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トークン化預金元年、金融・産業・政策が交差する日本の挑戦|WebX2026

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WebX 2026 | セッションレポート

トークン化預金元年、金融・産業・政策が交差する日本の挑戦

松田 一敬 × 平子 惠生 × 鳩貝 淳一郎

WebX2026のセッション「トークン化預金元年 ― 金融・産業・政策が交差する日本の挑戦」では、財務省・地方銀行系フィンテック・デジタル通貨事業者の3名が登壇し、預金をトークン化してオンチェーン化する意義と実装上の課題について議論した。本セッションはWebXで継続的に開催されているテーマであり、モデレーターを務めた上野直彦氏が進行した。
松田一敬
松田 一敬
Digital Platformer株式会社
代表取締役CEO
ソラミツ共同創業者としてカンボジア中央銀行のデジタル通貨「Bakong」実装に参画。現在はDigital Platformer代表取締役CEOとして、DID/VCやステーブルコインを用いた次世代金融インフラの構築を牽引。慶應義塾大学経済学部卒、INSEADでMBA取得。
平子惠生
平子 惠生
株式会社DCP
代表取締役社長執行役員CEO兼COO
メガバンク入行後、フィンテック企業立ち上げやインドネシア商業銀行取締役などを歴任。2025年DCP副社長執行役員COOを経て、2026年4月より代表取締役社長執行役員CEO兼COOに就任。
鳩貝淳一郎
鳩貝 淳一郎
財務省
デジタル通貨企画官
2002年日本銀行入行。決済機構局フィンテックグループ長などを経て、2025年7月より財務省デジタル通貨企画官。『Web3の未解決問題』など著書多数。
上野直彦
上野 直彦
モデレーター
TOYOTA Blockchain Lab アナリスト
早稲田大学大学院修了。ステーブルコイン、セキュリティトークン、トークン化預金、DeFiなどを研究・実装。

トークン化預金元年、金融・産業・政策が交差する日本の挑戦

モデレーターの上野氏は、CBDCやステーブルコインとの違いを踏まえ、トークン化預金(TD)の可能性と課題について問いかけた。
鳩貝淳一郎氏が話す様子
鳩貝淳一郎
預金は国際送金・国内送金、大口・小口の金融機関間や企業・個人間の送金など、あらゆる領域で機能を発揮しており、民間が発行するお金の中でも信用創造という他にない機能を持つパワフルな存在だと述べた。この預金がオンチェーン化されることは、伝統的な金融機関が担ってきた支払い機能が本格的にオンチェーン化されることを意味し、大きな地殻変動になり得ると指摘。一方で、AML/CFTやKYCといった預金ならではの厳格な対応が求められる大変さもあり、その良さを維持したままオンチェーン化できるかを各社が模索している段階だとの見方を示した。

地方における実践 ― 北國銀行の事例

上野氏は、地方銀行における取り組みが想定以上に進んでいるとした上で、松田氏に北國銀行との「トチカ」の取り組みについて尋ねた。
松田一敬
自身が代表を務めるDigital Platformerが北國銀行と2024年4月にトークン化預金をローンチしたことを紹介。前年の2023年8月には珠洲市でブロックチェーンを活用したデジタル商品券をローンチしていたが、当初は口座数が伸び悩んでいたところ、高市内閣による物価高対策給付金を石川県がトークン化預金のみで支給する施策を実施した結果、口座数は約23万まで増加したと説明。スマートフォンを持たない高齢者や15歳未満を除いた石川県民のうち約3割が利用しており、クスリのアオキやセブンイレブンなど地元の大手チェーン店でも使えるようになっていると紹介した。また、能登半島地震の際にはデジタルウォレットを持っていた避難者が自宅に現金を取りに戻る必要がなく、二次災害の減少につながったとの報告があることにも触れた。
給付金の配布方法についても言及し、石川県の指定金融機関である北國銀行内に県の預金を給付金の仮勘定として置き換える形をとり、受給者側のリスト作成は一切行わなかったと説明。マイナンバーカードの基本4情報をもとにしたVC(検証可能な証明)を口座に紐づけ、口座を開設すれば石川県民であることを示すフラグが立つ仕組みにしたことで、受給者は申請手続きを行うことなく、口座開設の翌日には給付金が振り込まれたと述べた。DID/VCとトークン化預金を組み合わせることで、給付金に限らず給与の支払いなどにも応用できる画期的な事例になったとの認識を示した。

DCJPYの展開とマルチバンク化への課題

続いて上野氏は、平子氏にDCPが手がけるDCJPYの展開について尋ねた。
平子惠生
DCJPYについて、2024年8月にGMOあおぞらネット銀行が法人向けの最初のユースケースとしてローンチし、今年はゆうちょ銀行がリテール向けにも展開、来年にはSBI新生銀行が海外送金などの法人向けサービスで、さらに北陸銀行でもローンチが予定されていると紹介。銀行間送金については技術的には対応可能だとした上で、その裏側にある銀行間決済の清算・ファイナリティの確認が課題になっていると説明。今年4月から金融庁の決済高度化プロジェクト(PIP)でマルチバンクの実証実験が始まり、20数行の銀行が参加してオンチェーン化のメリットを検証していく予定であり、その先には日本銀行の決済(日銀当預)に行き着くとの見通しを示した。
鳩貝淳一郎
預金は個別の銀行の負債であり、それぞれ性質が異なるからこそ相互の交換を担う仕組みが必要になると指摘。銀行同士が個別に契約を結ぶ形と、参加行が増えるにつれて中央にハブとなる主体を置く形の大きく2通りが考えられ、その担い手としては民間のプラットフォーマーや銀行同士の共同体、あるいは日本銀行のような公的機関がバックアップまたは自ら担う形などいくつかの類型があり得るとの考えを示した。日銀総裁がFIN/SUMの場で当座預金のトークン化対応について言及するなど動きがあることに触れ、今後の展開に期待と述べた。

