2つのチェーン統合を優先する可能性
分散型金融(DeFi)市場が急速に拡大する中、その主要な基盤である暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)の開発動向に、より多くの関心が集まっている。
直近ではDeFiの急成長に伴い高騰が問題視されていた、イーサリアムの手数料(ガス代)システムの改善案「EIP1559」の実装が決定され、ユーザーやイーサリアムベースのアプリ開発者から歓迎の声で迎えられた。
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そして、次なる大きな展開として注目されるのが、大型アップグレード「ETH 2.0」のロードマップで「フェーズ1.5」として、「フェーズ1:シャードチェーンの実装」の後に記されていたマージ(Merge)、つまりETH1.0とETH2.0という新旧チェーンの互換性を高める統合だ。この時点で、合意形成アルゴリズムがPoWからPoSへと移行することになる。
ETH 2.0の核となるビーコン・チェーンは昨年12月1日にローンチに成功。その数日後、最新ロードマップが公開された。その際に、イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏は、「フェーズ(段階)」の順序に沿って時系列で開発を進めていくのではなく、各作業を独立させて並行して開発する方針を明らかにしていた。
統合を優先させる利点
米国最大のオンライン掲示板「Reddit」のイーサリアム掲示板で、「なぜ統合がデータ・シャーディングより優先されるべきなのか」という意見がユーザー「u/Always_Question」により投稿された。「u/Always_Question」が主張する利点は次の3点に要約できる。
- 手数料システム改善案「EIP1559」が意図した効果を阻止しようと画策する、マイナーグループに対する牽制
- バリデータにロックされていたイーサリアムに即時に流動性をもたらす
- 技術的にデータシャーディングより複雑ではないが、ネットワークに大きな影響を与える
この投稿に対し、ブテリン氏並びにETH 2.0のコア開発者Danny Ryan氏は、概ね賛成だと返答している。
ブテリン氏自身の投稿
さらに、Redditの「EIP1559の次の大きなEIP(改善提案)/展開は?」という質問に、ブテリン氏自身が次のような回答をしている。
「どのような順番になるかはわからないが、1.統合、2.ステートサイズ(ステートレスかステート失効かその両方)の解決策」
さらに、技術的にプロトコルの一部ではないが、汎用ロールアップ(Rollups)も重要だと付け加え、手数料システムの改善実装よりも早く実現しそうだ、と述べた。
ロールアップの重要性
ロールアップは、スケーラビリティ問題を改善するソリューションでレイヤー2技術の一つ。完全にETH2.0へ移行が完了するまでの、中期的なスケーリング戦略として重要視されている。
ETH2.0へのネットワーク移行の元来の目的の一つが、スケーラビリティの向上だが、レイヤー2ソリューションを活用しない場合、その実現は数年先になると見られている。一方、ロールアップを中心としたレイヤー2の開発に注力した場合、それ以前に高いスケーラビリティを実現することが可能だとブテリン氏は、AMAセッション等で説明している。
1秒間のトランザクション処理スピード(TPS)で見ると、ロールアップを活用した場合、ETH1.0のネットワークでも、最大4000TPSの処理が可能だという。さらに、ロールアップを利用した取引は「最大で100倍安く送金できる」とブテリン氏は説明した。
ロールアップの一つであるオプティミスティック・ロールアップでは、トランザクションの一部をオフチェーンで処理することで高速化をはかり、スマートコントラクト処理数の大幅な向上が見込めるという。この技術はすでに昨年、実用化が始まっている。
また、ブテリン氏は、レイヤ−2プロトコル間のやりとりを可能にする新たな提案も発表。オプティミスティックロールアップをはじめ、ZKロールアップなど、複数のプロジェクトが進行するロールアップ間の交換を例にあげた。
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ETH2.0の完全な実現に至るまでのロードマップは、次々に新しい技術や状況に応じた提案を取り入れながら、進化していっているようだ。DeFiをはじめ、最近注目を集めているNFT市場など、一大経済圏を築いているイーサリアムのエコシステムの発展は、仮想通貨業界全体にとっても、ますます重要になっていくだろう。
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