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JPYSC運用の利回りは家計に届くか 流通・開発の担い手が語る現在地

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The Great Rotation セッションレポート
JPYSC運用の利回りは家計に届くか 流通・開発の担い手が語る現在地

近藤智彦 × 手塚孝

Apyxとアライドアーキテクツが主催するクローズドカンファレンス「The Great Rotation『大転換』 日本は世界のオンチェーン利回りをどう獲るか」が10月2日、都内で開かれた。セッション「日本のオンチェーン利回り元年 家計金融資産の『大回転』にステーブルコインは何をもたらすか」には、SBI VCトレードの近藤智彦氏とStartale Japanの手塚孝氏が登壇した。
議論の中心は、信託型の円建てステーブルコイン「JPYSC」だ。レンディングの利回りと実績、米国で進む取引所経由のDeFi運用、税制改正を前提とした外部出庫の解禁時期、株式やMMFのトークン化まで話が及んだ。
SBI VCトレード株式会社近藤智彦代表取締役社長
株式会社Startale Japan手塚孝代表取締役CEO
株式会社幻冬舎 あたらしい経済設楽悠介編集長
※冒頭の写真は左から、設楽悠介氏、近藤智彦氏、手塚孝氏

1号のJPYCと3号のJPYSC

最初の論点は、JPYSCの位置づけだ。国内外に数多くあるステーブルコインのなかで何が違うのか、設楽氏が近藤氏に尋ねた。
近藤智彦
日本でいま認可を受けて流通しているステーブルコインは4つある。ドル建てがUSDCとRLUSD、円建てがJPYCと当社が扱うJPYSCだ。JPYCは2025年、日本で初めて発行された資金移動業型で、JPYSCは信託型として初めてのものになる。法律上はJPYCが1号電子決済手段、信託型が3号電子決済手段で、1号と3号では規制が違ってくる。
1号は資金移動業型なので、ステーブルコインに限らず通常の資金移動業者が発行できる。JPYCの場合は資金移動業の第2種にあたるので、発行するときも償還するときも1回あたり100万円までという規制がかかる。ノンカストディアルウォレット(利用者自身が鍵を管理するウォレット)に出た後の流通に100万円の制限はなく、制限がかかるのは発行・償還の場面だ。
信託型にはそうした制限がない。JPYSCはそこを目指してスタートした。
国内では先行するJPYCに加え、今後は銀行系のステーブルコインやトークン化預金も出てくるとみられる。競合はライバルでもあるが、歓迎すべき存在なのか。設楽氏がそう水を向けると、手塚氏は用途の違いによる住み分けを強調した。
手塚孝
歓迎する、というのが公式なコメントになると思う。ただ1号と3号では制度の枠組みが違うので、JPYSCが想定する用途も変わってくる。
JPYSCには発行・償還時の100万円の制限がないので、まとまった資金をいかに運用していくかに寄ってくる。我々はリテールだけでなく、機関投資家向けのホールセール用途にも期待しているので、結果的に住み分けができているのではないか。
メガバンクも取り組みを進めているが、パブリックチェーンというよりは別の形で進めると聞いている。機関投資家やオンチェーンでの運用というニーズには、JPYSCが応えていけるのではないかと思っている。
補足:JPYSCは2026年6月24日に提供が始まった。SBI新生信託銀行が発行し、SBI VCトレードが流通を担う。Startale Groupが共同開発に加わった。資金決済法上、JPYSCは第3号電子決済手段に分類される。

