- ビットコインとブロックチェーン
- ビットコインをはじめとした仮想通貨は、未だその用途が十分に確立されていない「成長産業」の一つですが、犯罪の資金源としての不正利用、もしくは犯罪防止策として機能する可能性も持ち合わせています
- ブロックチェーン技術の応用
- さまざまな産業において、ブロックチェーン技術の有効な活用法が模索されている中、当記事では特に有望なプロジェクトをピックアップ。不動産、流通、人道支援への応用例を解説しています
ビットコインとブロックチェーン
仮想通貨の代表格であるビットコインは、P2P通信による取引決済に基づく、非中央集権型のデジタル通貨です。
一つのサーバにデータを蓄積するのではなく、取引データを互いに確かめ合うことができるよう、ネットワークを構成する「ノード」上にデータが蓄積されていきます。
通貨の交換に関する情報は、「ブロック」と呼ばれる単位に対して、公のもと記録されます。
ブロックは取引データの集合体であり、さまざまなデータの蓄積に対応することが可能で、直近のデータだけではなく、「一つ前に処理されたブロック上のデータも含む」という特徴があります。
ブロックを一つ前のブロックと繋げることで、情報の連なったチェーンが生成されていくことになります。
このように、ビットコインの根底にある技術が、「ブロックチェーン」と呼ばれる理由です。
仮想通貨のリスクについて
2017年の9月、JPモルガンのCEOである「Jamie Dimon」は、投資家会合の場で、以下のような発言をしています。
法定通貨ではなく、あえてビットコインを使うのは、盗人や麻薬売人、北朝鮮のような地域の人々だけです。
ビットコインをすでにオンラインウォレットや取引サービス上で利用している人は、個人情報と口座が紐付けされていると思います。
しかし、ビットコイン取引が「どこで行われたか」を特定するためには、この情報だけでは不十分です。
多くの犯罪者は、財務状況の開示を迫られた時に備え、複数の口座にビットコインを分散させています。
彼らは幾度もの取引を重ねて複雑な取引ネットワークを築くことで、「金の流通元を特定できないよう仕向ける」ことでしょう。
ビットコインの送金は簡便に完了し、瞬時に資産を移動させることが可能です。
そのため、資金移動を追跡することは困難を極め、非合法的な活動が行われる疑いが生じたとしても、それを止めることは容易ではありません。
仮想通貨は、本当に悪なのか?
一方で、ビットコインの匿名性による犯罪への危険性については、「誇張しすぎ」という意見もあります。
ブロックチェーン上の取引記録には個人情報までは記録されませんが、その取引に関わった口座の公開鍵はログに残ります。
すべての取引の詳細はブロックチェーン上の記録として残り、そのデータにアクセスすることも容易です。
よって、公開鍵により示される口座を追跡することで、ビットコインにより資産がどう動いたかを監視することができるのです。
また仮想通貨は、今や正式な投資として受け入れられつつあります。
これらの理由から、犯罪活動に使われたビットコインは、むしろ犯罪者グループにより構成される「大きな取引網を把握するのに役立つ」と主張する人もいます。
ブロックチェーンの「犯罪防止策」としての可能性
犯罪防止策としてのブロックチェーン技術は、ビットコインや他の仮想通貨からは切り離して考えることが重要でしょう。
ブロックチェーンが特定の犯罪防止策として使われるわけではなく、ブロックチェーン上の「記録の透明性」が、改竄などの情報操作への防波堤として役立つのです。
不動産登記や、投票システムといった、より厳格なセキュリティが求められるシステムへブロックチェーン技術を利用する試みはすでに始まっており、金融取引やSCM(資材調達の運用)といった私的な応用への取り組みも盛んです。
ブロックチェーン技術の応用
不動産事業とブロックチェーン
ブロックチェーン技術は、詐欺防止のため不動産登記や地券といった分野への応用も活発です。
先行プロジェクトが進行中の国々は、以下の通りです。
- ブラジル
- ブラジル国営の会社である「Serpro」は、ブラジルで大豆、乳牛農場として使われるアマゾン熱帯雨林地帯の地券取引を不正から守ることを目的として、ブロックチェーンプラットフォームへの開発に乗り出しました。
