WebX2026 セッションレポート
オンチェーン金融の現在地、政策・市場・技術が描く日本の針路
自民党の衆議院議員2名と、業界を代表する経営者2名が登壇し、自民党が今年5月にまとめた「AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム」の提言を軸に、ステーブルコインやトークン化預金がもたらす金融の変化と、日本が取るべき針路について議論した。
登壇者プロフィール
自由民主党国家サイバーセキュリティ戦略本部長、デジタル社会推進本部AI・web3小委員会委員長、次世代AI・オンチェーン金融構想PT座長代行。前デジタル大臣、初代サイバー安全保障担当大臣、前デジタル行財政改革担当大臣。
1998年伊藤忠商事入社を経て、1999年日本オンライン証券(現・三菱UFJeスマート証券)設立に伴い同社入社、2004年より社長。2021年退任後はミンカブ・ジ・インフォノイド取締役副社長兼COOなどを経て、2024年7月よりトレードワークス代表取締役社長に就任(現職)。
日本長期信用銀行、UBS証券、三菱証券を経て2005年マネックス・ビーンズ・ホールディングス(現マネックスグループ)入社。2017年より同社執行役CFO。2019年11月コインチェック代表取締役社長執行役員、2024年6月より代表取締役会長執行役員(現任)。2026年6月より日本暗号資産等取引業協会会長。
日本銀行入行後、金融庁出向を経て2017年株式会社マネーフォワード入社。2021年衆議院初当選(青森県2区)、現在3期。現在は自民党金融調査会事務局長を務める。
株式会社Datachain代表取締役、株式会社Speee取締役ファウンダー。2007年Speeeを創業し代表取締役に就任、2011年に代表交代。2018年Datachainを設立し現職。
AI・オンチェーン金融PTの発端と提言
モデレーターを務めたDatachainの久田哲史氏は、自民党が今年5月にまとめた「AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム(PT)」の提言について、その発端と背景を平将明氏に尋ねた。
平将明
ブロックチェーンやAIの政策は、政府というよりも自民党が主導し、毎年ホワイトペーパーを出す形で進めてきた。2022年のNFTプロジェクトチームがWeb3プロジェクトチームに発展し、翌年には生成AIの登場を受けてAIの進化と実装に関するプロジェクトチームが発足するなど、ブロックチェーンとAIの政策を並行して進めてきた。昨年、石破内閣でデジタル大臣を務めていた際にダボス会議のAIセッションに参加し、ブロックチェーン業界の関係者との意見交換で『AIエージェントが金融取引を行う時代には、法定通貨も銀行口座も持てず、ステーブルコインのような仕組みが必要になる』という議論に触れ、AIエージェントとブロックチェーンの相性の良さに強い納得感を得た。金融規制の専門性が求められる分野であることから、今年2月に自民党デジタル社会推進本部内に『AI・オンチェーン金融プロジェクトチーム』を設置し、木原誠二氏をプロジェクトリーダーに、専門性の高い議員を中心に提言をまとめた。提言を公表すると、メガバンクや金融庁、財務省にも衝撃が走ったという手応えがある。
久田氏が提言公表後の反応を改めて尋ねると、平氏は提言の位置づけと今後の課題に言及した。
平将明
提言は2ヶ月という短期間で木原誠二氏が自らペンを取ってまとめた力作だが、テーマが大きいだけに、まだ解像度が低い部分もある。今後さらにヒアリングを重ねてバージョンアップしていく必要がある。金融庁のカルチャー自体を変えていく必要があり、そこは政治の力で後押ししていきたい。
続いて久田氏は、日本銀行や金融庁で制度設計に携わった経歴を持つ神田潤一氏に、PTのヒアリングを通じて印象に残った論点を挙げるよう促した。
神田潤一
