WebX 2026 | セッションレポート
金商法改正で変わる日本の暗号資産市場、制度設計の最前線
2026年7月14日、WebX 2026のCRYLステージで「日本暗号資産市場は金商法でどう変わる?」と題するパネルセッションが開催された。自民党財務委員長の木原誠二氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナーの河合健氏、一般社団法人日本デジタル分散型金融協会代表理事の保木健次氏が登壇し、現在国会で審議中の金融商品取引法改正の意義と課題を議論した。モデレーターは日本経済新聞社編集委員兼NIKKEI Financial副編集長の関口慶太氏が務めた。
登壇者プロフィール
自民党の次世代AI・オンチェーンPT座長を務める。令和の金融ビッグバンを目指し、ステーブルコインやトークンを活用した金融インフラ整備を主導する。
金融規制・フィンテック分野を専門とする弁護士。暗号資産・ブロックチェーン関連の法制度整備に精通し、業界団体の法律アドバイザーも務める。
伝統的金融機関と暗号資産業界双方が参加する業界団体を率いる。DeFi・ステーブルコイン・カストディ領域の政策提言を積極的に行う。
金融・フィンテック分野を長年取材。NIKKEI Financialの副編集長として暗号資産・デジタル資産領域の報道を牽引する。
金商法改正の2大柱
セッションは参院で審議中の金商法改正案の意義から議論が始まった。木原氏はこの法改正を「投資商品としての認知」と「ブロックチェーンの金融への本格参入」という2つの転換点と位置付けた。
木原誠二
大きく分けると2点。1つは、ようやく暗号資産が投資商品として認知されること。2019年に「仮想通貨」から「暗号資産」へ言葉が変わったが、法制度がようやく追いついてきた。もう1つは、ブロックチェーンが金融のど真ん中に入ってくること。オンチェーン金融の第一歩がスタートする。
河合健
今回の法改正の柱は、決済手段であったものが投資手段に変わること。コンセプト的には有価証券に近いルールが導入される。中でも重要なのは2点。まず情報の非対称性を解消するための情報開示規制の充実、そして今まで定義が難しいとされてきたインサイダー取引規制の導入だ。発行体・取引所・大量保有者をインサイダーと定義して規制する。
補足:日本では2017年の資金決済法改正でビットコインなどを初めて法規制した。当時は「決済手段」として位置付けられたが、実態は投資目的の保有が大勢を占めていたため、今回改めて金融商品取引法の枠組みで再整理する。
暗号資産ETFの重要性
保木氏は今回の法改正の「隠れた裏テーマ」として暗号資産ETFの解禁を挙げた。機関投資家マネーの流入を促す構造転換として、参加者全員が重要性を認めた。
保木健次
今回の金商法改正の隠れた裏テーマは暗号資産ETFだと思っている。ETFにより、信託・証券会社など伝統的金融機関が多数関わる形で組成・販売できるようになる。これは非常に大きなテーマだ。
保木健次
これまでは暗号資産の現物への投資という形だった。ETFという従来の有価証券の形になると、既存のエコシステムの中でエクスポージャーを持てる。アメリカでも機関投資家が参入するきっかけになったことを踏まえると、日本でも同じような動きが起きてくるのではないか。
木原誠二
個人投資家に資産へアクセスしてもらうには市場の厚みが非常に重要だ。暗号資産ETFが実現すれば「有価証券ではない」というこれまでの整理が変わり、伝統的な金融機関が参加してくる。機関投資家を呼び込むためにETFは必須だ。
補足:日本の暗号資産市場はかつて世界全体の円建て取引シェアが50%前後に達した時期もあったが、2019年以降の規制強化でシェアは大幅に低下。今回の金商法改正はこの流出した資金を取り戻すための制度整備との見方もある。
グローバル規制比較と日本の立ち位置
関口氏は各国規制との比較を問いかけた。河合氏はアメリカの法案との相違点を指摘しつつ、日本が一歩リードする立場にあるとの見方を示した。
河合健
アメリカは法案が出ているが成立するかどうか分からない状況。SECとCFTCの役割分担という問題があり、日本とは環境が違う。ヨーロッパとはある程度方向性が合っているのではないか。ただ、アメリカは政権が変わると解釈が変わるリスクがある一方、日本は成文法の国なので予測可能性が高い。どちらが良いかは進んでみないと分からない。
木原誠二
