Dfinityとは
インターネット技術の発展によって、ウェブサイトやオンラインゲームなどのサービスが日常的に使用されるようになりました。企業のサービスやシステムの運営もインターネットを利用することで、格段に利便性や効率性が向上しています。
インターネットの技術が開発された後、最初は企業がオンラインサービスを提供する時、自社にサーバーやコンピューター等を設置する必要がありました。この場合、機器のスペースを確保したり、サーバーなどのインフラの運営や管理も企業が行う必要があります。
その後、こういった負担を軽減するために、インフラの設置を各企業が行わなくてもいいようにするサービスが生まれました。それがAmazonの「Amazon Web Services(AWS)」のようなサービスです。こういったサービスは、あらかじめシステムの大半がインターネット上に構築されており、そこにあるサーバー等を企業らが利用できるようになっています。
現在は、自社のウェブサイトやオンラインサービスを構築する際、AWSのようなサービスを基盤にして、コスト削減や効率性向上を実現することが可能です。コストが削減できて効率性が向上すれば、本来の業務に時間やリソースを割くこともできます。
その後、ブロックチェーン技術の開発が進み、AWSのようなサービスをブロックチェーンを活用して提供しようとするプロジェクトが誕生しました。その1つが今回紹介するDfinity(ICP)です。
1. 基本概要
1-1. プロジェクトの内容
Dfinityとは、世界中のデータセンターを使った分散型のインターネットコンピュータを作っているプロジェクトです。メインネットは2021年5月に正式にローンチされました。
具体的に何をやっているのかイメージしづらいかもしれませんが、上述した通り、AWSやGoogleの「Google Cloud」、マイクロソフトの「Azure」のようなサービスを、ブロックチェーンを使って提供しようとしているのがDfinityです。
以下のような大手企業が行うサービスを、ブロックチェーンを活用し、分散化されたネットワークを基盤にして提供できるように取り組んでいます。
1-2. インターネットコンピュータとは
Dfinityは公式ウェブサイトで、「インターネットコンピューターとは、インターネットの機能を拡張・強化したものである」と説明しています。言い換えると、オンラインを利用したサービスやプラットフォームを構築する基盤を指しています。
また、「インターネットコンピューターとは、通常のインターネットの速度で動き、無制限にあらゆるサービスやプラットフォームを構築できるブロックチェーンである」と言い換えることも可能です。
例えば、ウェブサイトや企業のシステム、またDeFi(分散型金融)のサービスの構築も可能になります。この点から、イーサリアム(ETH)のブロックチェーンも「インターネットコンピューター」と呼ばれることが多いです。両者には共通点と相違点があるため、イーサリアムとの比較は後述します。
過去にはDfinityの活用例として、ショートムービーを共有する「TikTok」と同種の分散型アプリ「CanCan」や、ビジネス向けSNS「LinkedIn」に代わる分散型サービス「LinkedUp」のデモが公開されました。以下は、CanCanのデモ画面です。
1-3. 開発団体
Dfinityのプロジェクトの開発は、Dominic Williams氏が創設したDfinity財団という非営利団体が担っています。Dfinity財団は、ブロックチェーンを活用して分散型のネットワークを構築し、IT大手のような特定企業に依存している現状から脱却することを目指してきました。また、エンジニアにはグーグルのような大手IT企業で経験を積んだ人々が多く、開発者が優れているとの評判も聞かれています。
Amazonのような中央管理者がいることには、仕組みや運営がシンプルである点などメリットもありますが、デメリットもあります。過去には、AWSの障害が発生し、銀行等のアプリが使えなくなど、広範囲なサービスに影響が出たこともありました。
こういったリスクをなくすためにDfinityは、ブロックチェーンを使って分散型ネットワークを構築し、無限のキャパシティを実現しようとしています。
最初に出てきた「ICP」とは「Internet Computer Protocol」の略です。Dfinityは、世界中の独立したデータセンターから提供される計算リソースを、ICPというプロトコル(手順・ルール)でまとめることで、アプリケーションサービス等を実装できる分散型ネットワーク(=インターネットコンピューター)を構築しています。
1-4. プログラミング言語
Dfinityのネットワークにおける開発では、主に「Motoko」というプログラミング言語が使用されています。Motokoは、Dfinity財団が開発した新しいプログラミング言語です。ソフトウェア開発キット(SDK)と合わせ、幅広い開発者が容易に、信頼性が高くて維持可能なシステムやインターネットサービスを構築できるように設計されました。
一方で、Dfinity財団は「Rust」や「C言語」のSDKも開発しています。この両言語で開発するための説明も公開しており、最終的には様々な種類のSDKを数多く提供するとしています。
