株式や債券などの伝統的資産に加え、新たな投資対象として誕生した暗号資産(仮想通貨)。新しく生まれた資産であるため、どのように取引を行えばいいかがまだ十分には浸透しておらず、株式や債券のように広くは普及していません。
一方で、2021年にNFT(非代替性トークン)が従来のブロックチェーン領域を超えて普及するなど、仮想通貨に興味を持つ人も増えてきました。
関連:2021年の流行語大賞候補、仮想通貨関連用語で「NFT」がノミネートされる
本記事では、新たに仮想通貨投資を始める方や、まだ取引方法が詳しくわからないという方を対象に、「板取引」の概要を解説します。
1.販売所と取引所の違い
まず、板取引について解説する前に、仮想通貨の売買を行う「販売所」と「取引所」の違いをご説明します。販売所では板取引は行われないため、両者の違いを理解しておくことも必要です。
販売所と取引所は、どちらも仮想通貨を売買するためのサービスであることに変わりはありません。両者の最も大きな違いは、取引を行う相手です。
販売所で仮想通貨の売買を行う場合、取引相手は交換業者です。交換業者が設定した価格で、ユーザーは売買を行います。販売所では、売買する数量はユーザーが指定することが可能です。
一方、取引所で仮想通貨の売買を行う場合、取引相手は他のユーザーです。この場合、交換業者は取引を仲介する役割を担います。
取引所では、登録しているユーザー同士が売買したい数量と値段を提示し、条件が満たされた場合に注文が約定します。
約定とは
売買の注文を出し、取引が成立すること。取引所方式では、反対注文(自分が「買い」ポジションの場合は、反対のポジションとなる「売り」のこと)を出す投資家がいなければ注文は約定されません。
▶️仮想通貨用語集
この「ユーザー同士が売買したい数量と値段を提示して取引を行うこと」を板取引といいます。以下のように、ユーザーが売買したい数量や値段をまとめて一覧にしたものを「板」と呼びます。
関連:仮想通貨の「販売所」と「取引所」の違い|初心者のおすすめは
なぜ、この一覧を板と呼ぶかという理由については、「昔に行われていた証券取引において、注文で使用されていた紙の台が板だったから」という説や、「以前は証券取引所に、各証券会社からの売買注文を銘柄ごとに書いた板があったから」といった説があります。
それでは販売所からは離れ、次節からは取引所で行われる板取引について、もう少し詳しくみていきましょう。
2.注文方法の種類
本節では、板取引における注文方法をご紹介していきます。まずは以下の2つの方法です。
- 成行注文
- 指値注文
両者の主な特徴は以下の通りです。
成行注文 | 指値注文 | |
---|---|---|
数量 | 指定する | 指定する |
約定価格 | 指定しない | 指定する |
表の通り、最も大きな違いは「約定を希望する価格を指定するかどうか」です。
2-1 成行注文とは
成行注文では、売買を希望する数量は指定しますが、約定を希望する価格は指定しません。この点では販売所の注文に似ていますが、成行注文と販売所の注文は明確に区別して覚えておいてください。
例えば成行注文は、ビットコイン(BTC)を「1BTCの価格がいくらの時でもいいから、すぐに0.0001BTCを購入したい」というような時に行います。
「成行」という言葉には「自らの意志を強く持たず、物事の動きや結果に身を委ねること」という意味がありますが、成行注文の「成行」はまさにこの意味です。
約定価格を指定しない成行注文は、注文時点の市場価格で成立します。買い注文の時は、その時点で板にある売り注文の最低価格で約定。売り注文の時は、その時点で板にある買い注文の最高価格で約定します。
もちろん、取引したい数量を相手が売買していることも約定の条件です。
2-2 指値注文とは
指値注文は、売買を希望する数量に加え、約定を希望する価格も指定する方法です。「1BTC=300万円の時に、0.0001BTCを購入したい」というような時に行うのが指値注文です。
例えば注文時に1BTCの価格が310万円だったとします。この時、「1BTC=310万円では割高だから買いたくない」と思う場合に、購入する数量を決めて「1BTC=300万円」まで下がった時に約定するように注文を入れておきます。
成行注文が即座に約定するのに比べ、指値注文は「予約注文」みたいなものです。もしかしたら「1BTC=320万円」というように価格が上昇する場合がありますが、その時は注文をキャンセルしたり、指値の価格を変更したりします。
指値注文が約定するのは、以下の条件になった場合です。
- 買い注文:売り手が提示する価格が、希望価格以下になった場合
- 売り注文:買い手が提示する価格が、希望価格以上になった場合
2-3 逆指値注文とは
本節の最後に「逆指値注文」をご紹介します。これは文字通り、指値注文の逆を行う注文です。「逆」とは、価格の指定の仕方が反対であるという意味です。
指値注文は「市場価格ができるだけ安い時に買いたい」や「市場価格ができるだけ高い時に売りたい」という投資家の希望に基づいています。
逆指値注文はこの考え方が反対になっており、以下のような場合に行います。
- 市場価格が今よりも”高い”時に買いたい
- 市場価格が今よりも”安い”時に売りたい
注文方法は指値注文と同じで、約定を希望する価格の上下を逆に考えるだけです。
