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カートの先へ、決済大手3社が語るステーブルコイン決済の未来|WebX2026

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WebX2026 | セッションレポート

ステーブルコインは決済インフラになるか、決済大手3社が語る

Christian Rau × SB Seker × Arda Akartuna

WebX2026のBinanceステージでは、マスターカード・Binance Japan・Ellipticの実務責任者が登壇し、決済大手企業がステーブルコインで小売業をどのように再構築しているかを議論した。加盟店の決済現場で起きた変化から、AIエージェント時代の決済インフラ、そして各国で断片化する規制対応まで、40分間の議論を論点ごとに再構成する。

Christian Rau

Christian Rau

Mastercard
Senior Vice President, Digital Assets and Blockchain

マスターカードでブロックチェーン・デジタル資産部門シニアバイスプレジデントを務める。デジタル資産・フィンテック企業とのグローバルパートナーシップを統括し、決済ソリューションの展開を主導する。2015〜2019年には中欧地域のプロダクト責任者としてデビットマスターカードの導入を手掛けた。

SB Seker

SB Seker

Binance Japan
APAC Lead

Binanceのアジア太平洋地域責任者(Head of APAC)として、APAC全域の戦略・事業運営・規制当局対応を統括する。法律・金融サービス・フィンテック・デジタル資産の分野で20年以上のキャリアを持ち、官民双方で要職を歴任してきた。

Arda Akartuna

Arda Akartuna

Elliptic
Crypto Threat Intelligence Lead, APAC

Ellipticのシニア暗号資産脅威アナリストであり、香港城市大学で暗号資産・次世代犯罪学の助教授も務める。研究テーマは詐欺・資金洗浄・テロ資金供与・ダークウェブ上の違法行為など、暗号資産や新興技術に関連する犯罪。各国の公的機関・民間企業に対し新たな犯罪動向や対策について助言してきた。

Pranav Rastogi

Pranav Rastogi

モデレーター
Wachsman Executive Director, Head of Singapore

Wachsmanのエグゼクティブディレクター 兼 シンガポール拠点責任者。アジア太平洋地域の戦略コミュニケーション部門を統括し、大手デジタル資産・フィンテック・AI企業に対して企業広報や経営層のポジショニング戦略を助言している。

なぜ今、決済の主戦場にステーブルコインが躍り出たのか

モデレーターのプラナブ・ラストギ氏は冒頭、銀行・フィンテック企業・取引所・政府までもがステーブルコインを決済インフラとして語るようになった背景について、この変化を最も後押ししてきた要因は何かとクリスチャン・ラウ氏に尋ねた。
Christian Rau
決済という観点で見た最大の推進力は、ステーブルコインが本来的に望ましい特性を備えていることだ。名称が示す通りまず重要なのは「安定性」であり、価格変動の大きいトークンは決済にはあまり向いていない。もう一つは本質的にプログラム可能である点で、世界中をほぼリアルタイムかつ摩擦なく、24時間365日流通できる。法定通貨のようなリスクフリー性とデジタルネイティブ性を組み合わせることで、決済や金融サービスにおける数多くの興味深いユースケースが開けてくる。
消費者体験も変わった。5年前はステーブルコインや暗号資産(仮想通貨)取引をやりたいと思うだけでもかなり強い動機が必要だったが、今ではデジタル資産やステーブルコインがユーザー体験の中に組み込まれるまでに進化している。規制の明確性が高まったことも大きく、マスターカードのような企業が関与しやすくなった一因だ。
続けてモデレーターはSB Seker氏にも補足を求めた。
SB Seker
Binanceとして運用面から見ると、デジタル資産の中で単一の金融商品として兆ドル規模の市場が生まれるとすれば、それはまさにステーブルコインの利用と流通から始まると確信している。
アルダ・アカルトゥナ氏にも見解を尋ねた。
Arda Akartuna
クリスチャン氏が挙げた主な推進要因にはまったく同感だ。価値の安定性、主要なステーブルコインの高い流動性、クロスボーダー決済を容易に開始できる点は、従来の決済網と比べても大きな推進力になっている。

