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100億円から1兆円規模へ、JPYC・JPYSC両代表が語る円ステーブルコインの事業戦略

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

WebX 2026 | セッションレポート

円ステーブルコイン元年、JPYCとJPYSCそれぞれの答え

渡辺創太 × 岡部典孝 × 近藤智彦

WebX 2026 2日目(7月14日)のBinanceステージで、日本円ステーブルコイン市場を代表する2プロジェクトのキーパーソンが顔を揃えた。岡部典孝氏(JPYC代表取締役)と近藤智彦氏(SBI VCトレード代表取締役社長)、そしてグローバルの最前線からソニーやSBIと連携するブロックチェーン基盤を手がける渡辺創太氏(Startale Group CEO)が登壇。CoinPost代表取締役社長の各務貴仁氏がモデレーターを務めた。

資金移動業型と信託型という異なる発行スキームを持つ2社が同じステージに立ち、制度の壁、グローバル競争、ユースケース拡大の展望を巡って活発な議論が展開された。

渡辺創太

渡辺 創太

Startale Group
CEO

ソニーグループやSBIと連携したレイヤー2ブロックチェーン「Soneium」などを手がけるStartale GroupのCEO。ニューヨーク在住で、グローバルな機関投資家向け円ステーブルコインの需要を牽引する立場から、ステーブルコインをRWAエコシステム全体の「血液」と位置づける。

岡部典孝

岡部 典孝

JPYC株式会社
代表取締役

日本初の資金移動業ライセンス(第2種)による円ステーブルコイン「JPYC」を発行。第1号電子決済手段として不特定多数の決済・送金への活用を推進し、パブリックチェーン上での「デジタル現金」としての普及を目指す。

近藤智彦

近藤 智彦

SBI VCトレード株式会社
代表取締役社長

SBI新生信託銀行が発行する信託型円ステーブルコイン「JPYSC」の流通を担うSBI VCトレードのトップ。第3号電子決済手段として金額制限なしの大口取引を実現し、機関投資家向けユースケースを開拓中。

各務貴仁

各務 貴仁

株式会社CoinPost
代表取締役社長(モデレーター)

国内最大の仮想通貨・Web3メディアCoinPostを創業。2025年10月にSBIグループの連結子会社となり、メディア・データ・教育にわたるWeb3情報インフラを運営する。

JPYCとJPYSC、発行スキームの違い

セッションは冒頭、両コインの発行方式の整理から始まった。同じ「円ステーブルコイン」でも法的根拠・裏付け・利用制限が大きく異なる。

岡部典孝
我々は第1号電子決済手段として、資金移動業のライセンスで発行しています。裏付けは101%以上の積み増しが義務付けられており、国債や信託銀行経由の預金も認められています。最大の特徴は「不特定多数の店舗で加盟店契約なく決済・送金に使える」点です。ローソンさんが実証実験で使っているのを我々が知らなかったくらい、デジタル現金のように機能する。PayPayや銀行預金はそのサービスのユーザーでないと使えませんが、JPYCは外国人旅行者でも誰でも使えるのが強みです。
近藤智彦
JPYSCは第3号電子決済手段、いわゆる「信託型ステーブルコイン」です。発行者はSBI新生信託銀行であり、SBI VCトレードは発行者ではありません。信託型の最大のメリットは、発行・償還時の100万円制限がないこと。現在はSBI VCトレードの口座内でクローズドに運用していますが、昨日レンディングサービスを発表し、口座内での3%運用というユースケース第1号が出てきました。
補足:日本の電子決済手段は資金決済法で「第1号(資金移動業型)」「第2号(銀行型)」「第3号(信託型)」に分類される。JPYCは第1号、JPYSCは第3号にあたる。資金移動業型は1回あたり100万円の発行・償還上限が原則として課せられており、信託型にはこの制限が適用されない。

RWAエコシステムにおける位置づけ

あらゆる資産がオンチェーン化される世界で、円ステーブルコインはどのようなインフラ的役割を果たすのか。渡辺氏がグローバルな視点から整理した。

渡辺創太
株式・国債・不動産・IP(知的財産権)など、あらゆる資産がブロックチェーン上に乗ってきたとき、現金では直接買えません。そこで日本円にペッグしたブロックチェーン上の日本円、つまりステーブルコインが必要になる。我々はステーブルコインを単体のビジネスで見ていなくて、SBIの株式・不動産・保険などがオンチェーン化されたとき、その上で動く「血液」のような存在にしていきたい。円ステーブルコインを使ってトークン化された商品を買える世界線を作っていきたいと思っています。
補足:渡辺氏はソニーグループやSBIと連携するレイヤー2ブロックチェーン「Soneium」の開発を主導。同チェーン上での円ステーブルコイン流通が想定されている。RWA(現実資産のトークン化)は証券・不動産・国債など実物資産をブロックチェーン上で取引可能にする取り組みで、WebX 2026でも主要論点の一つとなった。

