WebX 2026 | セッションレポート
3メガバンクのオンチェーン金融戦略 ステーブルコインとAIが変える銀行の未来
三井住友・みずほ・三菱UFJのデジタル担当役員3名がWebX 2026で対話。ステーブルコインとトークン化預金の「両建て」戦略から、AML対応の課題、AIとオンチェーン融合が変える銀行ビジネスの未来まで、それぞれの戦略と本音を語った。モデレーターは日本経済新聞社の関口慶太氏。
登壇者プロフィール
1990年三井住友銀行入行。リテールマーケティング部・IT戦略室を部長として立ち上げ、トランザクションバンキング本部長として法人決済の商品・営業企画を指揮。2023年よりグループCDIOとしてSMBCグループのデジタル戦略を牽引。
1991年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほフィナンシャルグループ取締役会室長、取締役兼執行役人事グループ長などを歴任し、2026年より現職。デジタル戦略・データマネジメント・事業領域開発・技術研究開発を統括し、グループ全体のトランスフォーメーションを推進。
1992年東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。エコノミスト業務、信用リスクマネジメント、グループ経営戦略策定を経て、2023年に常務執行役員 Chief Digital Transformation Officerに就任。2026年4月より現職。
証券・経済・政治部を経て2020年よりフィンテックエディター、2025年より現職。共著に「仮想通貨バブル」「NFTの教科書」。
ステーブルコインとトークン化預金 3メガが揃えた「両建て」戦略
関口氏の「どちらが本命か」という問いに、3者全員が「両建て」で即答した。ただし各社の優先順位に微妙な差があった。
磯和啓雄
どちらかが「本命」ということはない。クレジットカードとQRコードを人それぞれが使い分けているのと同じで、利用者の目的次第。SMBCは両方を開発している。
山本忠司
銀行都合で言えばトークン化預金の方をやりたい。ただ、ステーブルコインが経済圏の外で広がると預金流出リスクがある。どちらの流れにも対応できるよう両建てにしている。
上ノ山信宏
決めるのは金融機関ではなく利用者だ。新手段への移行コストを乗り越えるだけの使い勝手がどちらにあるかまだ定まっていない。だから両方を用意しておくことになる。
補足:日本では2023年6月施行の改正資金決済法により、電子決済手段としてのステーブルコイン発行が銀行・資金移動業者等に解禁された。トークン化預金は既存の銀行法の枠組みで発行可能なため、制度的ハードルはステーブルコインより低い。
3メガ共同ステーブルコインが目指すもの
先日発表された3メガバンクの協議会設立を受け、各行が目指すユースケースと課題が議論された。
磯和啓雄
CMS(キャッシュマネジメントシステム)に使えると考えている。海外拠点を持つ大企業では時差でカットオフタイムがばらけるため、多額の資金が海外に滞留する。ブロックチェーンで各拠点を繋ぎ、ステーブルコインで24時間リアルタイムに集約できれば資金効率は劇的に改善する。3メガが別々のコインを出すと企業側の管理が煩雑になるため、最初から共同でやるべきだと思っている。
上ノ山信宏
決済はインフラだ。固定コストが大きく、3行それぞれが投資しても採算が合いにくい。一度稼働したら途中撤退もできない。共同でやれる領域を最初から広げていくことが必要だ。
関口慶太
世界ではトークン化預金のグルーピング(仲間作り)が進んでいる。HSBCなどが欧州でのグループ形成を主導している一方、日本は少し遅れている。ステーブルコインで先行する形になっているのか。
補足:国際的なトークン化預金のグルーピングでは、JPモルガンのKinexysやHSBCが先行。ドル建て取引が主流のため、円建て取引を中心とする日本の3メガは相対的に動きが遅れているというのが3者の共通認識だった。
AML・KYCの壁とブロックチェーンによる合理化の可能性
ステーブルコインによる国境を越えた送金にも、銀行振込と同様のAML・KYC規制が適用される。関口氏はシンガポール企業が日本へのM&A送金で国内銀行に一時拒否されたケースを紹介し、各社の見解を求めた。
