「ブロックチェーンを国家戦略に」
2月4日の衆議院内閣委員会にて、自民党のデジタル社会推進本部「NFT特別担当」平将明衆議院議員が、暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン、およびNFT(非代替性トークン)をはじめとする「Web3.0」について関係大臣に質問を行い、大きな反響を呼んだ。
今回、CoinPost編集部は平議員にインタビューする機会をいただき、見解を伺った。
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プロジェクトチーム設立の経緯は
ーデジタル社会推進本部でブロックチェーンについての政策議論を行うということですが、まずはプロジェクトチーム設立の経緯について教えてください
自民党は、他の政党と比べてかなり分厚く「デジタル政策」について議論を重ねてきました。その結果、デジタル庁の設立や2021年に成立した「デジタル関連法」に繋がっています。
中心メンバーは、平井議員(前デジタル大臣)です。平井さんの下に自由民主党のデジタル社会推進本部があり、私は本部長代理(No.2)を務めています。
平井さんからは、今年初めての本部会議で「NFT市場をしっかり見て、日本の成長戦略に入れるべきではないか」ということで、私に白羽の矢が立った経緯があります。
指名された1週間後には、日銀出身で政策通の小倉將信議員に事務局長をお願いして、自民党内の「プロジェクトチーム」という形で発足しました。
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ただ、一概にNFTといっても、暗号資産やブロックチェーンなどいろんなものが絡まってきますし、それぞれ縦に規制が入っているから、幅広に見ないといけない。簡単な話ではありません。
自民党内の温度感
ー22年1月に取引量が68億ドル(約7900億円)を超えるなど、世界的にも需要の高いNFT市場ですが、政府・自民党内のスタンスや温度感を教えてください
NFTについては、クールジャパン担当副大臣を内閣府でやっていた頃から注目しています。
昨年は、自由民主党のクールジャパン戦略の中にアート・サブカルの分野でNFTを活用すべきだ、その研究をしっかりするようにということで、内閣府の知財部局やクールジャパンの担当部局に宿題を出しています。
一方で、ビットコイン(BTC)などの暗号資産は、古くはマウントゴックス社の不正流出事件などがありました。平井議員と我々が対応した記憶がありますが、当時は暗号資産への理解が浅く、規制面も市場規模も発展途上でしたから、日本国内に所管できる官庁がありませんでした。権限を押し付けあう消極的な権限争いが発生していたんです。
そこから数年かけてきっちりとした規制が入りつつ、2018年1月には再び大規模な不正流出事件などもありましたので、自民党としては保守的というか、「しっかり規制しなければならない」というのが現段階での空気感だと思います。
今後の動きは
ー自民党内では、2021年5月に「ブロックチェーン推進議員連盟」が設立されました。新興技術に対する意見交換や議論はどのように進んでいますか
ブロックチェーン推進議員連盟は、木原誠二議員と私が中心となって作った議連です。去年も議連での議論の成果について、当時デジタル担当大臣だった平井卓也議員に提言書を持って行きました。
議連では、ブロックチェーン業界の皆さんや専門家の方々と議論を重ね、税制の在り方についても提案していました。
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木原議員は現在、官房副長官に就任して政府の側におり、諸対応に集中されてるので、今回のプロジェクトチーム含めて、私の方で集約して政策立案をしていくという方針になるかと思います。
一方、自由民主党の成長戦略は、例年ゴールデンウイーク明け(5月上旬)頃に取りまとめが行われ、政府に提出する流れです。我々は与党なので、政府はこれを受けて、その後発表する成長戦略や骨太方針に反映するケースが多いです。
これが反映された後、年末には税調(税制調査会)の議論が始まるのがおおよその年間スケジュールです。何か新たな成長戦略や柱を自民党の成長戦略に入れられるかどうかは、大きなカギとなるでしょう。木原官房副長官も、以前自民党の成長戦略本部の事務局長を2年くらい担当しましたし、それ以前は私がその役目を果たしてきました。
今回の最初のターゲットは、自民党の成長戦略に入れ込むことができるよう、ブロックチェーンやNFTについて今後さまざまな方々の意見を聞いていき、それを基に政策のパッケージを作り、「デジタル社会推進本部」に提出することです。
