WebX 2026 | セッションレポート
パンテラが語る次の資金の潮流、ジーニアス法とAIが変える市場の未来
パンテラキャピタルのゼネラルパートナー、フランクリン・ビ氏がWebX2026(2026年7月13日)のステージに登壇した。2013年の創業以来、仮想通貨・ブロックチェーン領域に特化して250社超への投資を続けてきた同社の視点から、市場の新サイクルが読み解かれた。ステーブルコイン規制の世界標準となったジーニアス法(GENIUS Act)の影響、デジタルアセットトレジャリー(DAT)企業の台頭、そしてブロックチェーンとAIの収束が切り拓く次の10年について、機関投資家の文脈から語られた。
登壇者プロフィール
2015年にJPモルガンでブロックチェーンチームを立ち上げ、ステーブルコインおよびトークン化の初期研究を主導。その後パンテラキャピタルに参画し、7年以上にわたりアーリーステージ投資を担う。投資先にはサークル、アービトラム、Ondoなどが含まれる。
WebXの企画・運営を統括するキーパーソン。国内外のブロックチェーン・仮想通貨業界のプレイヤーとの連携を軸に、カンファレンスの方向性を牽引している。
投資セオリーの変遷と市場の現在地
パンテラキャピタルは2013年の創業以来13年以上にわたり仮想通貨・ブロックチェーン専業の投資を続け、現在250社超のポートフォリオを擁する。ビ氏はその歴史を3つのフェーズで整理した。
Franklin Bi
第一波はアクセス確立の時代だった。デジタル資産そのものへのアクセス、仮想通貨の売買、オンランプ・オフランプの構築が最も困難な課題だった。規制に準拠した経路を構築しようとしたサークルやビットスタンプに投資し、ブロックチェーン上のサービスへの入口を整備することに注力した。
第二波は新たなプリミティブの検証期だ。資産をコードに変換することで、プログラマブルかつコンポーザブルな金融の可能性が開かれ、分散型取引所(DEX)でのスワップやパーペチュアル取引など、新しい金融手段の有効性が証明されていった。
「今まさに第三フェーズにいる。使われ続け、多くの困難を経て鍛え上げられてきたユースケースが、ようやくプロダクトマーケットフィットを確認され、本来の普及フェーズに入りつつある。ステーブルコインはその最も顕著な例で、そこから残りの資本市場全体へとトークン化を通じて広がっていく段階だ」
補足:市場の現在地として、ビ氏は直近12ヶ月でブロックチェーン企業10社がIPOを実施し、うち5社がパンテラのポートフォリオ企業だと明かした。サークルの上場はステーブルコイン市場の成長を、フィギュア(Figure)の上場はトークン化領域の本格化を象徴するものとして評価した。また「悪いニュースが出ても市場が動じなくなってきた」という現象を、売り方の疲弊(seller exhaustion)が近づいているサインとして読み解いた。
酒井 良
IPOという出口以外に、ポートフォリオ企業の将来像はどう見ているか。
Franklin Bi
「ブロックチェーン上で構築することの面白さの一つは、出口の選択肢が複数ある点だ。IPOもある、トークンに真のユースケースがあればそのアプローチもある、有力なプレイヤーによる買収もある。それらすべてが健全なイノベーションエコシステムにとって重要だ。資本市場を変革しているとき、予測できない第四の道が突然現れることもある。デジタルアセットトレジャリーという発想も、まさにそうした形で生まれた」
DAT企業が変えるエコシステムの構造
酒井氏は日本でもメタプラネットをはじめ多数のDAT企業が台頭していると指摘し、パンテラの取り組みについて質問した。ビ氏はDAT(デジタルアセットトレジャリー)という概念の定義に同社が早くから関与してきたと述べ、その意義を解説した。
Franklin Bi
DAT企業が注目される理由の一つは、パブリック市場における投資家のデジタル資産へのアクセスギャップだ。様々な投資家層がこの市場にアクセスしようとしても、依然として大きな障壁がある。
もう一つは構造的な問題だ。従来のブロックチェーンプロトコルは非営利財団を設けることで、ファウンダーとプロトコルの間に距離を置いてきた。規制上のグレーゾーンを避けるための手法だったが、規制の明確化が進む現在では必ずしも必要ではなくなってきた。
「次に必要なのは、プロトコルと100%の利害が一致し、その発展に資金を投じながら商業的利益も持つ主体だ。そうした競争的なダイナミクスこそが技術を前進させ、エコシステムの成長を加速させる。ソラナ関連企業やビットマインがその健全な動きを見せ始めているのが今だ」
イーサリアムについては「非営利的な精神が商業化の速度を抑制している面がある」としつつ、「中立性への信頼は絶対に必要だが、その先を進める役割は別の誰かが担わなければならない。それがDAT企業の存在意義だ」と述べた。
ジーニアス法が開く機関投資家の参入
