暗号資産(仮想通貨)などの金融資産では、手元にある資金の範囲内で取引を行うことが基本です。一方で、手元の資金よりも大きな利益を狙える手法もあります。
この手法として活用できるのが「レバレッジ(証拠金)取引」。しかしながら、資金よりも大きな利益が狙える反面、リスクも大きい手法です。
本記事では、レバレッジ取引をまだ行ったことがない方や、仕組みがよくわからないという方を対象に、概要やメリット、リスクについて解説していきます。
1.レバレッジ取引の概要
レバレッジ取引は、投資を行う時の取引手段の1つ。大きな特徴は、自己資金以上の取引が行えることです。レバレッジ取引は株式など仮想通貨以外の資産でも行われています。
自己資金以上の取引が行えるといっても、まったく資金のない状態ではレバレッジ取引も行えません。規定で定められた金額に相当する「証拠金」と呼ばれる資金が必要です。
現在、日本の仮想通貨取引所で個人がレバレッジ取引を行う場合、取引できる金額は証拠金の2倍までと規制で決められています。例えば、1万円の資金が手元にある場合、レバレッジ取引では最大で2万円相当の取引が行えるという意味です。
「レバレッジ(=leverage)」という単語には「てこの力」という意味があります。小さな力で重いものを動かす時に「てこの原理」が用いられますが、レバレッジ取引も意味は同じ。レバレッジ取引は「手元にある資金で、その資金以上の利益を狙うことができる取引」という意味です。
もう少し理解を深めるために、次節では、一般的な投資手段である「現物取引」と比較します。
2.現物取引との違い
現物取引もレバレッジ取引と同様、取引手段の1つ。仮想通貨でも現物取引が広く行われています。現物取引を行う場合、新規で1万円分の仮想通貨を購入する時は、同額である1万円分の資金が必要です。
買い注文の時は1万円の資金を支払うことで、1万円相当の仮想通貨を受け取ることが可能。なお、レバレッジ取引の概要を理解していただくことに特化しているため手数料は無視します。
また、現物取引で1万円分の仮想通貨を売却する場合、1万円分の仮想通貨をすでに持っていることが前提です。現物取引では、所有していない仮想通貨に対して、売り注文を行うことはできません。
次に、これらの現物取引の特徴を、レバレッジ取引と比較します。
日本の仮想通貨取引所で取引を行う場合は、上述した通り、1万円の資金があれば2万円相当まで取引が可能。1万円の証拠金を担保として預けることで、取引可能額が2万円に増えます。このようにレバレッジ取引は、現物取引と「取引可能額」が異なります。
それに加えて「決済方法」も違います。現物取引では実際に仮想通貨の授受が行われますが、レバレッジ取引では行いません。利益だけが支払われる仕組みです。利益だけを受け取る決済手段は「差金決済」と呼ばれています。
ここで、差金決済の具体例を見てみましょう。わかりやすいように、ビットコイン(BTC)を1BTCを購入すると仮定します。
- 1BTCの価格が100万円の時にレバレッジ取引を開始
- 50万円(100万円分の半分)の証拠金を預けて、1BTCの買い注文を入れる
- 1BTCの価格が110万円に上昇
- ビットコイン価格が値上がりしたので1BTCを売却
- 10万円(110万円ー100万円)の利益を受け取る
レバレッジ取引では、2の時にビットコインのやりとりは行いません。最後に決済する時に、証拠金に加えて10万円の利益だけを受け取るのが差金決済です。
また、レバレッジ取引では、差金決済の仕組みを活用して、仮想通貨を保有していない状態で売り注文を行うことが可能。この売り注文は「空売り」と呼ばれます。
空売りできることはレバレッジ取引のメリットの1つ。詳しくは次節で説明します。
3.メリットとデメリット
3-1 レバレッジ取引のメリット
レバレッジ取引の主なメリットは以下の3つです。
- 手元にある資金以上の利益が狙える
- 空売りすることで下落相場でも利益が狙える
- 保有している仮想通貨を有効活用できる
一番上の「資金以上の利益が狙える」は前節で説明した通り。本節では2つ目から解説していきます。
