
イーサリアム(ETH)の基本概要
仮想通貨イーサリアム(ETH)に関する基本概要を解説します。
1-1 イーサリアム(ETH)の特徴
仮想通貨(暗号資産)イーサリアムとは、分散型アプリケーションを構築するためのブロックチェーンプラットフォームです。
同ブロックチェーン上のネイティブ通貨「ETH」は、スマートコントラクトと呼ばれるプログラムの自動執行を行うための手数料(GAS)などの用途で使用されています。
イーサリアムプラットフォームを使用することで、任意のプロジェクトは分散型アプリケーションの構築とERC20と呼ばれる独自トークンの発行を簡単に行うことができ、2020年07月時点でおよそ270,000個ものトークンが発行されています。
1-2 ETHの発行用途
ETHの発行用途は、以下の通りです。(2020年07月時点)
取引手数料の支払い用途 | 取引手数料の支払いとして一般的に使用され、取引先によって手数料金額は異なる |
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スマートコントラクトを履行するための手数料用途 | イーサリアムプラットフォーム上でスマートコントラクトの履行を行うために使用される |
1-3 コンセンサスアルゴリズムの概要
2014年にイーサリアムが始動して以来、コンセンサスアルゴリズムにはProof of Work(以下、PoW)が採用されています。
PoWとは、必要なハードウェア要件やネットワーク要件を満たす”マイナー”が、ユーザー間の取引情報(送信者、受信者、金額を含む)を1つのブロックに格納し、ブロックチェーン上に記録する承認作業(マイニング)です。
イーサリアムが採用をしているPoWでは、1ブロックのマイニングに約13秒を要しており、1秒あたり12件の取引情報を処理することができます(2020年07月時点)。
これはVISAの取引処理速度が1秒あたり最大56,000件とされることから、イーサリアムの処理速度に大きな課題があることが分かります。
上記のような処理速度の問題を解決するために、イーサリアムは「イーサリアム2.0」の開発を行なっています。イーサリアム2.0はフェーズ0からフェーズ6までの開発フェーズに分けられており、最終的にコンセンサスアルゴリズムをProof of Stake(以下、PoS)に変更することで、約1,800倍以上の処理能力の向上を目指します。
2020年11月頃に移行が予定されているフェーズ0では、完全なPoSへは移行せず、PoWを採用する「ETH1.x(メインチェーン)」とPoSを採用する「ビーコンチェーン」のハイブリッド型コンセンサスアルゴリズムが実装されます(ハードフォークは発生しません)。
メインチェーンでは従来通りブロックの生成とスマートコントラクトが履行され、ビーコンチェーンでは生成されたブロックの承認が行われます。ビーコンチェーンのブロック承認者である”バリデーター”になるための条件として、32ETHのステーク(スマートコントラクトへロックアップ)とネットワーク要件を満たす必要があります。
イーサリアムのデータ分析プラットフォームであるETH 2 Calculatorによると、32ETH(約840,000円)をステークすることで、年間14.2%(約120,000円)の利回りが見込まれています(2020年07月時点。これは他のPoSを採用しているプロジェクトと比較して、非常に高い利回りのため、多くの投資家に対して購入需要を喚起する可能性が考えられます。
関連:イーサリアムのステーキングは高利回り?株式配当と比較したリスク・リターンを独自考察
1-4 ローンチ(資金調達)時期
トークンセール開始日 | 2014年07月23日 |
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トークンセール終了日 | 2014年09月03日 |
調達額 | 約19億円($18,338,053)当初1ドル/103円 |
過去の事件
■The DAO事件(2016年06月17日)
「The DAO」は、2016年05月に資金調達を目的としてイーサリアムブロックチェーン上でThe DAOトークンを発行しました。その結果、日本円で約150億円の調達に成功したものの、スマートコントラクトを利用したスプリット機能の脆弱性をついたハッキングによって、約65億円が盗難されるという事件が発生しました。
しかし、イーサリアムのスマートコントラクトには、送金後27日間は資金を使用できない預託期間が設定されています。この期間にハッキング以前のイーサリアムブロックチェーンを複製し、ロールバックを目的としたハードフォークを行うことで、ハッキングによる送金処理自体を白紙にしました。
この対応にコミュニティは、イーサリアムが目指すDAOに反していると反発するユーザーによって、ハードフォーク前のイーサリアムを支持するコミュニティとハードフォーク後のイーサリアムを支持するコミュニティに別れた結果、イーサリアムとイーサリアムクラシック(ETC)の分裂が発生しました。
