NFTも規制の対象に
NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)は、デジタルテクノロジー界の最新のトレンドとなっています。2021年3月、デジタルアーティストBeepleによるNFTデジタルアートのコラージュが、クリスティーズのオークションで6900万ドル(約75億円)の値を付けたことは記憶に新しいです。
また、NBA Top Shotは暗号資産としてのコレクターズアイテムパックを9ドルという低価格で販売することで、メインストリームの消費者にその門戸を開きました。Nifty GatewayやOpenSeaなどのNFTマーケットプレイスは、この波に乗り、数百万ドル規模の記録的な取引量を達成しました。
NFTは基本的に、仮想通貨と同じブロックチェーン技術を使用し、芸術作品、音楽、その他のコレクターズアイテムなど、ブロックチェーン外にある権利を表す、デジタル台帳上のユニークで譲渡可能な取引記録です。
NFT市場参加者は、NFTが比較的新しく革新的であるからといって、規制や監視対象外であるとたかを括ってはいけません。実際、NBA Top Shop Momentsが米国証券法上の有価証券であるとする集団訴訟が5月に提起されるなど、NFTはすでに民間による訴訟の対象となってきています。
特に骨董品、アート、デジタルアセットに関する米国および他国の既存する規制の枠組み、特にアンチマネーロンダリング(AML)に関する規制が最近拡大してきています。コンプライアンス違反のコストが高くつく可能性を考えると、美術品ディーラーやブローカーなど、NFTの売買に携わる市場参加者は、このような比較的未知の領域に足を踏み入れる際、何が問題となり得るかを見極めることが必要となってきます。
マネロン防止法から見たNFT
最近、米国におけるAML関連法の適用範囲が拡大され、場合によっては美術品や骨董品のディーラーにも適用されるようになりました。この法律が美術品や骨董品の権利を表すNFTにも適用されるかどうかは重要な問題であり、まだ明確な答えは出されていません。
銀行や送金業者などの従来的な金融機関は、AMLのため政府から厳しい規制を受けていることは周知の事実です。このため、マネーロンダリングを実践した人々は、その発覚を避けるために貴重な美術品や骨董品取引を行ってきました。
なぜなら、美術品や骨董品は価値の判断が難しく、容易に膨張させることもでき、そのような取引ではプライバシーが尊重される傾向が高いからです。2020年7月に米国上院の調査小委員会が「The Art Industry and U.S. Policies that Undermine Sanctions」と題した報告書を発表した際、こうした点が特に検討されました。
それらの懸念に対処するため、米政府は国防権限法(NDAA)の中でいくつかのAML条項を制定し、2021年1月に発効しました。NDAAでは、銀行秘密法(BSA)、アンチマネーロンダリング法(AMLA)、また新たに制定された企業透明化法(CTA)など、マネーロンダリング関連法の更新と改革が盛り込まれています。
一般的なマネーロンダリングも対象とされているものの、ここでは美術品や骨董品の市場に狙いを定めて新規適用されている点が注目されています。
銀行秘密法(BSA)は、米国の金融機関を利用して資金の隠匿やロンダリングを行う者を防止することを目的に、1970年に米国議会で可決された法律です。BSAは、米国の金融機関に対し、送金業者としての登録、AML対策および顧客情報管理ポリシーの実施、取引記録の保持、閾値取引および疑わしい行為の報告などを求めています。
AMLAは銀行秘密法を拡大し、「骨董品取引の従事者(顧問、コンサルタント、その他骨董品の勧誘や販売を生業とする者を含む)」と明記された上で適用されることになりました。したがって、AMLAの下では、骨董品の専門家は、多数のAML要件を遵守する義務を負うことになります。
NFTと骨董品の違い
しかしこれらの法律では、「骨董品」という用語が定義されていません。そのため、骨董品をより広範に芸術品とみなすのかどうか、またこれらの概念が重複する場合があるのかどうかについての指針を発表していません。
デジタルトークンであるNFTは、一般的に理解されている骨董品とは明らかに異なります。しかし、「骨董品」が未定義であるため、マネーロンダリングの可能性を懸念した執行機関や裁判所がNFT取引に便宜を図り、それらの取引を骨董品の勧誘または販売とみなして、AMLAの範疇として収める可能性があります。
また取締機関や裁判所が、NFT取引を骨董品の勧誘や販売とみなし、銀行秘密法の対象とする可能性もあります。
これらの新しい法律では、美術品取引が多少異なる扱いを受けることになります。現在、米国政府の様々な機関が、美術品取引がどのようにマネーロンダリングやテロリストの資金調達を促進しているか調査中です。
そこでは規制対象を高額な美術品のみに限定すべきかどうか、美術品で益する購入者、仲介者、ディーラーの特定作業が必要かどうか、この新体制を犯罪、税務、規制の調査にどのように展開できるか、などが検討されています。2022年1月1日までに発表される予定の連邦政府規制が、これらの疑問に答えることが想定されますが、今のところ美術品業界は先行き不透明な状態が続いています。
一方で、米FinCEN(Financial Crimes Enforcement Network:金融犯罪捜査網)が2021年3月に金融機関に対して、骨董品や美術品の取引に対するAMLAの適用についての見解を述べた通告を発表したことは注目に値します。
この発表は、FinCENが美術品業界に対して新たな権限を積極的に拡大しようとしていることを示唆します。骨董品と美術品の概念を曖昧にして、骨董品ディーラーと美術品ディーラーの両方が、疑わしい活動報告(Suspicious Activity Report: SAR)の提出など、銀行秘密法(BSA)を遵守する義務を負うことになると警告しています。
