韓国のミュージックシーンに広まるNFT
K-POP界のスーパースターであるBrave Girls、Se7en、A.C.E.などが、流行に乗ってNFTを販売しています。ファンはそれを買っているのでしょうか?
NFTが、アジアのアートシーンを揺るがしています。エンターテインメント業界、特に韓国では、その巨大で忠実なファンベースを活用して、NFTの世界に参入しようとする動きが見られます。
2PMやTWICEなどの、K-POPアーティストが所属する韓国の4大エンターテイメント・コングロマリットのひとつであるJYPエンターテインメントは、先日、ブロックチェーン企業のDunamuと提携し、K-POPに特化したNFTプラットフォームを立ち上げる計画を発表しました。
K-POPを代表するアイドルグループBrave Girlsは、先月、アップビットと提携し、カムバックに合わせて限定版のNFTを発売しました。独自のNFTを立ち上げるミュージシャンや、エンターテイナーが増えてきています。約2年半の活動休止期間を経て、先月初のシングルをリリースしたK-POPスターのSE7ENも、その仲間入りしました。
NFTとは
「Non-Fungible Token」の略称で、代替不可能で固有の価値を持つデジタルトークンのこと。ブロックチェーンゲームのアイテムやキャラクター、またデジタルアート作品など、幅広く活用されている。
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急成長を見せるK-POP
K-POPは、もともとは韓国のポップミュージックでした。しかし、そのサブカルチャーは、世界のメインストリームのひとつとして見られようになりつつあります。
韓国のコンテンツ産業の振興を統括する、政府機関である韓国コンテンツ振興院の報告書によると、韓国のエンターテインメント産業の海外市場規模(輸出ベース)は、2015年の57億ドル(約6,255億円)から2019年には100億ドル(約1兆円)へと4年間で倍増しました。
K-POPグループは、世界中の熱狂的なファンに支えられて、ソーシャルメディアのトレンドを完全に支配しています。
K-POPのファンは、ソーシャルメディアに精通している人が多く、ツイッターなども使いこなしています。ワシントン・ポスト紙の最近のレポートによると、K-POPに関連するツイート数は、2011年6月までの1年間で、510万件から75億件に増加しました。
グローバルでも衰えぬ勢い
世界の音楽市場では、アルバムの売上高が全体的に減少しています。しかし、K-POP業界は苦戦している様子はなく、現在でもアルバムの販売を、収益の中心としています。
国際レコード産業連盟が3月に発表したグローバル・ミュージック・レポートによると、2020年は「K-POPにとって記録的な年」だったとしています。K-POPが韓国の音楽記録売上高を44.8%増加させ、昨年最も成長した主要音楽市場としての地位を確立しました。
韓国関税庁のデータによると、2020年の1~11月の間に、韓国のアルバムおよび、音楽DVDの販売額は1億7,100万ドル(約188億円)に達し、2019年通年に記録した9,325万ドル(約100億円)の約2倍となりました。
2020年1月から11月にかけて、日本はK-POPのアルバムを5,990万ドル(約66億円)相当輸入し、世界最大の輸入国となりました。2位はアメリカで1,700万ドル(約19億円)、3位は中国で1,550万ドル(約17億円)、4位は台湾の710万ドルの(約8億円)となっています。
K-POPは世界を席巻しています。2013年にデビューした7人組のボーイズバンドBTSは、このジャンルで最も成功したアーティストです。BTSの所属する韓国の上場企業であるHYBEは、先週発表した最新の業績報告書によると、今年の第2四半期の売上高は前年同期比79.2%増の2,786億ウォン(2億4400万ドル、約267億円)、純利益は同9.9%増の208億ウォンでした。
K-POPファンの反応
彼らのファンは、自分がフォローしているグループの成功のための投資を惜しみません。そのため、アルバムやグッズを手に入れたり、コンサートに参加したりするために、多額のお金を払います。
昨年、コロナウイルスが発生したとき、K-POP業界は即座に対応しましました。潜在的な損失を補うために、バーチャル化を積極的に取り入れました。そして、エンターテインメント企業は、コンサートやファンミーティング、その他のファンイベントをオンライン化しました。
その結果、パンデミックにもかかわらず、HYBEの昨年の売上高は前年比36%増の7,963億ウォン(7億ドル、約765億円)、純利益は19%増の862億ウォン(約83億円)となりました(2020年の年次報告書より)。また、昨年の商品・ライセンス事業の収益は53%増となっています。
NFTへの参入を計画しているJYPエンターテインメントは昨年、総売上高が1,444億ウォン(1億3,000万ドル、約142億円)を記録し、前年比7.1%減となりました。アルバムおよびデジタルコンテンツ事業で得られた収益は31.2%増となったことが、同社の決算報告書で明らかになりました。その純利益は、2019年の313億ウォン(約30億円)から昨年は295億ウォン(約28億円)に縮小しました。
