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円ステーブルコイン決済の実装期、5社が語る現在地|WebX2026

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WebX2026 セッションレポート

円ステーブルコイン決済の実装期、WebX2026パネル対談レポート

安達源 × 佐藤伸介 × 豊崎亜里紗 × 吉田世博 × 阪根信一

日本でもステーブルコイン決済が実証段階から実装段階へと動き始めている。WebX2026で開催されたセッション「円ステーブルコインの実装期、決済・送金・企業財務はどう変わるか」では、決済インフラ・取引所・カード発行・クロスボーダー送金それぞれの立場から5社が登壇し、発行から実際に使われる段階への移行と、そこに立ちはだかる課題について議論した。モデレーターはトレーダム株式会社代表取締役の阪根信一氏が務めた。

安達 源

安達 源

株式会社ネットスターズ
取締役CFO

シティグループ証券、ゴールドマン・サックス証券で資金調達関連業務に従事したのち、2021年より現職。Web3分野に明るく、ネットスターズの同分野における取組を主導している。

佐藤 伸介

佐藤 伸介

SLASH VISION PTE. LTD.
代表取締役

2023年にSlash Vision Labsを設立。ステーブルコインの社会実装を目指し、USDCを担保としたセルフカストディ対応のVisaカード「Slash Card」を開発。デジタル資産と既存金融の橋渡しに取り組む。

豊崎 亜里紗

豊崎 亜里紗

Binance Japan
代表取締役

米ノースウェスタン大学卒業。UBS証券香港、Google日本法人を経て2022年に分散型金融システムのCegaを創業し2025年に事業売却。Forbes 30 Under 30受賞。

豊崎 亜里紗

吉田 世博

株式会社HashPort
代表取締役

ボストンコンサルティンググループを経て2018年に株式会社HashPortを創業。日本暗号資産ビジネス協会理事も務める。

阪根 信一

阪根 信一

モデレーター
トレーダム株式会社 代表取締役

米国デラウェア大学理学博士。航空宇宙分野からAIロボット、金融工学、ブロックチェーンまで幅広いテクノロジー分野を対象としたシリアルアントレプレナー。2021年よりトレーダム株式会社代表取締役。

各社の決済実績、実証実験から実装へ

セッション冒頭では、各社が手がけるステーブルコイン関連サービスと、現時点での決済規模が共有された。
吉田世博
HashPortはノンカストディアルウォレットの会社で、国内では115万ユーザーを抱えるシェア最大級のウォレット「HashPort Wallet」と、店舗向け決済サービスを展開している。ウォレット経由の月間決済高は現在10億円程度だが、月次で30%以上のペースで増加しており、手ごたえを感じている。
ローソンでの日本円ステーブルコイン決済は実証実験としてスタートし、日本経済新聞にも取り上げられた。今後2〜3年で決済高2,000億円規模を目指す。
豊崎亜里紗
Binance Japanは世界最大の取引量を誇る暗号資産(仮想通貨)取引プラットフォームで、国内では66銘柄、27銘柄の運用商品を展開しており、いずれも国内最多水準にある。過去半年では円建てのビットコイン・イーサリアム取引量も国内最多で、昨年末にはPayPayとの資本業務提携も発表した。
決済分野ではP2P送金や物品・サービス購入に対応するプロダクトを開発しており、QRコード決済の実装・検証も進めている。すでに数百万人規模のユーザーに利用されている。
佐藤伸介
Slash Visionは2021年からクリプト決済領域に取り組み、今年ついにステーブルコインをチャージしてVISA加盟店で使える「Slash Card」の発行を開始した。独自ウォレットの開発に加え、レンディング機能や法人向けウォレットの開発も進めている。
安達源
ネットスターズはQRコード決済を日本に持ち込んだ決済会社で、国内70万拠点、約1万8,000事業者に導入されている。この度、USDC、USDT、JPYCの全銘柄・3チェーンに対応した「ステーブルコインPay」を全加盟店向けにリリースし、実証実験の段階を超えて実装フェーズに入った。
阪根信一
トレーダムは5月22日、日本初とみられるクロスボーダーのステーブルコイン決済サービスを開始した。海外企業がステーブルコインで支払った代金を法定通貨に換え、日本円で銀行口座に着金させるサービスで、日本円での着金という点が高く評価されている。

