WebX 2026 | 基調講演レポート
AIとオンチェーン金融で世界を変える、SBI北尾会長が語る3大戦略
SBIホールディングス代表取締役会長兼社長の北尾吉孝氏が、WebX 2026の基調講演に登壇。「革新的テクノロジーの潮流とSBIグループの取り組み」と題し、AI完全導入、オンチェーン金融、ネオメディアという3本柱の事業戦略を約50分にわたって解説した。
登壇者プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券を経て1995年にソフトバンク・ファイナンスを設立。1999年にSBIグループを創業し、国内最大級の総合金融グループへ成長させた。仮想通貨・ブロックチェーン領域にも早期から注力し、グローバルなデジタル資産エコシステムの構築を主導している。
テクノロジーが変える安全保障と競争環境
北尾氏は冒頭、ドローンや通信衛星スターリンクがウクライナ紛争で果たした役割を例に、テクノロジーが「戦略兵器」となった時代を宣言した。ミサイルより安価で大量生産できるドローン、地上インフラに依存しない衛星通信、そして民間企業が国家安全保障の中核プレイヤーと重なる「デュアルユース時代」の到来を強調した。
「民間企業が提供するサービスが、国家安全保障の中核プレイヤーとオーバーラップする時代になってきた。テクノロジーこそ最大の武器だ」
AIセキュリティについては「特定のAIを導入するだけでは意味がない。重要なのはAI攻撃の可視化と継続監視運用だ」と断じ、脅威を見つけてから30分以内に処理できる「動体型防御システム」の構築を全グループで推進していると説明した。具体的には、SBI EVERSPINが開発する「Eversafe」を採用し、AIを活用した自動化攻撃に対してコードが変化する動的防御設計で多数のAI攻撃を検知・防御する体制を構築しているとした。
SBIのAI完全導入戦略
北尾氏が「3大事業戦略の筆頭」と位置づけるのが、グループの完全AI化だ。「業務の自動化・効率化を異常に高いスピードで加速させるためには、今すぐ、この世界に精通した人材が必要だ」と話し、Ridge-i社の柳原貴子氏を社外役員として招聘し、全権を委任したと明かした。
「普通の経営者はこういうディシジョンはなかなかできない。創業者であるが故に、私の言うことは絶対なんです。その創業者が、これとこれとこれは何が何でもやるんだと断行する」
AI化の具体的な成果として、SBI証券での顧客対応AIエージェント開発を挙げた。投資額5億円に対して年間27億円の増収(5倍以上)を見込み、Claudeを活用した既存チャットや有人対応のAI化により有人チャット対応を55%削減、顧客の自己解決率を劇的に向上させる計画だと説明した。休眠口座の再活性化や新規口座獲得にも波及効果があるとした。さらに、「金融知識ゼロの人に、選択不要で最適ポートフォリオを提案・実行できる」SBIグローバル金融AIコンシェルジュの開発も進めているという。このAIコンシェルジュは言語や法律・規制の壁を越えるグローバル金融インフラを目指し、SBIグループ各社への組み込みとアプリとして国内外への提供を計画する。
補足:SBIグループは2026年6月2日、日本の金融グループとして初めてAnthropicと共同でAIトランスフォーメーションを全面推進すると発表。協業内容は①SBIグループ全体へのClaude活用による業務改革、②Anthropic最先端AIセキュリティモデルの先行利用・共同実験、③日本金融市場向けAIアクセス基盤・AIエージェントの共同実験、④顧客向けサービスへのClaude組み込み、⑤Ridge-iを中核に据えたAX推進体制の構築—の5項目。
オンチェーン金融の世界制覇構想
「すべてのものはトークン化される」と断言した北尾氏は、株式・債券・預金・担保・決済・信用・権利義務まであらゆる価値がデジタルの証票として扱われる時代——「金融の記録形式の転換」——が到来すると述べた。RWA(現実資産のトークン化)については「個人的には10万倍規模になるのではないか」との見通しを示した。
米国規制については、2025年1月23日のトランプ大統領令(CBDC取り組み停止・民間主導ステーブルコイン推進)、同年3月6日のジーニアス法成立、7月31日のSEC「Project Crypto」発表に続き、暗号資産の包括的規制枠組みを定める「クラリティ法」が2026年5月に上院銀行委員会を通過し、現在上院本会議入りの段階にあると説明した。日本についても、金融庁が2028年までに東証での暗号資産ETF取引を可能にする方針を固め、4月10日には暗号資産を「金融商品」として位置づける金商法改正案が閣議決定、4月10日には暗号資産を「金融商品」として位置づける金商法改正案が閣議決定され、骨太の方針にも「オンチェーン金融」が次世代の国家金融インフラとして位置づけられる見込みだとした。