ここでも、この制度がNFT分野の業者に適用されるかどうか、あるいはどのように適用されるかについてのガイダンスはありません。
新法下でのNFTの扱いは未だ不透明
また2021年1月にアメリカで制定されたCorporate Transparency Act (企業透明化法:CTA)は、米国政府の新マネーロンダリング防止策に新たなレイヤーを加えるものです。CTAは、受益者情報の国家登録簿を作成・維持することで、多くの米国企業や米国で事業登録している外国企業の「真のオーナー」を特定することを目的とします。
一部の例外を除き、CTAは、米国で事業を行うために設立または登録された従業員20人未満の事業体に適用されます。遵守しなかった場合、民事上および刑事上の多額の罰則が科せられる可能性があります。
オークションハウスの最大手のほとんどは、すでに自主的なAMLポリシーを導入していますが、購入の最終的な受益者に対するデューデリジェンス(身元などを確認すること)を必ずしも行っているわけではありません。そのため個人が匿名性を保つため、あるいはAMLポリシーを回避するために、一連のシェルカンパニー(実態のない会社)を通して美術品や骨董品、NFTを購入しようとする可能性があります。
しかし、改正銀行秘密法および企業透明化法の下では、古物商が取得企業をFinCENに通知すれば、FinCENはCTAデータベースを照合し、その企業の背後にいる真の利害関係者を特定することができるようになります。前述のように、NFT分野への企業透明化法(CTA)適用は不明瞭であるため、市場参加者は、FinCENや他の規制当局による積極的な執行リスクにさらされています。
以上のように、米国の新しいAMLのためのインフラは、美術品や骨董品に対する国境を越えた精査の波が来ることを予感させます。この新しい体制の中で、NFTが最終的にどのような役割を果たすかはまだ定かではありません。
この分野の売主、買主、仲介業者は、必然的な法規制の波がやってきたとき、どのようにして安全な立場に身を置くかについて積極的に考えるべきでしょう。
NFTはデジタル通貨なのか?
もしNFTが美術品や骨董品ではなく、仮想通貨のように扱われることになった場合、国防権限法が適用される可能性があります。この新法では、「通貨や資金の代替となる価値の交換に従事する」事業者に報告義務が拡大され、「通貨の代替」には仮想通貨が含まれることが明確にされています。
さらに、AMLAでは、仮想通貨の送金に従事する事業者に対して、煩雑な登録、報告、記録保持の義務を課しています。事実、FinCENは、AML手続きの遵守が不十分であるとして、すでにいくつかの仮想通貨取引所に対して制裁金を課しています。
おそらく、NFTのユニークな特徴(例えばNFTは定義上、非代替性があり、より小さな額面に分割できないことなど)は、仮想通貨や他の「通貨の代替」とは異なるものです。NFTは相互に交換できず、分割もできず、等価交換もできないからこそ「ノンファンジブル=非代替的」なのです。
しかし仮想通貨と同様、NFTは暗号化技術に裏打ちされたトークンでもあるため、マネーロンダリングの促進に使用される可能性はあります。国防権限法(NDAA)の明確な目標は、マネーロンダリングを防ぐことであり、当局はNFTにAML要件を適用することで、この目標を達成できると主張することも可能です。
さらに、NDAAは宝石のような別の非代替性価値を持つものについても言及しています。米国の規制当局は、機会があればその範囲を広げようとする傾向があることから、NFTを新しいマネロン規制の枠組みに入れるためには、都合の良い解釈を適用する可能性が高いと思われます。
ボーダーレス資産のクロスボーダーリスク
NFT取引は、世界のあらゆる場所にいる取引相手との間で行われます。NFT取引のグローバルな性質は、NFTディーラーが、米国外国資産管理局(OFAC)の規制や、米国以外の他国の法律に注意を払う必要があることを意味します。
結局のところ、制裁を逃れる手段としてNFTを使用したり、準拠した取引所を使用せずに仮想資産にアクセスする可能性があることから、AMLAは他国からの国境をまたいだ調査に従うよう、金融機関に明確な圧力をかけています。
マネーロンダリング対策のためのグローバルな方針を策定する政府間組織としては、金融活動作業部会(FATF)が有名です。FATFは、2021年3月下旬に仮想通貨に関するガイダンスを更新し、制裁審査要件、記録保持などのデューデリジェンスを含む、伝統的な金融規制と同様のアプローチを推奨しています。
これがNFT関係者にとって特に重要なのは、FATFが仮想資産を国防権限法(NDAA)よりも広い用語で定義していることで、特に「デジタルで取引や譲渡が可能で、支払いまたは投資目的に使用できるデジタル表現の価値」を含むものとしています。また、規制の対象となる関係者は、「仮想資産サービスプロバイダー(VASPS)」と呼ばれ、他者に代わって仮想資産の移転、保管、管理を行う者を含む広範な定義がなされています。
FATFはこのようなグローバルな基準を設定し、各国にその採用を求めていることで、多くのNFT市場参加者は国境を越えて規制の対象となる可能性があります。
グレーゾーンへの対応
法的に未知の領域である他の市場と同様、NFTのもつ「斬新さ」は、マーケットプレイス、個人出品者、オークションハウスにどのような規制が適用されるかについて、明確な答えがまだないことを意味します。近年、古物、美術品、仮想資産に関するグローバルな規制が拡大するなか、この新技術は既存の枠組みの中に押し込められる危険性があります。
残念なことに、このような混乱は「規制強化」によって解決されることが多く、市場参加者が意味のあるガイダンス受け取るのは、それが手遅れになってからの可能性があります。
このような先行きの不透明性に直面し、コンプライアンス違反という高いコストを考慮すると、NFT市場参加者は、自らの活動が問題視された場合に備えて、事前の対策と適切な防御策を検討することが賢明だといえるでしょう。