Aaveプロトコルで利用できるAAVEとは
AAVEとは、分散型レンディングプラットフォームAaveを中心とするエコシステムのネイティブトークンです。
AAVEが利用されているAaveプロトコルは、フラッシュローン(Flash Loan)や信用委任(Credit Delegation)といったユニークなサービスを提供しており、DeFi(分散型金融)レンディング分野で注目されているプロジェクトです。執筆時点におけるAaveプロトコルにロックされている総資産額は10億4,000万ドル(約1,100億円)であり、DeFiレンディングサービスではMakerに次いで2位につけています。
1. AAVEの基本概要
1-1 AAVE(LEND)とは
AAVEとは、分散型レンディングプロトコルAaveのERC-20規格のネイティブトークンであり、Aaveの分散型ガバナンスにおいてガバナンストークンとして利用されています。現在、前身トークンであるLENDからの移行が行われています。
Aaveとは、イーサリアムブロックチェーン上に構築された分散型ノンカストディの金融プラットフォームです。「Aave」はフィンランド語で「お化け」を意味し、DeFi分野で透明かつオープンなインフラを創造するというAaveの取り組みを象徴しています。
Aaveは、2017年にStani Kulechov氏によって、その前身組織であるETHLendとして設立されました。Kulechov氏は、2018年にAaveのローンチを発表し、ETHLendはAaveの子会社となりました。現在ETHLendの運営は停止され、ETHLendユーザーの既存ローン完済用の機能のみ稼働しています。
現在Aaveでは、20種以上のトークンの貸借が可能です。貸手のユーザーは、資産をスマートコントラクトにロックし流動性を提供することで、金利を得ることができます。預けた資産を担保とみなし、他のトークンを借りることも可能です。
一方で借り手は、無期限過剰担保または無担保のどちらかの方法で資産を借りることができます。無担保の場合、フラッシュローンと呼ばれる仕組みを利用し、一つのブロック内で借入と返済の両方が行われます。借入の際に、借り手が固定金利または変動金利のどちらかを選択できることも、Aaveの特徴のひとつです。
Aaveは、2020年12月にV2をローンチしました。V2では、既存の機能が大幅にアップグレードされ、DeFi分野の中でも先進的なサービスが提供されています。
V2ローンチにより、前述のフラッシュローンにバッチ機能が導入され、複数の資産を一つのトランザクションで処理できるようになりました。さらにフラッシュローン機能を利用して、フラッシュローンでプロトコルから借り入れた資産で、清算プロセスを実行できるようにもなりました。
また、V2では、債務ポジションがトークン化され、債務を表しているトークンを、借り手が受け取れるようになりました。これにより、信用委任サービス(下記参照)がプロトコルのネイティブ機能として提供され、コールドウォレットからも債務ポジションの管理が可能になります。
他にも、債務返済簡素化のために提供されている担保を利用した返済機能や、担保としてロックした資産のトレードを可能にする機能など、様々なネイティブ機能がプロトコルに組み込まれました。
1-2 発行用途
AAVEは、Aaveエコシステム内のガバナンストークンとして発行、およびLENDから移行されました。AAVE保有者は、Aaveの分散型ガバナンスに参加することが可能です。
LENDは、Aaveの前身であるETHLandのユーティリティトークンとして発行されました。ETHLandは2017年にLENDでICOを行い、1,620万ドル(当時のレートで約18億円)を調達しました。
1-3 LENDからの移行
Aaveは現在、前身トークンであるLENDから新トークンAAVEへの移行を行っています。この移行は、Aavenomics(下記2参照)と呼ばれるAaveの分散化プロセスにおける第一段階として、Aaveの分散型ガバナンスでコミュニティによって決定されました。
LENDが主にプロトコルのユーティリティトークンとして利用されていたのに対し、AAVEはガバナンストークンとしての性質を持つため、AAVE保有者はAaveプロトコルの変更等に投票できます。
この移行では100LENDが1AAVEと等しくなるように設計されています。AAVEの総供給量は1,600万で、そのうち1,300万がLENDからの移行であり、残りの300万はAaveエコシステムのリザーブに割り当てられる予定です。
2. ユースケースの紹介
Aavenomics
Aaveは、Aavenomicsと呼ばれる、プロトコルの分散化フレームワークを発表しました。Aavenomicsでは、AAVEがガバナンストークンとして様々な役割を果たしています。
Aavenomicsでの重要なシステムの一つに、セーフティモジュール(SM; Safety Module)およびセーフティインセンティブ(SI; Safety Incentive)があります。このシステムでは、AAVE保有者は、セーフティモジュール(SM; Safety Module)と呼ばれる資金不足時の保険のようなメカニズムにAAVEをステークすることができます。これにより、AAVEをステークしたユーザーは、Aaveプロトコルのセキュリティを保証する責任を負いますが、プロトコルの健全性を高める報酬として、セーフティインセンティブ(SI; Safety Incentive)および手数料収入の一部を受け取ることができます。