2. イーサリアムとの比較
2-1. Dfinityの位置付け
Dfinityは自らのプロジェクトを「ブロックチェーンにおける第三の発明」と位置付けました。2009年のビットコイン(BTC)、2015年のイーサリアムに続き、2021年に誕生したのがDfinityのブロックチェーンだと説明しています。
ビットコインは「デジタルゴールド」、イーサリアムは「DeFi革命の原動力」とし、その上で自らを「あらゆるものを再構築できるブロックチェーン」と表現しました。
イーサリアムのブロックチェーン上には、すでに分散型取引所(DEX)などのDeFiに関するプラットフォームやNFT(非代替性トークン)のマーケットプレイスなどがあるため、イーサリアムをインターネットコンピューターと呼ぶ声も多く聞かれます。
2-2. イーサリアムは競合ではない
DeFiのステーキングプラットフォーム「YeFi」のPekka Kelkka最高経営責任者(CEO)は2021年9月、「イーサリアムは地球規模のコンピュータになる」と発言しました。イーサリアムは「AWSとAzure、Googleを合わせたもの」より大きくなり、世界のビジネスに大変革をもたらすことになるだろうと述べています。
関連:「イーサリアムは地球規模のコンピュータになる」DeFiスタートアップYeFi・CEO
この点について、DfinityのDominic Williams氏は2019年、「イーサリアムとDfinityのインターネットコンピューターは姉妹のネットワークである」と説明。共存して相乗効果を生み出すもので、競合関係ではないと述べています。
2-3. イーサリアムとの相違点
確かに大まかにとらえると2つのネットワークは同じ種類にも見えますが、イーサリアムと比較した場合、Dfinityには主に以下の特長があります。
- 汎用性が高い
- 迅速にトランザクションが処理できる
- ユーザーがガス代を支払わなくてもよい
3つ目の特長からも分かるように、エンドユーザーはDfinityを介したサービスを利用するために、仮想通貨を保有する必要はありません。エンドユーザーにとっては、ウォレットを作ったり、仮想通貨を購入したりする必要がないため、参入障壁が低いサービスだと言えます。
一方で、こういった特長を備えたネットワークが評価されるには、本当に分散化されていて、透明性高く運営されていることが前提になります。現在はまだDfinityは開発の途上で、ノードの数を増やすなどして、分散化にも取り組んでいます。
3. ネットワークの仕組み
3-1. 構造
Dfinityのネットワークは、おおまかには以下のような構造になっています。
1番上の「インターネットコンピューター」の部分が、ウェブサイトなどのサービスが提供されるネットワーク空間です。1番下ではデーターの処理・保管を行う「データセンター」があり、間ではプロトコルが稼働しています。
エンドユーザーは、実際に利用する際には意識していない場合が多いと思いますが、裏では1番上のインターネットコンピューターにアクセスしてウェブサイトを閲覧したり、DeFiのプラットフォームを使ったりしてサービスを利用する仕組みになっています。
また、開発者はインターネットコンピューターに「キャニスター」をデプロイ(展開)するだけで、サービスを提供することが可能です。Dfinityでは、スマートコントラクトなどのプログラムやステート(状態)を含めたものを「キャニスター」と呼びます。これは容器のようなイメージで、開発者はキャニスターをデプロイするだけでサービスを展開できます。
3-2. トークン
Dfinityのネットワークで利用される仮想通貨は「Internet Computer(ICP)」です。メインネットのローンチ時にICPトークンは、4億6,921万3,710枚が生成されています。ICPトークンの主な用途は、スマートコントラクトを動かす「燃料」とガバナンスです。
燃料としての役割
スマートコントラクトを動かす燃料としての用途があります。これは、イーサリアムなどで使われる「ガス」と同じです。ICPトークンを所有していないユーザーが、悪意を持ったりして容易にDfinityを利用することを防ぐことなどの目的で、この仕組みを導入しました。
実際にDfinityでスマートコントラクトを利用したトランザクションを行う際に利用されるのは、ICPトークンを変換した「サイクル(cycle)」です。正確にはサイクルが、イーサリアムの「ガス」に相当します。取引などの様々な処理に使用されるため、保有するICPトークンは事前にサイクルに変換する必要があります。
利用されたサイクルは最終的にバーン(焼却)され、サイクルはICPトークンとの変換によって生成されるので、結果的にICPトークンの供給量が減っていくことを意味します。
サービス提供者は運営にサイクル、つまりそれを生成するためのICPトークンが必要になるため、取引所などでICPトークンを手に入れる必要があります。
上述した通り、処理のためにサイクルを支払うのはエンドユーザーではありません。ここがイーサリアムなどのネットワークと大きく違う点です。処理のためにサイクルを支払うのは、Dfinityのネットワークを利用してサービスを提供する人々であることが、Dfinityの大きな特徴です。