NFTがもたらすファンとしての新しい楽しみ
K-POPファンの間でNFTは、デジタル・コレクターズアイテムとしてすでにひろまっていて、ファンはNFTの交換を楽しんでいます。メンバーのトレカは、数ドルから数百ドルで購入したり、交換したり、売られたりしています。レアカードは、500ドルでトレードされている、というツイートもあります。
さらにNFTは、ファンがこのようなトレードを、オンライン上でできる場所を提供することができます。カードを所有することや、オーナーになれることが、K-POPファンがNFTに夢中になる要因のひとつです。
NFTは、デジタルの所有権をトレードします。そのデジタルアートの作品は、オープンなデジタル市場に存在するものです。しかし、所有権がブロックチェーンを通じて記録されています。すなわち所有者は、自分がそのNFTの所有権をもっていることを証明できるのです。
ファンがアイドルに対して抱く感情的な愛着が、NFTの人気に強く反映するとJYPは考えています。ファンはNFTで所有権を手に入れることによって、独占欲を満たすことができるのです。この感情をゆさぶるこのできるすばらしい仕組みに、JYPは着目しています。
NFTの販売は、現状のK-POPマーチャンダイジングのモデルにも似ています。多くのファンは、できるだけ多くの物理的なアルバムを購入し、アルバムに付属するフォトカードを集めます。そして抽選によって、ファンサイン会のようなイベントに参加するチャンスを手に入れることができます。
彼らがファンにとって、とても重要な存在であり、激動する世界の中で、本当に安全な避難所のような存在であるならば、ファンはそれにお金を使うことを惜しみません。彼らは、自分の入札が一番高い値段なら、NFTの独占権を手に入れられ、アイドルと会えるチャンスを手にすることができるのです。こういったNFTと連動したビジネスモデルは、現在の激動の世界だからこそ成立するのです。
テクノロジーの進化がファンの欲望をみたす
世界的な人気を誇るK-POPのボーイズバンド、A.C.Eが、4月にNFTのマーチドロップを発表しました。しかし、NFTにまつわる電力消費の問題で、多くのファンには不評におわりました。また、パフォーマンスレベルでも、イノベーションを起こそうという動きがあります。K-POP業界を考える上で、これはとても重要なことです。比較的規模の小さい会社A.C.Eが、彼らのNFTを扱っている理由は、そこにあります。
技術革新は、K-POP業界が積極的に行ってきたことであり、韓国政府もそれを奨励してきました。韓国政府は、韓国の魅力を世界の消費者に伝えるという、ソフトパワーとして、また、技術革新を世界にプロモーションするために、大金を投じています。韓国は、革新するダイナミックな国です。
K-POPの4大エージェンシーであるHYBE、JYP、SM、YGは、新しい形の技術的進歩への投資を競っています。K-POPの制作会社が、非常に大きな投資をしていることのひとつに、革新のシナリオがあります。K-POPは、自らを最先端の存在として位置づけています。主要な制作会社は、自分たちが最先端であることを示すために競争しています。
パンデミックが世界を襲う中、大手エンターテインメント企業は、ファンにユニークなバーチャル体験を提供することで、いかにテクノロジーに精通しているかをデモンストレーションしていました。
例えば、13人組の人気ボーイズバンドSEVENTEENは、オンラインファンミーティングを、米国のハイテク企業Kisweが提供する、マルチビューストリーミングシステムを使って、ライブストリーミングしました。 このシステムでは、ファンは複数のカメラで、バンドのメンバーを撮影して楽しむことができます。つまり、オフラインのコンサートでは実現できない、14番目メンバーのポジションからコンサートを楽しむことができたのです。
その革新的な取り組みから、JYPがNFTへの進出を計画していることは、多くの人にとって驚きではありませんでした。
難色を示すK-POPファンも
K-POP業界が、NFTのアイデアを積極的に取り入れている一方で、すべてのファンがこの新しい技術をよろこんでいるわけではありません。控えめに言っても、ファンからの評判はあまりよくありません。これは私たちが望んでいるものではない、という声も多く存在します。彼らが求めているものは新しい音楽であり、アイドルは利用されているのではないか、とさえ彼らはいいます。
NFTのデジタル性は、物理的な体験を好むファンを遠ざける可能性もあります。
マーチャンダイジングでK-POPを応援するなら、服やアルバムなど、形に残るものを好むファンも多いのが現状です。NFTにはまったく興味がないファンも多いです。
JYPは熱狂的なファンを持つK-POP企業なので、NFTの独占性をうまく活し、こういった問題を解決することができる可能性もあります。しかし、NFTに興味のないK-POPのファンは、すでにある現状のコンテンツで十分に満足しています。そして彼らにとっては、NFTの力をかりなくても、十分魅力的なK-POPアイドルが、すでにたくさんいるのです。
そんなファンには、JYPは今後数年以内に需要があるとは思えないものを、必死に開拓しようとしているように見えています。