一般的な取引では、「これから仮想通貨の価値が上昇する」ことを期待して買い注文を行うことが多いです。一方、レバレッジ取引で下落相場において利益を狙う場合は、「これから価値が下落する」ことを期待して売り注文を行います。
具体的な流れは以下の通りです。
- 1BTCの価格が100万円の時にレバレッジ取引を開始
- 50万円(100万円分の半分)の証拠金を預けて、1BTCの売り注文を入れる
- 1BTCの価格が90万円に下落
- ビットコイン価格が値下がりしたので1BTCを購入
- 10万円(100万円ー90万円)の利益を受け取る
この場合の取引も資金決済。仮想通貨の授受は行わず、利益だけを受け取ります。
4で「購入」となっているところがわかりづらいかもしれませんが、正確には、以下のような注文が実行されて、レバレッジ取引は完結します。レバレッジ取引では、注文を入れることを「ポジションを持つ」のように表現します。ポジションは「建玉(たてぎょく)」と言われることもあります。
- 購入時:買い注文でポジションを保有し、売り注文でポジションを解消する
- 売却時:売り注文でポジションを保有し、買い注文でポジションを解消する
なお、上記3つ目のメリットは、現物として保有している仮想通貨を証拠金に利用できる場合があるという意味です。
ただし、仮想通貨は法定通貨と違って大きく価格変動する可能性があります。次は、こういったリスクを含め、デメリットをご紹介します。
3-2 レバレッジ取引のデメリット
レバレッジ取引の主なデメリットは以下の2つです。
- 利益だけでなく、損失も大きくなる可能性がある
- 注文維持にコストがかかる
レバレッジ取引は、手元の資金より大きな利益を狙えますが、反対に損失が大きくなる可能性もあります。
例えば1BTC=100万円の時に現物取引を行い、100万円を支払って1BTCを購入していれば、10%価格が下落して1BTC=90万円になった時の損失額は10万円です。
一方、レバレッジ取引で100万円を証拠金として預け、200万円分の2BTCを購入していた場合、価格が10%下落した時の損失は20万円で倍になります。
また、レバレッジ取引ではポジションを保有している間、取引所が設定した手数料がかかります。「ポジション金額×0.04%」が1日ずつ加算されていき、決済した時に差し引かれるというような仕組みです。細かいルールは取引所やサービスによって異なりますが、具体的には「数量×終値×0.04%」のように算出されます。
レバレッジ取引は手数料が加算されていくこともあり、長期投資には向かないとの見方が強いです。
3-3 ロスカットと追証について
本節の最後に「ロスカット」と「追加証拠金(追証)」について解説します。
レバレッジ取引では損失の拡大を防ぐため、事前に告知することなく、ユーザーが保有しているポジションを、取引所が強制的に決済する場合があります。必要な証拠金の割合が50%以下になると強制清算されるなど、取引所やサービスによって基準が決められています。
たとえユーザーが「長期的には価格が上昇するからポジションを保有したままにしたい」と思っていても、規定に従って注文を清算。この強制的に清算を行うことをロスカットと呼びます。
この「50%」のような数字は「証拠金維持率」と呼ばれます。急な価格変動で証拠金維持率が規定の水準を下回ってロスカットされると、証拠金だけでなく、追加で損金の支払いが発生する場合もあるので注意が必要です。
また、レバレッジ取引では、証拠金維持率が100%のような基準を下回ると、追加で証拠金の支払いを求められることがあります。これは「追証制度」と呼ばれます。追証制度では、指定時間内に証拠金を追加したり、レバレッジ取引の注文を決済したりして証拠金不足を解消しないと、現物取引の未約定の注文が取り消されたり、未決済のポジションが強制決済されることがあります。
このように、レバレッジ取引を行う場合は、デメリットと合わせ、ロスカットと追証にも注意が必要。もちろん証拠金を追加入金することによって、ロスカットや追証は回避していくことが可能です。
