市場に大きな変動を与える米雇用統計。米雇用統計は各国の経済指標に比べると重要度が高く、注目される指標です。
FX取引でも、米雇用統計の発表後に大きく為替が変動するため、理解しておく必要があります。本記事では、米雇用統計の概要と注目される項目、発表直後に取引する際の注意点を見ていきましょう。
- 目次
1.米雇用統計は前月の雇用情勢・失業率などの統計データ
ここからは、米雇用統計について解説します。
1-1.米雇用統計の概要
米雇用統計とは、米国の雇用者数や失業者数の雇用情勢を表した重要な指標の1つです。アメリカ合衆国労働省労働統計局(U.S. Bureau of Labor Statistics:BLS)から原則、毎月第1金曜に発表されます。米雇用統計が発表される時間は、以下の通りです。
- 夏時間:日本時間21:30
- 冬時間:日本時間22:30
夏時間と冬時間によって発表時間が異なるため、現地時間を確認しておきましょう。
1-2.なぜ米雇用統計は注目を集めるか
米雇用統計が注目を集める理由は、それが米国経済の将来性を判断する指標として極めて重視されているからです。まず、米国国内の個人消費は同国GDPの約7割を占めています。そのため、国民による個人消費の増減は米国経済において非常に重要な要素と言えるでしょう。そして個人消費の増減、すなわち国民の経済事情は雇用情勢に大きく依存しています。
また、米国のGDPは世界全体のGDPのうち約2割を占めており、米ドルは世界経済の原動力である石油の取引に用いられ、かつ世界で最も貿易の決済に使用されています。このように米国経済は現代世界経済の屋台骨とも言え、その影響力の大きさも注目される一因です。
加えて、米国中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board:FRB)が政策金利を決定する際に、雇用統計を参照していると言われています。まず、一般的にFRBは景気が良好だと政策金利の引き上げ、景気悪化がみられると政策金利の引き下げを行う傾向です。政策金利によって、為替市場を含めた多くの市場が影響を受けるため、米雇用統計は投資家からも注目を集めます。
1-3.ADP雇用統計と米雇用統計との違い
ADP雇用統計とは、アメリカの大手給与計算代行サービス会社であるオートマティック・データ・プロセッシング社(Automatic Data Processing:ADP)によって米雇用統計発表日の2営業日前に公表される民間の雇用統計データです。
なお、ADP雇用統計はADP社が保有している顧客データによる統計であり、米雇用統計はサンプルデータが異なるため結果が一致するとは限らない点に注意しましょう。
ただし、ADP雇用統計と米国雇用統計が一致する場合は相場が小さく動き、大きく乖離している場合には相場が大きく動く傾向があるとされており、相場の動きを予測するために両統計の差を確認する投資家も存在します。
2.米雇用統計で注目される4項目
ここからは、米雇用統計で注目される4項目を解説します。
2-1.非農業部門における雇用者数(Non-FarmPayrolls)
非農業部門における雇用者数とは、その名の通り農業部門以外の産業で、民間企業や政府に雇用されている人数の増減をまとめたもので、特に重視される指標の一つです。
基本的に前月比でどの程度の増減があったかが重視され、雇用者数が増加すれば、個人消費の拡大に期待できます。民間企業・公共機関が提供する給与支払い帳簿から集計され、失業率よりも早く雇用動向を反映するとされています。特に、雇用情勢を知る指標として「製造業」の雇用者数が注目される傾向です。
2-2.平均時給(Average Hourly Earnings)
平均時給は、農業部門以外での産業における1時間あたりの平均時給と、その増減を表したものです。時給を確認すると人件費の推移が分かり、景気を判断する材料となります。平均時給が上がると個人消費の拡大につながると言われています。
2-3.失業率(Unemployment Rate)
米雇用統計において失業率は、米国の失業者数を労働人口で割って、増減と割合を求めた数値を指します。失業者数は16歳以上の働く意思を持つ人、労働人口は「就業者数」と「失業者数」を合計した数です。なお、集計から過去4週間以内に求職活動を行わなかった人は「失業者」には該当しません。
失業率が下がれば個人消費は増加し、失業率が上がれば個人消費は減少する傾向があるため、景気の動向を確認できます。
2-4.その他の外部要因
米雇用統計の発表日には、米国の金融政策に関する発言や、米国の政治情勢に関するニュースなどが同時に発表されるケースがあります。これらの外部要因についても、相場に影響を与えるため注意を払わなければなりません。
3.米雇用統計に影響を与える市場3項目