ただし、逆指値注文は損をしているようにも見えます。投資家はどのような時に逆指値注文を行うのでしょうか。
次節では、各注文方法のメリットとデメリットをご紹介します。
3.各注文のメリットとデメリット
上述した3つの注文方法のうち、どの方法を選べば良いかは、人や状況によって異なります。
まず、成行注文のメリットは「市場価格が希望価格になるのを待つことなく、即座に約定できること」です。「市場価格はいくらでも良いから、すぐに買いたい(売りたい)」という場合に利用できます。
また、市場価格が動かなくても約定するので、確実に注文できることもメリットです。注文時の市場価格に納得している場合や、値段をそんなに気にせずに長期保有したい銘柄を注文する場合などに成行注文は適しています。
一方、デメリットは、裏を返せば「その時の市場価格で約定してしまうこと」です。約定後に市場価格が大きく下がり、「もっと時間が経ってから買えば良かった」と後悔してしまうこともあるかもしれません。また、値動きが激しい時には、想定している価格で約定できない可能性もあります。
このように、確実性や時間を重視するなら成行注文、約定価格を重視する場合は指値注文の方が適しています。指値注文のメリットとデメリットは、成行注文のメリットとデメリットを逆に考えてください。
相場には「売りは迅速、買いは悠然」という格言があります。これは「買い注文はゆっくり時間をかけても遅くはないが、売り注文のチャンスは短期間に起きるので、思い切りが大事である」という意味です。この格言に従うのであれば、売り注文の時は成行注文の方が適しているということになります。
最後に、逆指値注文のメリットとデメリットをご紹介します。主なメリットは以下の3つが可能になることです。
- 上昇・下降トレンドにのれる
- 損切りができる
- 利益確定売りができる
関連:投資初心者向け講座|仮想通貨ビットコインの「トレンド転換点」の見極め方
1については、例えば現在1BTCの価格が300万円だったとします。ビットコインをできるだけ安く買いたい時は、「1BTC=290万円の時に買う」ように指値注文を入れますが、逆指値では「1BTC=311万円の時に買う」というような注文を入れます。
この注文はビットコインのチャートを見た時に、BTC価格が一定期間300万円から310万円の間を推移しているような場合に行います。311万円になれば、これまでの価格レンジ(範囲)を抜けたことになるので、上昇トレンドを逃さずに利益を出すことができます。
このように逆指値注文は、「今よりも安い価格ではなく、上昇トレンドに転じたら買いたい」という場合に有効。他にも「前回の高値を上回ったら買いたい」という場合にも逆指値注文を活用することが可能です。
反対に、「今よりも高い価格ではなく、下降トレンドに転じたら売りたい」という場合もあります。この状況に当てはまるのが2の「損切り」です。
損切りとは、損失を大きくしないために、資産価格が一定額下落した時に、損していても売ってしまうこと。その後も保有し続けていれば値上がりする可能性もありますが、さらに価格が下がってしまい、長期に渡って買値よりも上がらない可能性もあります。こういった場合、状況によっては売ってしまって、他の資産に投資した方が良いケースもあります。
実際に損切りする場合、1BTC=300万円の時に買ったビットコインを、「1BTC=295万円になったら、損するけど売ってしまう」という逆指値注文を行います。このように、リスク管理にも逆指値注文を活用することが可能です。
3の「利益確定売り」とは、価格の急落に備え、あらかじめ注文を入れておくこと。以下のような場合に利益確定売りを行います。
- 1BTC=300万円の時にビットコインを購入
- その後、1BTC=310万円になったため利益が発生
- さらに値上がりする場合を考え、まだ売却はしたくない
- しかし、相場が急変して下落した場合に備える必要もある
- ある程度利益は確保したいから、1BTC=305万円に下がったら売ってしまう注文を入れておく
以上から、逆指値注文のメリットは次の通りです。
- 上昇・下降トレンドを逃さない
- チャートに合わせた注文の選択肢が広がる
- 損切りができる
また、デメリットは以下の通り。
- 指値注文よりも利益が少なくなる可能性がある
- 将来的に可能な利益を得られない場合がある
4.まとめ
以上が板取引の主な注文方法とその違いです。
実際の注文時は上述した以外にも、「売り注文か買い注文か」や「指値か逆指値か」も選ぶ必要がありますが、本記事は注文方法の違いを理解していただくことを目的としているため、細かい点は省いています。
今回ご紹介した3つの注文方法には、それぞれメリットとデメリットがあるため、市況や投資目的などによって使い分ける必要があります。
本記事で紹介した注文方法を理解し、取引所で仮想通貨の板取引を始めてみてはいかがでしょうか。
本記事は企業の出資による記事広告やアフィリエイト広告を含みます。CoinPostは掲載内容や製品の品質や性能を保証するものではありません。サービス利用やお問い合わせは、直接サービス提供会社へご連絡ください。CoinPostは、本記事の内容やそれを参考にした行動による損害や損失について、直接的・間接的な責任を負いません。ユーザーの皆さまが本稿に関連した行動をとる際には、ご自身で調査し、自己責任で行ってください。