JPYSCレンディングの利回りとリスク

ステーブルコインは法定通貨に価格が連動するもので、そこから収益を生むイメージは持ちにくい。設楽氏がそう投げかけると、近藤氏は7月に始めたレンディングサービスを紹介した。
近藤智彦
6月にJPYSCを発行し、7月にJPYSCレンディングを始めた。個人口座でも法人口座でも、当社のプラットフォームでJPYSCを購入し、そのまま貸し出していただくと、一定期間後に利回りをつけてお返しする。円建て相当の資産に変えて、そのまま貸していただく形だ。当初は貸出期間を3カ月とし、満了時に年率3%相当をつけてお返しするサービスとして始めた。提供開始から3カ月弱が経つ。
正直に申し上げると、現在72億円ほどがレンディングされている。発行額が200億円なので、合わせて270億円強がJPYSC全体の規模になる。
現在提示している条件は、1カ月で年率2%、3カ月で年率2.5%、6カ月で年率3%だ。利回りだけを見れば、一般的な預金や定期預金より間違いなく良い。
ビットコインやイーサリアムのレンディングは、価格が上がれば値上がり益も得られる一方、大きく下落すれば預けている間に資産が目減りする。設楽氏がそう指摘してJPYSCとの違いを確かめると、近藤氏はリスクの所在を説明した。
近藤智彦
価格変動リスクは基本的にない。端的に言えば、預けている期間にSBI VCトレード、ひいてはSBIグループがつぶれるかどうか、ぐらいで考えていただければいい。
当社が借り受ける形なので、破綻すればレンディングに対する返済義務、つまり債権は発生するが、弁済の順位が劣後するため返ってこない可能性がある。仮に当社が破綻し、親会社の支援も得られなければ、個人や法人の皆様にお返しできない可能性がある。それがリスクなので、どの程度顕在化しうるかを評価していただくのがいいと思う。
法人の利用比率についても、近藤氏は率直に答えた。
近藤智彦
実は半分ほどが法人だ。個人としてやっていただきたいし、所属する会社の法人口座でもできる。CFOや財務担当の方で遊休資産があれば、銀行に置いておくより有利だ。1口座あたり1週間に申し込める上限を、いったん5億円まで上げた。上限値はいまも調整している。
補足:JPYSCレンディングは、利用者がSBI VCトレードにJPYSCを貸し出す契約で、銀行預金とは仕組みが異なる。7月16日に申し込みを開始し、当初は12週間満期・年率3%で提供された。SBI新生信託銀行とSBI VCトレードの発表によると、9月7日時点の発行残高は約201億円相当、レンディング申込額は約69億円相当で、合わせて約270億円相当となる。預金保険制度の対象外で、貸出期間中の中途解約は原則できない。貸し出したJPYSCは資金決済法上の分別管理の対象外となる。

米国で広がる取引所経由のDeFi運用

これまでステーブルコインで大きく運用してきたのは、クリプトトレーダーか機関投資家だった。グローバルではこの流れが家計にも広がっているのか。設楽氏はその問いを手塚氏に向けた。
手塚孝
結論から言うと、いま入ってきていると言える。大きいのは米国のコインベースだと思う。レイヤー2のBaseを持つ企業が、ライセンスを得た取引所として何をしているか。UXは一般的な取引所そのものだが、その中でUSDCを預けると、ユーザーは結果的にUIを通じてDeFiにアクセスし、Morpho(モルフォ)のようなプレイヤーのレンディングを使っている。規制された取引所を経由して、DeFiを利用するケースが出てきている。
昔、FXが出てきたときに「ミセス・ワタナベ」が活発に取引していたことがあったと思うが、米国ではそのコインベース版のようなことが起きている。ただ彼ら、彼女たちには、自分がDeFiをやっている、そもそもクリプトをやっているという意識があまりない。
ミセス・ワタナベ的な人が、いきなりDeFiで秘密鍵を扱うのは難しい。入口にステーブルコインがあり、ライセンスを取って法令に準拠した金融機関や取引所が間に立って管理しながら、そうした人たちを招き入れていく。それが流れなのではないかと思う。
日本では法令を含めて変えていかなければいけないところがまだあり、USDCやJPYSCといった通貨の先にある運用手段が限られているのは事実だ。ただ法改正を経て、金商法のもとで株や投資信託がトークン化できるようになり、ゆくゆくはそれを担保にレバレッジをかけて運用できるようになれば、日本でもひとつの大きな流れができるのではないか。
登壇する手塚孝氏
補足:「ミセス・ワタナベ」は、2000年代にFX取引で為替市場を動かすほどの存在感を示した日本の個人投資家を指し、海外の市場関係者が用いた呼び名。コインベースは2025年9月18日、アプリ内でUSDCをオンチェーンで貸し出せる機能の提供を発表した。同社のレイヤー2であるBase上のレンディングプロトコルMorphoと連携し、Steakhouse Financialが管理するボールト(資金の預け先となる運用枠)を通じて資金を配分する。ユーザーは通常のアプリ画面のまま利用できる。

