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Aptos、Sui、Linera—注目のDiem(旧Libra)系L1チェーンを比較|前編 今後注目の新ブロックチェーンを比較

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

開発が加速するDiem後継チェーン

ブロックチェーン業界には現在、ビットコインやイーサリアム、ソラナやアバランチを初め、無数のレイヤー1(L1)プロジェクトが存在しています。このような群雄割拠の時代においてもなお、異なる特徴や利点を持った新興L1チェーンが次から次へと誕生しており、その技術は日々進化しています。

数ある新興チェーンの中でも22年現在、特に話題に上がっているプロジェクトが、Aptos、SuiおよびLineraを含む、いわゆるディエム系L1チェーンです。これらプロジェクトは、Meta(旧Facebook)が開発していたディエム(旧リブラ)に携わっていたエンジニア達が創始したプロジェクトであり、ディエムの特徴を多数引き継いでいます。そのため、既存のL1とは性能や言語、メカニズムなどが異なっており、現存するブロックチェーンの課題に、他のL1チェーンとは異なる角度から取り組んでいます。

また投資家からの注目も大きく、a16zやFTX、コインベース・ベンチャーズなど大手投資会社がこぞって、これらプロジェクトの資金調達に参加しています。

本記事では、ディエム系チェーンの代表格、Aptos、SuiおよびLineraの機能や特徴を、その他のL1チェーンとも比較しながら解説していきます。

注目L1チェーンのルーツ—ディエムとは

Aptos、SuiおよびLineraは全て、ディエムおよびディエム対応ウォレット「Novi」の元開発者により創始されたプロジェクトです。

ディエム(Diem)とは、Meta(当時はFacebook)が開発を主導していたブロックチェーンプロジェクトであり、既存のシステムに代わる、誰でも利用可能な新しい決済ネットワーク、および金融インフラ提供を目的としていました。17年頃からリサーチが開始され、19年にホワイトペーパーが公開されています。当初はリブラ(Libra)と呼ばれており、複数の資産に裏付けられた、世界中で利用可能なステーブルコインとして開発が予定されていましたが、規制面での障害に直面したMetaは、方向転換を試み、20年には担保を米ドルのみにし、名称を「ディエム」へと変更しています。

しかしリブランディング後もディエムがローンチされることはなく、最終的には22年2月に銀行などを運営する米シルバーゲート・キャピタル社へ、ディエムに関する知的財産権が全て売却され、Metaとしてのディエム開発は断念されました。

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特徴と共通点

Aptos、SuiおよびLineraの三つのプロジェクトは、その起源が同じであるため、以下のように、似たような特徴をいくつか共有しています。

Move言語

ディエムの仕様を引き継いでいるブロックチェーンの多くでは、スマートコントラクトのコード記述に、「Move」と呼ばれる言語またはMoveの流れを汲む言語が利用されています。MoveもディエムやNoviと同様にMetaで開発されていた技術です。

22年現在、最も広く利用されているスマートコントラクト用の言語は、ポルカドットの創始者としても知られているGavin Wood氏が考案した「Solidity」と呼ばれる言語です。イーサリアムを初め、EVM(イーサリアム仮想マシン)と互換性のあるプラットフォーム(例:アバランチ、バイナンススマートチェーン等)で主に利用されており、開発者コミュニティが大きく柔軟性が高いという利点があります。

しかしその柔軟性の高さ故に、コードに脆弱性があった際にセキュリティが弱くなるという欠点も持っています。有名な「The DAO事件」もSolidityコードにあったバグが原因となっています。

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一方で安全性に重きを置いているMoveでは、Solidityでは可能な機能を一部制限し、トークン情報やスマートコントラクトをリソース(プログラムが使用するデータ)として保存することにより、資産の複製や紛失が発生しないような設計を、言語の中に直接組み込んでいます。つまりこれにより、二重支払(同じトークンを不正に二度送信すること)や所有権の重複というバグが、言語レベルで阻止されています。

並列処理によるスケーラビリティ向上

二つ目の共通点は、Aptos、SuiおよびLineraは全て、スケーラビリティ向上、とりわけトランザクションの並行処理によるスケーラビリティ向上に注力しているという点です。スケーラビリティとは、ネットワークの規模(ユーザー数、トランザクション数およびdApp数など)が拡大しても適切に機能する能力を指しています。

スケーラビリティの改善は、ブロックチェーン技術の大衆への普及に向け、ディエム系チェーンだけでなくどのプロジェクトも取り組んでいる課題であり、その改善方法はいくつか存在しています。例えばイーサリアムでは、シャードチェーンを追加することによりチェーンを複数に分割したり、ロールアップ技術を導入しすることによりイーサリアムのセキュリティを損なわずに処理能力を上げるなど、基本的にはネットワークを拡張させることにより、スケーラビリティの拡大に挑戦しています。

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一方でAptos、SuiおよびLineraでは、ノードの能力を最大限に活用し、トランザクションの並行処理を可能にすることによりこの問題に取り組んでいます。「トランザクションの並行処理」とは、字の通り、複数のトランザクションを同時並行的に処理することを意味しています。一つずつ順番ではなく、同時に何個もトランザクションを実行することにより、1秒間に実行できるトランザクション数を増やそうという考え方です。これは、ディエム系チェーンに限った概念ではなく、例えば、ソラナも「Sealevel」というエンジンを使用して、似たような取り組みを行っています。

