コスモスとは
2008年にビットコイン(BTC)の論文が発表されて以来、イーサリアム(ETH)やXRP(リップル)など数多くの暗号資産(仮想通貨)が誕生しました。新しいブロックチェーンが開発され、ビットコインに似た特徴を持つ銘柄や、ビットコインの課題解決を目指す銘柄など、現在でも様々な仮想通貨が作られています。
その後、仮想通貨の基盤であるブロックチェーンは、データの改ざんが事実上不可能であることや仲介者が不要であることなどの特長が評価され、金融領域だけでなくサプライチェーンやゲーム、アート等の分野でも技術が応用されるようになりました。
しかし一方で、まだブロックチェーンには課題もあります。その中の1つが「相互運用性」です。例えば、ビットコインとイーサリアムのブロックチェーン間で、直接仮想通貨を交換することはできません。
この相互運用性に関する課題の解決を目指しているのが、仮想通貨コスモス(ATOM)です。
1. 特徴
1-1. 概要
異なるブロックチェーン間の相互運用性を実現するコスモスは、独立したそれぞれのブロックチェーンが、他のブロックチェーンとデータをやりとりしたり、仮想通貨を送金したりできるように取り組んでいます。
開発を主導しているのは「All in Bits Inc(通称:Tendermint社)」です。同社のジェ・クォン(Jae Kwon)共同創設者は2016年、コスモスのネットワークの特徴について、以下のように説明しました。
例えば、スマートコントラクト機能を持つイーサリアムのブロックチェーンと、匿名性の高い仮想通貨Zcash(ZEC)のブロックチェーンをコスモスにつないだとしましょう。
そうすれば、Zcashのブロックチェーンを介すことで、イーサリアムネットワーク上の仮想通貨を送金する際に、匿名性を高めることができます。
コスモスが目指しているのは「Internet of Blockchains(ブロックチェーンのインターネット)」の構築です。異なるブロックチェーンが、分散型の仕組みでお互いに通信できるネットワークを「ブロックチェーンのインターネット」と表現しています。
1-2. 名称の使い分け
コスモスのネットワークでは、コスモス本体のブロックチェーンのことを「Cosmos Hub(コスモスハブ)」と呼んでいます。また、コスモスハブはコードネームを用いて「Gaia(ガイア)」と呼ばれることもありますが、本記事ではコスモスハブで統一します。
そして、各ブロックチェーンが集まるネットワークを「Cosmos network(コスモスネットワーク)」と呼び、コスモスハブで利用される仮想通貨を「ATOM」と称しています。
1-3. 構造
異なるブロックチェーンの相互運用を実現するコスモスネットワークは、小さい単位で見ると以下のような構造になっています。異なるブロックチェーンをまとめ、中心的な役割を果たすブロックチェーンを「Hub」。そこに接続される、各目的に特化したそれぞれのブロックチェーンが「Zone」です。
コスモスネットワークでは「Inter-Blockchain Communication protocol(IBC)」という規格で通信が行われています。IBCはIT用語で「プロトコル」と呼ばれ、一般的にプロトコルは「規格」や「手順」という意味で使われます。
IBCという通信の規格を定めることでルールを統一し、コスモスネットワークでは、異なるブロックチェーンで仮想通貨を送信しあったりすることができるようになっています。
なお、コスモスネットワークの正確な定義は、「コスモスハブに接続されたネットワーク」ではなく、「IBCに対応したブロックチェーンの集合体」です。
次に、コスモスネットワークをもう少し大きく見てみましょう。
上記の画像を見ていただくと分かるように、コスモスネットワークでは、Hubは1つではありません。IBCの中継点でもあるHubを複数含むことができます。例として、左の「Hub1」にはビットコインやイーサリアムのブロックチェーンも接続されています。
ATOM送金の流れ
本項目の最後に、IBCが異なるブロックチェーン間で仮想通貨の送金をどのように実行するのかをおおまかに見ておきましょう。
今回はブロックチェーンA(以下、A)にあるアカウントが所有する10枚のATOMを、ブロックチェーンB(以下、B)に送金すると仮定します。
1. まず、AにあるATOMを実際に送金するのではなく、処理として最初にAで10ATOMをロックして使えないようにします。コスモスのプロジェクトでは、この行為を「Bonding」と呼びます。
2. 次に、Aで10ATOMがロックされていることの証明をBに送ります。
3. その証明がBで確認・承認されれば、10ATOM分の証票を意味する「Voucher」がBで発行されます。BではそのVoucherを「10ATOM」として使用します。