外部出庫の解禁と円建ての存在感

国内でステーブルコインを扱う事業者は、まだ多くない。ライセンス取得の難しさについて、近藤氏は率直に語った。
近藤智彦
まず、大変だ。暗号資産交換業と類似する部分があるので、その事業をしていないと二重コストのようになる。
JPYSCは現状、SBI VCトレードの外に出せない。この点を確認された近藤氏は、税制上の課題を挙げた。
近藤智彦
6月の発行からレンディング開始までは、SBI VCトレードの取引画面で日本円をJPYSCに変え、戻すだけの操作しかできなかった。現在も外部には出せない。毎年8月末に金融庁が出している税制改正要望が2026年も公表され、その中に信託型の電子決済手段、つまりステーブルコインに関する相続税法の見直しが入っている。そこに書かれているのは、まさに当社の話だ。
相続税法に課題があるので、いまはあえて流通させないようにしている。だからローンチ時に出庫しないことにした。この税制が変われば外部に出庫できる。MetaMaskに出せるし、どこかで扱われればそこで取引もでき、個人間でのやり取りもできる。もちろん決まってはいないが、今の見立てでは遅くとも2027年4月1日にはスタートできる。
一方、JPYCのような1号であれば相続税法とは関係がない。信託型だと、法律上は1つ1つが受益権のような話になり、では受益者は誰なのかという話になる。既存の規制に当てはめる必要があるため、そこが課題になる。仕組みとしては出庫を受け付けていないだけなので、画面を対応させれば、任意のウォレットアドレスを登録して送れるようになる。
5月に自民党が次世代AI・オンチェーン金融構想PTの提言を出していたが、議員の方々も、グローバルで円建てのステーブルコインが流通しないと、通貨主権が劣後すると考えている。日本円は貿易なども含めて世界で4〜5%ほど流通しているが、ステーブルコインは世界の残高が50兆円で、そのうちテザーが30兆円台だ。その中で、JPYSCはいま270億円ほどにとどまる。
世界の50兆円に対し、日本の円建てステーブルコインは数百億円規模にとどまる。近藤氏は、この差を埋めていく取り組みは政策の方向性とも一致するとの見方を示した。
補足:金融庁は8月31日に公表した2027年度税制改正要望で、信託型ステーブルコイン(特定信託受益権)の受益者が変わった際に受託者が提出する、相続税法上の「信託に関する受益者別調書」と所得税法上の「信託の計算書」を不要とするよう求めた。外部出庫の開始は、こうした税制上の手当ての実現と、関係法令・税務実務の整理が前提となる。電子決済手段等取引業の登録は、SBI VCトレードが2025年3月4日に第1号を取得し、コインチェックが2026年8月27日に国内2社目として登録を完了した。