続いては、米雇用統計に影響を与える市場3項目を解説します。
3-1.外国為替
円や米ドルなど異なる通貨を交換する外国為替市場では、雇用統計の発表により米国通貨である米ドルの価格が変動します。
基本的に雇用統計が改善されると、政策金利の引き上げに伴い市場金利も上がり、高金利のドルが買われやすくなるためドル高になる傾向です。一方で雇用統計が悪化して政策金利が引き下げられると、ドルを手放す投資家が増加してドル安相場を招くことがあります。
特に価格変動に影響を与えるのが、雇用統計の「非農業部門雇用者数」。この指標は事前予想と結果が大きく乖離することも少なくなく、その乖離が大きいほど大きな相場変動を招く傾向にあります。逆に予想通りの結果であった場合、相場変動への影響が少ない場合が多いです。
なお、FX取引におけるドル円ペアも、米雇用統計発表直後に大きく変動することが多い関係から、発表日は取引高が増加する傾向にあります。
3-2.株式
米雇用統計は、投資家同士で発行済みの株式を売買する流通市場の株式に影響します。
例えば、雇用者数が多い・失業率が低いなど、米雇用統計の内容が事前予想よりも良い状態なら一般的に株価の上昇要因となる傾向です。一方、予想より雇用統計の内容が悪い場合は株価の下落要因となる可能性があります。
こういった傾向が生まれるのは、雇用統計が米国における景気動向を表していることが主な要因です。景気が良ければ消費が増え、企業は売り上げを伸ばして業績を向上させやすいため株価が上昇し易くなります。一方で景気の悪化は消費の減少を招き、それが企業価値の低下と株価の下落要因となる、という仕組みです。
3-3.金利
この場合、金利は各国の中央銀行が景気や物価の安定を目的として設定する「短期金利」を指します。
米雇用統計が改善され景気が加熱していると判断されると、政策金利は引き上げられるケースが多い一方で、雇用統計が悪化して景気が悪いと判断されると、政策金利は引き下げられる傾向です。なお、政策金利の引き上げは「金融引き締め」、引き下げは「金融緩和」と呼ばれます。
4.米雇用統計の発表前後の市場の動き
ここからは、米雇用統計の発表前後の特徴的な市場の動きを解説します。
4-1.発表前:穏やかな動きをする傾向
米雇用統計の発表前は、投資家が状況をうかがって売買を控え、市場は穏やかな動きをする傾向にあります。投資家の中には取引を抑え、保有しているポジションを決済して現金化する人も少なくありません。
4-2.発表直後:相場が乱高下する傾向
発表直後は、短期間で相場が乱高下することが珍しくありません。特に、事前の予想値と統計の発表内容に大きな乖離があった場合、値動きが激しくなります。値動きの激しさによって注文の約定に時間がかかり、取引が成立しないケースもあるでしょう。
また、予想値と統計結果が乖離していなくても、売買注文を控えていた投資家が動き出し、普段の値動きより激しい動きになる可能性も考えられます。
4-3.発表後:通常に比べると変動が激しくなる傾向
発表からしばらく経っても市場の調整が続くため、通常時に比べると値動きが大きくなります。相場の状況によっては、日付が変わっても価格変動リスクが通常と異なる場合も多いので、取引時は入念に相場をチェックしましょう。
5.米雇用統計前後に取引する際の注意点3つ
ここからは、米雇用統計直後に取引する際の注意点を解説します。
5-1.取引時は十分なリスク管理を
発表直後のように乱高下する相場では、リスク管理をしましょう。大きな利益を手に入れられる反面、大きな損失を抱えることも珍しくありません。自分の予想していた内容と雇用統計が大きく異なることもあるでしょう。発表直後は無理に取引をせず、損切りのラインを決めておくことをおすすめします。
5-2.市場の動きとの整合性がないケースに注意
市場の動きと米雇用統計に、必ず整合性があるとは限りません。たとえば、前月に米雇用統計が悪化し株価が下落していたとして、今月も悪化したにもかかわらず株価が上昇する可能性も考えられます。米雇用統計の結果はあくまで傾向であり、その他の外部要因やテクニカル分析をもとに、自分の目で相場の動きを追うことが大切です。
5-3.保有ポジションをあらかじめ把握
米雇用統計の発表前に、必ず保有ポジションを把握しましょう。発表後に相場の乱高化によって、ロスカットされる可能性があります。リスク管理のため、発表に備えて保有ポジションを保持・決済するか考えましょう。
6.米雇用統計は重要指標の1つ|上手に利用して取引に活用
本記事では、米雇用統計や発表後に取引する際の注意点を解説しました。米雇用統計によって政策金利が変動し、外国為替や株式の値動きに影響を与えます。発表前後には大きな為替の変動があるため、リスク管理を徹底することが大切です。米雇用統計の動きをうまく活用すると、取引の判断ミスを減らせるでしょう。