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2023年のデジタル証券市場の動向と将来展望 デジタル証券特集②

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

急成長中のデジタル証券市場

デジタル証券、またはセキュリティトークン(ST)市場は、新たな金融市場を形成しつつあります。しかし、2023年10月の時点では、STの主な取引はSBI証券や野村證券のような証券会社の中で行われており、一般の流通(セカンダリー)市場はまだ存在していません。

とはいえ、デジタル証券の流通市場も徐々に整いつつあります。金融商品にとって、発行市場と流通市場は、まるで自転車の前輪と後輪のような関係性があります。デジタル証券を購入しても、それを売買する流動性が低ければ、購入を検討する投資家は少なくなります。STの取引が容易になることで、その発行もスムーズに進められ、市場のさらなる拡大が期待されます。

この記事では、今後のデジタル証券(ST)の取引環境の展望について、詳しくご紹介します。

目次

  1. ST発行市場の現状と将来
  2. 主要なST発行基盤の一覧と特徴
  3. ST流通市場の展望
  4. 大阪エクスチェンジの役割と特徴
  5. PTSの利点と進化
  6. ステーブルコインとウォレットの展開へ

1.ST発行市場の現状と将来

出典:Progmat

日本のデジタル証券(ST: Security Token)市場は、2020年の立ち上げから2023年6月までの3年間で急成長を遂げています。特に不動産関連のSTが市場規模を牽引しており、三菱UFJ信託銀行によると2023年6月時点にSTの運用残高は680億円に上ります。

ST発行市場の将来展望

出典:Progmat

市場規模の見通しにおいて、2032年度には不動産STの市場が大きく伸びることが予想されます。2022年度(22年4月1日~23年3月31日)の不動産STの市場規模は400億円超で、これはJ-REITや私募ファンド等との合計の1%未満ですが、2032年度にはその規模が2.6兆円となり、同合計の5%を占めることが見込まれます。

2.主要なST発行基盤の一覧と特徴

出典:STO協会のデータに基づきCoinPost作成

国内のST市場では、いくつかの主要な発行基盤が活動しており、それぞれが企業と協力して新たなプロジェクトを推進しています。主に「Progmat」と「ibet for fin」が調達規模や案件数共に中心となっています。

Progmat: 三菱グループが主導して開発したプライベート型ブロックチェーン基盤で、不動産STの発行において11件(シェア90%)を手がけ、市場をリードしています。これらの案件の平均利率は約3.9%です。

ibet for fin: 野村ホールディングスと野村総合研究所(NRI)の合弁会社、株式会社BOOSTRYが2019年に立ち上げたコンソーシアム型ブロックチェーン基盤です。23年8月には野村證券が販売を引き受けた、東京都心の超高層レジデンスの不動産ST公募で国内過去最高額の134億円を調達しました。

3.ST流通市場の展望

デジタル証券市場の主流となっているのは「トークン化有価証券」であり、主には不動産投資信託受益証券や社債が中心です。これらの証券は、償還期間までの保有を前提とした利回り商品としての特色が強い傾向があります。

これらの商品は、販売サイドの取り扱いやすさを重視した形で設計されており、1口1,000,000円以上の価格設定が多く見受けられます。このため、STの持つ小口投資の特性が十分に活かされていないのが現状で、その解決策としてST流通市場の整備の重要性が高まっています。

出典:Progmat

2023年10月現在、専用のデジタル証券(ST)取引所は存在していません。STの取引は主に証券会社を介して実施されており、この「相対取引」という形態は、投資家の換金ニーズを十分に満たすものではありません。

今後の展開として、私設取引システム(PTS)がST取引の主力となる見込みです。特に、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は2023年度内にSTの取引を開始する予定であり、これが契機となり、株式市場と同等の取引環境が整備され、STの普及が加速することが期待されています。

  • 参考:発行市場における流通市場の重要性とは
  • 4.大阪エクスチェンジの役割と特徴

    大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は、株式の私設取引システム(PTS)の運営、及び国内初のセキュリティトークン(ST)の取引市場の提供を目的に、2021年4月1日に設立されました。