もちろん、Voucherは本物のATOMではありません。AのATOMのロックを解除する際も、同様の流れになります。
1-4. 開発ツール
コスモスネットワークに接続するためのブロックチェーンを効率的に作るために、オープンソースのツールが用意されています。IBCもツールの1つに含まれますが、それ以外に開発キットの「Cosmos SDK」等があります。
もちろん最初からツールを使って開発を行えば、コスモスネットワーク向けのブロックチェーンを効率的に作ることが可能です。Cosmos SDKを使えば、イーサリアムと完全な互換性を持つコスモス向けのブロックチェーン「Ethermint」を作ることもできます。
しかし、もっと早くに誕生したビットコインやイーサリアムのブロックチェーンは当然、コスモスネットワーク用のツールで作られていません。
そういった場合には、2つのブロックチェーンをつなぐ「Peg-Zone」というブロックチェーンを利用します。コスモスネットワークはPeg-Zoneを用いることで、あらゆるブロックチェーンを接続できる仕組みになっています。
このように、仮想通貨の名称として使われる「コスモス」という言葉は、様々な部分に使われています。一概にコスモスとだけ言っても、何を指しているのかが伝わらない場合もあります。
一般的には、上述した「コスモスハブ」、「コスモスネットワーク」、「ATOM」、「Cosmos SDK」をまとめた総称が「コスモス」だとされています。
2. 仮想通貨「ATOM」
異なるブロックチェーンが接続されるコスモスネットワークでは、ビットコインやイーサリアムなど複数の仮想通貨が利用されることになりますが、コスモスハブのネイティブ通貨は「ATOM」です。
コスモスネットワークではATOMを以下の3つに使用します。
2-1. 手数料の支払い
手数料の支払いでの使用は、イーサリアムの「ガス代」と同じです。コスモスハブは、容易に迷惑行為を行えようにするためにトランザクションに必要な手数料を支払う仕組みを導入しており、その支払いをATOMで行ってもらうようにしています。
2-2. ステーキング
「ステーキング」は、ブロック承認の報酬を得るためにATOMを保有する行為を指します。コスモスハブが採用するコンセンサスの仕組みは「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」です。
ブロックの承認を他の人に委任する(=Delegate)こともできるため「デリゲーテッド・プルーフ・オブ・ステーク(DPoS)」と説明されている資料もありますが、公式ウェブサイトではPoSと表記しています。
ブロック承認を行う「バリデータ」がステーク(保有)するATOMが多いほど、ネットワークを攻撃しにくくなり、セキュリティが高まることを意味します。
2-3. ガバナンス
コスモスハブの運営(=ガバナンス)に関して投票を行うためにも、ATOMを保有する必要があります。各種提案に対して発言権を持つために、ユーザーがATOMを保有する仕組みが導入されているのです。
バリデータがブロック承認を行う権利を付与してもらうことができるか、またガバナンス投票で大きな影響力を持てるかは、ステークするATOMの数量によって決まります。この数量は、本人がステークする分と、他の保有者から委任された分の合計によって算出されます。
3. Polkadotとの違い
異なるブロックチェーンの相互運用性を目指しているプロジェクトは、コスモス以外にもあります。よくコスモスのプロジェクトと比較されるのが、仮想通貨ポルカドット(Polkadot:DOT)のプロジェクトです。
ポルカドットのプロジェクトも異なるブロックチェーンを接続して相互運用性を目指しています。ポルカドットの詳しい説明は以下の記事にまとめてあります。
関連:初心者でもわかるPolkadot(ポルカドット)|仕組みと将来性を解説
本記事では主に、両プロジェクトとの比較を以下の4点に絞って行なっていきます。
3-1. 開発キット
コスモスのプロジェクトにはCosmos SDKという開発キットがあると上述しましたが、ポルカドットには「Substrate(サブストレート)」という開発キットが用意されています。
コスモスの場合と同様に、サブストレートを使用することによって、開発者はポルカドットに接続するためのブロックチェーンを効率的に作ることが可能です。
3-2. 通信方法
次に通信方法ですが、コスモスネットワークではIBCという規格があることは上述しました。コスモスネットワークではIBCによって、ブロックチェーン同士が「対等」に通信を行なっています。
一方でポルカドットの場合は「対等」ではなく、ブロックチェーンが親チェーンと子チェーンに分類されています。親チェーンが子チェーンの通信をサポートする仕組みになっており、サポートする代わりに子チェーンの情報を親チェーンが汲み取っていくことで情報のやりとりが行われます。