政策・規制の変化、「ダボス会議が転換点に」

国の姿勢をどう読むか。登壇者全員が「明らかに変わった」と口をそろえ、その転換点と背景を具体的に語った。

岡部典孝
今春ごろから自民党もステーブルコイン・オンチェーン金融推進のニュースが一気に出てきました。その少し前、昨年のダボス会議のあたりから温度が変わったと思っていて、大臣級が行ったときにステーブルコインの話で持ち切りだったと。政治家側から「これは真剣にやらなきゃいけない」という話が出てきた。もう一つ、あまり表に出ていない話ですが、国債の金利が上がってきて買い手を育てなきゃいけない。ステーブルコインが潜在的な国債の買い手になるんじゃないかという期待もある。この2つが大きな転換点だと思います。
近藤智彦
当局や国会議員の先生方とお話しする中で感じるのは、「通貨主権」のようなイメージをかなり持たれているということです。法定通貨としての日本円は世界で約5%流通していますが、ステーブルコインは130億円規模と圧倒的に遅れています。円安など円が弱体化する方向に向かっている中で、ステーブルコインの立ち位置は単純な決済だけではないというイメージを当局も持たれていると感じます。

グローバル競争での日本の現在地、「世界2位を狙えるポジション」

世界の円ステーブルコイン市場でのシェアはほぼゼロに等しい現状で、日本はどう戦うべきか。渡辺氏が見立てを示した。

渡辺創太
アメリカは圧倒的な1位で、ステーブルコインの発行量は50兆円超だと思います。日本は我々合わせて約130億円程度、ユーロが約1,000億円といったところ。アメリカの基軸通貨ドルと同じ戦い方をしても勝てないので、日本円ならではの戦い方が必要です。グローバルの機関投資家の中で日本円はいわゆる「ファンディングカレンシー(調達通貨)」になっている。金利が安いから円を借りてアメリカの高利回り資産に投資するというアセットマネジメントの需要がグローバルで相当ある。中国が脱落している今、日本は世界2位を狙えるポジションにいます。
ニューヨークにいると、金融機関が持っている日本円の需要が相当あることを肌で感じます。彼らが保有している日本円をJPYSCに置き換えられたら、相当な効率化が生まれるはず。アメリカのGENIUS法案がUSドル以外の通貨を米国内でリーガライズするにはまだ時間がかかる中、日本円とUSドルの「相互運用性」が今非常に重要になっています。
補足:2025年に米国上院を通過したGENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for US Stablecoins Act)は、米ドルペッグのステーブルコインの発行規制を整備する法案。米ドル以外の通貨建てステーブルコインの米国内流通については引き続き検討が続いている。

ユースケースと成長戦略

発行スキームの違いは、狙うユースケースにも直結する。両社の戦略の違いと共通点が浮き彫りになった。

岡部典孝
現時点で圧倒的に多いのはDeFi上でのスワップやレンディングなど、オンチェーン決済手段としての使われ方です。LINEのチェーンに展開したところ2週間で発行量が約2倍に増えました。インセンティブの力は大きく、今後はパートナー企業やウォレット事業者が独自のインセンティブを出す形でJPYCの発行を間接的に伸ばしていきたい。「誰でも使える」ことが最大の強みです。配当や出資金払い込みでの利用整備が進めば一気に伸びると思っています。
近藤智彦
信託型で金額制限がないので、まず大きな額のアセットマネジメント領域から始めたいと考えています。ニューヨークの機関投資家が保有する日本円をJPYSCに置き換えたり、国際間の資金移動を即時着金できる形にしたりというユースケースも作れます。将来的にはトークン化された株式の配当をステーブルコインで支払うことも想定しています。DVP(Delivery Versus Payment)により購入と同時に即時交付できるユースケースも作っていけます。

制度の壁と今後の課題

ユースケースの拡大には規制環境の整備が不可欠だ。登壇者それぞれが「次に取り組むべき制度課題」を具体的に挙げた。

近藤智彦
JPYSCを現在クローズドで運用しているのは制度的な制約によるもので、まずパブリック化が第一歩です。100万円制限の問題も、我々が外国発行体と行っている事業で1年以上付き合ってきました。実態の数字を示しながら当局と対話を続け、緩和を進めていきたい。
岡部典孝
電子決済手段は現金・預金と等価交換できるので、実態はほぼ金銭なのに法律上は「金銭に類する何か」に留まっています。金銭扱いへの明確化は、ここ半年から1年で急激に進むと思っています。元金融担当大臣も法改正するとおっしゃっていましたし、かなり前向きです。「電子決済手段発行業」のような新ライセンスができれば一気に動く可能性があります。

1年後のWebX 2027へ、「1兆円を狙う」

セッションのラストでは、各務氏の問いに答える形で各登壇者が1年後のWebX 2027時点での目標・豊富を語った。

近藤智彦
数字で言えば、1年後に1,000億円規模だと物足りない。目標としては1兆円という数字を狙っていきたい。今日の会場の参加者でもステーブルコインを日常的に使っている方は10%もいないと思いますが、来年のこの会場で3割の方がスマホですぐ使えるくらいのサービスができていることが目標です。
岡部典孝
現状の数十億円規模から数百億円、数千億円規模に持っていくことを目指します。2035年に世界のステーブルコイン取引量が23.9兆円と予想される中で、日本が10%、上手くいけば20%を取りたいという思いでやっています。給与・株式配当・出資金へのステーブルコイン活用が実現できたら一気に伸びる。
渡辺創太
圧倒的に必要なのは規制緩和です。技術的にも事業者側としても準備はできている。規制というブレーキのせいで、インターネット時代に日本企業が焼け野原になったように、デジタル赤字がさらに拡大してはならない。アメリカのオンチェーン金融の成長率より日本の成長率が高かったら、我々がやりたいことの一つが達成できている状態に近づいている。規制緩和と事業成長の両立を1年間で実現したい。

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