次にデジタル社会推進本部から自民党の成長戦略本部に上げ、理解を得た上で最終的に「自民党の成長戦略」に入れるかどうか、というところが最大のポイントとなるでしょう。
現在のブロックチェーン界隈は幅が広く、展開が非常に早い上、新たなテクノロジーやサービスがどんどん出てきています。我々も精力的に議論を重ね、より合理的な成長戦略としてまとめていきたいと思います。
規制とイノベーションのバランス
ー早期のNFT規制、法整備を歓迎する一方、新興産業のイノベーションを妨げてしまうという懸念の声もあるかと思います
私がNFT特別担当になった際に平井卓也議員からも言われましたけども、「これは、成長戦略として捉えてやるべきだ」と。それが、基本スタンスです。
ですからそういった意味では、最近の日本の税制や金融のほうで何かしらの事象があるたびに規制が入っていったという結果、企業も色々やりにくいことがあると思います。
ただ一方で、それなりに意味があって規制が入っているところでもあります。ツイッターで「規制のデザイン」と言及したら批判も多く寄せられましたが、これは”必ずしも規制を強化する”という意味ではありません。
例えば、NFTに関しては現時点では何の規制もない状況ですが、一方で既存の法律に抵触するのではないかという懸念も寄せられていますし、その決済手段である暗号資産やブロックチェーンとか、全体を見ながら検討する必要があります。縦に入っている既存の規制では整合性が取れず、生態系(エコシステム)がきちんと回りません。
本日、平井卓也自民党デジタル社会推進本部長から、新たにNFT特別担当に指名されました。規制のデザインを検討していく。#NFT
— 平将明(たいらまさあき/Taira Masaaki) (@TAIRAMASAAKI) January 19, 2022
これに関しては、米国など国際的なルール化・標準化の動きもありますので、それも踏まえた上でどのような生態系を作ればいいのか、適切にデザインしなければならない。
「税制をどうするのか」という大きな問題もありますので、全体を見ながら、成長戦略としての「Web3.0」に乗り遅れないように、我々が足を引っ張らないように、政策をまとめていくことになると思います。
Web3.0とは
現状の中央集権体制のウェブをWeb2.0と定義し、ブロックチェーン等を用いて非中央集権型のネットワークを実現する試みを指す。代表的な特徴は、仮想通貨ウォレットを利用したdAppsへのアクセスなど、ブロックチェーンをはじめとする分散型ネットワークのユースケースがある。
▶️仮想通貨用語集
仮想通貨の税改正について
ー総合課税(最大55%)から分離課税への変更も検討項目に入っているのでしょうか
自民党のNFTのプロジェクトチーム(PT)を始める以前、アジアを中心としたカンファレンス(会議)に登壇しました。そこのセッションで、あるブロックチェーンの起業家の人に、強く批判された経験があります。
一番言われたのは、「ガバナンストークンの課税について」でした。ガバナンストークンに課税されてしまったら、スタートアップ企業はまともに機能できないと。その結果、有望な企業はシンガポールなど海外に移転してしまいます。
または、日本で起業すると「出国税」も発生しますから、中・長期的に見て貴重な人材の国外流出がすでに起きているのです。ですから、ガバナンストークンの課税をどう見るのか、というところを税当局としっかり議論しなければならないと思います。
もう一点は、分離課税なのか、雑所得なのかというところも議論があります。
さきほどのブロックチェーン議連では、「分離課税(20%)にするべき」というスタンスに立っていますが、政府側は「ブロックチェーンは、根源的な価値を生み出さないのではないか」と言っていて、正直なかなか固い壁です。
もちろん、さまざまな観点を考えながらになりますが、これを実際に決めるのは毎年末の「税制議論」になっています。
自民党の税制調査会が最終的な決定権を持っていますので、我々がまずやらなければいけないことは、まず税調でしっかり議論して、どれだけの果実が取れるのかと言う話になります。
そのために私がまずやらなければいけないのは、ブロックチェーンやNFT、暗号資産の周りで「今、世界でなにが起こっているのか」、貴重な人材の国外流出も含めて日本の将来的な成長に向けて何をしなければならないのか(課題を洗い出す)ということです。正しい認識の下で、同調する仲間を増やしていく事がすごく大事になるでしょう。
