- 取引額中央値0.01〜0.10ドル、76%がマイクロペイメント
- コインベース・ストライプが6階層中5階層をカバー
加速する主要4社のインフラ構築
暗号資産(仮想通貨)投資グループKeyrockは最新レポート「Who Pays the Agent?(誰がエージェントに支払うのか)」の中で、AI(人工知能)エージェントによる機械間(M2M)決済が、この1年で概念段階から実用的なエコシステムへと急速に発展しつつあると指摘した。レポートでは大手テック企業や金融大手が巨額の資金を投じて覇権争いを繰り広げている現状と、今後の課題について分析している。
レポートによると、2025年5月から2026年4月までの1年間に、AIエージェントは約1億7,600万件の取引を処理し、総決済額は7,300万ドル(約116億円)超に達した。この規模は、年間14兆5,000億ドルを処理するVisaなどの伝統的金融(TradFi)に比べれば依然として限定的である。しかし、レポートが注目しているのはその金額ではなく、目覚ましいスピードで進むインフラの構築だ。
2024年9月時点のAIエージェント決済には、わずか一つの「安全性の低い選択肢」しか存在していなかった。しかし、それからわずか1年ほどの間に状況は一変し、GoogleやVisa、コインベース、ストライプ(Stripe)といったグローバル企業が、M2M決済の覇権を狙う競合システムを次々と展開するに至っている。
- コインベース:AIエージェント間でステーブルコイン決済を可能にするプロトコル「x402」を開発
- ストライプ:決済に特化したL1ブロックチェーンTempoと共同でAIエージェント向け自律決済プロトコル「MPP」を開発
- Google:AIエージェントへの委任型支出承認に特化したシステム「AP2」を発表
- Visa:AIコマース向けに設計されたトークン化された認証情報を提供、既存ネットワークを拡張
しかし、レポートはこれら4つのアプローチを単純な競合関係として捉えるだけでは不十分だと指摘する。プロトコルレベルでは機能の重複が存在するものの、より重要なのは、それぞれが異なる役割を担いながら一つの多層的なスタック(階層構造)を形成しつつある点だという。
その上で「どのプロトコルが勝者となるか」ではなく、「どの企業がより多くのレイヤーを獲得し、その結果としてより大きな価値を取り込むのか」に注目すべきだと論じている。
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激化する垂直統合レース
レポートによると、新しく形成されつつあるM2M決済スタックにおいて、現在はコインベースとストライプの2社が、全6階層のうち5つの階層をカバーし、市場を牽引している。

出典:keyrock
- コインベース:決済基盤(Base)からウォレット、ルーティング、決済プロトコル(x402)、ガバナンスに至るまでを網羅。
- ストライプ: 決済(Tempo)、ウォレット(Privy)に加え、ルーティング(Bridgeを11億ドルで買収)、プロトコル(MPP)や、独自のコンプライアンスインフラを擁する。
既存の金融・決済大手もこの1年で総額80億ドル(約1兆2,700億円)を超える巨額の買収資金を投じ、自社スタックの隙間を埋める作業を急いでいる。
具体的には、米金融大手Capital OneがBrexを51億5,000万ドルで、マスターカードがBVNKを18億ドルでそれぞれ買収したほか、ストライプによるBridgeの買収などが挙げられる。
レポートは、これら一連の動きについて「M2M決済を自社コアビジネスの必然的な拡張と捉える企業による、インフラ統合の動きだ」と分析している。
AI決済に適したステーブルコイン
レポートによると、これまでに処理された1億7,600万件に上るM2M決済において、取引額の中央値はわずか0.01ドル〜0.10ドルと極めて少額で、取引全体の76%が0.30ドルのカード決済手数料下限を下回る「マイクロペイメント」だった。
このデータは、クレジットカードなどの既存の決済ネットワークがAIエージェント市場に対応できない決定的な理由を示しているとレポートは指摘している。
1件あたり約0.3ドルの固定手数料が発生する既存のシステムでは、1ドル未満の決済は採算が合わない。一方、仮想通貨のレイヤー2技術を用いたステーブルコイン決済の手数料はわずか0.0001ドルだ。レポートは、「AIエージェントにとって、仮想通貨決済の採用は数学的に必然である」と結論づけている。
その一方で、これまでに処理された1億7,600万件の決済の98.6%が単一のステーブルコイン「USDC」で行われているという事実にも着目。レポートはこの極端な一極集中について、エコシステム全体に「脆弱性」をもたらすリスクがあるとして懸念を表明している。
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今後の課題と展望
レポートは、M2M決済の技術的成熟度について「大部分の課題はすでに解決されている」と高く評価した。決済速度は1秒未満、手数料は1セント未満という処理能力がすでに実現しているのに加え、ウォレットインフラも監査機能やルール制御が標準化されつつあると指摘。これにより、機関投資家レベルの導入にも耐えうる水準に達しているとしている。
一方で、普及のための最大の阻害要因は、AIエージェントの自律決済に関する規制整備、決済の責任の所在の明確化、そしてAIエージェント自身の身元確認基準だとしている。
欧州のMiCA規制、米国のジーニアス法、EUのAI法など、2026年に施行される主要な規制には、AIエージェントによって実行される自律的な金融取引を包括的にカバーする基準が整備されていない。レポートはこれを「現実のタイムラインで起きている問題」と指摘している。
さらにレポートは、AIエージェント決済の今後の発展速度を決めるのは、「ほぼ完成している技術」ではなく、それらを安全に運用するための「信頼のインフラ」だと強調した。
仮想通貨決済システムは、マイクロペイメント分野で既に優位性を確立しており、取引量と実績の積み重ねを通じて、インフラ、信頼の枠組み、法的な前例が徐々に構築されていくと予測する。そして信頼レイヤーが成熟するにつれ、より大きな金額の取引が実行可能になるとの見通しを示した。
「ボトムアップ型」のこうした進化が、決済処理の根本的な変革につながるとレポートは見る。問題となるのは、M2M決済の技術的なスケールアップではなく、信頼レイヤーが決済レイヤーにどれだけ迅速に追いつくかだと結論づけている。



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