ガバナンスでの利用
Dfinityのネットワークを拡張すべきかどうかの判断など、ネットワークの運営や管理に参加するには、ICPトークンが必要になります。アルゴリズムに基き、オープンに運営されるDfinityのガバナンスのシステム、またはそれに使われるソフトウェアは「Network Nervous System(NNS)」と呼ばれています。「Nervous」という単語は「神経の」といった意味です。
運営に参加する場合、ネットワーク上に「Neurons(「神経の単位」の意)」と呼ばれる場所を作成し、そこにICPトークンをロックしなくてはいけません。Neuronsの作成は、ネットワーク上にウォレットを1つ作るようなイメージです。
運営に参加した報酬額や投票の影響力は、簡単に言えば、他のブロックチェーンと同様にネットワークへの貢献度に応じて決まります。具体的には、以下の3つの指標で決定するため、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)に似た仕組みです。
- ロックしたICPトークンの数量
- ICPトークンをロックした期間
- Neuronsの「年齢」
ネットワーク運営に協力したノードには報酬として、新規発行されるICPトークンが付与されます。また、ユーザーはNeuronsを解放して、中にロックしてあったICPトークンをリリースすれば、サイクルに変換することもできます。
4. ICO
ICO(イニシャル・コイン・オファリング)のデータを提供する「ICO Drops」によると、Dfinityは2018年8月時点で、およそ1.9億ドル(約217億円)の資金を調達しました。
出資した企業にはa16zやPolychain、Multicoin Capitalなど、仮想通貨・ブロックチェーン業界では有名な企業が含まれています。まだ開発段階だったにも関わらず、2018年には企業価値が19億ドル(約2,120億円)に上ると報じられました。
投資家は当時Dfinityが「Threshold Relay」と呼んでいる新しい独自技術に注目していたとも言われています。この技術で、イーサリアムよりもトランザクションの処理を速め、スケーラビリティを向上させています。
なお、ICOの頃は、ICPトークンは「DFNトークン」と名付けられていました。
5. ユースケースとロードマップ
5-1.開発中のプロジェクト
Dfinityは公式ウェブサイトで、エコシステム内のプロジェクトを紹介しています。例えば、大手DEXのUniswapも、すでに運営にDfinityのネットワークを活用しているようです。
他には、ウォレットや銀行サービスを提供するものなど、金融領域のプロジェクトがあるほか、ゲームやNFTのマーケットプレイス、メッセージアプリ、また大手掲示板「Reddit」の分散型バージョンを開発するプロジェクトなどが紹介されています。
5-2.ロードマップ
Dfinityのプロジェクトは2019年4Q(10月から12月)の「COPPER」から、ロードマップに従い、開発が進められてきました。現在は、ビットコインのブロックチェーンとの統合もガバナンス投票で決定し、開発が進行中です。また、イーサリアムのネットワークとの統合も提案されており、現在は議論段階です。
「パブリックネットワーク」がテーマになっている2020年4Qの「MERCURY」では、同年12月18日に、インターネットコンピューターの初期段階として分散化を開始。メインネットが動いた上で、独立したデータセンターで標準化されたノードが稼働し、「Network Nervous System」の管理の下で動き出しました。
Dfinityは2021年1月、1Q(1月から3月)には896のノードを参加させるためのプロセスが進行中だと説明しています。2021年の末までにはノードの数を何千という単位まで増やし、2030年までには何百万まで増加させるとしていて、分散化を進めていくと述べました。
なお、イーサリアムネットワークのデータを提供する「Etherscan」によると、2021年9月末時点のイーサリアムのノード数は3,569です。
今後のビジョン
Dfinityのプロジェクトは、20年先のビジョンまで思い描いています。
まずは2021年から最初の5年間で、技術に興味がある人がインターネットコンピューターを知り、その特徴や目的が広まっていくと説明。その間に従来のIT企業ではなく、インターネットコンピューター上にオンラインサービスを構築したい起業家や開発者が増加していくとしています。大学などの学校でインターネットコンピューターや「Motoko」について教えられるようになるとも予想しました。
次に、10年間まで枠を広げれば、さらに認知が広がり、大手IT企業の閉鎖されたエコシステムではなく、オープンなインターネットがプラットフォームとして主役になる道筋が見えると説明。また、DeFiのエコシステムが成長し、従来の金融サービスと同等の規模になるとも述べました。
そして、20年後にはオープンなインターネットサービスがIT大手のサービスよりもはるかに大きくなると主張。世界中の情報インフラ、システムやサービスの大半が、インターネットコンピューターのブロックチェーン上で稼働するようになる未来を、彼らは描いています。