CPIとは
暗号資産(仮想通貨)は投資資産として徐々に普及し始め、機関投資家や企業が市場に参入するようになってきました。その影響もあり、仮想通貨の価格が、株式などの伝統的資産の価格と相関することが増えてきています。
伝統的資産との相関性の高まりは、各国の金融政策、特に世界一の経済大国である米国の中央銀行の動向に影響を受けやすくなっていることを意味します。
本記事では、各国の中銀が金融政策を決定する際に重視する指標「CPI(消費者物価指数)」について解説。仮想通貨市場への影響についてもご説明していきます。
CPIの概要
CPIは「しーぴーあい」と発音され、正式名称は「Consumer Price Index」です。上記の通り、日本語では「消費者物価指数」と呼ばれています。CPIは日本や米国だけでなく、欧州などでも算出されている指標です。
算出される数値は、消費者が購入する商品やサービスの価格変動を表しています。つまり、食品やガソリンなどの対象品目の物価が、過去のある時点を基準にしてどのくらい高くなっているのか、また安くなっているのかをパーセントで算出しています。
最近は日本でも、食品などの値上がりのニュースを見聞きすることが増えました。CPIはこういった価格変動を、過去と比較して数値化したものです。
過去のどの時点を基準にして数値を算出するかは、国によって違います。例えば米国は、前年同月比の数値などを算出して発表。「前年同月比」というのは、1年前の同じ月と比較して物価がどのくらい変動したかを示しています。
一方、日本は「指数の基準年」を制定。本記事執筆時点では2020年を基準にした変動を数値化しています。日本はこの基準年を、西暦の末尾が「0」と「5」の年を基準にして5年ごとに改定。その際、指数に採用する品目などの見直しも行っています。
なお、日本はメインで基準年からの変動を数値化して発表していますが、実際は前年同月比も発表しています。また、米国は前年同月比だけでなく、同年前月比も算出。他にも品目別など、実際は様々なCPIが算出されています。以下の画像は、11月18日に日本の総務省が発表した10月のCPIです。
CPIの数値
このように、CPIは物価の変動を表す指標。インフレーション(インフレ)やデフレーション(デフレ)の度合いを測るために使用されています。インフレとデフレの意味は以下の通りです。
- インフレ:物価が上昇し、通貨の価値が下がること
- デフレ:物価が下落し、通貨の価値が上がること
投資家がCPIに注目している理由は、各国・地域の中銀が金融政策を決めるために参考にしているからです。中銀の金融政策は景気に影響し、その影響が金融市場にも波及します。中銀の役割の1つが「物価の安定」のため、指標の1つとしてCPIを参考にしているのです。
本節では、投資家が最も注視している米国の例をもとに、CPIの数値を実際に見ていきましょう。
いま米国では、物価が記録的な高水準を推移しています。以下は、CPIを発表する米労働省が提供しているグラフ。過去20年の期間で、前年同月比のCPIを比較しています。なお、グラフの数値は、季節的な要因を調整する前のCPIです。
現在、物価が高くなっている要因は、ロシアのウクライナ侵攻にともなって、エネルギー価格が高騰したこと。また、コロナ禍に経済を下支えするために大規模な金融緩和策を講じたことで、市中に多くの通貨が供給されて物価に上昇圧力(インフレ圧力)がかかったことなど、複数の要因が重なっています。
このような異例な状況下で米国の中銀は、金融政策で物価の上昇を抑制しようとしています。米国が目標とするインフレ率(物価上昇率)は前年同月比で+2%。上記グラフを見ると、目標値から大きく上振れしていることがわかります。
2%という数字は米国だけでなく、日本も含めた主要国が目標にしています。2%と定める理由を、日銀は以下のように説明しています。
- 指数の上昇率は高めになる傾向があるため
- 景気が大きく悪化した場合に備えて、ある程度の物価上昇率を確保しておく必要があるため
- 上記2つの考え方が世界基準になっているため
米国も2%を目標にして、現在の物価の変動がどうなっているのかを把握するためにCPIを利用。こういった指標などを参考にしながら、米連邦公開市場委員会(FOMC)が金融政策を決定しています。
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日米の違い
CPIは各国・地域で算出されていますが、計算方法など細かい点に違いがあります。本節では違いの例として、日米のCPIを比較します。
以下が日米のCPIの主な違いです。投資家は、「コア(中心)」が付いた数値にも注目。「コア指数」や「コアコア指数」は、価格変動の大きな品目を省いた数値です。
米国 | 日本 | |
---|---|---|