株式・MMFのトークン化に問われる意味

話題は株式のトークン化に移った。Ondo Financeなどの動きでグローバルに注目を集めるなか、日本ではどう進むのか、ステーブルコインはそこに絡むのか。設楽氏が2人に見解を求めた。
近藤智彦
法律はまだ定まっていないが、トークン化株式ができても、おそらくSBI VCトレードでは取引できない。扱うのは証券会社になるだろう。ST(セキュリティトークン)も現在は証券会社の領域だ。何のライセンスで扱えるのか、制度がどうなるのかがまず気になっている。
グループとしては、そういう時代が必ず来ると思うので目指していく。当社で販売できなくても、当社の資産のまま証券会社で購入できるようにするなど、私は皆さんがどう取引するかに注目しがちなので、きちんと使えるプロダクトにしたい。グループ内では銀行と証券の間でリアルタイムに資金を移せるので、その仕組みに当社も加わりたい。
手塚孝
近藤さんがおっしゃったように、第一種金融商品取引業を含めてライセンスが変わってくるので、法的な部分は当然考慮しなければならない。もうひとつ、トークン化はトークン化するだけでは基本的にあまり意味がない。トークン化したときにユーザーにどういうベネフィットがあるのか、発行者やディストリビューターにとって何の意味があるのかがポイントだと思う。
証券会社には、すでに日本株や米国株を持っているお客さんがいる。その方々に、なぜこのタイミングでわざわざトークン化したものを持たなければいけないのか、という話になる。小口化の話も、それほどはっきり変わるわけではない。T+0(取引当日の決済)や24時間365日の取引にしても、家計の人たちがそれほど回転売買をするのか。そうなると夜も眠れなくなってしまい、本来の投資行動にはふさわしくない。そこはまず明確にしていく必要がある。
法制度が進む米国でトークン化の話をすると、ニーズの半分弱は米国債(トレジャリー)やMMF(マネー・マーケット・ファンド)だ。厳密にはMMFではないものも含め、フランクリン・テンプルトンのBENJIやブラックロックのBUIDLといったトークン化ファンドのように、信用格付けの高い安全資産をトークン化している。USDCからそこへ乗り換え、MMFなら米国で5%近く出る利回りを享受しながら、担保にしてOTCデリバティブ(取引所を介さない相対のデリバティブ取引)を行っている。ヘアカット(担保評価額の割引率)がそれほど大きくない状態で、証拠金に基づく取引をどこまでできるか。そこに投資家から見た意味が出てくる。
一方、日本でMMFをトークン化しようとすると、投信法の規定で券面(紙の受益証券)を発行しなければならないといった話になる。トークン化自体はできるかもしれないが、譲渡ができない。譲渡できなければ担保にもできない。日本のMMFは米ドルほど利回りが出ないので、トークン化したMMFを持つだけでは、わざわざクリプトでやる必要がないという話になりかねない。我々としては、そこまできちんと整理し、考えたうえでトークン化していかないと、出しただけで終わってしまうと思っている。
補足:SBIホールディングスは7月16日、RWA(現実資産)のトークン化を手がけるOndo Financeとの戦略的提携を発表した。日本株などのトークン化や、Ondoのトークン化商品をSBIグループで提供することを目指し、Ondoのトークン化資産の決済や担保にJPYSCを活用することを、提携の主な取り組みに挙げている。なお、Crane Dataが集計する米国の大手100本のMMFの平均利回り(7日間)は、2026年9月4日までの週で年3.51%だった。

セッション総括

最後に設楽氏は、会場の半数以上がステーブルコインを持つ一方、日本全体ではまだ保有者が少ないとして、普及に向けた方策を近藤氏に尋ねた。
近藤智彦
まずは先ほどの話のとおり、遅くとも2027年4月にはパブリック化するので、そこから円建てがどうなるかを見守っていただき、ぜひ活用していただきたい。とはいえ、ここにいる皆さんはステーブルコインのトップ・オブ・トップだ。一般の方に広めるには、利回りのような分かりやすい価値を示していく必要がある。
実は税制もまだ課題で、ステーブルコインは総合課税なので、所得の高い方は住民税と合わせて最大55%を税金で取られてしまう。例えばレンディングが年率3%なら、約666万円までの運用であれば雑所得が20万円以下に収まる。他に雑所得がなければその範囲は問題ない、といった制度の違いもきちんと普及させていかなければならない。ハードルは高いが、なるべく分かりやすく、一般化したサービスを突き詰めていきたい。
補足:JPYSCレンディングの利用料は雑所得として総合課税の対象となる。給与所得者で給与以外の所得が年間20万円以下であるなど、一定の条件を満たせば確定申告は不要となる。ただし、住民税の申告は別途必要となる。
個人的な見解と断ったうえで、設楽氏はSBI VCトレードが始めたステーキング報酬のJPYSC受け取りを挙げた。値上がり益も狙いたいなら、仮想通貨を買ってステーキングし、受け取ったJPYSCを貯めてレンディングに回す使い方が面白いと話すと、近藤氏はその狙いを説明した。
近藤智彦
報酬を仮想通貨のまま持っていると、税金は払ったのに価格は下がっている、ということがある。まさに2025年がそうだった。そうならないように、ステーキングで利益を確定し、確定したステーブルコインを回してもらう。そういう流れを作りたいという取り組みだ。
補足:SBI VCトレードは9月2日、VCTRADEサービスの全ステーキング対象銘柄で、報酬をJPYSCで受け取れるサービスを始めた。報酬は受取日午前7時時点の販売所価格で円換算し、1円=1JPYSCで付与される。
設楽氏は会場に、ステーブルコインのこうした使い方を周囲にも伝えてほしいと呼びかけ、セッションを締めくくった。
税制改正を経て2027年春に外部出庫が実現するか、そしてJPYSCの利回りが一般の家計まで届くかが次の焦点となる。
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