上ノ山信宏
ステーブルコインの難しさはそこだ。パブリックチェーンにするとAML・犯収法に引っかかり、クローズドにすると既存の仕組みと変わらなくなる。金融機関としてパブリックチェーンのリスクを取る選択肢はなく、どこまでクローズドにするかが問われる。
磯和啓雄
いきなりパブリックでやるのは難しい。ただ「今の仕組みと比べてどうか」という議論は必要だ。今は各行が人手で書類を一件一件確認しているが、ブロックチェーンなら資金の流れが全て追跡できる。データを共有してAIで処理すれば、コストを下げられる可能性がある。
山本忠司
おっしゃった通りで難しい。AIとブロックチェーンが組み合わさると、オンチェーンでのKYCのコストはむしろ上がりかねない。AIが入ることで取引のスピードが人間のいる世界ではないレベルになり、その分のコストが相当高くなるかもしれない。
オンチェーン金融の到来 「機が熟してきた」
テーマはオンチェーン金融の将来性に移った。磯和氏は「機が熟してきた」という言葉でその到来を表現した。
磯和啓雄
3年前にはAIもなく「マニアックな人が売り買いするだけ」という印象だった。今はエージェントAIが自動運用するイメージが誰でも浮かぶ時代だ。米国のステーブルコイン残高は無視できない規模になり、機関投資家も参入している。材料が熟した今こそやる時期だ。
山本忠司
MUFGは以前「MUFGコイン」を検討したが断念した。当時はスマホ決済との差別化ができず、マネタイズもできなかった。単独のコインとして出すだけでは意味をなさない時代だったのだ。今は技術が熟し、AIが加わることで当時とは全く違う世界が見えている。オンチェーンで金融機能をAIが動かす、これが大きな変化だ。
上ノ山信宏
メリットは「安い・早い・便利」。株式・債券のT+2決済問題を解消することで資金効率が上がる。コストが本当に下がるかはまだわからない。モヤっとしながらも、理屈上は実現できると思っている。
補足:米国では2025年に「GENIUS法」(ステーブルコイン規制法)が議会で可決され、ドル連動のステーブルコインへの機関投資家参入が加速している。山本氏は「日本に圧力的には感じる」と語り、この動きを強く意識していた。
エージェンティックコマースと銀行ビジネスモデルの変容
最後はAIとエージェンティックコマース(AIが経済の当事者として取引する世界)について議論した。
磯和啓雄
エージェンティックコマースは2方向に分かれる。Amazonで文房具は買っても家は買わないように、高額・重要な意思決定は人間同士で決まる。心理学の「正直なプラセボ効果」が示すように、人の行動変容を動かすのはテキストより熱意や信頼感だ。日常的な取引はエージェントへ、コーポレートアクションは人間へ——この分断が進む。
プログラマビリティとオンチェーンが進めば、口座に残高が残るという時代がなくなるかもしれない。普段は預金残高0で、必要な時だけ借りて決済して、入ってきたらすぐ運用する。そうなると銀行の稼ぎ方・ビジネスモデルが根本から変わっていく。
山本忠司
AIエージェントと金融サービスを共通標準規格でつなぐことで、あらゆる企業サービスへシームレスに組み込める。オンチェーンが組み合わさることで、金融機能と企業取引がリアルタイムで繋がる世界が生まれるかもしれない。
上ノ山信宏
エージェンティックコマースは確実に広がる。ただ、買い物の楽しみを手放したい人は少数派で、100%の自動化にはならない。コマース側から金融に参入する事業者が増える中、金融機関としての立ち位置を再定義する必要が出てくるかもしれない。
セッション総括
磯和氏は最後をこう締めくくった。
「3メガが含めて本当に真面目にこういうことを議論しながら、協力すべきは協力してやっております。是非、前向きに応援いただければと思います」
競争と協調のバランスを取りながら、デジタル金融インフラを共同構築しようとする3メガの姿勢がセッションを通じて浮き彫りになった。ステーブルコインとトークン化預金の両建て戦略、AML・KYCの壁をAIで乗り越える可能性、そして銀行ビジネスモデルそのものを変えるオンチェーン化——その実現に向けた試行錯誤が日本の金融大手で動いている。
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