仮想通貨取引所による「IEO」は、一般に取引が始まる前に先行して購入できることから、注目を集めています。これまでは海外取引所が特に注力していましたが、昨今では日本国内の取引所でも行われる機会が増えてきました。
IEOで手に入れたトークンは通常の取引と同様に利益が出たら確定申告をしなくてはなりません。今回は、IEOにかかる税金の基礎と確定申告の注意点を解説していきます。
IEOとは? ICOとの違い
IEO(Initial Exchange Offering:イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)とは、企業が新規のプロジェクトを行うために、仮想通貨を使用して資金調達をすることです。
企業が新規上場する際に発行する新規株式を優先的に取引できる「IPO」と仕組みは似通っており、人気を測るバロメーターになっている点も共通しています。
IEOの基本的な流れは次のようになっています。
企業がトークンを発行し、仮想通貨取引所に販売を依頼する 仮想通貨取引所は、トークンや企業に対し審査を行う 審査を通過したトークンは、取引所を介して一般ユーザーに販売されるIEOの特徴は、企業がトークンを「取引所を介して」販売することにあります。
従来、仮想通貨を用いて資金調達をする方法としては、ICO(Initial Coin Offering:イニシャル・コイン・オファリング)がありましたが、ICOはプロジェクトや企業などの発行主体が直接ユーザーに販売する形となっており、中立的な第三者によるチェックが行われていないことが多かったものと思われます。
そのため、計画どおりにプロジェクトが進まずに途中で頓挫してしまったり、詐欺や不正の温床となったりするケースが散見され、現在では日本や諸外国で規制されています。
一方IEOは、仮想通貨取引所の審査が行われるため、こうした問題を引き起こす可能性が低いとされています。トークンの安全性や流動性も担保されやすく、投資家が購入しやすい条件・状況をより整えた仕組みであると言えるでしょう。
日本国内で行われたIEOの事例
日本国内のIEOは2022年から行われていましたが、金融庁の規制緩和が影響し、2023年以降はより活発にIEOが実施されるようになりました。例として、2024年には「ブリリアンクリプトトークン」や「Skeb Coin」「エルフトークン」などのIEOが行われています。
トークン名 | 発行企業 | 特徴 |
---|---|---|
ブリリアンクリプトトークン(BRIL) | 株式会社Brilliantcrypto | コロプラの100%子会社が運営。ブロックチェーンゲーム「Brilliantcrypto」で使用できるトークン。 |
Skeb Coin(SKEB) | 株式会社スケブベンチャーズ | クリエイターに依頼できるプラットフォーム「Skeb」で使用できるトークン。以前は海外のみで購入できたが、2024年に日本国内で上場、購入可能に。 |
エルフトークン(ELF) | 株式会社 HashPalette | NFTファーミングゲーム「THE LAND エルフの森」で使用できるトークン。ゲーム内アイテムをELFに交換でき、ELFはさらにゲーム内で使用できる。 |
IEOで購入したトークンが値上がりするかどうかは、取引量やそのトークンを用いることのできるサービスの人気や活発なユーザーの数といった需要の高さなども影響してきますが、すでに人気が出ている銘柄よりもこれから人気が出るかもしれないという期待値から、人気を博していると考えられます。
IEOで購入したトークンを売却すると税金はどうなる?