発表時期 | 毎月中旬(10日〜14日頃) | 原則、毎月19日を含む週の金曜日 |
総合指数 | 全対象品目 | 全対象品目 |
コア指数 | 食品とエネルギーを除いた数値 | 生鮮食品を除いた数値 |
コアコア指数 | 算出なし | 生鮮食品およびエネルギーを除いた数値 |
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仮想通貨市場への影響
最後に、CPIが仮想通貨市場へどのように影響を与えるか、実例を交えてご説明します。仮想通貨市場への影響と書きましたが、基本的な影響は株式などの市場と同様。これが相関性が高いという意味です。
各国の中央銀行は、物価の安定を維持する役割を担っています。物価の安定を維持するために金融政策を講じて、景気や経済活動を刺激します。そして、景気や経済活動への刺激が、金融市場にも影響を与えるという仕組みです。
株価への影響をわかりやすく簡単に書くと以下の通り。株式と同じリスク資産である仮想通貨には、同様の影響が及びます。
- 物価が上昇して、CPIが2%超になる
- 中銀が金融政策で金利を引き上げる
- 利上げで預金の魅力が高まり、市中からお金が減る
- 消費が落ち込み、企業の業績が悪化する
- 株価の下落圧力が強まる
金融政策を決めるための参考指標として活用されているため、投資家はCPIの数値に注目し、金融政策が発表される前に先回りして投資戦略を考えています。なお、金融政策の効果は、半年ぐらい遅れてCPIに反映し始めると言われています。
影響の実例
ここから、仮想通貨市場への影響の実例を見ていきましょう。
最近の例では11月10日、米労働省が10月のCPIを発表。数値は総合指数が前年同月比で7.7%、コア指数が6.3%でした。目標の2%よりは依然として高い水準ですが、金融の専門家による市場予測よりも低かったことで、仮想通貨や株式の価格が上昇しました。
市場予測は総合指数が7.9%で、コア指数が6.5%。このように、投資家は実際の数値よりも、予測と比較して動く傾向があります。
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米国のCPIは、市場予測を下回ったことに加えて、6月をピークにして低下傾向にあります。以下は、6月以降の総合指数の推移です。
- 22年6月:9.1%
- 22年7月:8.5%
- 22年8月:8.3%
- 22年9月:8.2%
- 22年10月:7.7%
物価が下がってきているのであれば、米中銀がこれから金融政策を変更して、利上げのペースを減速するのではないかとの思惑もあり、仮想通貨などの市場が反発しました。
現在、米中銀はインフレを抑制するために銀行の金利を上げて、景気にブレーキをかけています。金利を上げれば市中に出回る通貨が減ります。企業や個人がお金を借りにくくもなって通貨の流れが抑制されるので、物価に下落圧力(デフレ圧力)がかかるのです。
景気のブレーキをこれから緩めることになれば、経済活動や企業投資が活発になるはず。投資家はこのような期待から、CPI発表後に買い注文に動きました。
一方、逆の影響が顕著だったのが8月のCPI。8月は総合指数が8.3%で、コア指数が6.3%でした。それぞれ市場予測は8.1%、6.1%だったため、市場予測を上回ったことで仮想通貨や株の価格は急落しました。
この時は影響がわかりやすいので、当時のビットコイン(BTC)価格のチャートを以下に添付します。CPIの発表は日本時間9月13日21時30分でした。
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ただし、このような市場の動きはあくまでも一例です。同じ状況であれば必ず同様の動きをするとは限りません。実際に投資を行う場合は、他の要因も含めて総合的に判断して行動する必要があります。
まとめ
以上が、CPIの説明です。CPIは単純にモノやサービスの価格変動を表しているだけですが、各国の金融政策や金融市場に大きな影響力を持っています。
仮想通貨市場に大きな影響を与えることのある米国のCPIは、次回は11月の数値を12月13日に発表。22年最後のFOMCは、12月13日から14日に開催されます。
米国には、CPIと同様にインフレ状況を測る指標として「PCE(Personal Consumption Expenditures:個人消費支出)価格指数」という数値があります。算出方法の違いから、PCE価格指数の方がより包括的で実態に近いとされており、米中銀はCPIよりもPCE価格指数を重視しています。
一方で市場が、より注目しているのはCPI。PCEよりは包括的ではありませんが、CPIの方が先行して動くとの見方があります。
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