AAVE保有者は、プロトコルを管理するためのガバナンスに参加し、AIP(Aave Improvement Proposal/Aave改善提案)に投票することも可能です。AAVEがコールドウォレットで保有されている場合、またはSMにステークされている場合でも、投票は可能です。また、AAVE保有者は、自身の投票権を他人に委任することもできます。
Aavenomicsで発行される1,600万AAVEのうち300万は、Aave Reserveと呼ばれるコントラクトに割り当てられます。Aave ReserveにあるAAVEは、エコシステム発展促進のインセンティブ(EI; Ecosystem Insentive)として機能し、流動性提供者や開発者などのエコシステムの貢献者へ報酬として与えられます。
3. 関連サービスの紹介
3-1 信用委任(CD; Credit Delegation)
Aaveは、DeFi分野で初めて信用委任システムを導入しました。このシステムでは、Aaveに資産を預けているユーザーは、自身の与信枠を他人に委任することができます。これにより与信枠を受け取ったユーザーは、担保資産なしでAaveから必要な通貨を借りることができます。
例えば、ユーザーA(貸し手)がUSDTなどの資産をAaveに預け入れ、自身の与信枠をユーザーB(借り手)に委任したいとします。その場合まず、ユーザーAとユーザーBの間で、期限や利率などの詳細な契約が結ばれます。この契約にはイーサリアムの開発を行うConsenSysが支援しているOpenLawが使用され、ローンのセキュリティおよび契約の強制力が保証されます。契約が結ばれた後、ユーザーAは信用委任用のVaultスマートコントラクトを作成し、契約に沿って与信枠を設定します。ユーザーBは、Vaultのborrow(借入)機能を介して与信枠を受け取ります。
これによりユーザーAは、USDT提供で得られる手数料収入に加え、ユーザーBからの金利も得ることができます。一方でユーザーBは、担保なしでより柔軟に資産を借りることが可能です。この信用委任システムは、市場の流動性向上に貢献する可能性があると考えられています。
関連:無担保で借り入れ可能なP2Pレンディング DeFiプロジェクトAaveが新サービス
3-2 Aave Limited
Aaveのイギリス法人Aave Limitedは、8月にイギリスの金融行動監視機構(FCA)の承認を受け、「電子マネー機関」としての営業ライセンスを取得しました。このライセンスにより、イギリス在住のユーザーは口座の開設ができ、Aaveは電子マネーを扱えるようになりました。今後は電子マネー機関として、法定通貨から仮想通貨への円滑なアクセスがAave一箇所で行えるようになることが期待されています。
関連:DeFiサービスへ法定通貨の流動性を 英FCAがAaveに電子マネー機関ライセンスを付与
3-3 Aavegotchi
Aavegotchiとは、Aaveのaトークンを基盤としたNFT(Non Fundgible Token/非代替性トークン)です。ERC721規格に批准しており、仮想通貨コレクタブル(収集品)としてイーサリアムブロックチェーン上に存在しています。
Aavegotchiのモデルとなっているたまごっちがデジタルペットという概念を広めたように、Aavegotchiは、デジタル価値によって裏付けられている、遊べるNFTペットというアイディアのもと生み出されました。Aavegotchiは、実際はイールドファーミングで清算されたユーザーがお化けになった姿であり、名誉と共に元の世界に戻りたがっているという設定になっています。
Aavegotchiにより、DeFiトークンを使った担保のステーキング、DAOによって管理されたゲーム構造、ならびにスマートコントラクトの相互運用性およびゲームの中での投票システムを持ったオープンな仮想空間など、様々なイノベーションがブロックチェーンゲーム分野にもたらされることが期待されています。
3-4 パートナーシップ
国内の提携
国内では、ブロックチェーン上に学習記録を記録することで新たな「学習歴社会」の構築するビジョンのもと、eラーニングプラットフォーム「PoL」を運営しているtechtecが、日本企業で初めてAaveからの資金調達を実施しました。
techtechは今後、自身の学習カリキュラムにAaveを加え、将来的にはPoLでの学習データを利用して、Aaveの担保率を低く抑えることが可能かどうかの検証を行っていく予定です。
参考:techtec、DeFi市場を牽引する英Aaveから日本初となる資金調達
現実世界資産取扱機関との提携
Aaveは、市場安定、リスク分散、およびDeFi推進の観点から、プロトコルへの現実世界資産導入に積極的に取り組んでいます。
AaveはV2のローンチに際して、RealTとのコラボレーションを発表しました。RealTとは、不動産をイーサリアム上でトークン化し、DeFiエコシステムへの統合を行っているプロジェクトです。今後RealT市場がAaveで作成された場合、Aaveユーザーは、RealTの不動産トークンを使用してステーブルコインを借りることが可能になります。
またAaveのガバナンスでは、現実世界資産をDeFiに持ち込む試みを行っているスタートアップCentrifugeが開発しているプラットフォームTinlakeを利用して、現実世界資産市場を追加するかどうかの議論が行われています。