WebX 2026 | セッションレポート
金融とWeb3の架け橋 — 金融機関が共同で築く次世代決済インフラ
WebX2026のセッション「金融とWeb3の架け橋 — 金融機関が共同で築く次世代決済インフラ」では、Circle、野村、JCB、住友商事という異なる立場の大企業4社が登壇し、ステーブルコインやオンチェーン金融が既存の決済・金融インフラをどう変えていくのかを議論した。モデレーターは関口慶太氏が務めた。
登壇者プロフィール
Circle日本カントリーマネージャーとしてUSDC普及と日本市場戦略を統括。前職Google Paymentsで決済事業提携やフィンテック企業買収を主導。三井住友銀行時代はニューヨークでキャッシュマネジメント事業に従事。南山大学卒、INSEAD MBA。
1991年野村證券入社。フィックストインカムジャパンヘッドやインベストメント・バンキング担当常務、コンプライアンス統括責任者等を歴任し、2025年より野村ホールディングス デジタル・カンパニー長 兼 野村證券デジタル・カンパニー統括常務。
1994年株式会社ジェーシービー入社。2022年執行役員マーケティング部長、23年執行役員総合企画部長を経て、2025年より執行役員総合企画部長 兼 イノベーション統括部担当として現任。
住友商事入社以来、スタートアップ投資とテクノロジー事業開発に一貫して従事。2019年イスラエルCVC立ち上げに参画し、2024年より新事業投資ユニット長として世界5地域のCVC子会社を統括、先端技術活用の事業開発をリード。
21世紀の幕開けとともに記者となり、証券、経済、政治部に在籍。兜町、霞ケ関、永田町と多角的視点で金融・マーケットを取材。2020年よりフィンテックエディター、25年から現職。共著に「仮想通貨バブル」、「NFTの教科書」。
自己紹介 ― 各社のWeb3への取り組み
モデレーターの関口氏は、登壇者にWeb3分野での現在の取り組みについて自己紹介を求めた。
榊原健太
Circleの日本の責任者として、USDCの発行体としての側面に加え、ステーブルコインを様々な金融・オンチェーン経済に広げるインフラ提供を手がけていると紹介した。
稲井田洋右
野村でデジタル・カンパニーの責任者を務め、4、5年前から暗号資産関連ビジネスやSTOの開発に取り組んできたと説明。グローバルに事業を展開しているとし、暗号資産にとどまらずデジタル金融が金融インフラを大きく変える可能性があるとの見方を示した。
久保寺晋也
2017年頃からイノベーション領域を担当し、ブロックチェーンやデジタル資産の実証実験・リサーチを重ねてきたと紹介。当時は決済事業者としてインフラの信頼性やユースケースが見えづらい状況だったが、ステーブルコインを決済の将来を考える上での重要な戦略テーマとして捉え直し検討を進めていると述べた。
内村直哉
住友商事の新事業投資第一ユニット長として、投資による収益と投資を通じた新事業創出の2つをミッションとするベンチャー投資部隊を率いていると紹介。個人的にも6、7年前からブロックチェーンに注目しており、同分野で複数の投資実績があると述べた。
ステーブルコインはカード決済の脅威か補完か
関口氏は、決済分野におけるステーブルコインの位置づけについて久保寺氏に尋ねた。
久保寺晋也
ユースケースによって見え方が変わるとした上で、国際送金やB2Bなど既存の決済手段にコストやスピードの課題がある領域では、ステーブルコインが一気に普及していく可能性があると指摘。一方でカード決済とは必ずしも対立せず、ステーブルコイン連動型カードのように組み合わせで利便性を高められる余地や、インバウンド領域での新しい選択肢、さらにエージェンティックコマースやM2M・マイクロペイメントなど既存のカードスキームでは対応しづらい新市場が生まれる可能性もあるとし、脅威と機会の両面があるとの見方を示した。
榊原健太
久保寺氏の見方に同意しつつ、補完としての側面が大きいと述べた。技術ファーストではなく課題解決にフォーカスしていることが重要だとし、加盟店決済では想定より早いペースで普及が進んでいると指摘。今後も課題ファーストで新たなユースケースが生まれていく、まさに潮目が変わるポイントにあるとの認識を示した。
円建て・ドル建てステーブルコインの普及戦略
関口氏は、日本国内では信託型円ステーブルコインの普及が先行している状況を踏まえ、榊原氏にドル建てステーブルコインの普及の見通しを尋ねた。
榊原健太
インバウンド需要などドルを保有する利用者が多い店舗を中心に普及が進むとみられるとした上で、普及のしやすさはユーザーの属性に依存する部分があると説明。決済はインフラとして広く普及していく性質のものであり、一つの業界で成功事例が生まれるとその業界でデファクトスタンダード化が進みやすいと指摘。またステーブルコインの効果はフロントエンドよりもバックエンド側で発揮されることが多く、消費者から見えない部分ですでに広がりが進んでいるとの認識を示した。
各社の実証実験と直面する課題
関口氏は続けて、各社の実証実験の状況と自社発行の検討状況について尋ねた。
久保寺晋也
JCB自身によるステーブルコイン発行は一度検討したものの、資金を発行するような経験がなく、全くわからない世界に踏み込んでいくよりも、既存の加盟店ネットワークという強みを活かす方向を優先し、発行の優先度は下げたと説明した。
2年後の決済ネットワークについては、個人向け決済は急激には変わらないとみる一方、インバウンド領域ではステーブルコインの種類やチェーンを意識せず使える環境が整い、B2B領域はスピードや低コストという特性が活きて大きく変わる可能性があるとの見通しを示した。
