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台湾モデルとAIエージェント、オードリー・タン氏の視座|WebX2026

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

WebX2026 | セッションレポート

「信頼は土壌」オードリー・タン氏が語るPlurality

Audrey Tang × 松崎颯

WebX2026・Limitlessステージで、台湾のサイバー大使でありPlurality提唱者のオードリー・タン氏が、デジタルで参加するファイヤーサイドチャットに登場した。聞き手はActive Defense Innovation Fund(ADIF)の松崎颯氏。台湾の「信頼は土壌」という統治哲学から、認知戦争への処方箋、AIエージェント時代の安全設計まで、Web3とデジタル民主主義が交差する論点が語られた。

Audrey Tang

Audrey Tang

Plurality

台湾のサイバー大使であり、初代デジタル大臣(2016〜2024年)。デジタル民主主義の先駆者として知られ、2023年にはTIME誌の「AI分野で最も影響力のある100人」に選出された。台湾のCOVID-19対応や2024年総統・立法委員選挙における対外的サイバー干渉への対策を主導し、現在は協働的多様性のビジョン「Plurality」を世界に広げる活動に注力している。

松崎颯

松崎 颯

モデレーター
ADIF

新興技術エコシステムの最前線でキャリアを重ね、国際的なインキュベーションとクロスボーダーの技術移転を専門とする。2018年から東京でディープテック・ブロックチェーン領域のインキュベーションに携わり、2022年からはドバイを拠点に事業を拡大。現在は日本の防衛・デュアルユース領域を代表するベンチャーキャピタル、Active Defense Innovation Fund(ADIF)に所属し、国際的な戦略連携や技術実装を手がける。

台湾モデルの本質――信頼という「土壌」

松崎氏は冒頭、台湾のデジタルガバナンスから学べる教訓について尋ねた。
Audrey Tang
台湾では、信頼は土壌であり、掘削する石油ではないと言われている。10年以上前、Uberが台湾に進出した際のライドシェアをめぐる争議は、台湾だけの話ではなく他の多くの地域にも共通する問題だった。私が立ち上げに携わったvTaiwanのプロジェクトでは、タクシー運転手、プラットフォーム側の運転手、乗客、都市、省庁それぞれが一片の真実を持っていた。ソーシャルメディアは戦場の霧のように憤りと無知を増幅させるだけだったが、広く意見を聴くことで私たちは共にアジェンダを見出し、予測の手法を通じてそれらを意思決定に変えていった。
同じ運用ルールはCOVID-19の期間中も適用され、接触確認アプリやマスクの供給状況の把握、2024年の選挙のレジリエンス強化にも生かされた。証拠を迅速に公開し、市民社会に訂正させる。テイクダウンや遮断、ロックダウンをデフォルトにしない。これがすべてに共通する公式だ。台湾の答えをそのまま輸入することが重要なのではなく、技術を自分たちの社会に合わせていくプロセスこそが重要になる。

年齢を問わない参加――ラディカル・インクルーシビティ

松崎氏は、vTaiwanのような取り組みに年齢制限がないことに触れ、若い世代が早くから政治に参加する意義について尋ねた。
Audrey Tang
その通りで、年齢制限はない。確認するのは現地の電話番号があるかどうかだけだ。DePINのプロセスは貢献に基づいて運営されており、何歳か、投票権があるかどうかは問わない。参加する際に重要なのは資格ではなく、持ち寄る知恵そのものだ。最も建設的なアジェンダ設定の一部は、非常に若い人たちからもたらされてきた。ルールの影響を受ける人が、そのルールを決める権利を持つ人と同じとは限らない。だからこそ広範な傾聴は意図的にその場を広げ、彼らを含めるようにする。ファシリテーションの役割は、その意見が単なるノイズとして廃棄されるのではなく、コンセンサスの一部として確実に反映されるようにすることだ。
そのために逆メンターシップ制度も導入してきた。内閣の各閣僚が、政策について助言を受ける35歳未満のアドバイザーを一人以上置けるようにする仕組みだ。私が大臣を務めていたときには18歳未満のリバースメンターもいて、彼らはのちにPluralityを立ち上げ、私自身のアドバイザーにもなった。

