CoinPostで今最も読まれています

新イーサリアムへのアップグレード、背景や改善点を解説

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

イーサリアムの大幅アップグレード

2015年のローンチ以降ブロックチェーン技術の最先端を走ってきたイーサリアム・ブロックチェーンは、22年現在、イーサリアム史上最大のアップグレードの真っ只中にあります。イーサリアムは、ビットコインに次ぐ第二の規模を誇るブロックチェーンとして多くのアプリケーションやユーザーを抱えていますが、その一方で、その人気により、ネットワークの混雑や環境問題など多くの課題も露呈してきました。

イーサリアムの開発を手掛けるイーサリアム財団は、このような課題に対処するために、かねてから大規模なアップグレードの準備を進めてきました。2022年に入り、このアップグレードの詳細が徐々に明かされ、スケジュールもより現実的なものになってきています。

本記事では、これから数年かけて実行されると言われている新イーサリアムへのアップグレードについて、開発に至るまでの背景やユーザーのメリットなどについて、詳細に解説していきます。

新イーサリアム以前に、現在のイーサリアムの概要を知りたい方は、こちらをご覧ください。

基本概要

開発背景

今回のアップグレードで何が行われるのか、そしてそれによりどのようなメリットがユーザーにもたらされるのかについて語るには、そもそもなぜアップグレードが必要なのかを理解しなければなりません。

イーサリアムは、ビットコインの仕組みやPoW(Proof-of-Work)アルゴリズムを活用し、開発者ヴィタリック・ブテリン氏によって2015年にローンチされました。主に送金のみを目的に開発されたビットコインとは異なり、貸付や通貨発行などを含む金融システムからガバナンスシステムに至るまで、あらゆることを分散的に行うことができる汎用なスーパーコンピュータとして位置付けられています。

イーサリアムの発明により、分散型金融(DeFi)システムやNFT(非代替性トークン)など様々な革新的なサービスの開発が可能になり、イーサリアム、ひいてはブロックチェーン全体が大衆に少しずつ認知されるようになってきました。その一方で、このような急激な需要増加により、いくつかの問題点が浮き上がってきたのも事実です。イーサリアム開発者やコミュニティの努力により改善してきた面も多数ありますが、現在のイーサリアムには、大きく分けて以下の2つの課題があると言われています。

ネットワーク混雑

20年夏のDeFi好況や21年のNFTブームの舞台となったイーサリアムでは、ユーザー数およびトランザクション数が急増しました。その結果、トランザクションが遅延しガス代が高騰するなど、一般ユーザーの利用が現実的ではなくなってしまうほどにネットワークが混雑しました。イーサリアムでは、1秒間に最大15トランザクションを処理できると言われていますが、これではワールドコンピューターとして世界中のユーザーを繋げるには十分ではありません(参考:Visaは1秒間に1,500〜2,000txを処理)。

分散型のネットワークでは、トランザクション数の増加に対応するためにハードウェアの要件を引き上げてしまうと、ノード数が必然的に減少し集権化が進んでしまうため、単純に各ノードの処理能力を上げるのではなく、他の方法で混雑を解消する必要があります。

関連:ヴィタリック氏、イーサリアムのスケーリングソリューション「EIP4844」を紹介

関連:ヴィタリック氏、イーサリアムガス代の改善案を提案

エネルギー消費過多

イーサリアムやビットコインを初めとする分散型台帳技術では、単一の組織やユーザーに依存しない方法でトランザクションを記録しなければいけません。記録を受け持つ集権的な組織が存在していないため、「誰がトランザクションを記録するのか」「どうやって記録されたトランザクションを承認するのか」などのルールを決め、このルールに従って参加者同士がトランザクションを承認および記録する必要があります。

この「誰がトランザクションを記録するのか」「どうやって記録されたトランザクションを承認するのか」などを決めたルールを「アルゴリズム」と呼びます。現在のイーサリアムは、アルゴリズムとしてPoW(Proof-of-Work)を採用しています。

PoWでは、マイナーに対して計算問題が提示されます。この計算問題を一番最初に解いたマイナーがトランザクションをブロックに書き込み、その報酬としてビットコインならBTCを、イーサリアムならETHを獲得できます。しかし、この方法にはコンピュータが消費するエネルギーが莫大で、環境に良くないという欠点があります。

関連:米議会、ビットコイン採掘の環境問題で公聴会を予定か

関連:米環境団体、ビットコインのPoS移行推奨キャンペーン開始

アップグレード概要

以上を含む課題を解消できるよう、イーサリアムの開発を手がけるイーサリアム財団は、一連のアップグレードを提案しています。このアップグレードは大規模であるため、一度に全てを行うのではなく、以下の5つの段階で構成されています。

  • The Merge:PoS(Proof-of-Stake)への移行(〜2022 Q3)
  • The Surge:シャーディングの実装によるスケーラビリティの向上(2023年内)
  • The Verge:データ保存方法をマークルツリーからVerkleツリーに移行することにより、トランザクション検証方法を効率化
  • The Purge:チェーン上の古いデータを「消去」することにより、ハードウェア要件が引き下げ分散化を促進。ネットワークの処理容量も引き下がる
  • The Splurge:その他アップグレードの完了に必要な雑務

