安と判断できます。
2020年3月頃に株価の急落を経験したものの、その後持ち直して右肩上がりで上昇し、2023年時点では80~90ドル台を推移しています。
6-2-2.エクソン・モービル
エクソン・モービルはアメリカ・テキサス州に本社を置く石油会社です。燃料事業・石油事業・化学製品事業などを手掛けています。
なお、2023年5月下旬時点でのPERとPBRはそれぞれ7.92倍、2.11倍です。
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにエネルギー価格が高騰し、エクソン・モービルの株価も高騰しています。割安株の基準より少しPERが高いものの、エネルギー価格の落ち着きとともに割安感が戻ってくるかもしれません。
6-2-3.プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)
プロクター・アンド・ギャンブルは、アメリカのオハイオ州に本社を置く世界最大手の一般消費財メーカーです。レノアやファブリーズなど、日本でも馴染みのある製品を手掛けています。
PERは25倍、PBRは7.41倍と高い水準を推移しており、一般的なバリュー株と比較すると割安とは言い難いものの、バリュー株銘柄として人気です。
長年にわたって成長を続ける優良企業であり、さらに一般消費財はたとえ景気が悪くなったとしても需要が尽きないため、「比較的低リスクで運用できる」というバリュー投資のメリットを十分に享受できる銘柄と言えます。
7. バリュー株投資でインカムゲインと値上がり益を同時に狙う
株式投資を始めるにあたって「バリュー投資」と「グロース投資」の違いを押さえることは、利益を得ることはもちろん、損失を出すリスクを低減させるためにも重要です。この2つのうち、バリュー投資なら、比較的リスクを抑えた運用や配当利回りが高い傾向にある点が魅力となっています。
バリュー株かどうかを判断するには「PBR(株価純資産倍率)」「PER(株価収益率)」「自己資本比率」を指標にすると良いでしょう。本記事で紹介した具体的な個別銘柄も参考にして、バリュー投資の対象となる銘柄の発掘に役立ててください。