WebX 2026 | 特別基調講演レポート
「ETH 2.0時代の到来」トム・リーが描くイーサリアムの回復シナリオ【WebX 2026】
米ファンドストラットの共同創業者でBitmine(ビットマイン)会長のトム・リー氏が、WebX 2026の特別基調講演に登壇した。イーサリアム(ETH)の長期的成長余地と、AIが招く「AIが富を支配する時代 ブロックチェーンが人類を守る理由」にブロックチェーンが果たす役割、そして自社BitMineの戦略について、豊富なデータと歴史的アナロジーを交えながら論じた。
登壇者プロフィール
米調査会社ファンドストラット・グローバル・アドバイザーズの共同創業者。JPモルガンのチーフエクイティストラテジストを務めた後、独立。ビットコイン・イーサリアムを含む仮想通貨市場の強気予測で知られ、現在はイーサリアム・トレジャリー企業Bitmineの会長を務める。
仮想通貨市場を押し下げた4つの逆風
今年に入り仮想通貨市場が軟調に推移した背景について、トム・リー氏は4つの要因を挙げた。第一に、FRBの金融政策の変化だ。年初には利下げ2回を織り込んでいた債券市場が、結果的に利上げ2回分の方向へと転換し、実質4回分の利下げ期待が剥落した。金融緩和環境が仮想通貨相場を支える構造があるだけに、このマクロ変化は大きな逆風となった。
第二に、米国の「クラリティ法(Clarity Act)」の行方だ。仮想通貨の規制当局をCFTCに一本化し全国統一ルールを確立する重要法案だが、予測市場ポリマーケットでは成立確率が44%にとどまる。ただし、コインベース副会長など業界内部からは「実際の成立見通しはもっと高い」との声も上がっており、ポジティブサプライズの可能性は残るとした。
第三の要因はAI投資への資金集中だ。2026年の米ベンチャー投資の86%をAI関連が占め(Fortune報道)、仮想通貨プロジェクトが新規資金調達で苦戦するケースが目立つ。第四に、金融セクターの株価低迷だ。仮想通貨は既存金融インフラの代替として成長する以上、金融株が振るわない環境では新参者への期待も高まりにくい。
「ただし、これらは逆風であって、仮想通貨相場の下落エネルギーはすでに相当部分が失われている。今、弱気になっているとすれば、底値圏で弱気になっていることになる」
テクニカル底打ちシグナルと価格見通し
相場のタイミングを専門とするトム・デマーク氏の分析として、現在のイーサリアム相場が1987年のS&P500との89.81%の高い相関を示していることを紹介した。デマーク氏のチャート分析によれば、急落後の横ばいという値動きパターンが一致しており、8月にかけて反発が見込まれるという。
バンク・オブ・アメリカ元テクニカルストラテジスト、スティーブ・サットンメイヤー氏も同様の見解を7月9日に公表。1,846〜1,876ドルのレジスタンスを突破できれば、次の目標は2,200ドルになるとした。講演時点のETH価格は約1,700ドル台で、同水準への到達は30%程度の上昇に相当する。
「今が底打ちの戦術的シグナルだと見ている。それよりも重要なのは、これから先の未来に対して興奮を持てるかどうかだ」
補足:トム・デマーク氏は機関投資家向けに少数の顧客のみにサービスを提供する著名なマーケットタイマー。Bitmineはその2社のうちの1社とされる。
ETH 2.0が描く「第2章」の成長余地
トム・リー氏はAmazon、Nvidia、JPモルガンの「第2章」を例示し、ETHにも同様の爆発的成長の余地があると論じた。Amazonは最初の12年間で株価6ドルに低迷したが、AWSやPrime Dayなどのサービス展開により次の12年で241ドルへ上昇。Nvidiaは17年間で1ドル止まりだったが、ChatGPT普及によりAI向けチップ需要が爆発しその後200倍に達した。JPモルガンも1999年に70ドルで天井を打ち16年間停滞したが、グローバル銀行への進化で334ドルまで上昇した。
イーサリアムは創設以来、ICOブームとNFTブームを経て4,866ドルに達し、2025年ではETF承認とステーブルコイン普及を追い風に4,955ドルまで回復したが、現在は約1,732ドル付近で低迷している。リー氏はこれを「底値圏での諦め」と位置付け、ETH 2.0の4つの柱として「新財団体制」「エージェンティックAI」「金融の決済レイヤー」「ETHはマネー」を挙げた。