IEOで購入したトークンを売却したとき、税金の扱いはどうなるのでしょうか。結論、IEOやICOなど一般的な取引以外で購入したトークンを売却して得た利益の扱いは、通常の仮想通貨取引で得た利益と変わりません。
仮想通貨取引にかかる税金は「雑所得」に分類され、「総合課税」の対象となります。総合課税とは給与所得や不動産所得など、計10項目のさまざまな所得を合算してから税率を算出する方法です。税率は所得額に応じて5〜45%で、住民税を合わせると最大55%にもなります。
そして、給与所得者の場合は、IEOや他の仮想通貨などによる取引で生じた所得額が20万円を超えた場合、確定申告を行う必要があります。この所得額とは、利益から必要経費を差し引いた額です。
例えば、仮想通貨売買では価格の上昇分が「利益」と言えますが、利益すべてが所得になるのではなく、利益から取得価格(取得単価×売却数量)や経費を引いた額が所得となります。
経費としては、例えば取引所に仮想通貨を送った際の「送金手数料」やもしIEOに参加した際に一部が手数料として発生することがあった際の「取引手数料」、またインターネット上で取引するためにかかったとみなすことのできる「通信料」の一部相当額などが主に計上できるものとなります。
IEOも仮想通貨取引のひとつではありますので、こうした経費も漏れなく計上することで節税につながることは理解しておきましょう。
IEOで購入した仮想通貨に関する税金のポイント
IEOは一般的な仮想通貨取引と税制上で違いはありませんが、FXなどと比べて、そもそも仮想通貨の損益計算は複雑になりがちです。注意すべき点を事前に把握・理解しておき、確定申告直前に慌てないよう準備をしておきましょう。
ここからは、IEOで購入した仮想通貨で利益が出た際の「注意しておきたいポイント」について紹介します。
取得価額をしっかり残しておく
前述の通り、所得額を計算するには取得価格の情報が必要です。もし取得価格を忘れてしまった場合は「みなし取得価額」の特例を利用することも可能ですが、正しい取得価格の方が高かった場合は、控除額が減って損をすることにもなります。
また、取得価格が必要になるのは「利益が確定した年」で、確定申告が必要となるのもその年度になります。
しかし、IEOやICOでは「価格上昇するまで時間がかかった」「ロックアップ(売買制限)がかけられて売買できなかった」など、購入から売却までの期間が空いてしまうケースも珍しくありません。
そのため、取引履歴の保管を忘れて、確定申告期には取引時のデータを取得できなくなってしまうといった状況もありえます。
さらにIEOの特設ページでトークンを購入した場合は、取引履歴の控えを保存する機能がついていなかったり、取得価格を保存し忘れてしまったりする可能性も考えられます。
このような点から、取引履歴は購入時に忘れずに、かつわかりやすいように保存しておくことをおすすめします。
仮想通貨で支払った場合、支払い時点で所得が発生する
仮想通貨では「所得が発生したとみなされるタイミング」が複数ありますが、IEOにおいて関係してくるものとしては「仮想通貨で支払ったとき、その時点で所得となる」という点です。
例えば、ビットコインで商品を購入した場合、税法上では「ビットコインを日本円に交換し、その日本円で商品を購入した」とみなされます。つまり、ビットコインを一時的に日本円に交換して利益を確定していることとなるため、たとえ日本円が手元に入っていなくても確定申告の対象となります。
この考え方は「保有している仮想通貨で、別の仮想通貨を購入した」場合でも同様です。例えば、海外のIEOでは、ビットコインやイーサリアムなどを使ってIEOの新規通貨と交換することも少なくありません。この場合は「ビットコインやイーサリアムを売却した」扱いとなり、課税対象となります。
そして、その年の所得額は購入時点のレートで計算します。IEOを仮想通貨で購入した場合には、その時点のレートをしっかり記録しておきましょう。
海外のIEOに参加して得た利益も確定申告すること
参加したIEOが海外のものであっても、20万円超にあたる利益が出た場合は確定申告を行いましょう。日本は各国と「租税条約」を結んでおり、日本の居住者は海外から得た利益に関しても、日本で納税する仕組みになっているからです。
海外口座では、米ドルなどの法定通貨から日本円に交換する計算が必要なケースがあるものの、その他は日本口座の使用時とほとんど変わりません。海外口座にある所得だからといって確定申告が不要になるわけではないため、きちんと対応するようにしましょう。
特にIEOは、税務当局とネットワークで繋がっている仮想通貨取引所を介して発行されているため、取引情報はしっかりと残っている可能性は高いでしょう。国内・海外問わず、生じた所得は過不足なく申告するようにしてください。
まとめ
プロジェクトなどの資金調達に活用されているIEOですが、IEOによる所得も、通常の仮想通貨取引の所得と同様に、雑所得の対象となります。給与所得者の場合、この雑所得が20万円を超えたら確定申告が必要です。
IEOならではの注意点としては「取得単価の保存や管理を見逃しやすい」「他の仮想通貨を使って購入する場合が多い」といった点が挙げられます。
最近は日本の取引所でも取り組みが増えていますので、もし参加される場合にはこうしたポイントを押さえつつ、利益が出て確定申告が必要になった際に焦らないよう、前もって準備をしておきましょう。
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