加盟店の決済現場で何が変わったか

モデレーターは決済の現場で実際に何が起きているのか、Seker氏に深掘りを求めた。
SB Seker
自分がブロックチェーンの仕事を始めたのは7、8年前だが、当時は加盟店にステーブルコイン決済を受け入れてもらうため、まずランディングページにUI/UXプラグインを設置してもらう必要があった。既存の決済網や銀行カードに並ぶ新しい決済ボタンを導入すべき理由を納得してもらうのは簡単ではなかった。
ボタンの埋め込みに納得してもらう第1フェーズを越えても、決済そのものを暗号資産で受け取ってもらうことは大きなハードルだった。長らく加盟店は法定通貨での決済を望み、銀行主導のスイープと照合、コスト、さらに滞留資金の扱いといった摩擦点が重なっても、ほぼ例外なく法定通貨建て決済への回帰が起きていた。背景にあったのは信頼の不足で、ステーブルコインが一夜にしてペッグを失わないという確信も、送金の仕組みそのものへの信頼もなかった。
しかし今では、加盟店から法定通貨での決済を希望されることはほとんどなくなった。デフォルトはステーブルコイン、しかも現時点では米ドル建てステーブルコインだ。規制環境がそれを認めていない場合を除けば、資金が入った後にどんな自動処理を組めるかという発想に変わっている。取引パターンの多くは今やエージェント型プロセッサーが処理するようになっており、決済手段でありながら預金保有の仕組みと照合機能を兼ね備え、ポートフォリオのダッシュボードとしての役割も果たしている。
個人・機関を問わず、ステーブルコインは他のデジタル資産を売買する際のデフォルトの保有ポジションになっている。市場が厳しい局面ではこの様子見の姿勢が一段と強まり、この滞留資金こそが次の普及の波を支える実際の流動性の源になる。この層がなければ資金は法定通貨の世界へ流出してしまい、地域によっては参入・再参入の大きな障壁が生まれる。機関投資家の領域では、これがトレジャリー決済の一形態になりつつある。
補足:Seker氏は、ハイパーインフレ市場でのインフレヘッジや、現金保有のリスクが高い地域における安全資産としての活用も、ステーブルコインの下流的なユースケースとして挙げた。

マスターカードが描く「水面下の進化」

モデレーターはマスターカードとしてのステーブルコイン観について、クリスチャン・ラウ氏に尋ねた。単なる決済手段の一つなのか、それとも世界の資金の流れを根本的に変えるものなのか、という問いだ。
Christian Rau
60年近く前から、当社は「世界中の人々に安全でシンプル、安心な決済を提供する」という戦略と使命を一貫して貫いてきた。決済は常に文化的・技術的・状況的な文脈の中で起こるものであり、刻印カードから磁気ストライプ、ICチップ、モバイルへと決済手段が進化してきたのと同じように、ステーブルコインのような新しい技術が登場しても、当社の使命そのものは変わらない。
体験としては、消費者は引き続きカードやスマートフォンで支払う形が大きく変わることはないだろう。むしろイノベーションの大半は「水面下」で起きる。今日スマートフォンをかざして「取引承認」と表示されても、実際に資金が動くまでには24〜36時間かかることがある。ここをステーブルコインが解決できる部分は大きい。一方で、複数のステーブルコインを保有・確認できるようになることは、消費者にとって選択肢と柔軟性という目に見えるメリットにもなる。
消費者体験の進化を排除したくはない。15年前、生体認証で本人確認をすると言われれば誰もが躊躇していたはずだが、iPhoneの登場後は人々が朝5時から行列を作るようになった。同じように、将来エージェントに「これを購入してほしい、登録済みのマスターカードを使ってほしい」と伝え、自分の声で本人認証を行う未来があってもおかしくない。安全性・セキュリティ・安定性・消費者保護へのコミットメントが一貫している限り何も排除すべきではなく、市場と消費者自身が採用する技術を選んでいくべきだ。