機関投資家が最初に参入する領域として、ビ氏が最も強調するのはステーブルコインだ。ジーニアス法(GENIUS Act)の意義についても詳細な見解が示された。
Franklin Bi
「ジーニアス法の制定によって、世界中の市場と中央銀行が動き出した。これはマネーの近代化だ。この波に乗り遅れた国の通貨や決済システムは取り残される、という危機感が政策・産業・金融の各レイヤーで共有されている。現在、数多くの機関がステーブルコインを最優先事項のトップ3に位置づけている」
酒井 良
ジーニアス法はベンチャーキャピタルの投資判断にどう影響するか。
Franklin Bi
「業界全体のリスクを下げ、優れた起業家の参入を促す効果がある。特にフィンテック出身の人材が、規制上の障壁なくステーブルコイン・イールド・ヴォールトインフラといった新しいプロダクトツールを使えるようになった。次世代の金融サービスを構築できる土台が整った。次のロビンフッドやイートレードがここから生まれてくる可能性がある」
補足:パンテラキャピタルのポートフォリオの40%は米国外(ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジア)に集中している。ビ氏は「ジーニアス法が世界のステーブルコイン規制の青写真となり、トークン化資産への道筋も示した」とし、日本については金融商品取引法(FIEA)の動向を「注目すべき市場」と位置づけた。
Franklin Bi
日本の機関向けリサーチ・コンサルティング企業フォーピラーズへの投資については「ブロックチェーンで起きていることを機関投資家に翻訳して届ける能力が際立っている」と評価した。現状のトークン化市場の80%がラップ資産(既存資産をブロックチェーン上でトークン化したもの)で占められているが、「これは一時的な段階に過ぎない」と述べた。
「資産がトークン化されると24時間365日の決済が可能になり、コンポーザブルで分割可能でプログラマブルになる。それを理解したとき、人々はなぜ旧来の手順を経るのかと気づく。最終的には資産のネイティブオンチェーン発行への移行が避けられない。機関はその先を今から考えるべきだ」
ブロックチェーンとAIの収束が拓く未来
ビ氏は技術の大きな転換点を常に「二つの異なる技術の収束」として捉えてきた。モバイルとソフトウェアの収束が現在のアプリエコノミーを生んだように、ブロックチェーンとAIの収束が次の産業構造を変えると見る。
Franklin Bi
「AIエージェントは、SaaSが長年頼りにしてきたデータの囲い込みや人間関係による顧客ロックインを必要としない。エージェントはブランドのカラーや営業担当者との関係性には関心がない。エージェントにとって意味があるのは、真のネットワーク効果と市場構造だ。仮想通貨業界こそ、過去10年間この二つを集中して構築してきた業界だ」
「トークン化の最終的な役割は、AIエージェントがフル活用できるプログラマブルなデジタルネイティブ資産を整備することだ。機関にとっても個人にとっても、データや資産をオンチェーンに移してデジタルネイティブにすることが、エージェント主体の世界でビジネスモデルを守るための鍵になる」
補足:ビ氏が「SaaS」と表現するのは従来型のソフトウェアサービスビジネス全般を指す。データの蓄積や人的ネットワークを競争優位の源泉としてきたこれらのビジネスモデルは、AIエージェントが判断主体となる世界では機能しなくなるというのが同氏の見立てだ。
Franklin Bi
ブロックチェーン×フィンテックの収束(ステーブルコイン・トークン化)は今まさに現実になっており、ブロックチェーン×AIおよびロボティクスとの収束は「6〜10年後のフェーズ」として訪れると予測した。また、予測市場が情報の流通とリスクヘッジの形を変えつつあることも、「市場が世界を食べていく」次のフェーズとして挙げた。
セッション総括
ビ氏は会場への締め括りとして2点を挙げた。
「一つは、ブロックチェーンが他の技術と収束する交差点にエネルギーを注ぐことだ。フィンテックとの収束はステーブルコインとトークン化として今起きている。AIおよびロボティクスとの収束は次のフェーズとして訪れる。ブロックチェーンネイティブのエコシステム内に留まるのではなく、その外側との交差点を狙うべきだ」
「もう一つはチームの構築についてだ。歴史上、これほど小規模チームが大企業に対して優位に立てる時代はなかった。大手機関はタンカーをAIネイティブに転換しようとして非常に時間がかかっている。ゼロからAIネイティブとして出発し、素早くスケールできるブロックチェーン上で構築することは、起業家にとって圧倒的なアドバンテージだ」
パンテラキャピタルは現在80名体制で、サンフランシスコとニューヨークを拠点としながら世界各地の起業家と向き合っている。機関投資家の参入加速と新技術の収束という二つの大きな波を背景に、同社の視野はより広域に、より長期へと向いている。
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