普及への壁、BtoCとBtoBそれぞれの課題

実績が積み上がる一方、さらなる普及に向けた課題についても議論が及んだ。
吉田世博
BtoBでは、ステーブルコインならではの決済の仕組みを広めること自体が難しい。ローソンのPOSへの決済導入は、KDDIやキャッシュレスペイメント各社と連携して進めた第一歩だ。BtoCでは入手のハードルを下げることが重要で、ウォレット内でJPYCを直接発行できる新機能を追加し、利便性向上を図っている。
豊崎亜里紗
BtoCでは換金・入金動線がバリアになっている。ステーブルコイン決済を使う層はすでに暗号資産を保有・理解している人が多いため、より低い手数料と高い流動性を担保するサービスが鍵になる。BtoBでは決済上限の存在が課題で、上限が撤廃されれば通常2営業日かかる金融商品の取引が即日決済に近づいていくと見ている。
佐藤伸介
ステーブルコインは法定通貨のアップデート版であるにもかかわらず、実際にはまだ普通に使えない状況にある。日本はすでにデジタル決済が広く普及しているため、消費者側に強い不便を感じにくい構造的な課題がある。事業者向けには、クレジットカード決済で通常15日から30日かかる入金サイトを短縮できる点や、中小企業の余剰資金を米ドルステーブルコインで運用すれば銀行預金より高い利回りを得られる点が突破口になり得る。
安達源
そもそも使える場所自体が少ない。決済手数料を引き下げつつポイント還元のような経済的インセンティブを設計することが、キャッシュレス決済がSuicaやQRコードで普及した過程と同様に重要になる。当面は訪日客のドル建て決済ニーズを起点に、円建て決済は段階的に広がっていくと見ている。
阪根信一
クロスボーダーの着金自体は5分から7分と非常に速い。ただし企業に安心して使ってもらうには、AML、CFT、KYC、KYB、KYTといったコンプライアンス体制を十分に整備する必要があり、そこに大きな労力を割いてきた。
補足:AML(資金洗浄対策)、CFT(テロ資金供与対策)、KYC・KYB・KYT(顧客・取引先・取引の確認)は、暗号資産(仮想通貨)・ステーブルコイン事業者に共通して求められるコンプライアンス項目群。

円建てステーブルコインの意義と各社の戦略

世界のステーブルコイン発行量の98〜99%はドル建てとされる中、円建てステーブルコインをめぐる各社の位置づけが語られた。
吉田世博
円ステーブルコインは、儲かるかどうかより通貨主権の観点で重要だ。9月からはClaudeやChatGPT、GeminiといったAIエージェントとHashPort Walletを連携させ、自然言語での入力だけでエージェンティックコマースやクロスボーダー決済を実行できるようにする計画がある。日本円のウォレット・決済インフラが整わなければ、AIエージェント経済の中で円が使われないローカル通貨になりかねないとの危機感を持っている。
豊崎亜里紗
円ステーブルコインはドル円為替という観点で今後ますます重要になる。海外送金にかかる時間とコストを、即時決済によって圧縮できる点が大きな利点だ。PayPayとの協業を通じて円決済領域での事業拡大を見据えている。
佐藤伸介
日本円ステーブルコインは、JPYCやJPYSCに続き各社の経済圏が独自に発行する「戦国時代」的な展開になると見ている。大企業がステーブルコインを発行するのは、発行量に応じた運用収益を得られるためで、ポイント経済圏がステーブルコイン経済圏に置き換わっていく未来を想定している。
安達源
円建てステーブルコインが複数の経済圏から乱立して発行される未来を見据え、決済ゲートウェイとして各発行体をつなぎ、1つの契約で全て使えるようにする立ち位置を確立したい。現状は発行量も決済上限も限定的で、まだ黎明期にあるとの認識だ。
阪根信一
トレーダムへの実際の要望はほとんどがUSDT・USDCでの決済対応だ。収納代行スキームを用いているため上限がなく、大型取引にも対応できる。受け取ったUSDT・USDCをJPYCなどに両替し円で着金させるフローの中で、JPYC・JPYSCの流動性向上に貢献できると考えている。円は法定通貨として世界3位のシェアを持つ通貨であり、その重要性は大きい。

セッション総括

3〜5年後の未来像として、吉田氏は「ステーブルコインという言葉自体がなくなり、既存サービスの裏側に組み込まれていく」との見通しを示し、豊崎氏はオンチェーン金融という大きな潮流の一部として、取引所・決済事業者・国が一体となって前進する期間になると述べた。佐藤氏は円が15年で対ドル価値をほぼ半減させた歴史を踏まえ、外貨をスマートに使いながらも自国通貨の価値が保たれる世界を目指すとし、安達氏は使える場所を増やすための業界全体の連携を呼びかけた。
阪根氏は次の言葉でセッションを締めくくった。
「ついに日本でステーブルコイン決済が大きく動き始めました。今日登壇の皆様がまさにフロンティアだと思いますが、ここにおられる皆様と連携していくことで、この世界は大きく広がっていくものだと思っています」
発行から実際に使われる段階への移行は、決済インフラ・取引所・カード発行・クロスボーダー送金という異なる立場の事業者が連携することで初めて進むことを、今回のセッションは示していた。
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