取引所グローバル展開、ビットバンク完全子会社化へ
第2章「グローバルにデジタルアセットマーケットを攻略すべき3大戦術」では、戦術1として取引所事業のグローバル飛躍的拡大を掲げた。北尾氏は日本(SBI VCT)、東南アジア(Coinhako)、中東(Fasset)、EU(Boerse Stuttgart)、米国(EDX)を結ぶ世界的な暗号資産取引所ネットワークの構築を宣言した。
国内では、既に発表済みのビットバンク株式会社の完全子会社化(2026年6月25日付基本合意、同年10月予定)について改めて言及した。ビットバンク(代表:廣末紀之、設立2014年5月)は口座数99万・預り残高4,700億円(2026年4月末時点)で業界No.1の預り残高を誇り、SBI VCトレードとの単純合算では口座数300万・合算預り残高約1兆円で業界首位の地位を確立するとした。
海外では、シンガポールの大手暗号資産取引所Coinhako(Holdbuild Pte. Ltd.)をMASより大株主認可に必要な承認を取得済みとして近日中に連結子会社化する予定であることを明らかにした。ドイツのBoerse Stuttgart Digital Holdingは63種類の暗号資産をサポートし200以上の機関投資家を顧客に持ち、保管暗号資産総額50億ユーロ(約8,000億円)超。2025年1月17日にBaFinからEU全域で有効なMiCAライセンスを取得済みだとした。UAE(Fasset社)は2026年6月18日に国際送金インフラに向けた基本合意書を締結し、24時間・125カ国超での送金インフラを提供するという。
補足:RWA(Real World Asset)とは、不動産・債券・株式などの現実資産をブロックチェーン上のトークンとして扱う仕組みを指す。スライドによると、オンチェーン上のRWA残高は2022年の約48億ドルから2025年には約240億ドル(約5倍)に拡大し、2034年には約30兆ドル(2022年比約1,250倍)に達するとの試算(Standard Chartered・Synpulse調べ)が示された。
RWAトークン化の一気通貫体制
RWAのトークン化においても、SBIグループは発行・流通・基盤を自前で揃える「一気通貫」戦略を進める。米国Ondo Financeとはオンチェーン金融での戦略的提携に向けて基本合意した。Ondoは米国債や株式をトークン化し伝統的金融とデジタルアセットを結ぶ業界トップのDeFiプラットフォームで、トークン化株式市場でシェア第1位(約5割)を誇る。協業(検討中)として、OndoにSBI円建てステーブルコインやSBIグループ各社が組成する日本のトークン化アセットを上場し、逆にOndoに上場する海外のトークン商品をSBIグループのエコシステムを通じて日本に提供する構想を描く。
スイスのSolana財団とも戦略的に提携し、「SBI Solana Global株式会社(仮称)」を設立する(SBI R3 Japanより名称変更予定)。出資比率はSBIグループ51%・三井住友フィナンシャルグループ14%・Solana財団35%。ステーブルコインの発行・流通支援、トークン化RWAの組成・流通支援、機関投資家向けサービスの提供、次世代決済インフラの開発に注力し、日本をアジアにおけるオンチェーン金融のハブとすることを目指す。
シンガポールのDigiFT社とは2025年10月に日本でSBI Onchainを共同設立(DigiFT40%・SBIホールディングス60%)し、日本初のトークン化RWA商品の発行を目指す。DigiFTは2026年4月20日に東南アジア初のトークン化ゴールドファンド「OCBC-LionGlobal Physical Gold Fund Token(GOLDX)」をローンチ済み。EthereumおよびSolana上で発行され、機関投資家等がステーブルコインや法定通貨で購入できる。国内STのクロスボーダー展開も進め、パブリックチェーン(Ethereum)を活用したDVP決済(証券の受け渡しと決済の同時実行)の実証実験をSBI証券・大和証券とシンガポールのSBI Digital Markets・Penguin Securitiesとの間で開始。日本側の基盤には、プライベート(コンソーシアム型)チェーン「ibet for Fin」を活用。将来的には社債・不動産・IPコンテンツ・酒など多様な商品で日本・シンガポール間の双方向クロスボーダー取引を目指す。