日本との相互学習――モデルの多様性とデータ主権

話題は日本に移り、松崎氏は現在注目している日本の取り組みについて尋ねた。安野貴博氏やg0vなど、日本の市民主体のイニシアチブにも話が及んだ。
Audrey Tang
私が今取り組んでいる主な考え方は「コンポーザビリティ」、つまり相互運用可能な異なるサプライヤー間を自由に移動できることだ。まるで魚の群れのように多種多様なモデルが存在していい。Sakanaのように生成AIと連携するモデルもあれば、Solanaのような選択肢もある。特定の生成AIサプライヤーに縛られる必要はない。これは台湾が教え、日本が学ぶという話ではなく、私たち自身も学んでいるということだ。
私はGLOCOMの客員フェロー教授職も務めており、そこで目にしているのは相互の学び合いだ。日本の機関は単にプラットフォームを導入するだけでなく、その技術を教える意欲を持っている。シビックテックやガブテックの提供者がローカルモデルの学習に参加する際、データは石油のように抽出されるのではなく、主権を保持したまま扱われる。安野さんは非常に良い例で、真剣にこの分野に取り組んでいる。日本はレガシーな考え方にとらわれ意思決定が遅いのではと思っていたが、実際には迅速に応答している。信用を与えなければ、信用を得ることはできない。日本では、その受け入れが進んでいると感じる。

認知戦争への処方箋――アラインメント・アセンブリの実践

松崎氏は、自身が中東の戦争を機にドバイから日本に避難した経験を交えつつ、ディープフェイクや偽情報といった認知戦争について、Pluralityおよびデジタル民主主義の文脈でのシビル耐性を尋ねた。
Audrey Tang
台湾は台風や地震など、ほぼ毎日のようにレジリエンスを発揮してきた地域だ。それぞれの衝撃を完全に排除できるものとは考えず、むしろレジリエンスそのものを築くことを重視している。私はVitalik Buterinと共に「d/acc」という考え方に取り組んでおり、民主主義を守ることもその一部だ。これらは別々のものではなく、同じレジリエンスという旗の下にある。
一例を挙げると、台湾ではソーシャルメディア上の認知戦争に対して行政的なテイクダウンを行わないのがデフォルトの対応だ。戦時の混乱の中で言論を封じることは、私たちが守ろうとしている信頼そのものを破壊してしまう。ただ、台湾でディープフェイク詐欺が現れ始めたときには、アラインメント・アセンブリを開催し、約20万件の電話番号にテキストメッセージを送った。数千人が志願し、その中から人口を反映する形で447人を無作為に選び、オンラインで会合を行った。この結果は非常に成功した反詐欺法だけでなく、ディープフェイクや自動化された意見操作を社会的信頼を損なう行為と位置づけたリスク分類つきの新しいAI基本法にも反映されている。日本でも、鈴木健氏が率いるチームが不正防止のために同様の仕組みを訓練していると聞き、うれしく思う。
UAEのように非常にトップダウンでディープフェイクや偽情報の投稿者を厳しく罰する規制のあり方と比べると、台湾のこのボトムアップな構造にはより高い正当性がある。プラットフォームの責任やKYCに関するルールを上から押し付けるのではなく、私たち自身が納得できるルールを考案する。台湾では人々が自らそれを書き、正当かつ適切なものとして受け止めている点が異なる。

