SuiのAI戦略とは
ブロックチェーンプラットフォーム「Sui(スイ)」が、AI(人工知能)との統合により新たな展開を見せている。Suiを開発するMysten Labsは、Meta(旧Facebook)の元技術リード5名が2021年に設立した企業。
Mysten Labsは2022年、GoogleのAIモデルを活用した社内セキュリティチーム(レッドチーム)を立ち上げ、AIによるブロックチェーンの安全性強化に取り組んできた。Google Cloudと連携したセキュリティ監査やボット検出により、システムの脆弱性を早期に発見し、サイバー攻撃への対策を進めている。
さらに最近では、独自のAIプロダクト開発やスタートアップとの提携を加速。ブロックチェーンの安全性向上とAI人材の確保を積極的に推進している。本記事では、Suiが描くAI戦略の全容に迫る。
目次
Suiとは
SuiはMetaの元メンバーによって開発された次世代のレイヤー1ブロックチェーンで、2023年4月にメインネットがローンチされた。特にDeFi(分散型金融)やゲームでの利用が期待されており、高いスケーラビリティ(拡張性)とセキュリティを提供する点で評価されている。
Suiの1日あたりのトランザクション数は、2024年10月3日から5日にかけて10倍以上急増し、5日には約5,800万件と初めて『ソラナ(Solana)』ネットワークのトランザクション数(約3,500万件)を上回った。Suiネットワーク上の預かり資産(TVL)は、10月にDeFi(分散型金融)のトップ7にランクインした。
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暗号資産(仮想通貨)スイ(SUI)の価格は、2024年初来で約160%上昇している(11月1日時点)。
Sui創設者のビジョン
Mysten Labsの共同創設者兼チーフクリプトグラファーのコスタス・クリプトス氏が、AIとブロックチェーン技術を組み合わせた開発を主導している。
クリプトス氏は、AI・暗号技術分野で50以上の論文を発表し、3度の最優秀論文賞を受賞。特に、ゼロ知識証明などの先端技術において優れた研究実績を持つ。また、アテネで2,000人規模のビッグデータコミュニティを立ち上げ、AI技術の教育活動にも力を入れている。
2024年5月には、暗号技術とAIに特化したイノベーションセンターの設立を発表、中東・北アフリカ地域における技術革新の促進と、スタートアップの育成を目指している。特に、ブロックチェーンの安全性向上やユーザー体験の改善に焦点を当てた研究開発を進めている。
Suiの主なAI導入戦略
Mysten Labsの戦略、AIにより、アプリケーションの開発スピードや開発の品質向上に活かす。AIが最適かつ安全なコードの書き方を提案することで、人間の開発者はより創造的な部分に集中できる。より革新的で高品質なアプリケーションが生まれる可能性が高い。最近の事例を紹介する。
2024年4月: AI監査ツールの開発
Mysten Labsは、2025年4月にラスベガスのMandalay Bay Convention Centerで開催された「Google Cloud Next 2025」で、AIを活用したセキュリティ監視ツールを発表した。
このツールは、ブロックチェーン開発でよく使用される言語(Rust、Move、TypeScript、Solidityなど)のコードをチェックし、セキュリティ脆弱性を検出する。
ブロックチェーンのコードにバグがあった場合、多額の損失につながる可能性があるため、このAI監査ツールの重要性は極めて高い。さらに、このツールは問題の検出だけでなく、修正方法の提案も行う。開発者はより安全で効率的な開発を行うことが可能となる。
関連:Sui開発のMysten Labs AI監査ツールの開発を発表
2024年5月:AIスタートアップのAtomaと提携
Atoma is bringing fast AI inference to @SuiNetwork with an OpenAI-compatible API. With a single line of code, developers can run inference on decentralized AI.
— Atoma (@Atoma_Network) October 7, 2024
Join our Discord to learn about our full-stack AI solutions and how you can get involved as a node operator! https://t.co/hfEl75Rnbe
Atomaと提携し、AI推論ネットワークのSuiへの統合を発表。推論ネットワークはデータを基にパターンを認識し、複雑な判断を行うことでアプリ開発に活用される。
AtomaはLLM推論を最適化するインフラを提供するリポジトリで、開発者はコードの自動生成や監査、ワークフローの自動化が可能。
DeFiプロトコルではリスク分析や予測に、ゲーム会社やアーティストはアセット生成やNFT作成に利用できる。さらに、AtomaのAIはソーシャルメディアのコンテンツ分類、ファクトチェック、DAOの管理支援にも対応する。
Google Cloudとの連携・活用強化
🚨Sui is teaming up with @GoogleCloud to enhance security, scalability, developer tools, and user experiences across a range of Web3 and AI-powered applications on Sui!https://t.co/l0ugBwMy9I
— Sui (@SuiNetwork) April 30, 2024
2024年4月、SuiはGoogle Cloudと戦略的提携を発表。開発環境の改善とセキュリティ強化を目指し、以下の2つの主要サービスを活用する。
- Move言語開発支援:「Vertex AI」
- ブロックチェーンデータ分析:「BigQuery」
Vertex AIは、Web3開発者向けのコード生成やデバッグ機能を提供。コードの自動生成とエラー検出により、開発効率の大幅な向上を実現してする。
一方、BigQueryを用いたデータ分析では、AI機能を活用してSuiブロックチェーン上の取引パターンやトレンドを素早く把握することが可能。
Mysten LabsのCEOであるEvan Cheng氏は、「Google Cloudのインフラと最先端のAI機能により、より多くの開発者がSui上で革新的なアプリケーションを生み出せるようになる」と期待を示している。
注目プロジェクト事例「Sui GPT」
Taipei Blockchain Weekのハッカソンで発表された「Sui GPT」は、開発者向けのオープンソースツール。GPT-4にSui Move言語の知識を補完し、68個のSui公式サンプルコードをデータベース化。スマートコントラクトのテンプレート生成やコードの最適化提案などの機能を提供している。
本ツールはSui Developer Newsletterでも紹介され、Suiエコシステムにおけるスマートコントラクト開発の効率化に貢献している。
Moveとは
Moveは資産をリソースとして扱い、その管理や操作が厳格に定義されている。資産は一度に一つの所有者しか持つことができないため、二重支払いなどの問題を防止。また、コードをモジュールとして構築できるため、再利用性と保守性が向上する。
Suiの「ユーザー体験向上」にAIが寄与する
Suiの戦略には、エコシステムの発展を促進するためのAI活用が含まれている。
AIが最適なコードの書き方を提案することで、開発者は創造的な部分に集中でき、より高品質なアプリケーションが誕生しやすい環境を整備している。
Mysten Labsの共同創設者であるエヴァン・チェンCEOは「10億人へのブロックチェーン普及」をビジョンとして掲げており、SuiではGoogleやFacebookなどのWeb認証で簡単にdAppsにアクセスできる「zkLogin」や、Web3取引を電子メールの送信並みに簡単にする「zkSend」といった技術でエンドユーザーの使いやすさを追求してきた。
AIを活用することで、Suiは次世代インターネットインフラとしての地位強化、Web3の大衆化を目指している。
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