イーサリアムの創設者ヴィタリック氏曰く、これら5つのステップは全て並行して同時に開発が進められていますが、その中でもThe Mergeが最も早く実行される予定だそうです(22年Q3〜Q4予定)。

関連:ヴィタリック氏「イーサリアムの開発の進捗状況は50%」

関連:イーサリアム新旧チェーンの統合を優先するメリットは?ブテリン氏らが見解

改善内容

以上の5つのステップの中でも、特にThe MergeおよびThe Surgeでのアップグレードにより、上記の課題が解決され、それによりユーザーは以下のようなメリットを享受できると考えられています。

環境配慮

アップグレードの第一弾「The Merge」では、PoSへの移行が計画されています。PoSとは、PoWに代わるコンセンサス・アルゴリズムで、計算問題を解いてブロックを作成する代わりに、資金をプロトコルにステークし、そのステーク額に応じて宝くじ方式でブロック作成権が決定する仕組みです。

PoSはPoWとは異なり、ブロック作成の際に大量の電力を消費して計算問題を解く必要がないため、CO2排出量が削減されます。イーサリアム財団によると、この移行により99%以上のエネルギーを節約できるそうです。

PoSについては、詳しくはこちらをご覧ください。

関連:仮想通貨のPoS(プルーフ・オブ・ステーク)とは|PoWとの違いとメリットを解説

スケーラビリティ

The Mergeの後、2023年以内に実現予定のThe Surge段階では、シャーディングという技術が導入され、それによりスケーラビリティが格段に改善すると言われています。

「シャーディング」とは、イーサリアムの文脈においては、「ネットワークを『シャードチェーン』と呼ばれる複数のチェーンに分けることにより、トランザクション検証作業の負荷を軽減させる技術」を指しています。旧イーサリアムでは、単一のチェーンで全てのトランザクションを処理しています。しかしこれでは、1秒間に処理できるトランザクション数には限りがあるため、ネットワークが活発になるに従い、トランザクションの遅延が度々見られていました。

このような課題に対処するために、新イーサリアムでは、単一のチェーンというこれまでの設計に大きな変化を加え、一本のメインチェーンおよび64本のシャードチェーンという構造が導入されます。これにより、これまでは1つのチェーンでのみ受け持っていたトランザクションを、この64本のシャードチェーンに分散させ、64本全てで同時並行的に処理できるようになります。

シャードチェーンの考え方はしばしば、チェーンを道路に、トランザクションを車に例えて語られています。道路(=チェーン)が一本しかない場合、その道路を通りたい車(=トランザクション)の数が増加すると必然的にそこに渋滞が発生してしまいます。しかし、その混雑した道路に並行した道路が64本建設されたとすると、単純計算で渋滞は64分の1に減少します。新イーサリアムもこれと同じで、シャードチェーンの導入により、トランザクションを並行して処理できるようにし、混雑解消を目指しています。

シャードチェーンをロールアップ技術と組み合わせることにより、最大で現在の約1,000倍である10万トランザクションを1秒間に処理できるようになるとも言われています。

関連:スケーリング問題の打開策「ロールアップ」とは|仕組みや注目点を詳しく解説

セキュリティ

The MergeでのPoSおよびThe Surgeでのシャーディング導入により、イーサリアムのセキュリティが強化されると言われています。

PoW対PoSのセキュリティに関する議論では未だ明確な答えは出ていませんが、PoSの方が51%攻撃の耐性があると言われています。51%攻撃とは、悪意のある行為者(達)が、ネットワーク内のノードの51%以上を支配することにより、自分達の都合の良いようにトランザクションを改ざんする行為を指しています。

PoSでこれを実行しようとすると、攻撃者はステークされているETH総額の51%以上を保有しなければなりません。これは数兆円規模の非常に膨大な額であり、PoWでマイニングパワーの51%以上を支配するよりもコストがかかると言われています。

それだけでなく、そのような不正を行ってしまうと、ETHの価値が低下してしまうため、攻撃者が持っていた数兆円規模の価値が目減りし、結果として攻撃者の利益にならない可能性が高くなります。要するにPoWと比較し、攻撃コストもリスクも高いことになります。

またThe Surgeでシャーディングが導入されると、バリデータは旧イーサリアムのようにネットワーク全体のデータではなく、自身が検証しているシャードチェーンのデータのみ維持すれば良いようになります。これにより、ハードウェア要件が引き下げられるためノード運営の敷居が低くなり、必然的にノード数が増加し、結果として分散化が今よりも促進されると言われています。執筆時点でイーサリアムのノード数は2,980ほどですが、シャードチェーンが導入されると、最低でも16,384のノードが必要になります。

