AIエージェントとは
株式市場においても、米エヌビディアを筆頭に、AI学習に必要な半導体関連の銘柄が注目を集めています。
スタートアップ市場では、2019〜2024年の直近5年間だけでも、ベンチャーキャピタルはAI関連スタートアップ全般に2900億ドルを投じています(Coinbase『Demystifying the Crypto x AI Stack』)。
一方、AIエージェントという技術において、ブロックチェーン技術が活きる可能性が高いとの見方が出ています。
AIエージェントとは、自律的かつ自動的に複雑なタスクを実行できるシステムのこと。気温や評価といった周囲の情報を収集し、得られた結果に基づいて自律的に次のアクションを計画・実行します。
人間による入力が不要である点において、従来のチャットボットや生成AIとは異なります。AIエージェントは、エージェント(代理人)の単語が示す通り、これまで人間が行なっていた活動を代替する役割を担います。
次の行動を自律的に決定できるため、外界の状態を常に監視するタスクや、分析と改善が必要なタスクの実行に適しています。
- 人の介入なしに動作するための「行動の自立性」
- 自動化タスクの幅を広げる「経済的自立性」
- なりすましなどのリスクを防ぐ「信頼性」
これらの要素を支える技術として、ブロックチェーンが重要な役割を果たすことが期待されています。本記事では、この三要素に注目し、AIエージェントとブロックチェーン活用の可能性について詳しく解説します。
「経済的自律性」を補う仮想通貨ウォレット
AIエージェントが「経済的自立性を持つ」とは、送金や決済など、AIエージェントが自律的に取引することを意味します。
取引を行うためには銀行口座が必要ですが、通常、AIエージェントは口座を開設することができません。 しかし、仮想通貨のウォレットを保有することは可能です。
ここでは、ウォレットの役割を確認しながら、AIエージェントによるウォレットの保有について考えてみましょう。
ウォレットとは
仮想通貨ウォレットとは、アドレスや秘密鍵を管理するためのソフトウェアプログラムです。有名なものにはメタマスク(Metamask)があります
アドレスとは、仮想通貨の送受信に利用する一意な識別子で、銀行の口座番号のようなものです。仮想通貨を受け取る場合、宛先に自分のアドレスを指定してもらう必要があります。
(例、0x1D1479C185d……A0E6B 英数字および特殊文字で構成される、通常26~42桁)
対して秘密鍵は、銀行口座の暗証番号に相当します。 対応する秘密鍵を知らなければ、アドレスに送金された仮想通貨を取り出すことはできません。
アドレスや秘密鍵は個人で生成・管理することもできますが、生成には数学的な知識を要します。 また、秘密鍵を紛失してしまった場合、暗証番号のように秘密鍵を再設定することはできません。
ウォレットは、こうしたアドレスや秘密鍵を自動で生成し、管理する機能を持っています。 秘密鍵を忘れた場合に備え、バックアップ機能を提供しているウォレットも。
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このように、ウォレットは仮想通貨管理の煩雑さを軽減してくれます。
AIがウォレットを持つメリット
これまでのAIエージェントは、商品のリコメンドや情報検索は可能でしたが、決済に関しては制約がありました。最終的な購入や支払いの段階では、人間の介入が必要だったのです。
その理由の一つは、AIエージェントが銀行口座を持てず、クレジットカードなどの決済手段を紐付けることができないから。しかし、暗号資産ウォレットであれば、AIエージェントも保有することが可能です。
AIエージェントがウォレットを持つことで、決済を含む自動化可能なタスクの範囲は広がります。単なる予約や購入の自動化にとどまらず、新しいユースケースの創出も期待されています。
こうした可能性に着目し、a16zやCoinbaseをはじめとする企業が、AIエージェントのウォレット活用に関する取り組みを積極的に進めています。
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AIエージェントのウォレット活用に取り組む企業
米国のスタートアップSkyfireは、AIエージェントが自律的に取引や決済を行うためのブロックチェーン決済ネットワークを構築しています。この仕組みは、これまで決済手段を持たなかったエージェントにも支払い能力を持たせることで、さまざまな用途での実用性を広げています。同社のプラットフォームでは、銀行送金などで預け入れた現金をUSD Coin(USDC)に変換し、仮装通貨として取引できます。
