
SECの行き過ぎた規制拡大の試み
米証券取引委員会(SEC)のマーク・ウエダ委員長代行は10日、代替取引システム(ATS)規制案で、暗号資産(仮想通貨)に関連する部分について、撤回を検討するようSECスタッフに指示したと述べた。
国際銀行協会のワシントン年次会議で講演したウエダ氏は、ゲイリー・ゲンスラー前委員長のもとで提案されたATS規制において、「取引所」を再定義することで仮想通貨プラットフォームまで規制を拡大しようとするSECの試みは行き過ぎだったと批判した。
ATS規制は、1998年にSECによって導入された規制で、従来の証券取引所に代わる「代替取引システム」を監督するための枠組み。2020年、当時のSEC委員長であったジェイ・クレイトン氏は、これまでブローカー・ディーラーとしてSECに登録することで、証券取引所としての登録を免除されてきた国債ATSの規制見直しを提案した。
しかし、クレイトン氏から作業を引き継いだゲンスラー氏は2022年、規制の方向性を大きく転換。国債ATS に限定された問題に焦点を当てるのではなく、「取引所」を再定義するルールを提案したため、国債ATSの領域を遥かに超えた多くの事業体に規制が拡大される可能性が生まれた。
このルールでは、取引所の新たな定義には「通信プロトコルの使用を提供するシステム」が含まれていたが、その用語が意味するところは明確に定義されていなかったとウエダ氏。しかし、取引所の定義の大幅な拡大により、分散型金融(DeFi)を含む仮想通貨プロトコルが規制の影響を受ける可能性も除外できなくなった。
私の見解では、委員会が国債市場の規制と仮想通貨市場を抑圧しようとする強引な試みを結び付けたのは間違いだった。
ウエダ氏は、仮想通貨に関する取引所の定義について、パブリック・コメントで多くの否定的な意見が寄せられたことを踏まえ、関連部分の提案撤回の選択肢を検討するようSECスタッフに指示を出したと述べた。
ウエダ氏とSECの方針転換
ウエダ氏はゲンスラー前委員長の時代から、SECの仮想通貨規制に対する姿勢を批判してきた人物だ。同氏はSECのアプローチを「完全な失敗」「業界全体にとっての大惨事」と形容し、明確な規制指針の欠如が業界に混乱をもたらしていると指摘していた。
ウエダ氏は2022年6月にSEC委員に就任する前から、長年SECに勤めてきたが、今年1月20日にトランプ大統領によって、SEC委員長代行に指名された。
トランプ新政権では仮想通貨を推進する方針が明確化され、SECには仮想通貨タスクフォースが新設された。「執行による規制」から「規制の明確化と協力」へと舵が切られ、仮想通貨業界に対する敵対的な姿勢は改善されている。
ウエダ氏のリーダーシップのもと、仮想通貨企業に対するSECの提訴取り下げや調査終了が相次いでいる。
- コインベース(取引所):3月3日、提訴取り下げに合意。未登録証券の取引とブローカーとしての違法行為で提訴されていた。
- クラーケン(取引所):3月3日、提訴取り下げに合意。未登録証券の提供とステーキングプログラムの違法性が指摘されていた。
- ユニスワップ(分散型取引所):2月25日に調査終了。提訴に至らず。トークンが証券に該当するかが争点だった。
- ジェミニ(取引所):2月24日に調査終了し、法的措置は取らないと決定。利回り商品が未登録証券販売にあたるかが争点。
- ロビンフッド(投資アプリ):2月21日に調査終了。提訴に至らず。仮想通貨取引が証券法違反に該当する可能性が示唆されていた。
- コンセンシス(開発企業):2月末に訴訟終結。仮想通貨ウォレットMetaMaskのステーキングサービスの証券法違反が問われていた。
- バイナンス(取引所):2月に訴訟の一時停止。
- OpenSea(NFT市場):2月22日、NFTの有価証券性に関する調査終了。
- Yuga Labs(NFT大手):3月にNFTの証券性を否定。2年以上にわたる調査を終了。
SECの企業財務部門は2月27日、ミームコインの提供及び販売は証券法の対象外となるとの声明を発表した。なお、詐欺行為や証券を偽装したミームコインなどについては、法的措置が取られる可能性があると警告している。
また、仮想通貨タスクフォースは、3月21日より一連の円卓会議を開催すると発表。初回の議題は証券法の定義で、バイデン政権下で規制強化に至った背景や、今後の方針の方向性、トークンの証券性をどう判断するかなどがテーマとなると見られている。
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