WebX2026 セッションレポート
JPYSCが描く信託型円ステーブルコインの未来
Startale Group CEOの渡辺創太氏と、SBI VCトレード代表取締役社長の近藤智彦氏が登壇し、SBIホールディングスとStartaleが共同開発した国内初の信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」について、決済インフラとしての将来像と直面する課題を語った。
登壇者プロフィール
2019年に日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network」を設立し、2023年にStartaleを設立してCEOに就任。SBIホールディングスの社外取締役も務め、オンチェーン金融領域での提携を推進する。
2007年にSBIホールディングスへ新卒入社し、情報システムや電子決済事業を担当。2019年にSBI VCトレード取締役に就任し、2023年より代表取締役社長として暗号資産・ステーブルコイン事業を主導する。
大学院修了後、2010年にシンプレックス入社。FX/暗号資産ディーリングソリューションの開発・事業支援を経て、現在はブロックチェーン技術を用いた暗号資産・STO・ステーブルコイン領域のソリューション事業を統括する。
SBIとStartale、JPYSC誕生の経緯
モデレーターの三浦和夫氏は、SBIホールディングスとStartale Groupの提携の経緯や、両社の役割分担について尋ねた。
渡辺創太
SBIホールディングスとは資本業務提携を結んでおり、昨年8月に出資を受けていると説明。自身も先月からSBIホールディングスの社外取締役に就任し、オンチェーンファイナンスの領域を共同で推進していると紹介した。日本円のステーブルコインに取り組むことになったのは昨年9月頃で、SBIホールディングス代表の北尾吉孝氏と話をした後、準備を進め、省庁との調整や技術開発を経て発行に至ったと経緯を語った。
近藤智彦
SBI VCトレードとStartaleの提携は昨年8月で、まもなく1年になるとした上で、昨年秋からステーブルコインの発行に向けて注力し、2026年6月24日に信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」の発行と流通を開始したと説明。Startaleの日本チームとも日常的に連携しながら進めていると述べた。
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JPYSCが目指す決済インフラ像
三浦氏は、JPYSCがどのような決済インフラを目指しているのかを尋ねた。
渡辺創太
日本円ステーブルコインの決済というユースケースは「最後に来るもの」だとの持論を述べ、現時点で最もチャンスがあるのはアセットマネジメント、特に日米の金利差を利用したキャリートレードだと指摘した。日本円の金利が世界的に見て低水準にある一方、米国の金利は相対的に高く、世界の投資家が日本円で調達した資金を海外資産で運用するという発想を、オンチェーン上で実現したいと説明。世界中の人々が数秒以内に日本円ステーブルコインを保有して資産運用できるようになれば、日本円の国際的なプレゼンス向上にもつながるとの考えを示した。決済ソリューションについては、PayPayなど既存の決済手段がすでに使いやすい水準にあるため、まずは資産運用の文脈からユースケースを広げていきたいとした。
レンディング発表と信託型を選んだ理由
話題はJPYSCの具体的なサービス展開に移った。
近藤智彦
本セッションの場で、JPYSCのレンディングサービスを本日発表したと明かした。今週木曜日から募集を開始し、3ヶ月で年率3%相当を日本円建てで提供する内容で、銀行に預けているだけの資金の受け皿になり得るサービスだと紹介した。
渡辺創太
この年率3%という水準について、新生信託銀行を傘下に持つSBIグループが銀行預金と競合しうる構造の中でオンチェーンファイナンスに踏み込む意思決定をしたこと自体に驚きを示した。
近藤智彦
信託型を選んだ理由について、他の選択肢と迷う余地がなかったと述べ、パブリックチェーンでの発行も当初から既定路線だったと説明した。現状はSBI VCトレードの口座内限定で、円とJPYSCがスプレッドゼロで行き来するだけの段階にとどまっているとした上で、口座外への出庫はまだできないものの、レンディングサービスの発表によって運用面でのサービスは出せたと説明。今後は口座外への出庫も可能にしていく方針を示した。
垂直統合戦略と今後の数値目標
三浦氏は、オンチェーンでの需要や今後の事業戦略、具体的な数値目標について両者に尋ねた。
渡辺創太
ステーブルコイン単体では収益性が乏しいとした上で、Startaleはチェーン・ステーブルコイン・ウォレット・各種金融商品を垂直統合する戦略を取っていると説明。トークン化された株式の配当や分配金の支払いに日本円ステーブルコインが用いられる場面が今後拡大していくとの見方を示した。
近藤智彦
これまで扱ってきた外国発行の電子決済手段(USDCなど)では100万円制限により大口取引がしづらかった経験を踏まえ、法人・大口送金への対応を強みにしていく方針を説明。小口を除外するものではなく、対応可能な取引はすべて手掛けていく考えを示した。課題としては技術的な制約はすでに解消されており、マネーロンダリング対策など制度面の整備と、UI改善を含めた利用機会の創出が今後の焦点になるとの認識を語った。2026年度末の目標については、パブリックチェーンでの流通が可能になっていることを前提に、1,000億円超(4桁億円規模)を視野に入れているとの見通しを示した。3〜5年後の展望としては、1兆円規模を目指したいと述べた。
渡辺創太
Startaleが発表したステーブルコイン決済対応デビットカードについて触れ、数ヶ月内にバーチャルカードの提供を開始し、日本円ステーブルコインで世界中の店舗での決済が可能になる将来も近いとの見通しを示した。日本円ステーブルコインが海外に渡った際、米国の金融機関がバランスシート上でその価値を認識しづらいという課題にも言及し、米国のステーブルコイン関連法制の中でどう位置づけられるかを検討する取り組みを進めていると明かした。数値目標については、数千億円から数兆円規模に到達しなければ社会的インパクトは生まれないとの認識を示し、年度内に1,000億円規模を目指す考えで近藤氏と一致しているとした。
AIとステーブルコインの可能性
セッション終盤、三浦氏はAIとステーブルコインの掛け合わせについて両者に尋ねた。
渡辺創太
AIがブロックチェーンを通じて銀行口座に相当するアドレスを持てるようになる点を、大きなイノベーションの一つに挙げた。24時間365日稼働し、プログラム可能であるという特性がAIエージェントと親和性が高いと指摘し、株式や不動産などのオンチェーン化が進めば、トレーディングや投資のあり方が根本的に変わるとの見方を示した。
近藤智彦
AIを念頭に置きつつも、まずは既存金融機関が提供してきた機能をより便利にしていくことが当面の目標になるとの考えを示した。給与としてステーブルコインを受け取った後、クレジットカードの支払いに応じて自動的に資金を振り分けるといった機能が、近い将来実現しうるイメージだと説明した。
セッション総括
モデレーターの三浦氏は、両者がトークン化やブロックチェーンという技術そのものではなく、実際に何が便利になるのかという視点に立って取り組んでいる姿勢に期待感を示し、セッションを締めくくった。
渡辺創太氏は次の言葉で締めくくった。
「日本円のステーブルコインも、国際間競争でしかない。日本の国力を上げ、特にアメリカに追いつき、この技術・ソフトウェアの領域でのプレゼンスを国際的に高めていきたい。日本円のステーブルコインはその外せないピースだと思うので、1兆円、2兆円、3兆円を目指して頑張っていきたい。」
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