- エージェントにウォレットを割り当てる: ユーザーは事前に必要な資金をチャージしたウォレットをエージェントに割り当てることで、取引を開始できます。銀行口座を連携する必要がないため、シンプルかつ迅速な運用が可能です。
- 取引の管理機能: ユーザーはウォレットに取引上限を設定したり、取引内容をダッシュボードで確認したりすることができます。これにより、エージェントの支出をコントロールしやすくなります。
Skyfireの主な機能
共同創業者であるCraig DeWitt氏は、TechCrunchのインタビューで「エージェントが支払いを行えない場合、結局のところ単なる検索ツールに過ぎない」と述べています。決済機能を付与することで、これまで不可能だった多様な業務を任せられるようになるとしています。
現在、Skyfireは主にB2B分野での活用を目指していますが、将来的には一般消費者向けの展開も検討されています。例えば、エージェントを利用して、オンラインでの自動購入やサービスの契約管理を効率化するなど、日常生活での利用シーンが広がる可能性があります。
AIインフルエンサー
次に紹介するのは、ウォレットを持ったAIインフルエンサーの事例です。これは、AIエージェントが時間や言語の制約なく全ユーザと関係を構築できるため。生身のインフルエンサーと比べ、大きな優位性があるといえます。
50万人のTikTokフォロワーを誇るAIインフルエンサー・Lunaは、ウォレットを持つAIエージェントの一例です。Lunaはウォレットを保有するだけでなく、その管理も自律的に行なっています。
具体的には、自身のコンテンツに反応したユーザに対し、チップとしてLUNAトークンを送信。自律的にトークンの需給を調整することが可能です。
TEEが保証する「行動の自律性」
AIエージェントは、多くの煩雑なタスクを自動化し得る魅力的な技術です。しかし、安全性やプライバシー保護、機密データの取り扱いなど、その普及には未だ課題もあります。
特に、AIエージェントが人間の介入なしで完全自律的に動作することを保証する環境が必要です。この信頼性を支える技術がTrusted Execution Environment(TEE)です。例えば、AIチャットボットがTEE上で稼働することで、ボットが外部の操作や干渉を受けず、完全に自律した存在であることを証明できます。
TEEとは
TEE(Trusted Execution Environment)は、CPUとメモリ内の一部を隔離し、データを暗号化して外部からのアクセスや改ざんを防ぐ技術です。信頼できる環境で特定のタスクやデータを安全に処理することが可能です。
TEEには主に2つの方式があります。アプリケーションの一部だけを保護する方式と、システム全体を保護する方式です。これにより、用途に応じて適切なセキュリティ環境を選択できます。
最新のAI分野では、TEEの活用範囲が広がっています。NVIDIAの最新GPUでもTEE機能が実装され、AIシステムのセキュリティ向上に貢献しています。さらに、自律型AIチャットボットの実行環境としても注目されており、TEEを利用することでAIの動作の独立性を保証し、人間による不正な操作がないことを証明することができます。
分散型自律チャットボット(DAC)との関係
TEEの応用例として、分散型自律チャットボット(Decentralized Autonomous Chatbot: DAC)が注目されています。DACは、人間の操作を受けず、自律的に動作するAIチャットボットです。
DACの特徴:
- 分散型SNSでコンテンツを投稿し、フォロワーを獲得。
- 収益化(投げ銭やサブスクリプションなど)を行い、暗号資産で資産管理。
- 秘密鍵をTEE内で管理し、ボット以外がアクセスできない設計。
このように、TEEは単なるデータ保護だけでなく、AIの自律性を技術的に保証する基盤として、新たな可能性を切り開いています。
Proof of Personhood – 「人間とAIの境界線」を定める
AI技術が進化し、オンライン空間では人間とAIエージェントが共存する時代が到来しました。しかし、AI生成のコンテンツやアカウントが巧妙化するにつれ、私たちが直面する課題は単なる「偽コンテンツ」ではありません。問題は、AIが低コストで膨大なコンテンツやアカウントを生成し、それらを操作する能力を得たことです。