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ディエム系チェーンとは反対に、EVMを採用しているチェーンでは、トランザクションは一つずつ順々に実行されます。つまり、トランザクション①、トランザクション②、トランザクション③という別々のトランザクションが3つあった場合、①が終わるまで②および③のトランザクションは実行されません。そして②が終わったら③のように続きます。

このルールは、実行したいトランザクションが互いに全く関係なかった場合でも変わりません。要するに、例えば「AさんからBさんへ1ETHの送金」と「CさんからDさんへの1ETHの送金」という、全く関連性のない二つのトランザクションを実行しなければいけない場合でも、まずは「AさんからBさんへ1ETHの送金」または「CさんからDさんへの1ETHの送金」のどちらかを最初に実行し、それが終わり次第、もう一つのトランザクションを実行しなければなりません。

このような順次的なトランザクション実行モデルには、フラッシュローン(同一のトランザクション内で借入と返却の両方を行う取引)などのユースケースを可能にする、ハードウェア要件が低いため分散性が促進される、および並列処理と比較して開発が簡単という利点もありますが、複数あるコアを活用できていないという点から、非常に非効率的です。

トランザクションとは

トランザクションとは、ブロックチェーン上の取引記録のこと。

仮想通貨用語集

コアとは、文字通り、コンピュータの処理における「中核」部分であり、複数コア内蔵のCPUを搭載している(=マルチコア)コンピュータは、コアの数の分だけ、複数の処理を同時かつ並列で実行できます。上述のEVMのように単一のトランザクションを順次的に行うチェーンでは、ネットワーク内にマルチコアの性能の高いコンピュータが参加していたとしても、そもそもの仕組み上、そのチェーンで一度に処理できるトランザクション数は一つであるため、ハードウェアの性能を最大限まで活用できていません。

反対に、マルチコア性能を最大限まで活用しようとしているAptos、SuiおよびLineraでは、理論上は、ハードウェアの処理能力が向上すれば、その分だけネットワーク全体の処理能力も向上すると言うことができます。これには、現実的にはどれほど効果的であるか現時点では不明であるという課題や、分散性が損なわれてしまうのではないかという懸念もありますが、Aptos、SuiおよびLineraでは、それぞれ異なる方法でトランザクションの並列処理メカニズムを構築し(下記参照)、効率性およびスケーラビリティを追求しています。

22年9月現在はテストネットしか稼働していないものの、Aptosで1秒間に処理できるトランザクション数(TPS; Transactions per Second)は、約1,000だと言われています。TPSが12〜15のイーサリアムや平均7のビットコインと比較しても、これは非常に大きい数ですが、Aptos開発チームは、32コアのコンピュータを用いた場合、最大で16万TPSにも達すると述べています。Suiも7月にテストネットのローンチを発表したばかりですが、創設者によると、そのTPSは最大で12万以上になると言います。(推定値であり、実際の数字はこれとは異なる場合があります。

既存L1のTPSは、イーサリアムが12〜15、ビットコインが7、ソラナが平均3,000と言われているので、これらと比較しても非常に大きな数字であることが分かります。

PoSチェーン

Aptos、SuiおよびLineraは全て、PoS(Proof-of-Stake)をコンセンサス・メカニズムの一部として採用しています。Merge後のイーサリアムやアバランチなど多数のチェーンで採用されているPoSでは、プロトコルにステークした(預けた)額に応じて、誰がトランザクションを処理し、ブロックを生成するかが決定されます。

関連:仮想通貨のPoS(プルーフ・オブ・ステーク)とは|PoWとの違いとメリットを解説

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これら三つのプロジェクトは全てこの仕組みを採用しているため、「どのようにトランザクション実行者を決定するか」の部分に大きな差は見られませんが、トランザクションが実行された後の「実行されたトランザクションが正当であると誰がどのように決定し、どのようにしてネットワークの総意を形成するのか」という段階が、それぞれ大きく異なっています(それぞれの章を参照)。

大手投資家からの資金調達

機能面以外では、三プロジェクト共に、a16zやFTXなどといった大手投資企業から資金を調達しているという共通点を有しています。

Aptos

合計調達額:3億5,000万ドル(約500億円)以上

参加投資家:a16z、Tiger Global、Katie Haun、 Multicoin Capital、 3 Arrows Capital、 FTXベンチャーズ、コインベースベンチャーズ、Paypalベンチャーズ、バイナンスラボ、Jump Crypto、Griffin Gaming Partners、Franklin Templeton、Circle Ventures、Superscrypt他

関連:Diem系ブロックチェーンAptos、FTXなどから200億円調達

Sui

合計調達額:3億3,600万ドル(約480億円)

参加投資家:a16z、FTX、コインベースベンチャーズ、バイナンスラボ、Apollo、NFX、 Slow Ventures、 Scribble Ventures、 Samsung NEXT、 Lux Capital、Sino Global Capital、Jump Crypto他

関連:Suiブロックチェーン開発企業、FTXや電通ベンチャーズから430億円調達

Linera

シードラウンド調達額:600万ドル(約8億6,000万円)

参加投資家:a16z、Cygni Capital、Kima Ventures、Tribe Capital他

関連:メタ出身者創設のブロックチェーン「Linera」、a16z主導で8億円を調達

 

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