AIエージェント時代の決済認証とKYA

AIエージェントには従来型の銀行口座やクレジットカードがない。ステーブルコインはAIエージェントにとって自然な決済インフラになっていくのか。モデレーターはSeker氏に問いを向けた。
SB Seker
技術の進化と人口動態の変化が重なったときに大きな爆発が起きる。モバイルフォンの普及という消費行動の変化がデジタル決済の受容を一気に押し上げたのと同じ構図だ。ステーブルコインそのものというより、エージェント同士のやり取りが今後大幅に増えていくと見ている。
重要なのはカードか銀行送金かではなく、その周辺でエージェントの行動を許容するサービス提供者がいるかどうかだ。誰もがエージェントに何らかの法的地位、いわば「Know Your Agent(KYA)」の枠組みを認め、本人に代わって行動できると前提づければ、消費者は銀行・カードプログラム・暗号資産プラットフォームのいずれからでもそのアーキテクチャにアクセスできるようになる。違いはスピードだけであり、Binanceのようなデジタル資産プラットフォームは、パラメーターとエージェントの構成が適切であれば本人が直接行うのと変わらないと考え、この領域によりすばやく進出している。

コンプライアンスと金融犯罪リスクにどう向き合うか

モデレーターはアルダ・アカルトゥナ氏に、ステーブルコインの透明性・追跡可能性という利点と、制裁逃れや詐欺・違法金融への悪用という側面がどう両立するのかを尋ねた。
Arda Akartuna
詐欺師が被害者から資金を盗んだ場合、暗号資産の投機で利益を積み増すことにはさほど関心がなく、むしろ資産をステーブルコインで保有し、比較的簡単に現金化・国境を越えた資金移転(マネーロンダリング)に使う傾向がある。ただし朗報もある。こうした活動は追跡でき、多くの場合凍結もできる。むしろこの追跡可能性こそが、違法行為に関してはこの決済手段をより安全なものにし得る要因だ。
ステーブルコインの多くはある程度分散型の発行体によって支えられているが、そうした分散型プロバイダーは主に北朝鮮を出所とする巧妙なハッカーの標的になりやすいことが分かっている。法定通貨決済であれば規制当局が一定範囲まで資金を保護してくれるが、ステーブルコインではそうした保護がないケースも多く、投資家の信頼を高めるための対応がますます必要になっている。
犯罪者がこの技術を好む理由は、正当な利用者がこの技術を好む理由と実は同じで、国境を越えて簡単に移動できる、つまり各国の法域や法執行機関の目を逃れやすいという点にある。東南アジア発のロマンス詐欺の多くも、このセッションで語られているのと同じ「新しい技術」「AIエージェントで儲かる」といったレトリックを使っている。対抗するには、コンプライアンスと法執行機関側もこれらの決済システムのスピードと規模に見合う形で自らを引き上げる必要があり、受信取引の自動再スクリーニングや、エージェント型AIをコンプライアンス手続きに組み込むことが欠かせない。
制裁回避の観点では、ステーブルコインの発行体そのものが各国当局から制裁対象になった例もある。カンボジアの大手決済コングロマリットは米国の執行措置を受けた際、「主流のステーブルコイン発行体が資産を凍結しようとしている」として独自のステーブルコインを立ち上げようとしたが、うまくいかなかった。こうした動きに先んじて、あらかじめスクリーニング・ソリューションに組み込んでおくことが重要だ。
補足:Arda氏が言及したカンボジアの決済コングロマリットはHuione Groupとみられる。同社は2024年9月に「凍結不可能」とうたう独自ステーブルコインUSDHを発行したが、米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は2025年、資金洗浄関与の疑いで同社を米金融システムから遮断する規則を確定させた。