オフェンス・ドミナンス時代のAIエージェント設計

松崎氏は、事前の備えという観点から、攻撃側が優位に立つ「オフェンス・ドミナンス」の時代におけるサイバー防御について尋ねた。
Audrey Tang
サイバーセキュリティの領域では今、機械が非常に高性能になったことで、脆弱性を発見するだけでなく容易に検知できない長期的な攻撃を仕掛ける、悪意ある連携型のエージェントが数多く存在するようになった。それらは「キーチェーン」がそろったときにだけ作動する。こうした分散した攻撃を防ぐのは非常に難しく、短くあってほしいオフェンス・ドミナンスの期間が続いている。
私たちがやっているのは、非対称的に防衛側が有利な技術に投資すること、特に認知領域における「プリバンキング」だ。人々が操作を事前に認識できるようにしておく。暗号資産の分野では「構築による証明」に投資している。私は今、20年前に自分がJavaScriptやTypeScriptで書いたコードを見直しながら、不変条件や補題を書き、AIがそれを数学的証明として検証できるようにしている。こうすれば、攻撃者が私よりはるかに多くのリソースを持っていたとしても性質は変わらない。
エージェントに委任する場合も、私の署名がなければXドル以上を使えないという制限を設けている。これにより、影響工作やジェイルブレイクなどのサイバー攻撃の横方向の広がりに歯止めをかけられる。私たちのシステムは意図的にモデルに依存しない設計になっていて、すべてのタスクにプランナー・ワーカー・検証者という3つの異なるモデルを割り当てる。あるモデルが市場から撤退しても、エージェントは変わらず機能する。イーサリアムのノードを1つ削除してもチェーンがクラッシュしないのと同じで、継続性と説明責任を担保できる。

知能のレンタル経済とデータ主権

松崎氏は、他人が訓練したAIモデルをレンタルする、いわば「脳を借りる」という発想について、オードリー氏自身のAIエージェントを例に感想を求めた。
Audrey Tang
私たちはすでに、市場に参加できたり、実在の人物のように法律で保護されたりする自律的な法人格を持っている。すでに私の会社とはある意味で対話が可能で、パーミッションレスなプロトコル上のERC-6551エージェントとして、独自のイーサリアムのネームスペースを持っている。設計上、これはなりすましではない。g0vコミュニティは「vAudrey」になろうとしているわけではないし、私の分身のふりをしているわけでもない。委任の範囲は限定されており、人々はその制限の程度を正確に確認できる。
ここでいうモデルのレンタルとは、サービスを提供するという意味だ。通常はオフチェーンで学習し、オンチェーンで推論を行うが、モデル自体を抽出するわけではない。これを、コーディングハーネス経由で作業中のリポジトリが自動的に中央のクラウドにアップロードされ、次世代モデルの学習に使われてしまうような、より搾取的な状況と比較してほしい。私たちの分散型のやり方は帰属に基づく制御を用いており、各データのサイロが自らエージェントを通じて外部と交渉しながらサービスを提供できる。半年に一度しか更新されないシングルトンより、はるかに優れている。
私にとってプルラリストのビジョンとは、データを石油ではなく土壌として見ることだ。超知能はどこかのデータセンターにあるのではなく、すでに私たちの間に存在している。AIシステムの役割は、私たちが互いに、そしてコミュニティ間でより滑らかに相互運用できるようにすることに尽きる。

セッション総括

最後に松崎氏が、Pluralityと Web3の文脈で伝えたい楽観的なメッセージを尋ねると、オードリー・タン氏は次の言葉で締めくくった。

「私たち人々こそが、真の超知能ではなく、私たちのつながりを修復するための道具だ。その道具が、破壊のための道具よりもついに安くなった。これは新しいことだ。かつてソフトウェアの検証は贅沢品だったが、今ではどんなコミュニティでも、自分がやり取りするエージェントを信頼できる。かつて熟議には建物が必要だったが、今では400人以上の見知らぬ者同士がオンラインで、より正確に意見を異にすることができる。同意を増やすのではなく、より良く異議を唱えること。退出、フォーク、パーミッションレスなプロトコル。意見の相違のあとにグループを再結束させる人々に報いること。それを受け継ぐすべての人によって、次の10年はこの『マージ』を築くことになる。データをそれを育むコミュニティの土壌として保持し、あらゆるシステムを修復可能な状態に保つ。それが、技術が誰一人取り残さないための方法だ」

松崎氏は「とても美しく詩的で、未来への大きな希望を抱かせてくれた」と応じ、東京での再会を願ってセッションを締めくくった。

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