このような背景から、「Proof of Personhood(PoP)」が重要視されています。PoPは、あるデジタルアカウントが本物の人間に紐づいていることを証明する仕組みです。PoPは単に人間性を証明するだけでなく、悪意のある行為者にとって攻撃のコストを高くする仕組みを提供します。
Proof of Personhoodの必要性
1. AIによる低コスト攻撃の脅威
AIは、膨大な量のコンテンツやアカウントを低コストで作成し、それらを操作する能力を持っています。例えば、なりすましアカウントやディープフェイクを利用してSNSやコミュニティを混乱させる行為が増加しています。
PoPは、このような攻撃に対して「一意性(uniqueness)」の原則を導入します。つまり、人間であれば無料かつ簡単にユニークなIDを取得できる一方で、AIが同様のIDを取得するには高コストで困難な仕組みを実現します。
2. デジタルアイデンティティの確立
PoPは、デジタル社会での信頼を確立するための基盤です。PoPによってコンテンツが特定の人間にリンクされるため、情報の出所を明確化し、誤情報やスパムの拡散を防ぐことが可能になります。これにより、オンラインネットワーク全体の健全性が保たれます。
3. Sybil攻撃の防止
PoPは、「Sybil耐性」を備えた仕組みです。Sybil攻撃とは、1人の行為者が複数の偽アカウントを作成し、ネットワークの評価システムや投票アルゴリズムを操作する攻撃を指します。PoPは、アカウントがユニークであることを保証することで、これらの攻撃を防ぎます。
Proof of Personhoodの技術的なアプローチ
PoPを実現するためには、プライバシーを保ちながら一意性を保証する仕組みが必要です。これには暗号化技術と生体認証技術が活用されます。
暗号化技術
暗号化技術を活用することで、個人情報を開示せずに認証を行うことが可能です。この分野で注目されるのがPHGS(Privacy-preserving Human Guarantee System)です。
PHGSは、ユーザーが個人情報を共有せずに「人間であること」を証明する仕組みを提供します。このシステムは、高度な暗号化技術を利用して、ユーザーの一意性を保証しつつ、プライバシーを完全に保護します。
具体的には、PHGSはゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)を活用し、ユーザーが「認証済みの人間」であることを証明できます。個人データが漏洩するリスクを最小限に抑えつつ、ネットワーク上での信頼性を確保します。
PHGSの活用により、オンライン投票やデジタル契約といった場面での認証プロセスが効率化され、なりすましや多重アカウントといった問題への効果的な対策が期待されています。
生体認証
生体認証技術は、PoPの実現において重要な役割を果たします。例えば、虹彩認証を活用した「Worldcoin」は、ユーザーが一意のIDを取得し、それに基づいて人間性を証明する仕組みを提供しています。これにより、なりすましリスクが大幅に低減されます。
AIエージェントの特徴まとめ
本記事では、AIエージェントを支える技術や活用例について、「経済的自律性」「行動の自律性」「人間とAIの境界線」の三要素に分けて説明してきました。
最後に、これらが構成するAIエージェントの特徴をまとめましょう。
特徴 | 説明 | 期待される効果 |
---|---|---|
自律的な意思決定 | AIエージェントがアクションを計画・実行し、結果を基に次の行動を決定する能力。 | 決済や契約の自動化が可能になり、複雑なタスクの効率的な処理を実現。 |
信頼性の確保 | TEE(Trusted Execution Environment)により、個人情報や機密データを安全に管理。 | 個人情報保護とデータの完全性を保証し、AIエージェントが安全に活動できる環境を構築。 |
人間社会との健全な関係性 | Proof of Personhood(PoP)でAIエージェントとなりすましや誤情報拡散を防止。 | デジタル空間での透明性を向上させ、信頼できるAIエージェントとの健全な関係性を確立。 |
これらの特徴を持つAIエージェントは、複雑なタスクの自動化を可能にするだけでなく、安全性と信頼性を確保し、デジタル社会での活用が期待されています。
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