DAO:「Decentralized Autonomous Organization」の略称で、管理者を置かなくても自律的に機能し、物事が成立する組織のことです。
■Parityウォレットの凍結(2017年11月)
「Kill」と呼ばれる危険なパッチコードが、スマートコントラクト上で誤って履行されたことによって、イーサリアムのクライアントウォレットであるParityウォレット内の資金が凍結されました。
セキュリティにおける重大な脆弱性によって凍結された資金の総額は、約170億円に上ります。ハッキング等による盗難被害ではないものの、この問題の対応をどうするかコミュニティ内で盛んに論議が行われています。
■BatchOverFlow問題(2018年04月)
スマートコントラクトに実装された「batchTransfer」と呼ばれる関数を使用しているイーサリアムブロックチェーン上のERC20トークンに影響がある脆弱性です。脆弱性の対象となるトークンは、スマートコントラクトを利用することでトークンを新規発行することができ、ユーザーのウォレットに送金できてしまうというものでした。
その結果、対象プロジェクトは緊急ロールバックや入出金の停止対応などを行いました。また、脆弱性に対する解決アプローチも明確にされています。
ロードマップの概要
2016年11月22日イーサリアム2.0に向けて開発フェーズを7段階に分けています。 各開発フェーズにおける実装機能は以下の通りです。
■フェーズ0:シャーディング未実装のビーコンチェーン
PoWとPoSのハイブリッド式コンセンサスアルゴリズムの総称であるCasper FFGを用いた、PoSビーコンチェーンが実装されます。フェーズ0の段階では、シャードチェーンの実装はされず、ビーコンチェーンのみが実装予定です。ビーコンチェーンでは、ブロックの承認を行うバリデータは、ランダム性を担保するRANDAOを利用した乱数生成器(RNG)によって選出され、組織化が行われます。
また、メインチェーンとビーコンチェーンの連携を目的にクロスリンクの実装が行われます。
*シャーディング:トランザクションの検証作業をバリデーターのグループ毎に分け、並列して取引情報を処理する技術です。並列処理によって検証作業を効率化することで、イーサリアムの処理能力に関する課題(スケーラビリティ問題)を解決することができます。また、シャーディングによって取引情報を効率的に処理するチェーンを「シャードチェーン」と呼びます。
■フェーズ1:EVM未実装のシャーディング
イーサリアムの処理能力の効率化を図るシャーディングが実装されます。シャーディングの実装要件は、1,024で構成される各シャードに対して、それぞれ128ものバリデータの参加が必要です。つまり、ネットワーク上に4,194,304 ETH(約1,100億円)がステークされて初めてシャーディングが実装されることになります(2020年07月時点)。
実装段階では、イーサリアムの構成要素の1つでスマートコントラクトを履行するためのチューリング完全マシンであるEVMの実装はされないため、スマートコントラクトの履行は、フェーズ0に引き続きETH1.xであるメインチェーンで処理されます。
■フェーズ2:eWASMの実装
Ethereum flavored WebAssembly(eWASM)と呼ばれる仮想マシンが実装されます。
従来、EVMを実行するためにはSolidityなどの高級言語で記載されたコードを使用する必要があり、低級言語と比較して馴染みにくいという側面がありました。そこで、開発者にとってEVMをより使いやすく、複数の言語からコンパイルすることができるようにeWASMが開発されています。開発者にとって馴染み深い、低級言語を使用した開発は、参入障壁を大幅に下げることに貢献すると考えられます。
また、eWASMの実装によってシャードチェーン上でスマートコントラクトを履行することができます。
■フェーズ3:ライトクライアントの実装
シャーディング上で検証ノードとしての役割を持つExecutorsの実装考案、ライトクライアントの実装が考案されています。
フェーズ3以降は未確定要素が多く、日々議論が行われています。
■フェーズ4:クロスシャード・トランザクション
クロスシャード・トランザクションとはシャード間の相互運用性を高めるために実装する必要が議論が行われています。
■フェーズ5:メインチェーンとの統合
データ可用性問題、内部フォークフリー・シャーディング、マネジャーシャードについて議論が行われています。
■フェーズ6:指数関数的シャーディング
再帰的シャード、負荷分散について議論が行われています。
■イーサリアム3.0
次世代のコンセンサスアルゴリズムとしてのポテンシャルを秘めたCasper CBCの導入、量子耐性のあるzk-STARKs、他のシャードの照合頻度に影響を与えず、処理可能な取引情報を増加させることができるヘトロジーニアス・シャーディング、シャーディングを超えるポテンシャルを秘めた他のアイデアについて議論が行われています。
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