【WebX2026】 | セッションレポート
AIエージェント決済時代、日本円ステーブルコインの勝機は
2026年7月13日、WebX2026 Binanceステージにて「AIがお金を使う日 ―エージェント経済で激動する未来を読む」と題したセッションが開催された。SNSグループ株式会社ファウンダーの堀江貴文氏、JPYC株式会社代表取締役の岡部典孝氏が登壇し、株式会社幻冬舎(あたらしい経済)編集長の設楽悠介氏がモデレーターを務めた。AIエージェントが決済を担う時代に、ステーブルコインがどのような役割を果たすのか、日本円は選ばれるのか、活発な議論が交わされた。
登壇者プロフィール
実業家。ロケット開発やアプリ・飲食店のプロデュース、予防医療の啓蒙など多分野で活動する。会員制オンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」を運営し、著書多数。
2019年に日本暗号資産市場株式会社(現JPYC株式会社)を設立し、2021年より日本円建てトークンの発行を開始。BCCC「ステーブルコイン普及推進部会」部会長も務める。
幻冬舎でブロックチェーン専門メディア「あたらしい経済」を創刊。ポッドキャスターとしても複数の番組を配信するほか、「Fukuoka Blockchain Alliance」ボードメンバーを務める。
AIエージェントが決済を担う世界、その入り口
セッション冒頭、設楽氏はAIエージェントが自律的に決済を行う世界がどこから来るのかを堀江氏に問いかけた。
設楽悠介
AIエージェントがお金を払っていく世界観が語られる中、AIが決済を担う世界はどういうところから来そうだと考えているか、堀江氏に尋ねた。
堀江貴文
ポイントは、ステーブルコインがインターネット上で動かしやすいという点にあると指摘。AIエージェントに決済権限を任せるかどうかは、結局セキュリティ設計の問題だと述べた。決済の上限(キャップ)を決めておけば、企業の予算管理と同じ発想で権限の範囲を限定できるとした。
その上で、電子署名などのルールセットを厳密に設定すれば不正は起きにくく、ブロックチェーン上に証拠が残る。スマートコントラクトによって条件をプログラマブルに設定でき、そのプログラム自体もAIによる「バイブコーディング」で書けるようになったことで、契約書的な内容がそのままコードとなり実行される時代になったと説明した。
さらに、自身が出資する企業が手がけるハードウェアウォレット兼クリプトサイナーの例を挙げ、ネットワークから物理的に切り離し、最終的には人がボタンを押して決済を確定させる仕組みが必要になるとの見方を示した。
補足:ステーブルコインを介したAIエージェント決済は海外でも実証が進んでおり、ステーブルコインを組み込んだ決済プロトコルを発表する動きも出ている。
岡部典孝
JPYCのようなステーブルコインは、これまでDeFiなど暗号資産(仮想通貨)領域での利用が中心だったが、旅行業界のようにAIエージェント経由の決済対応が実際に始まっている分野もあると紹介。アパホテルがAIエージェントによる外国人向け予約対応を進めており、リリースにはエージェント決済への対応予定も記載されていることに触れ、USDCなどのステーブルコインで支払い、事業者側はJPYCに近い形で受け取るという構図が実現しつつあるとの見立てを示した。
AIはどの通貨を選ぶのか、「信用」とバランスの論理
設楽氏は、AIにとってドル建てステーブルコイン(USDT・USDC)で十分ではないかという疑問を投げかけ、議論は各通貨への「信用」の話に移った。
堀江貴文
通貨とは結局「信用」の問題であり、流通量・流動性が大きくなるほどボラティリティは小さくなると説明。ビットコインは現状ボラティリティが高く、去年10月から半分ほどに落ち込んだこともあり、ずっと持ち続けたくないという心理が働くのに対し、米ドルや日本円は流通総額が大きい分安心感があるとした。
その上で、AIも人間と同様にバランスを取りに来るはずで、アプリやAIエージェントから使いやすいかどうかがステーブルコインの存在意義の一つだと述べた。
岡部典孝
日本の企業・個人がAIエージェントを使う世界線であれば、会計やデータ処理の観点から日本円ステーブルコインは絶対に必要になると述べた。一方で、小型船舶の免許を持つ自身の経験を踏まえ、規制の緩い国に船籍を置く「パナマ船籍」のような発想がAIにも当てはまり得ると指摘。AIが国境に縛られないのであれば、規制が有利な国に拠点を置いてドルを使う可能性もあり得るとした。
その一方で、日本がAIフレンドリーな規制を整備できれば世界中のAIから日本円が選ばれる可能性もあるとし、日本で生まれた者として、日本円がAIエージェントの世界でも使われる通貨になってほしいと語った。
日本円ステーブルコインの好機と壁、税制・規制の行方
日本円ステーブルコインの意義が語られる一方、税制面での課題や、規制整備の現在地についても議論が及んだ。
堀江貴文
日本の暗号資産税制は最大55%と高く、トークンやアルトコインを取得した時点、さらに何かを購入した時点でそれぞれ課税が発生するなど、分かりにくい構造だと説明。自身は10年以上前から申告を続けているとしたうえで、税金を申告していない人も少なくない実態にも触れた。ステーブルコインであれば法定通貨と同じように処理できるため、税務上のメリットがあると述べた。
さらに、来年からはミニマムタックス課税が導入される見通しで、3億円規模を超える部分には最大30%が課税されるようになると指摘。見合いとして作られたエンジェル税制も認定条件が厳しく、使いづらいと述べた。
補足:暗号資産の分離課税移行については、税制改正の動向として業界内でも継続的に議論されている論点であり、今後の法改正の行方が注目される。
岡部典孝
AIエージェントが何かを行った際に適用する法律はまだなく、そこはまさに今後整備していく段階にあると説明。木原誠二議員らとの登壇の場でも法改正を含めて対応する方針が示されており、JPYC側もヒアリングを受けていると述べた。
堀江貴文
全く新しい分野であるがゆえに既存の抵抗勢力がなく、規制整備を進めやすいと指摘。タクシー業界の反対でなかなか進まないライドシェア規制との対比を挙げ、自民党内にもAI・クリプトに詳しい議員が増えていることを紹介した。
現金社会の終焉、キャッシュレス化への道筋
議論は、現金社会がどのように置き換わっていくのかというテーマに移った。
堀江貴文
現金やATMには今の時代、存在する意義がなく「惰性」で残っているだけだと述べ、高額紙幣を無くせば現金での大口の資金移動が困難になり、キャッシュレス化が進むはずだと主張。実際にある政治家にその提案をしたことも明かした。
中国ではもともと紙幣の流通が少なく偽札も多かった背景から、AlipayやWeChat Payに一気に置き換わった例を紹介し、街角のホームレスや屋台の買い物までQRコード決済で完結する社会になっていると述べた。生活習慣が根付いている限り変化には時間がかかるが、スマートフォンの普及も数年で定着した例を挙げ、いつか必ず変わるとの見通しを示した。
その延長として、生活レベルの低い人に絞って給付金をステーブルコインで支給する仕組みや、企業がJPYCで給料を支払う未来像にも言及した。
岡部典孝
LINE NEXTが提供するウォレット「Unify」では、キャンペーンとして5%のインセンティブが付与される取り組みが行われており、近いサービスは日本でも既に始まっていると紹介。ただし米ドルであれば高い金利を維持しやすい一方、日本円で同水準の金利を永続的に出すのは難しいとの見方も示した。
金融機関の本気度と、AI駆動決済の拡大
既存の金融機関がステーブルコインをどう捉えているか、また今後の取引量の見通しについても語られた。
岡部典孝
銀行やカード会社はステーブルコインを脅威として排除するのではなく、むしろ強く研究を進めていると説明。VisaやMastercardはステーブルコイン関連の特許を多数出願しており、Stripeも買収した企業を通じてグループ全体で推進しているとした。日本でもJCBや三井住友カードがマイナンバーカードと連携したタッチ決済の実証実験を進めており、想定以上にスピードが速いと評価した。
現在のステーブルコイン取引量は1日20兆円規模だが、店舗での純粋な決済利用は全体の1%未満にとどまり、大半はAIによる自動的な取引だとの見方を紹介。取引が高速で往復するため取引量自体は膨らむが、実体経済で動く資産の総量が同じペースで増えるわけではないと補足した。競馬予想AIが直前にオッズを変動させる例や、株式・為替の高速取引にも同様の構造が広がっていると述べた。
補足:ブロックチェーン分析企業Chainalysisは、ステーブルコインの実需ベースの取引高が2035年までに最大1500兆ドル規模に達する可能性があるとの分析を公表している。JPYCのような自国通貨建てステーブルコインの存在感も、この拡大の中でどこまで発揮できるかが今後の論点となる。
堀江貴文
現状のグローバル規模である1日20兆円という数字は、まだ「大したことない」規模だと述べ、ここに日本円が存在感を発揮できる余地があると指摘。パナマ船籍の例のように便宜的に選ばれる通貨になることで、ボラティリティを抑えつつ存在感を高めるチャンスがあるとの見解を示した。
セッション総括
堀江氏は、AIを使いこなすには基本的にパソコンの操作が必要だが、それができる人は全人口の15%に満たないとの見方を示し、AI活用を横で教える仕事が今後急増するとの見通しを語った。
岡部氏は、JPYCが企業にとって最も導入しやすい選択肢であり、日本円のステーブルコインを財務諸表に計上することで競合他社より一歩先に進めると述べ、講演を締めくくった。
AIエージェントが自律的に決済を担う時代が現実味を帯びる中、日本円ステーブルコインが国際的な存在感を発揮できるかどうかは、規制整備と税制のスピード、そして企業側の準備にかかっているという議論で、セッションは締めくくられた。
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