昨年秋に木原誠二氏から決済分野でのプロジェクトチーム立ち上げを持ちかけられた当初は、あまり反応できなかった。ところが年明けに平将明氏が、AIエージェントによる決済の自動化とステーブルコインを結び付けるコンセプトを提示したことで木原氏に強く響き、プロジェクトチームが一気に立ち上がった。政治家になる前はマネーフォワードで、ステーブルコインを含む仮想通貨取引所の立ち上げ準備に約1年半携わった。その頃に見ていた将来像が、ようやく現実になってきたと実感している。一方で、決済は間違いがあってはならず、止まってもならないという性質を持つ。これまで日銀やメガバンクが構築してきた堅牢なシステムを、オンチェーン金融へどう置き換えていくか、あるいはサイロ化した決済システムの相互運用性をどう構築していくかという大きな課題が残っている。
ステーブルコイン・トークン化預金とAI時代のトラスト
続いて久田氏は、証券・資本市場の決済という観点から、ステーブルコインとトークン化預金がそれぞれどこで効いてくるのか、またAIオンチェーン金融時代の土台となる情報・データの信頼性をどう担保するのかを齋藤正勝氏に投げかけた。
齋藤正勝
ネット証券の米国株取引システムでは、12月6日から米国株が23時間取引に対応し、10月からは株式トークンによってT+0に近い即時決済が始まる見通しだ。日本の投資家、特にネット証券の顧客はウォレットを持つようになるだろう。AIエージェントが台頭する中で、KYC(本人確認)はKYA(エージェントの本人確認)に置き換わっていく。金融機関としては、不正侵入を完全に防ぐという発想よりも、侵入が起きた前提で確実な証跡を残すことが重要になる。
平将明
AIエージェントとブロックチェーンの相性は良い。AnthropicのMythosを巡る問題では政府の座組作りにも関わってきたが、脆弱性診断とパッチ適用に頼る対応だけでなく、ブロックチェーンの特性を生かした防御やリカバリーの選択肢があるはずだ。今回のMythosの問題を受けて、ブロックチェーンは新たな可能性の時代に入ったと考えている。
久田氏は、国内最大級の取引所という立場から、ステーブルコインやトークン化資産がユーザーや取引所をどう変えていくのか、蓮尾聡氏に話を向けた。
蓮尾聡
これまで暗号資産交換業は、ビットコインをはじめとする仮想通貨の取引・交換を主に手掛けてきた。しかしステーブルコインやトークン化預金をきっかけに商品のオンチェーン化・デジタル化が進み、様々な資産を取引できる環境が徐々に整っていくと見ている。世界的にこうした商品の提供が進む中、業界として新しいことに取り組みたい気持ちは強い。一方で金融庁の監督下にあるため、守るべきルールもある。平氏から金融庁を変えるという心強い言葉があったことも踏まえ、取り組むべきところはしっかり取り組みながら準備を進めていきたい。
続けて久田氏は、ステーブルコインとトークン化預金それぞれに期待するユースケースについて神田氏の見解を求めた。
神田潤一
オンチェーン金融の提言でも、ステーブルコインとトークン化預金には大きな期待を込めている。ステーブルコインはオンチェーンの決済で通貨として取引されるもので、為替変動リスクのない円建てステーブルコインを使える環境整備を求める声が強い。一方トークン化預金は、例えば銀行が発行するトークン化預金をその銀行内の法人間で預金と同様に使えるようにしたり、プログラマブルな機能を付与して各行が独自の使いやすい機能を提供したりする形が想定される。ステーブルコインとトークン化預金は、それぞれ役割分担をしながら両輪として機能を広げていくものだと考えている。
久田氏は、提言にある「AIに選ばれることが重要」という論点を取り上げ、日本がAIに選ばれるために何が肝になるかを平氏に問いかけた。
平将明
米国政府の輸出規制で特定の生成AIモデルへのアクセスが停止された事例があるが、原油と異なり、最先端の生成AIは『止める』と言われた瞬間に止まってしまう。AI覇権が世界の覇権を左右する状況の中で、ミドルパワーの国々が自国でできることを進める流れがある。米国でAIへの排外的な機運が高まった場合、EUはハードローで厳格に規制しているため受け皿になりにくく、学習・実装のしやすさを備えたAIフレンドリーな国として、日本が有力な選択肢になり得る。金融面ではCBDCかステーブルコインかという選択が課題となってきたが、日本発のステーブルコインやトークン化預金の議論が進んできた。アジア域内の貿易では日本円建ての決済が多く使われている。与党・自民党の立法者側から、オンチェーン金融の世界観を国際的に発信していくことが重要だ。