コスモスの通信は「対等」、ポルカドットの通信は「親子関係」であることが大きな違いです。
3-3. ハブの役割
続いて、ネットワークで中心的な役割を果たす「ハブ」についてです。
上述した通り、コスモスネットワークはコスモスハブの周りにできたネットワークではなく、厳密にはIBCの通信が行われるネットワークのことです。そのため、「コスモスハブ」のブロックチェーンがなくなっても、利便性は失われますが、コスモスネットワークがなくなることはありません。その理由は、ハブがなくてもブロックチェーンがIBCで通信を続けることができるからです。
一方でポルカドットは、中心的な役割を果たす「親チェーン」がなくなると、そこにつながる子チェーンの相互運用性は全て機能しなくなります。ポルカドットに接続する個別の子チェーンは「Parachain(パラチェーン)」と呼ばれ、そのパラチェーンが接続する親チェーンは「Relay Chain(リレーチェーン)」という名称です。
ポルカドットの構造は以下のようになっていますが、中心となるチェーンがなくなった場合に相互運用できるネットワークを維持することができるかが、両者の大きな違いです。
3-4. シェアードセキュリティ
最後の比較はシェアードセキュリティです。「シェアード(shared)」という英単語は「共有された」といった意味で、「シェアードセキュリティ」はセキュリティの機能を共有することを指しています。
ポルカドットでは、悪意を持ったノードが多数派を占め、ブロックチェーンを乗っ取ってしまう「51%攻撃」などに対策を講じるため、子チェーンのセキュリティを親チェーンが担保する仕組みが導入されています。ポルカドットでは通信だけではなく、セキュリティも親チェーンが子チェーンをサポートしているのです。
一方、上述した通り、コスモスネットワークのブロックチェーンは対等な関係のため、セキュリティにあたる「ブロックの検証」を各ブロックチェーン独自のノードが行います。
ポルカドットはこの検証も親チェーンに委託しているところが両者の大きな違いです。シェアードセキュリティには、子チェーンを作る際、セキュリティ機能の開発に時間やコストをかけなくていいというメリットがあります。
しかし、実はこの違いはあくまでデフォルト(初期設定)における違いです。オプションとして、コスモスのブロックチェーンは親チェーンのようなブロックチェーンにブロック検証を委託することも選択できますし、ポルカドットに接続するブロックチェーンも、独自のノードがブロック検証を行うかを選べるようになっています。
つまり、初期設定が違うだけで、セキュリティについては、どちらも同様の方法を選択できるようになっているということです。
3-5. まとめ
以前はコスモスとポルカドットは競合するプロジェクトであるとの見方もありましたが、両者のブロックチェーンが連携できるように開発が進められており、すでに通信に成功した事例も確認されています。
現在では、コスモスとポルカドットのプロジェクトは競合関係ではなく、共創関係だと言われています。
関連:PolkadotとCosmos、ブロックチェーン間の相互運用を目指す2つのプロジェクトがテストネットで接続に成功
4.コスモスの歴史とロードマップ
4-1. 歴史
コスモスの歴史の始まりは、2014年の「Tendermint」の開発であるとされています。Tendermintとは「中央管理者のいないネットワークで合意を取るための方法」を指します。
Tendermintの機能を使用することによって、ブロックチェーンを開発することが可能になり、Tendermintを使用するブロックチェーン同士をつなげようという発想が、コスモスのプロジェクトの原点です。
その後、その発想にもとづいて2016年にホワイトペーパー(事業計画書)を発表。コスモスの開発に携わる「Internetchain Foundation(ICF)」という財団が同年に創設されました。
2017年にはICFがICO(イニシャル・コイン・オファリング)を実施。およそ1,700万ドル(約19億円)の資金調達に成功しています。
その2年後の2019年にコスモスハブをローンチ。2021年3月にはIBCの機能が有効化されたというのが、コスモスのおおまかな歴史です。
イーサリアムなどのスマートコントラクト機能を持つブロックチェーンでは、処理が滞る「スケーラビリティ問題」が起きやすいこと、またプラットフォームが集権化してしまう可能性があるという課題を解決するために、コスモスのプロジェクトは開発を始めました。
スマートコントラクトのブロックチェーン上に分散型アプリ(dApps)を構築するのではなく、dAppsがそれぞれ独自のブロックチェーンを持ち、そのブロックチェーン同士を接続するというのがコスモスのアプローチです。
