2021年の仮想通貨犯罪レポート
ブロックチェーン分析企業チェイナリシス社は6日、2021年における暗号資産(仮想通貨)の犯罪に関するレポートを発表した。仮想通貨の不法利用額は増加したものの、過去類を見ない強気相場における全体取引量増加に伴い、犯罪利用率では過去最低水準まで低下したことがわかった。
仮想通貨を利用した犯罪被害額ベースで見ると、相場全体が高騰した2021年は過去最高値を更新。2020年を約80%大きく上回る140億ドル(1.6兆円)となった。
一方、仮想通貨市場全体の取引量自体が前年比+567%増となったため、市場成長度に対しての犯罪率は低下している。2021年の犯罪利用率は0.15%と、比率で見た場合は過去最低水準となった。
この数値は、今年2月に公開される最終的な年次レポートで一部変更される可能性が残るものの、全体的には仮想通貨エコシステムにおける犯罪利用率は低下していることを示していると指摘。各国の規制面などの整備が考えられる。
その一方、仮想通貨の犯罪利用は利用者増加を阻み、政府がさらなる規制を強化する要因ともなり得ると指摘した。
仮想通貨犯罪の内訳
ただ、特定分野では犯罪が急増している。被害対象の内訳では、発展途上のDeFi(分散型金融)プロトコルの被害額が急増。中央集権型の取引所(CEX)よりもDeFiプロトコルにおける被害額が初めて上回り、20億ドル(2,300億円)を突破した。
DeFi関連の犯罪では、ラグプルなどのような詐欺と資産の盗用(ハッキング)が最も多かったという。
2021年に詐欺が理由で流出した仮想通貨の総額は78億ドル(9,000億円)相当を記録。前年比で82%増加している。
また、ハッキングなどによる仮想通貨の盗難額は32億ドル(3,700億円)を記録。前年比では516%の増加となり、この内7割近い22億ドル(2,500億円)相当がDeFiプロトコル上で盗用されたものだという。
この内、35%相当の28億ドルはラグプルによるものだった。いずれも、開発者などがDeFiプロジェクトに関連したトークン購入を投資家に推奨し、資産を不正に盗用してトークン価値が急落するなど、投機が過熱する中での悪質な事例が目立ったという。
ラグプルによる代表例は、中央集権型取引所のThodexであったが、残りは全てDeFiプロジェクトだった。Thodexでは、出口詐欺に近い形でCEOが取引所資産を持ち逃げ、ユーザーは預入資産の出金が不可能となった。
また、DeFiプロトコルを利用した違法手段で取得した資産の資金洗浄も目立ち、2020年から利用率が急増。マネーロンダリングにおけるDeFiプロトコルの利用率は前年比で約20倍増加した。
DeFi領域が狙われる理由とは
DeFi領域で仮想通貨犯罪が多発する理由として、チェイナリシスは、2020年夏以降のDeFiブームとコード監査の欠如の2点を指摘した。
DeFi市場の取引量は2021年に前年比で921%増加するなど急拡大した。誰でもプロジェクトを開発できる点がイノベーションを加速した一方、完全に精査されていないコードのまま、プロダクトが利用されてしまう状況につながっていると分析。
DeFiプロトコルにおける仮想通貨の盗用は、スマートコントラクト内のエラーが要因になっていることが多いため、コード監査を経ていないプロジェクトは脆弱性を突いたハッキングなどが多発しやすいと結論付けた。
規制当局の動向
成長領域であるDeFiプロトコルで犯罪が増加した反面、規制当局も仮想通貨犯罪の犯人特定に成功する事例も増加。チェイナリシス社は代表例として、以下のような摘発事例を紹介した。
- 米IRS、35億ドル相当の仮想通貨を税金未収納者から押収
- 米司法省、詐欺事件の一貫として5,600万ドル相当の仮想通貨を押収
- 米司法省、コロニアル・パイプラインのランサムウェア事件で犯人グループから230万ドル相当の仮想通貨の奪還に成功
- イスラエルのテロ資金供与対策局、「ハマス」に属する84の仮想通貨アドレスを押収
関連:イスラエル政府、80以上のハマス関連の仮想通貨アドレスへ差押命令
規制当局がブロックチェーンベースの犯罪を理解することが、仮想通貨領域の犯罪捜査のカギになるとして、チェイナリシス社は官民が知識の向上を課題に挙げた。
また、長期的には安全性の保障されていないプロジェクトや、詐欺プロジェクト関連のトークンが大手取引所に上場されない為の防止策の整備などが必要となるとも提案した。