ステーブルコイン、SBIの全方位展開
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ステーブルコインの社会実装において、SBIグループは国内で唯一、複数号数の電子決済手段を一手に展開する体制を整えた。SBI新生信託銀行が発行し、Startaleが技術開発を主導する円建てステーブルコイン「JPYSC」は、国内初の信託型(2号電子決済手段)として従来の資金移動業ルールに基づく送金・滞留100万円制限を受けない。2026年6月24日よりSBI VCトレードでの流通を開始した。一方、リップル社のUSD建てステーブルコイン「RLUSD」は国内初の4号電子決済手段として同日より取り扱いを開始。USDCに続く米ドル建てステーブルコインの展開となる。
「低金利の円にペグするステーブルコインは、法人にとってより導入しやすい。年利0.5%前後の預金との機会損失がほとんど発生しないため、機関投資家にとって計算上有利になる」
VISAとは2026年5月1日付でデジタル金融領域における戦略的協業MOU(基本合意書)を締結し、第1弾として「SBI VISAクリプトカード」「SBI VISAクリプトカードゴールド」を2026年5月1日から発行している。SBI VCトレードを通じたUSDC・JPYSCのカード決済活用により、イシュアー・アクワイアラ間をステーブルコインで直接決済(オンチェーン)することで決済コスト削減と決済スピード向上を目指す。レンディングサービスとして、USDCレンディング(3月19日開始、12週間満期、年率5%程度)に続き、7月16日からはJPYSCレンディング(当初年率3%、12週間満期)を開始する。オンチェーンレンディングのプロトコル面では、CompoundやAaveに続く第3世代のMorpho Association(Morpho Blue)と提携し、SBIグループはMorphoによるトークン発行形式での資金調達に参画した。また米Gauntlet社とも提携し、オンチェーンのデータ管理・保管サービスをMorphoなどのプラットフォームを通じて提供する体制を整えた。
Startale Group(CEO: 渡辺 創太氏)との大型提携も発表した。渡辺氏を2026年6月26日付でSBIの社外取締役として招聘し、Startale Group本体に20%出資。「SBI Startale Labs」(開発会社・シンガポール、SBI40%・Startale60%)と「SBI Startale Marketing」(マーケティング会社・日本、SBI60%・Startale40%)の2つのJVを設立する。金融向けレイヤー1ブロックチェーン「Strium(Strium Network)」を共同開発し、今年度中にローンチを予定する。Striumは暗号資産・トークン化株式・RWA連動型金融商品を含むあらゆる金融資産のオンチェーン取引に特化し、AIエージェントによる取引も視野に入れた設計となる。JPYSCの活用領域としては、オンチェーン外為市場・機関投資家向けレンディング・オンチェーンキャリートレード・RWA決済・クロスボーダー送金・OTC取引・機関投資家向け資金調達市場を想定する。
ネオメディア、感情経済圏の構築
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SBIネオメディア
SBIネオメディアとは?事業内容・グループ企業・戦略を解説
3大戦略の最後として紹介したのが、ネオメディア事業だ。現在約24社を傘下に収め、そのうち10社が黒字・単純合計売上高3,000億円・取込利益80億円規模に達していると説明。さらに40社規模まで拡大しつつあるという。フジテレビとも相互に20%出資し合う提携関係を結んだと明かし、「人々の共感・信頼といった感情が可視化・拡散される中で、各種経済構造と結びついて発展する『感情経済圏』の構築を目指している」とビジョンを語った。
「金融・AI・メディアの融合を通じて各生態系が相互に進化する。これが、この時代に私がやるべき事業だ」
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