断片化する規制とAPACの現在地

規制はEU・米国・アジアの各地域でスピードも重点も大きく異なる。この断片化は普及を後押しするのか、当面この状態が続くのか。モデレーターはまずアルダ氏に見解を求めた。
Arda Akartuna
多くの規制当局と対話しているが、現状は断片化しており、それでも前向きに捉えている。規制当局が強く関心を寄せているのは普及のスピードに歩調を合わせることで、当局同士、あるいは民間セクターとの対話にも前向きだ。新しい技術に対して規制の追随が遅れるのは歴史的にありがちなパターンだが、今回はそのトレンドを断ち切れる可能性がある。受信取引の自動スクリーニングのような機能は、規制側がスピードとグローバルな対応力に追いつくためにも欠かせない。
続けてSeker氏にAPACの規制動向を尋ねた。
SB Seker
規制の方向性は二本立てだ。商品や資産面で強固な基盤を持つ市場は、実物資産のトークン化により強い関心を示す傾向がある。逆に基軸通貨国ではなく、労働力・土地などの資本流入出が多い取引拠点的な性格の国は、ステーブルコイン主導のプロジェクトに開かれた姿勢を示しやすい。自国の通貨制度を囲い込みたい国は国家ステーブルコインの方向に進んでおり、タイ・インド・韓国などがその例だ。
APAC全体で共通するのは決済分野での受容の広がりで、QRコード決済でもカード会社の準備資金にデジタル資産を充てる形でも、概ね一様に受け入れられている。差が出るのは、それを訪外の観光客向けに限定するか、国内決済手段としても認めるかという点だ。取引活動そのものについては現時点でかなり適切かつ均質に規制されており、APACでオーストラリアとインド以外はすでに包括的なライセンス制度に移行済みで、オーストラリアも最近移行した。カンボジア・フィリピン・マレーシア・ベトナムなども完全なライセンス制へ移行しつつあり、Binanceのような中央集権型取引所にとっては望ましい流れだ。
最後にモデレーターはクリスチャン氏に、理想的な規制の姿を尋ねた。
Christian Rau
見たいのは、持続可能なイノベーションを促し、消費者と加盟店の利益を最優先する規制であり、公平な競争環境も重要だ。イノベーションを促す一方で無謀になりすぎず、門戸を広げすぎないバランスが求められる。暗号資産やステーブルコインはそもそもグローバルに展開されるものである以上、各地域の基準を尊重しながらグローバルな相互運用性を高めていく必要がある。マスターカードとしては現地基準への準拠を徹底しつつそのバランスを追求し続けており、その枠組みを前提にすれば規制は非常に前向きなものだと捉えている。

セッション総括

モデレーターのプラナブ・ラストギ氏は最後に、3年後の2029年に同じステージへ戻ってきたとして、ステーブルコインが主流になった最も明確な兆候は何かを、各登壇者にひと言で尋ねた。

「多様なマルチアセット・プラットフォームが増え、一つのプラットフォーム上でWeb2とWeb3の区分がなくなり、その基盤をステーブルコインが完全に支えるようになるだろう。もしその頃までにエージェントがこのカンファレンスの全パスを購入していたら、それは良い指標だ」(Christian Rau氏)

「その過程で詐欺師や北朝鮮のハッカーが入り込んでいなければ、それは望ましいことだ。マスアダプションが『いつ来るのか』と問われ続けている限り、まだそこには到達していない」(SB Seker氏)

「自分の母がステーブルコインを知り、取引に使えるようになったときだ。母は2029年に70歳になる。彼女がステーブルコインとは何かを理解し、実際に使えるようになったとき、大規模な普及が実現したと確信できる」(Arda Akartuna氏)

3人が語ったのは、消費者の目に見える体験そのものよりも「水面下」のインフラ刷新であり、その普及速度を左右するのは規制の追いつき方とコンプライアンスの自動化だという点で、見解は一致していた。

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