4-2. ロードマップ
コスモスのプロジェクトについては、今後の計画表として「The Cosmos Hub Roadmap2.0」が発表されています。2021年4Q(10月から12月)以降の主な計画は以下の通りです。
2021年4Q:Theta Upgrade
2021年4Qのアップグレード「Theta Upgrade」のメインは、イーサリアムのブロックチェーンとをつなぐ「Gravity Bridge」のローンチです。
主に、ATOMやイーサリアム、またイーサリアムブロックチェーンの規格「ERC-20」で発行されるトークンを、互換性のあるブロックチェーン間で相互に送金できるようにします。
2021年1Q:Rho Upgrade
2021年1Q(1月から3月)の「Rho Upgrade」では、シェアードセキュリティのためのソリューション「Interchain Security v0」のローンチや、Cosmos SDKなどのツールのアップグレードが計画されています。
また、この時期にNFT(非代替性トークン)の機能を追加。NFTの所有者や関連する日付等の管理を容易に行えるようにしたり、マーケットプレイスやカストディに関する機能をローンチしたりする予定です。
2021年2Q:Lambda Upgrade
2021年2Q(4月から6月)の「Lambda Upgrade」では、Interchain SecurityやCosmos SDKなどのアップデートが行われるほか、トークン発行に関する機能のローンチが計画されています。
また、「Staking derivatives(ステーキング・デリバティブ)」といって、ブロック承認を委任するためにロックしているATOMを、DeFiの貸付やスワップ(交換)などの担保として、コスモスのエコシステムで利用できる機能のローンチも計画されています。
明確にアップグレードの名称がついているのはLambda Upgradeまでで、その後の計画は、以下のように簡潔に列挙だけされています。
- IBCに非対応のブロックチェーンとの接続
- Atomic Exchange(アトミック・エクスチェンジ)
- 分散型ID(DID)
- プライバシー機能
- Virtual machines(仮想マシン)
- スマートコントラクト言語
- ゼロ知識証明や「Optimistic Rollup」の技術
5. ユースケース
今まで述べてきた通り、コスモスは他のブロックチェーンとの相互運用が可能だったり、開発キットが用意されていたりすることから、数多くのアプリやサービスがコスモスのエコシステムに誕生しています。コスモスの公式サイトによると、現時点で256のアプリやサービスがエコシステムに構築されているそうです。
コスモスのユースケースでよく知られているのが、大手仮想通貨取引所バイナンスによる利用です。一例として、バイナンスの独自ブロックチェーン「バイナンスチェーン」はCosmos SDKとTendermintを基盤にしています。
その他にも様々なプロジェクトが、分散型取引所(DEX)やゲーム、音楽などのサービスを開発。特にDEXに関しては、「Gravity DEX」という、IBCを活用した規格が用意されています。
Gravity DEXは本格運用に向けて開発の途上ですが、手数料の高騰や流動性の枯渇といった従来のDEXが抱える課題を解決できると期待が高まっています。
また、2021年10月にはプロジェクトの進捗状況について最新報告を行っており、ブロックチェーンゲーム会社「Forte」との提携も発表しました。
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それ以外のユースケースとしては2020年3月、トヨタファイナンシャルサービスとDatachainという企業が、車両の「価値証明」と「所有権移転」に係る実証実験で、コスモスの技術を活用したことを発表しています。
この実証実験では、自動車の二次流通市場における車両価値の算出や、車両の所有権移転の際に、ブロックチェーンを用いたデータ連携を活用することの有用性を検証。その際、DatachainがTendermintをベースにして開発したブロックチェーン「Hypermint」が利用されました。
6. 国内で取り扱っている取引所
日本国内では、7月14日に暗号資産取引所GMOコインが、国内で初めてコスモス(ATOM)の取扱開始を発表しました。GMOコインでは、「販売所」「つみたて暗号資産」「貸暗号資産」の3サービスを利用することで、ユーザーはコスモスを入手・取引できます。
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