社会実装の未来と課題
最後のテーマとして、久田氏はJPYCやJPYSCの発行、年度末に見込まれるメガバンク3行共同のステーブルコインなどを踏まえ、今後1〜2年で生活がどう変わっていくかを登壇者全員に問うた。
齋藤正勝
個人投資家・利用者の目線で言えば、ドルの強さは依然として事実だ。米国市場は23時間取引や株式トークン、T+0決済といった環境整備を先行させている。日本の銀行にもドル建てステーブルコインの発行を認め、ハイブリッドな形で対応した方が良い。一方で、日本のステーブルコインは極めて安全な制度設計がなされている。課題はむしろ、システムの実装力の弱さにある。
平将明
AIエージェントとブロックチェーンによる決済の自動化・自律化が進む未来に向けて、メガバンクを含む金融機関は、既存システムへの投資とブロックチェーンへの投資という二重投資を迫られる難しさがある。米国は英米法のもとで実装を進める一方、大陸法の日本は規制が整うまでグレーゾーンでフリーズしがちな構造があった。金融庁が意識を変え、スタートアップの参入を促しつつ既存の銀行にも目を配る、両輪の取り組みが求められている。
久田氏は、銀行はゼロリスクが前提とされる一方、スタートアップは多産多死でべき乗則的なリターンを狙う存在だという構造的な違いを、どう乗り越えていくかへと議論を進めた。
蓮尾聡
暗号資産交換業者の立場からすれば、最終的には顧客に使ってもらえるかが重要だ。法律の枠組みにとらわれず、トークン化預金かステーブルコインかを問わず、ユーザーにとって使いやすい形での提供を目指すべきだと考えている。今後は証券や銀行の世界との関わりも増えていく。ただ業界の課題として、既存の金融機関人材との交流がまだ十分でなく、双方の会話がかみ合わない場面もある。既存金融の人材が仮想通貨業界に加わることで、取り組みはさらに前進していくと期待している。
神田潤一
今週は日本のクリプト政策にとって重要な週だ。参議院で審議されている金融商品取引法改正が成立すれば、これまで資金決済法上に位置づけられていた暗号資産が金融商品取引法上に位置づけられ、投資家保護を図りながら金融資産として取引される環境がさらに整備される。続いて年末までに税制議論が控えており、現行の総合課税(最大50%)から分離課税(20%程度)への引き下げが焦点になる。その先の2〜3年の展望としては、DeFi(分散型金融)の法制化が課題になる。DeFiはこれまで既存の金融・証券取引をディスラプトするイメージが強く、政治家としても手をつけにくい領域だった。しかしステーブルコインがDeFiで貸し出され、5〜7%程度の利回りが生まれる形が広がれば、その世界に踏み出す人が増えていく。既存金融と並行してDeFiの世界も広がっていくための法整備を、金融庁が勇気を持って進めていく必要があるタイミングに差し掛かっている。
セッション総括
モデレーターの久田氏は、最後に登壇者へメッセージを求めた。平将明氏は、ブロックチェーンはサイバーセキュリティの領域でも活用が進み、金融全体がブロックチェーンにシフトしていく先にAIエージェントが掛け合わさっていくとし、ビジネスチャンスが大きく広がる局面にあるとの見方を示した。Web3がいよいよ本格的に金融の世界に入り、税制整備も進む中、非常に楽しい局面を迎えているとの認識を語った。齋藤正勝氏は、7月8日の日経新聞で発表した「政治の世界をオンチェーン化しましょう」という提案に触れ、お金に関わる部分でブロックチェーンの良さを社会実装していくことで、他の事業会社にも波及しやすくなるのではないかとの考えを示した。これを受けて久田氏自身も、助成金や給付金など「パーパスバウンドマネー」の分野に強い関心があるとし、事務コストがゼロに近づいていけば、困っている人への支援が行き届き、格差や社会不安の縮小にもつながるとの期待を語った。
神田潤一氏は次の言葉で締めくくった。
「平先生をはじめ、我々は世界で一番ブロックチェーンやAIに詳しい政治家を目指しているし、そうなっているのではないかと自負している。これからも皆さんと一緒に、新しい時代を平先生を先頭に切り拓いていきたい。」
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