地方創生とトークン化預金

議論は地方銀行が果たすべき役割へと移った。
松田一敬氏が話す様子
松田一敬
相談を受ける地方銀行の多くが直面する課題として地方創生を挙げ、地方でお金を循環させることと、地方から資金が流出しないようにすることの重要性を指摘。相続をきっかけに資金がメガバンクへ移ってしまうことで、地方の資金量や資金循環が減っていくと指摘した上で、各地の地方銀行が発行するトークン化預金であっても、銀行間の資金決済が簡単に行えることが地域創生の観点からも重要な前提条件になるとの考えを示した。
平子惠生
銀行間決済に対応できなければユースケースは限定的になると指摘。地域でお金が循環するだけでなく、地域外の人が地方を訪れた際にも同じトークンで決済できるようになると、地域内での資金循環が銀行の信用創造を通じて地域のために活用される循環が生まれると述べた。
鳩貝淳一郎
日銀に限らず金融庁も含め、こうした動きをバックアップしながら日本全体の金融・決済の底上げを図ることは、海外に伍していくという意味でも重要だとした。国内の地方創生の文脈や、自身が担当するリテールCBDCとも密に関わっているなと感じている。

相互運用性 ― 異なるプラットフォーム間の連携

電子マネーの相互送金という観点から、平子氏がオンチェーン特有の利点に言及した。
平子惠生
異なる電子マネー同士では送金ができないという課題に触れつつ、オンチェーンのネットワークではインターブロックチェーンやクロスチェーンといった技術により、Digital Platformerが手がける地域通貨とDCPのDCJPYのように参加者が異なる取り組み同士であっても、同じブロックチェーン基盤であれば送金が可能になると説明。最終的には銀行預金という共通のフォーマットでつながるため、プラットフォームとしての重要性が増していくとの見方を示した。

AI活用とプログラマビリティ ― 実装の最前線

上野氏は、AIをめぐる取り組みに話題を向けつつ、AIによる攻撃が起きた場合にどうなるかについても話を深めたいと問いかけた。
松田一敬
トークン化預金は銀行の勘定系システムに大きな変更を加えずに構築される仕組みであるため、仮に全銀ネットのようなメインの決済網が停止した場合でも、TD同士のN対N型の取引は継続できる可能性があり、レジリエンスの観点で意義があると説明。加えて、DID/VCの取り組みを通じてAIエージェントが指示を出す際の本人確認や実在証明を担保する必要性に触れ、富士フイルムと共同で学生証・社員証の資格証明の仕組みを開発していることを紹介した。
平子惠生
銀行の既存のレガシーな勘定系システムに対し、API連携によって影響を与えずにオンチェーン金融を行う「第二勘定系」という考え方を紹介。攻撃耐性や耐改ざん性の観点でオンチェーンの優位性を指摘しつつ、必要最低限の決済を維持するバイパスとしての役割にも言及した。あわせて、企業間(B2B)の請求書処理や入出金管理をプログラマビリティとAIによって自動化する取り組みを進めており、実証実験はすでに完了しているとして、今後はERPや会計ソフトベンダーとの連携を通じて中小企業の経理業務削減につなげたいとの考えを示した。
鳩貝淳一郎
レジリエンスと、安定性・拡張性の両立が難しい時代に入っているとの認識を示し、勘定系システムという重要だが改修が難しいシステムを守りながら機能を拡張していく解の一つとして、トークン化預金やステーブルコインへの転換、デジタルバンクの新設などが挙げられるとの考えを述べた。

セッション総括

モデレーターの上野氏は、1年後にあたる2027年夏の決済シーンがどうなっているかを最後に問いかけた。
松田氏は、5年後にはほとんどの日本の地方銀行がトークン化預金を導入し、DID/VCによる資格証明と決済、個々の活動が一体的に紐づく世界になるとの見通しを示した。平子氏は、ほとんどの金融機関がオンチェーン金融に取り組み始めることで、プログラマビリティとAIの活用によって生産性が向上していく未来を実現していきたいと述べた。鳩貝氏は、トークン化預金・ステーブルコイン・CBDCが溶け合い、決済のフリクションが感じられない世界の実現には時間がかかるとしつつ、公的機関としてその実現に取り組んでいきたいと締めくくった。
上野氏は「政策・産業・現場の3つの歯車が今年初めて同時に回り始めた」と語り、1年後にこの日語られた内容が実現していることに期待を寄せてセッションを締めくくった。
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