    2022年6月27日からは「ODX PTS」の運営を開始、国内株式の現物取引とPTS信用取引を提供しています。22年10月時点、SBI証券、エービーエヌ・アムロ・クリアリング証券、立花証券の3社がODX PTSに参加しています。投資家はこれらの証券会社を経由してODX PTSを利用できます。

    SBIHD等、大手金融機関が出資

    大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)には大手金融機関が出資していますが、その多くはこれまで個別にセキュリティトークン社債や、不動産ベースのセキュリティトークンの発行などを試行してきました。

    21年3月にSBI PTS ホールディングス(SBI HD完全子会社)と三井住友フィナンシャルグループの合弁事業として資本金5億円で設立されたODXは、21年11月までに資本金等で計40億円まで増資しました。22年6月時点の出資比率は以下の通りとなっています。

    SBI PTS ホールディングス              70%
    三井住友フィナンシャルグループ              20%
    野村ホールディングス               5%
    大和証券グループ本社               5%

    関連:SBI主導の新PTS市場、大阪デジタルエクスチェンジとは|デジタル証券との関係を徹底解説

    5.PTSの利点と進化

    出典:大阪デジタルエクスチェンジ

    私設取引システム(PTS)は、第一種金融商品取引業者(証券会社)が金融庁の認可を受けて運営する電子取引プラットフォームです。これは、証券取引所と同様に、多くの投資家が株式などの有価証券の売買注文を行うマッチング機能を有しています。

    デジタル証券市場では、PTSの確保により、より柔軟で効率的な取引環境が提供されることが期待されています。市場間の競争が促進され、情報が効率的に流通する健全な市場形成がサポートされる可能性があります。

  • 参考:ODXのロードマップ詳細
  • 6.ステーブルコインとウォレットの展開へ

    出典:Progmat

    デジタル証券取引の世界では、取引の速さと決済の即時性を実現するために、ステーブルコインが注目を浴びています。従来の現金決済の問題をステーブルコインが解決し、資金と証券の流れをスムーズに一体化する考え方が持ち上がっています。

    2023年6月施行の法改正で、金融機関がステーブルコインを使うことが公式に許可されました。2024年には、GMOあおぞらネット銀行が新しいデジタル通貨を発行する予定で、他の大手金融機関も取引での使用を検討中です。

    また、国内のST基盤であるProgmatやibet for finは、さまざまなデジタルアセット(ST、UT、SC)を一括管理するウォレットを提供。これにより、投資家はデジタルウォレットを通じて、多様なトークンを効率的に管理することができます。

    このような動きを背景に、今後は投資家が自身のデジタルウォレットで、様々なトークンを持ち、管理する時代を迎えようとしています。ステーブルコインを活用した新しい資産運用の形が広がりつつあります。

    補足:ODXのロードマップ詳細

    ODXは、最初に通常のマッチング機能とST基盤の連携機能から始める予定です。次の段階、Phase2では、即時清算決済(RTGS:Real Time Gross Settlement)を用いたDVP(Delivery versus Payment)を実現し、カウンターパーティリスクを排除したSTのセカンダリー市場の構築を目指します。更に、ステーブルコインを使用した決済や、スマートコントラクトの活用によって、ポストトレード業務の効率を向上させる計画も進行中です。

    補足:発行市場と流通市場について

    発行市場(プライマリー・マーケット):資金調達を目的として、株式や債券等の有価証券が発行され、それらの有価証券が発行者から直接、または仲介者(証券会社、金融機関等の相対取引)を通じて投資者に第一次取得される市場。

    流通市場(セカンダリー・マーケット):すでに発行された有価証券が第一次市場から、第二次、第三次の投資者に次々と売買され、流通する市場。

    両市場は有機的に結びついており、発行市場にとっては構成で継続的な価格形成と換金の可能性が高い(流動性が高い)流通市場が不可欠です。

    CoinPost デジタル証券特集

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    デジタル証券の法的側面:規制とチャンス デジタル証券の技術的側面:ブロックチェーンとの関連性
    デジタル証券の成功事例、先進企業の取り組みと成果
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