日本は民主主義ですし、自民党も非常に民主的な政党ですから、そういった人たちの声が増えて、届くようになれば我々のパワーになります。それと合わせて、先ほども述べた通り、自民党の「成長戦略」として位置づけられるのかどうかです。
もし成長戦略に組み込めたら、今度は政府の骨太方針に位置づけられるのかどうか。ここで成果を得ていかないと、その後の年末での税調議論に臨めないので、着実に果実を得ていくことが大事だと考えています。
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国民に出来る事
ー党内でブロックチェーン議論を促進する上で、国民が後押しできる方法はありますか
私のTwitterにリプライなど書いてくれれば参考にさせていただきます。まだ法律を作るような段階ではなく、「成長戦略の素案」を作る段階なので、現時点では規制だとか、パブリックコメントをする前の段階なんですよね。
今回、座長に私がいて、上の本部には平井卓也議員がいて、本部の顧問に甘利明議員がいる。新しい技術に対して許容力のある方々が入っています。他にも事務局長の小倉議員も自民党を代表する政策通ですし、昨年企業が選ぶベストロイヤー(弁護士)トップ3にランクインした塩崎彰久議員もメンバーに入ってもらいました。さらには、法務大臣をやっていた若手で活躍する山下貴司議員もいます。
座長 平将明
— 平将明(たいらまさあき) (@TAIRAMASAAKI) February 5, 2022
副座長 山下たかし
事務局長 小倉まさのぶ
事務局次長 塩崎彰久 鈴木英敬
川崎秀人 神田潤一
このように、自民党には豊富な人材がいるので、専門人材も含めて色々な方々に入ってもらって、理想に近いチームが出来てます。彼らなりにツイッターなどで議論の経過などをツイートなどする機会もあるかと思いますので、是非フォローしていただいて、提案などいただけたらと思います。
現に私が「NFTの特別担当になりました。規制のデザインをします」とツイートした直後から、「規制強化か」といって批判を浴びたりしながらも、フォロワーが1万人ほど増えた際には、デジタルの時代を痛感させられました。
一方で、親しくさせていただいているIT業界で最先端を走っている方々や、ブロックチェーン業界の方々が、僕のツイートに即座に反応して、メッセンジャーでグループを作ってくれたんです。早速、色々な議論が可能な環境も出来ました。通常だと、直接会うには日程調整だけで何ヶ月も先になるような日本を代表する錚々たるメンバーだと思います。
今は本当にデジタルの時代で、政策の立案過程も変化しています。SNSなどで意見を言っていただけると目に入ってくると思うので、うまく活用していただければと思います。
総括
仮想通貨税制に関する議論の進展や企業の仮想通貨導入事例について、日本は他国に比べて遅れているとの指摘もある。
しかし平議員は、「このような状況の背景には、日本が採用する大陸法(Civil Law)と英米法(Common Law)の違いがある」と指摘する。
大陸法は、ローマ帝国で発祥し、西欧で発展した法系だ。日本でも明治維新に伴い、この法系が採用されており、市民法とも呼ばれる。主な性質としては成文法を重視し、既存の法律への依存が大きい点などがある。
対照的に、英米法(コモン・ロー)では過去の判例を重視する傾向があり、主に米国やイギリス、オーストラリアで普及している。
英米法では、法律に違法な事項が明記してある場合はそれができなくなる反面、そうでなければ、「新しいことはまずやってみる。問題があれば事後司法判断になる」と平議員は説明する。
対照的に、大陸法では合法的なことは全てポジティブリストに記されているため、全く新しいことは記載されていない場合があると指摘。新たなものである場合、法改正してポジティブリストに加える必要があるとした。
このため、英米法の国では企業が新たなイノベーションに対して自由に動き、後から規制を伴った法整備も可能だが、日本やドイツなど大陸法の国々では必然的に規制主導にならざるを得ない状況があると分析する。日本が後れをとっているのは「アニマルスピリットとかそういう以前に、法律の問題、法体系の問題が大きい」との見解を示した。
日本でもこういった問題を解決するため、「国家戦略特区」を導入しようと試みていたが、加計学園問題で議論が硬直状態にあると指摘。
さらに、日本では新興技術のリスクばかりが懸念され、将来を見越したイノベーションが止まってしまうような風潮がある。ブロックチェーン技術に対する理解度がまだまだ浅いため、「まずは自民党内での理解度向上が急務である」と述べた。
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