- スウェーデン
- 「ChromaWay」というスウェーデンの会社が、不動産購入にブロックチェーンやスマートコントラクトの技術を応用するシステムの構築を目指しています。
- ジョージア(東ヨーロッパの国)
- 「Exonum」というプロジェクトが始動しており、ジョージアにおける不動産登記簿のやり取りをブロックチェーン上で行うことを試みています。不動産情報を改ざんから守り、健全な不動産運営ができる体制づくりを目指しています。
投票システムとブロックチェーン
また、先述したように「投票システム」へのブロックチェーンの応用も盛んに行われており、特に投票プロセスへの改竄リスクが高い国でその動きが顕著です。
「FollowMyVote」というプロジェクトでは、投票者が自身のコンピュータにデジタル投票用のブースをインストール、個人情報を提出することで、投票参加権を得ることができます。
投票では、ブロックチェーン上に構築された「仮想の投票箱」に票を入れることができ、その投票データが公開鍵暗号と紐付けされることで、不正を防ぎます。
人道支援事業とブロックチェーン
その他の分野では、「人道支援」をブロックチェーン技術により実現することを試みているプロジェクトもあり、現在その有用性を確かめるためのテストが行なわれています。
2017年、国際連合世界食料計画(WFP)では、ヨルダンにおける難民キャンプへ「食料の引換券」を支給するため、イーサリアムのブロックチェーンを使用し始めました。
食料引換券は難民に振り分けられ、キャンプ内のスーパーマーケットで生体データを使用することで、その引換券にアクセスすることができます。
これまでにWFPは、140万ドルの食料引換券を10,500人に振り分けることに成功しており、2018年にはこのプログラムを100,000人の難民にまで普及させることを計画しています。
ブロックチェーンをベースにした多くのプロジェクトは、従来のシステムに比べより高効率で、不正へのセキュリティも担保されています。
流通業とブロックチェーン
さらに「流通業」でも、ブロックチェーン技術を利用できる可能性について模索されています。
例えばEverledgerは、ブロックチェーンを用いたダイヤモンドの世界的な登録プラットフォームとして機能しています。
このプラットフォームでは、ダイヤモンドごとにIDを発行しており、そのIDは発掘された鉱山情報から始まります。
Everledgerプロジェクトによって、宝石の偽造や、武器の購入などに充てられて紛争の長期化・深刻化を招く可能性のある「紛争ダイヤモンド(Dirty Diamond)」の普及を未然に防ぐことができるかもしれません。
また、IBM(International Business Machines Corporation)が、ブロックチェーン技術を基盤とした流通マネジメントシステムの構築を目的としたプロジェクトをいくつか進めています。
応用例のスマートコントラクト
ブロックチェーンの応用例として、「スマートコントラクト」の技術は欠かせません。
スマートコントラクトは、文章の代わりにコードで契約を記述、電子署名の技術によって署名がなされ、自動的に契約が履行される技術です。
会計情報や保護条項などがコードとしてスマートコントラクト上に記述されることで、合意なしに内容変更することができません。
このことで、理論上は「不正や詐欺の介入を許さない」仕組みとして確立されていますもつ。
スマートコントラクトでは、ブロックチェーン取引と同じく、第三者機関を必要としないという特徴もあります。
今後の展望
ブロックチェーン技術の持つ果てしない可能性に大きな期待が膨らみつつありますが、世の中に広く普及するまでには、まだ長い年月がかかるものと思われます。
仮想通貨が不法行為への資金に使われるリスクについても、決して見過ごすことができない課題が残っています。
仮想通貨の未来には、今後も常に「期待と不安」がつきまとうことになるでしょう。
PROMISE AND PERIL: BLOCKCHAIN, BITCOIN AND THE FIGHT AGAINST CORRUPTION
January 31, 2018
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