加盟店で使える環境を用意する取り組みについては、そのうちの一つはすでに実証済みだと説明。普及に向けて見えてきた課題として、UI/UXをどう作るかが大きな壁になっていること、決済事業者として本人確認やAMLを含む安全安心な取引の担保が必要であること、そして事業として継続的に収益化できるかという持続性の3点を挙げた。
稲井田洋右
当初想定していたような伝統的金融と暗号資産の融合には至っていないとした上で、暗号資産そのものというより、このテクノロジーによって金融インフラが大きく変容していく可能性に、今はよりフォーカスを始めていると説明。RWA(現実資産)のトークン化やオンチェーン金融について、米国では金融商品全体をトークン化する動きがある一方、日本ではまだ具体的な議論には至っていないとの認識を示した。
金融庁と共に、メガバンクが発行するステーブルコインを用いて有価証券のトークン化資産をきちんと決済(セトル)できるかを検証していると説明。日本国債を担保として使えるか、その担保を移管できるかといった点も検証中だとし、現状では法律面で大きな問題は生じておらず、遠くない将来にこうした課題は基本的にクリアできる見通しだとの認識を示した。ただし、個人向けの商品を扱う段階になれば投資家保護の観点で今の規制ではうまく守られない可能性があり、細かく詰めなければいけない点が多く出てくるとの見方を示した。
内村直哉
住友商事では、まず自社のオペレーションをステーブルコインでどのように高度化できるかを検証し、その後に事業化を検討する2段階のアプローチを取っていると説明。特にサプライチェーン決済では、物の受け渡しと代金支払いの間に相当なギャップがあることが課題であり、ステーブルコインに切り替えることで問題の大半がクリアになり、新しい世界が見えてくるとの見方を示した。現時点では日欧・日米間のクロスボーダー送金で小規模な実証を進めているとし、100万円という規制上のキャップが一つの制約になっているとした上で、もう少し規制が緩和され、より現実的なユースケースで皆が使えるような形になれば、もっと普及するのではないかとの考えを示した。
榊原健太
野村とCircleが企業間決済に関するMoUを締結したことに触れ、Circleとしてはインフラ提供者の立場から様々なユースケースに関わっていると説明。実証実験を積み重ね、そこで見えてくる学びや課題をオープンにしながら、規制緩和が必要な場合にはどのようなガードレールが必要かを当局も含めて議論していく必要があると指摘。100万円規制の撤廃についても、消費者保護がきちんと担保された上で慎重に進めるべきだとの考えを示した。JCBが挙げていたUI/UXの課題については、インフラ提供者の立場からは相互運用性が重要だとし、複数チェーンをまたいでもユーザーや加盟店に負担なく使えるようにする必要があると説明。各社の実証実験が横でつながりシナジーが生まれれば、法定通貨に戻さなくてもそのままオンチェーンで使い続けられるようになり、収益化の議論にも貢献できるとの見方を示した。
2年後の展望
関口氏は最後に、ステーブルコイン・デジタル資産が2年後にどこまで進んでいるかを登壇者に尋ねた。
内村直哉
グローバルでは国際送金でステーブルコインを使っていない企業がほぼなくなるほど普及しているとみられる一方、日本が同じ水準に達しているかは不透明だとし、送金は既存の利害関係者を害しにくいシンプルなユースケースとして真っ先に普及するが、その先のアプリケーションはより時間がかかるとの見方を示した。
久保寺晋也
異なるチェーンをまたいで加盟店・利用者が意識せずに使える環境が2年以内に整うのは難易度が高いとし、Circleのようなプレイヤーがクロスチェーンの課題を解決してくれる可能性に期待を示した。
榊原健太
2年後にはオンチェーン金融にとどまらずオンチェーン経済と呼べる段階を目指しているとした上で、海外の進展速度に対する焦りを口にした。マスアダプションを実現する上ではスケーラビリティがあり馬力のあるエンタープライズ企業の存在が鍵になるとし、安全性・データの秘匿性・スピード・コストといったエンタープライズが求める要件を満たすインフラを提供していく必要があると指摘。エージェンティックコマースはすでに起きているとし、B2Bでも進んでいることから、2年後には実現していなければまずいとの認識を示した。
稲井田洋右
2年前と現在の米国の変化のスピードを踏まえると、日本も変わらざるを得ないとし、現時点ではトークン化された金融資産をウォレットで取引する状況には至っていないものの、ホールセール決済を中心に、2年後には新しい技術の活用が当たり前のものとして浸透しているのではないかとの見方を示した。
セッション総括
モデレーターの関口氏は、資産がオンチェーンに乗ることでステーブルコインによる決済と相性の良い世界が生まれるとした上で、このインフラ構築にはスタートアップだけでなく、マーケットシェアを持つ大企業の本格的な参画が欠かせないと指摘した。
4、5年前には野村が参入を悩んでいたのに対し、今は悩んでいる企業の方が少数派になっているとし、悩むのではなくもう動いている段階だとした上で、動いていない企業は取り残されていくとして、今後の各社の動向を注視してほしいと呼びかけてセッションを締めくくった。
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