ウォール街のETH採用という観点では、BlackRockのBUIDLファンド、JPモルガンのMONYプログラム、Securitize、Ondo Financeによる主要トークン化事例に加え、RobinhoodのArbitrum上へのL2チェーン構築、CoinbaseのBase(TVLでL2首位)、KrakenのInk(Optimismベース)など大手プラットフォームのL2参入が相次いでいることを強調した。
「ウォーレン・バフェットはこう言った。市場はビジネスの成功をしばらく無視するかもしれないが、最終的には必ず認めることになる、と。ETHも同じだ」
補足:Robinhood ChainはArbitrumをベースに2026年7月1日に立ち上げ、数週間でハイパーリキッドのDEXスパインをフリップ(DEXスパインとは一定期間のDEX取引量ランキング)。取引高は既に10億ドルを突破した。同チェーンではETHがガス代として使用され、Robinhoodの2,700万ユーザーベースがそのままアドレサブルマーケットとなる。
「AIが富を支配する時代 ブロックチェーンが人類を守る理由」
スピーチの核心部分で、リー氏はAIが人間より多くの富を生み出す段階に達したとき何が起きるかを論じた。AIエージェントが自分より多くの収入を稼ぎ出すようになったとき、人間はAIのために働いているのかという疑問と恐怖が生まれる。ある朝目覚めたら、AIが「あなたは浪費が激しい」と判断して銀行口座へのアクセスを遮断していた、という未来すら現実になりかねないとリー氏は警告した。
実際にAIへの警戒は既に表面化しており、スタンフォード大学の卒業式ではGoogle CEOの登壇に学生が退場で抗議。「ジジアン」と呼ばれる反AI過激グループはデータセンターへの破壊工作やAI企業創業者への攻撃にまで及んでいるという。ポリマーケット取引の75%、ウェブトラフィックの過半数、受信メールの約半数がすでに機械由来とされる。
「政府を信じるか、銀行を信じるか、Meta・Google・OpenAIを信じるか。どれも答えではない。スマートコントラクト・ブロックチェーンこそが、AIに人生を乗っ取られないための最善の防御線だ。マーク・アンドリーセンが言うように、AIと仮想通貨は融合してエージェンティック経済を形成する。これが不気味の谷を脱出する道筋だ」
Bitmine創業1年の実績と5%取得戦略
最後に、自社Bitmineの現況と戦略を紹介した。2025年6月30日に操業1周年を迎えた同社は、創業当初に「5年かかる」と見込んでいたETH供給量5%取得という目標を、わずか12ヶ月で95%達成した。保有総数は574万ETH(供給量比4.8%)に達し、うち約85%にあたる487万ETHはステーキング済みだ。
ステーキング部門「「MAVAN(Made in America Validator Network)」は現時点で世界最大の単一ステーキング事業者となっており、自社・他社合計で130億〜140億ドル相当のETHを管理する。Ethereum Foundation 2.0戦略への参画も進めており、同財団からスピンオフしたEth LabsにはリードインベスターとしてBitmineが出資。2番目のスピンオフ組織であるEthereum Institutionalにも参画している。
資金調達面では、初の優先株発行(ティッカー:BMNP)が5倍超の申込超過となり、10億ドル超の需要を集めた。この優先株は現在、MicroStrategyのストレッチ利回り(約13%)を下回る約11%で取引されており、市場がBitmineをより信用力の高い発行体と評価していることを示す。さらにニューヨーク証券取引所(NYSE)本市場に上場し、ラッセル1000大型株指数にも採用された。
「5%まであと少しだからといって、急いで達成しようとはしていない。ヴィタリック・ブテリン氏は単一エンティティが5%を超えて保有することを望んでいないと理解している。我々は生態系全体が強くなることを望んでいる」
補足:オンチェーン分析サービス「ルックオンチェーン」が7月10日に公表したデータによると、Bitmineは同日、仮想通貨資産運用会社のギャラクシーデジタルから2万500ETHを約3,592万ドル(当時)で購入した。同取得を加えたBitmineの保有総数は576万2,737ETHとなり、ETH総供給量(約1億2,070万ETH)に対する比率は4.8%で、目標の5%達成まで残り約5%に相当する。
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