2016年に世界で最初に仮想通貨の法規制をしたのが日本。その後の規制強化でお金が逃げたのは数字が物語っている。今回は金商法のど真ん中に置いたのだから、官の方も責任を持って市場を育てていく。もう一度、日本の市場が世界でかなりの規模を取れるようにしていくのが我々の責務だ。
飴と鞭、税制と業者への影響
法改正の「飴」として、税率の20%申告分離課税への引き下げとETF解禁が挙がった一方、「鞭」として規制対応コストの増大が指摘された。河合氏は飴と鞭の享受者が必ずしも一致しない点を強調した。
保木健次
税率の引き下げは間違いなく「飴」になる。売買・取引が活性化し流動性が高まる可能性があり、これが市場の競争力として非常に重要だ。一方で法律成立後の政令・監督指針が肝心で、ここの加減によって日本に戻ってくるのか、また逃げてしまうのかが決まる。
河合健
飴と鞭を享受する人が同じかどうかは実はすごく重要で、必ずしも一致していない。既存の体力のない取引所にとっては厳しくなる一方、アセットマネジメント業界や銀行・保険会社にとっては参入機会が拡大するプラスの面がある。ビジネスチャンスが今までと違う方向に出てくる。カストディやウォレット、AML/CFT領域など国内インフラを担う新たなプレーヤーの出現も期待できる。
木原誠二
20%の申告分離課税と損失の繰越控除を着実に措置し、ETFをしっかり立ち上げていく。規制コストに耐えきれない業者が出てくるリスクはあるが、新規産業が生まれ、顧客層が増えていく。マーケット全体としては確実に前に進んでいける。
補足:国税庁によると、日本の暗号資産口座数は約1,400万口座に達する一方、実際に納税している人数は約5万人にとどまる。税率引き下げにより申告・納税が促進されれば、税収増加につながるとの見方もある。
責任準備金とレバレッジ規制の行方
新設される「責任準備金」制度と、現行2倍に制限されているレバレッジ規制の緩和が今後の重要論点として浮上した。いずれも政令・監督指針レベルでの議論が続く。
木原誠二
責任準備金は法律成立後に詳細を詰めていく。自己資本規制やセキュリティ会社の届け出制も入るので、責任準備金だけに全てを負わせる必要はない。業者が仕事できなくなるような水準にしてはいけない。レバレッジ2倍は厳しすぎる側面がある。マーケットを作るには流動性と価格発見機能が必要で、緩和は当然のこと。FXの事例も参考にしながら合理的な議論で決めていく。
保木健次
責任準備金を100%にすれば、国内ビジネスが成り立たなくなる。暗号資産はグローバルどこでも取引できるため、厳しすぎると海外に逃げてしまう。国内でカストディできる能力はステーブルコインやセキュリティトークンの将来にも波及するため、海外との水準の合わせ方が非常に重要だ。デリバティブの国内流動性が低ければ、ETFをやっても機関投資家のヘッジが海外物になってしまう。
河合健
デリバティブは投機手段としてだけでなくヘッジ手段として市場の流動性確保に非常に重要。現物のボラティリティ、ロスカットができる水準、投資家属性など複合的に考えて設計していく必要がある。一律に決めるのは難しく、オプションなど多様なデリバティブプロダクツへの検討余地も広がっていくと良い。
セッション総括
木原氏は、自民党の次世代AI・オンチェーンPTで打ち出してきた提言の核心を改めて示した。
「目指す姿は24時間365日の自動化・連結化・経営エージェント化。その柱になるのはステーブルコインと金融のトークン化だ。この上にプログラマビリティを乗せることで、金融が日本経済を動かしていく。平成の金融ビッグバンでメガバンクが生まれたように、今度は“令和の金融ビッグバン”でギガバンク、テラバンクのような存在を作っていきたい」
提言は年内・年度内に金融庁・デジタル庁・日銀・全銀協へのフォローアップを求めており、期限を定めた実行フェーズへと移行している。今回の金商法改正はその制度的起点として、業界・行政双方の責任を問う法律となる。
補足:「令和の金融ビッグバン」は木原氏ら自民党PTが用いる比喩的表現で、1990年代の橋本内閣による大規模金融自由化(日本版金融ビッグバン)の現代版として位置付けたもの。金融庁・デジタル庁の公式プロジェクト名ではない。ただし、ステーブルコイン法制化(2023年施行)や暗号資産の投資家保護・市場活性化策など、関連政策は政府の成長戦略にも明記され着実に進んでいる。
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