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4.レバレッジ取引の規制
前節で説明したように、レバレッジ取引は手元の資金よりも高い利益を狙える一方、損失が大きくなる可能性があります。日本では投資のリスクを考慮し、レバレッジ取引を巡る規制整備が徐々に進められ、最終的に「証拠金の2倍まで」と定められました。
上述した通り、いま日本で個人が仮想通貨の売買を行う場合、取引可能額は証拠金の2倍までです。このルールを定めた時、法人向けの取引は「価格変動に基づく必要な証拠金率を、仮想通貨のペアごとに週次で算出する」と決めました。
このルールは金融庁が、2020年5月施行の法改正で制定。金融庁は、2倍と定めた理由として、以下の2つを挙げています。
- 主要な仮想通貨であっても価格変動が激しいものが複数存在しているため
- 顧客に対する規制の簡明性を確保するため
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なお、以前は、日本の取引所でも最大25倍でレバレッジ取引が可能でした。これは外国為替証拠金(FX)の取引ルールにならっていました。
その後に、金融庁認定の自主規制団体「JVCEA(日本暗号資産取引業協会)」が、仮想通貨のレバレッジ上限を4倍に引き下げるルールを定め、各取引所が2019年にかけて倍率を変更しています。
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2018年9月12日付の文書で、JVCEAは4倍と定めた根拠を以下のように説明しました。
2018年3月31日を起点にその前3か月、1年、3年を対象期間とし、主要な仮想通貨であるビットコインの日次価格変動率をサンプルとしました。
未収金の発生を予防する観点からサンプルの99.5%が収まるラインを適正値とし、いずれの期間でもこのラインに収まる値を抽出。この結果、変動率約25%という値が得られたため、証拠金倍率を4倍に設定しました。
その後、金融庁の決定によって上限は現在の2倍に。レバレッジ取引の倍率を低水準にすることには、投資家の海外流出を招くとの批判の声が上がりました。例えば、バイナンスでは現在、証拠金の125倍の取引も可能です。
2020年4月に金融庁が公開した、仮想通貨規制に関するパブリックコメント(意見公募)の回答欄には、「証拠金倍率の上限を2倍とすることで国内の業者が使われなくなり、利用者は海外業者に流れるのではないでしょうか」との質問に対し、以下の説明が記載してあります。
日本の居住者のために、または日本の居住者を相手方として仮想通貨を用いた証拠金取引を業として行う場合には、金融商品取引業等の登録が必要となります。
金融庁では、無登録営業を行う業者に対する警告書の発出等の対応を行い、捜査当局および消費者庁等の関係当局に連絡をするとともに、利用者に対する注意喚起を行っています。さらに、海外の関係当局とも連携を行っているところです。
なお、このパブリックコメントには「レバレッジ規制の見直しはありうるでしょうか」との質問もありました。この質問については「一般論として、仮想通貨を用いた証拠金取引を取り巻く状況の変化等に応じ、必要な場合には規制の見直しを検討していくものと考えられます」と回答しています。
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5.まとめ
以上がレバレッジ取引の概要です。現物取引とは違ったリスクやルールがあるので、レバレッジ取引を行う場合には、仕組みや取引所の説明を十分に理解しておく必要があります。
また、購入後に追加手数料の支払いを気にせず長期保有できる現物取引とは違い、レバレッジ手数料や証拠金維持率に注意を払う必要もあります。
一方で、手元の資金よりも大きな利益が狙えることも事実。本記事で興味を持たれた方は、ご自身が利用する取引所のルールを確認するなどして、レバレッジ取引の理解を深めてみてはいかがでしょうか。
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