中国で大規模な金偽造事件が発覚
新型コロナウイルスの初症例が確認された中国・武漢市で、新たなスキャンダルが発生した。3055億円相当の融資の担保に、偽造された83トンもの金地金が充てられていたことが判明し、湖北省が捜査を開始しているという。
スキャンダルの震源は米Nazdaq証券取引所にも上場している、金加工業大手の「武漢金凰珠宝」(Wuhan Kingold Jewelry)。中国経済メディア「財新」がこの事件の詳細を調査、報道した。
金担保による融資と保険契約
財新によると、金凰は、過去5年間に信託会社を中心とする14社の中国の金融機関から、金を担保に200億元(約3055億円)の融資を受けており、損失をカバーするための保険契約も結んでいた。
融資保険を提供したのは、国営の中国人民保険公司(PICC)の子会社。損害保険部門のPICC P&Cをはじめ、数社の小規模な保険会社で、300億元(約4583億円)の保険契約が結ばれたという。
金の偽造問題が発覚したきっかけは、2月に債権者であったDongguan Trustが、金凰の債務不履行を精算するために、担保であった金を確認したことだった。ところが、そこにあったのは純金ではなく、「金メッキを施された銅」だということが判明した。この事実は他の債権者にも衝撃を与え、金凰最大の債権者の一つ、中国民生信托は、金凰の債務返済期限前に担保検査を求めた裁判所命令を入手。5月22日、検査の結果、民生信托に保管されていた「金」の延棒も銅の合金だったことが明らかになった。
武漢金凰珠と保険会社
金凰創業者のJia氏は従軍経験があり、人民解放軍が所有する金鉱山を管理していたこともあると報じられている。
公式サイトによると、金凰は中国湖北省武漢で2002年に設立された純金ジュエリーのトップメーカーで、生産能力の拡大と積極的な市場統合により、2006年からの10年間で年間売上は約50倍の14億ドル(1511億円相当)へと大きく成長したとのことだ。2010年にはNazdaqへの上場を果たしている。
金凰は、2013年頃から金を担保とした融資を受け、武漢の不動産プロジェクトへ投資へ始めたようだ。2015年以降、金凰は融資保険を提供するPICC P&Cとの関係を深め、金担保融資への依存度を高めて行ったという。
保険会社の関与が、このような金地金を担保にした巨額の融資取引の成功の鍵を握っていたと財新は分析している。複数の信託会社関係者によると、PICC P&Cのような大手国有保険会社が提供する保険契約が、融資リスクに対する懸念を和らげる大きな要因だったという。
PICC P&Cは賠償を求める金凰の債権者から提訴されており、損失補填を要求されている。PICC P&Cの関係者は保険請求の手続きは、被保険者である金凰が行うべきだが、まだ請求は行われていないと財新へ語っている。
一方、金凰のJia会長は担保となっている金には何の問題もなかったと主張しているようだ。「保険会社が保険を掛けることに同意していたものが、どうやったら偽物になるのか。」と述べ、偽造疑惑を否定しているとのことだ。
湖北省政府は、この事件解明のための特別対策本部を設置し、公安部が捜査を開始したという。金業界の自主規制機関である上海金取引所は、6月24日に金凰の会員資格を剥奪したと伝えられている。
事件の影響
これまでにも金の偽造事件は起こっているが、「83トンの金」は、2019年時点で中国における金年間生産量の22%、また国家の金準備率の4.2%に相当することから、いかにこの金融詐欺が大きいかを物語っており、この事件は米国市場にも衝撃を与えているようだ。
米中の貿易摩擦により、中国企業による米国の証券取引所への上場を警戒する動きが強まっている。既に上場を果たしている中国企業に対しても、不正会計が発覚し、上場取り消しを言い渡されたLuckin Coffeeのような事例もある。
金凰のケースも例外ではなく、ニューヨークの法律事務所が同社が有価証券詐欺に当たるか調査を開始したと伝えられている。