ノード数が増加し分散化が促進するということは、51%攻撃などを仕掛ける際により多くの資本が必要になるため、セキュリティがより強化されることを意味しています。

関連:仮想通貨イーサリアム、Ropstenテストネットで「The Merge」実行へ

注目・速報 相場分析 動画解説 新着一覧
04/02 日曜日
11:30
XRP筆頭に堅調のアルトコイン、BTCも引き続き強気か|bitbankアナリスト寄稿
国内大手取引所bitbankのアナリストが、底堅い推移見せた今週のビットコインチャートを図解し今後の展望を読み解く。ビットコイン・オンチェーンデータも掲載。
11:00
週刊ニュース|金融庁のパブリックコメントの回答に注目集まる
今週は、金融庁が、NFTの仮想通貨該当性などを訊ねるパブリックコメントに回答したニュースが最も多く読まれた。このほか、マイクロストラテジーがビットコインを買い増ししたことなど、一週間分の情報をお届けする。
04/01 土曜日
17:20
米アマゾン、NFTサービスの開発は最終段階か
eコマース大手米アマゾンが密かに準備していると噂されるNFTマーケットプレイスについて、開発が最終段階に入ったと報じられている。アマゾンはBeepleやPudgy Penguinsといった人気NFTコレクションと提携しているという。
13:00
アービトラム財団の設立投票で反対の声
アービトラムの仮想通貨ARBのエアドロップを経て、分散型自律組織を管理する組織「アービトラム財団」設立に向けた提案の投票が開始された。予算配分や管理体制に不透明な点があると反対の声も上がる中、87%の賛成票を集めている。
12:00
ロシア下院副議長「露中印が新たな共通通貨システムを開発すべき」
ロシアのアレクサンドル・ババコフ下院副議長は、インド、ロシア、中国は、新しい共通通貨の下に新たな金融関係を構築すべきだと述べた。米ドルやユーロの覇権に対抗する格好だ。
12:00
アニモカ傘下のゲーム制作企業Darewiseとは|Life Beyondのエコシステムも紹介
Darewiseはアニモカブランズ傘下のゲーム制作会社です。「Life Beyond」はDarewiseが開発中のMMOであり、ユーザーは「Dolos」と呼ばれる惑星でエイリアンと戦い、社会生活を営むことができます。遊びながら稼ぐP2Eも可能となる予定です。
11:00
イタリア当局がChatGPTをブロック
イタリアのデータ保護当局がAI言語モデル「ChatGPT」に対し、EUの一般データ保護規則違反の疑いがあるとして一時的に制限を課したことがわかった。開発企業米OpenAI社は一部有料ユーザーのクレジットカード番号(下4桁)や住所などの個人情報が漏洩したことを認めていた。
10:15
仮想通貨取引所Bittrex、米国での事業を閉鎖へ
仮想通貨取引所Bittrexは、米国の事業を4月30日に閉鎖すると発表した。規制の不透明さを主な理由として挙げている。なお、グローバル版の事業は通常通り続ける。
09:30
米政府、計1,560億円相当のBTCを23年中に売却予定
米政府は、ダークウェブ「シルクロード」に関連する捜査で押収した仮想通貨ビットコインについて、2023年に4回に分けて合計1,560億円相当を売却する予定であることがわかった。
09:00
「GM Radio」 次回は仮想通貨送金の効率化を目指す「Superfluid」らが参加
グローバル版CoinPostによる第18回GM Radioは、4月3日の21:00からツイッタースペースで配信予定。ゲストに仮想通貨プロトコルを開発するConnextとSuperfluidを招待する。
08:20
ナスダック・AI関連株大幅上昇 米インフレ鈍化を好感
本日のNYダウは続伸し+415ドルで取引を終えた。ナスダックやS&P500もインフレ鈍化の継続を示す指標を受けて続伸した。AI関連株は大幅上昇を見せた。
03/31 金曜日
17:01
ETHGlobal Tokyo、世界的ハッカソンイベントを東京で開催へ
ETHGlobal Tokyoという世界的ハッカソンイベントが、東京で開催されます。ハッカソンとは、エンジニアやプログラマーが集結し、短期間でプロダクトを開発するイベントのこと。ETHGlobal TokyoではWeb3市場の知識を持たない開発者でも楽しめるような取り組みも充実しています。
16:34
DEA、国内電力大手の合弁会社とMOU締結
NFTゲーム開発・運用を展開するDEAは、「電力アセットNFT」を活用した社会貢献ゲームを検討する目的でGGG社とMoUを締結したことを発表した。GGGは東京電力パワーグリッドや中部電力等の合弁会社。電力アセットNFTは4月3日に発売予定。
16:32
ネクソン、「Oasys」バリデータに参画 
国内発のゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」のバリデータとして、大手ゲーム開発企業のネクソンが参加することが明らかになった。Oasysは第二群バリデーターとして計4社を追加予定。KDDI、ソフトバンクの参画がこれまでに発表されており、残り1社の公開が期待される。
15:04
加納裕三氏、仮想通貨取引所bitFlyerの社長復帰へ
国内有数の暗号資産(仮想通貨)取引所bitFlyer創業者の加納裕三氏が代表取締役CEOに復帰することが発表された。今後は経営改革を加速し、株式市場での新規株式公開(IPO)を目指す。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア