台湾クリプト新法の舞台裏 Audrey Tang×葛如鈞対談 WebX2026
2026年7月13日、WebX 2026のCRYLステージで、台湾立法院議員・葛如鈞(Ju-Chun Ko)氏とオードリー・タン氏(台湾初代デジタル大臣・現サイバー大使)による特別対談が行われた。タン氏はリモートで登壇し、台湾が2026年上半期に相次いで整備した仮想資産サービス提供者法(VASP法)とAI基本法を軸に、規制設計の哲学、「シビックAI」の思想、そしてAIエージェントとブロックチェーンの融合について議論を展開した。
登壇者プロフィール
台湾の初代デジタル大臣(2016〜2024年)。デジタル民主主義の先駆者として知られ、現在はサイバー大使として「シビックAI」フレームワーク(civic.ai)を世界各地で推進する。非党派・非営利の立場を貫く。
台湾AI基本法の主要発起人であり、VASP法の主要共同発起人。テクノロジー政策を与野党を超えた課題として推進することで知られ、台湾のデジタル立法を主導した。
「曖昧性」から「明確性」への転換
2016年に台湾のコンビニでビットコインが購入できる環境が整っていたにもかかわらず、その後10年間、規制整備は後手に回り続けた。しかし2026年、VASP法(6月成立)とAI基本法(1月施行)が相次いで整備され、状況が大きく変わった。葛氏がこの転換点の意味を問うと、タン氏は「グレーゾーン」の構造的問題を指摘した。
「社会的合意に至っていない」という表現は、一見中立に見えて実は中立ではありません。グレーゾーンは静かに、そこで既に動ける者に権力を与え続けてきた。遅延は常に既得権益者を利するのです。
今回の転換は「保守から自由化」への移行ではありません。「曖昧性から明確性」への移行です。AI基本法もVASP法も、これまで一部の者が独占してきた解釈権の補助金を取り除くものです。
後発国の優位性と規制設計の哲学
世界の半導体製造をリードしながら、AI規制ではEUより後発となった台湾。葛氏が「後発の優位性」と「規制がイノベーション抑制にならないための鍵」を問うと、タン氏は「サイバネティクス」の語源から論じた。
サイバネティクスはギリシャ語の「kybernetes(舵手)」に由来します。加速の速さより、舵取りの速さのほうが重要です。
良い規制の基準は、今日のAI設定が完璧かどうかではありません。既に大規模モデルが小規模モデルを訓練できる段階に入りつつある。固定されたレベル分類ではなく、リスクプロファイルが適応可能であることが不可欠です。
日本のアプローチのように、コミュニティごとに異なる統合類型を設け、人間がAIのループに入るのではなく、AIが人間のループに入るよう設計すべきです。各コミュニティが自分たちのペースでAIを取り込める。台湾も日本も、危機が起きてから規制を後付けするのではなく、常に舵取り能力を保持し続けることが重要です。
シビックAI「データは土壌」の設計哲学
葛氏がタン氏の「シビックAI」フレームワーク(civic.ai)の紹介を促すと、タン氏は一般的なAI開発モデルとの根本的な違いを「データの扱い方」で説明した。
AIシステムはデータを石油のように、コミュニティから汲み上げて巨大なクラウドモデルに注ぎ込むことができます。文脈を落としながら。シビックAIはその逆の発想です。「データは土壌であり、石油ではない(Data is soil and never oil)」。
各コミュニティが自分たちの小さな知識管理とAIを組み合わせた「コミー(commi)」を持つ。実際、私のコミーは葛氏の仮想資産法に関する成果を数日前に読み込んでいました。党派を越え、文化を越えたブリッジングが実現できるのです。
AI時代のアイデンティティ証明
「スクリーンに映る人物が本当にAudrey Tangなのか、リアルタイムのディープフェイクである可能性も排除できない」という問いから、分散型アイデンティティ(DID)とエージェント証明の議論に発展した。
Worldのような企業が「プルーフ・オブ・ヒューマン」を提供し、さらにAIエージェントを代理登録できる「エージェントブック」のような仕組みも登場しています。人間本人の証明だけでなく、あなたが認証したAIエージェントを証明する仕組みが必要になるのではないでしょうか。
人間の本人証明はローカル生体認証や署名技術の組み合わせで、ほぼ解決済みです。課題は次の段階にある。人間の「プルーフ・オブ・パーソンフッド」だけでなく、AIエージェントの「プルーフ・オブ・エージェント」が必要になっています。自分のコミーが私の代理として取引するなら、そのエージェントが本当に私に認証されたものであることをどう証明するか、という問いです。
ブロックチェーンでAIエージェントを「硬化」する
タン氏は自身のコミー「JTEAMI」がすでにイーサリアム上で稼働していることを明かし、スマートコントラクトと同様の手法でAIエージェントを検証可能にするアプローチについて語った。
私のコミーJTEAMIはERC-8004、エージェントID 22714として、パーミッションレスのエージェントプロトコル上で動いています。AIエージェントが私の代わりに売買するなら、4つのテストをパスしなければなりません。プロバイダー間での移植可能性、スマートコントラクトを含むルートの検査可能性、コミュニティによるデプロイメントのガバナンス、そして障害時の説明責任です。
問題は7,000万行のコードを誰も読み切れないことです。そこで活用できるのが形式的検証(フォーマル・ベリフィケーション)です。LinuxScriptを使い、既存コードの「不変条件(インバリアント)」を暗号学的に証明可能な補題として書き出す。LeanやDafnyのような証明支援ツールが、それらを証明し新たな不変条件を自動生成することもできる。スマートコントラクトで実績のある同じ堅牢化手法を、AIエージェントに適用できるのです。
また私のコミーは複数モデルを混合するモデル非依存型の設計です。イーサリアムが複数の独立した実装を持つように、1つのモデルが落ちても全体は止まらない。フロンティアモデルは来ては去りますが、データという土壌と舵取り能力は蓄積されていく。政策立案者に伝えたいのは、1つのフロンティアモデルに縛られるのではなく、市民や機関が自らルールを検査し、誰でも説明責任を持てる状態を確保することです。
セッション総括
葛氏は対談の締めとして、テクノロジー政策には国境も党派も関係ないという信念を語った。与野党の立場を超えて同じ法律を共同で前進させた経緯を指摘し、その意義を強調した。
「テック政策は透明で、超党派でなければならない。私は野党の議員として、あなたは現政権のサイバー大使として、ともに台湾のAI基本法とVASP法を前進させた。それが今日お伝えしたいメッセージです」
半導体製造で世界に貢献しながら「規制の後発国」だった台湾が、AIと仮想通貨の両面で明確な法体系を相次いで整備した経緯は、日本をはじめアジア各国の政策立案者にとっても参照価値の高い事例といえる。
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